表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

■10話 腰痛

 とある日のお昼休憩。

 赤木先生と黒崎先生と3人でご飯を食べ終え、のんびりしていると——


「ここに来てもう1ヶ月だけど、そろそろ治療できそう?」


 急に赤木先生にそう聞かれて、ドキッとする。


「特に教わった記憶はないんですけど……」


 しどろもどろに答えると、


「こんなに資料も揃ってて、目の前で患者さんが治っていくのを見てきたのに。1ヶ月過ぎて何もできないなんてこと、ないでしょ?」


「……はい」


「じゃあ、ちょうどここに腰が痛い黒崎先生がいるから、治療してあげなさい」


「え?赤木ちゃんが治してくれるんじゃないの?」


「アンタが連れてきたんだから、実験台になりなさいな」


「えー……」


 不安そうな黒崎先生の顔に、こちらも不安を覚えながら、治療を任されることになった。


 一通りの準備を済ませ、黒崎先生をベッドに案内する。


「いいわよー」


 呼ばれてカーテンを開けると、下着姿の黒崎先生がうつ伏せになっていた。


 さて、どうすればいいんだ……?

 患者を前にすると、何をすればいいのか頭が真っ白になる。


「えーと……」


「腰が痛いの」


「はい……」


 とりあえず鍼を持つ。


「腰のどこが痛いかもわからないのに、もう鍼を持つの?」


 すかさず赤木先生に指摘され、慌てて鍼を置く。


「すみません……」


 えーと、まずは痛い場所の確認を……


「では——」


 ぴと


「ひゃっ、急に触らないでよ。まずは一声かけてから!」


「すみません……」


 頭が真っ白すぎて、気配りが全部抜け落ちている。


「降参する?」


「……っ」


「とりあえず深呼吸しなさい」


「なんでですか?」


「いいから」


 言われるまま、深呼吸してみると——少しだけ落ち着いてきた。


「まずは何するの?」


「えーと……」


「私たちが治療するとき、最初に何してた?」


「問診してました」


「そう。でもまずは、タオルでもかけてあげたら?」


 確かに寒そうだ。


「すみません」


「さむい〜」


「患者さんがどんな状態で待ってるかわからなくても、相手を思いやる気持ちがあれば、裸で放置はまずいってわかるはずよね」


「はい……」


「じゃあ次は問診ね」


 落ち着いて見ると、当然のことすらできていなかった自分が恥ずかしくなる。


「今日はどうされましたか?」


「腰がつらくて」


「では、腰が痛くなった状況を教えてください」


「車から降りようとしたら、グキッとやっちゃって」


「いつからですか?」


「一昨日かしらね」


「腰のどこが痛いですか?」


「左の上の方が痛いの」


「なるほど。他に気になることはありますか?」


「とりあえず腰だけね」


「わかりました」


 腰を見ると、左側の筋緊張が強い。


「あらあら、今日は特に辛そうね」


「痛くて寝られなかったのよ」


「じゃあ、ちゃちゃっと治してあげなさい」


「はい」


 ぶすっ


「ぎゃっ!」


「ちょっと、いきなり鍼を打つ人がどこにいるのよ!」


「すみません!」


【居酒屋】


「もう、散々だったわ」


「すみません……」


「これが本当の患者さんだったら、もう来ないわね」


 改めて言われると、何もできなかった無力感に襲われる。


「でも、練習でよかったわよ」


「実際の患者を目の前にすると、もっと緊張するからな。みんな最初はそんなもんだから大丈夫だよ」


 飲み会から合流した白井先生に、思わず聞いてみた。


「みなさんも、最初はそうでした?」


「私たちは学生のうちに散々練習したし、ロールプレイングもたくさんやってたからね」


「先輩の治療を見て、2週間くらいでもう実際の患者さんに入ってたわね〜」


「1ヶ月見てたんだから、もう少しできると思ってたわ」


 励まされたと思った瞬間に突き放されたような気がした。


「まあ、現状を確認できたならよかったんじゃないか?」


「今回の反省を活かして、次は恥ずかしい思いをしないようにしなさいな。今後は“自分ならどうするか”を考えながら治療を見ることね。ぼーっとしてる暇はないって、やっと気づけたなら上出来よ」


「実際の患者に入るのは、まずは知り合いの治療を満足にできるようになってからだな」


 この3人の先輩たちとの差を改めて実感した1日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ