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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

黙示録

近くの山で、ものすごい量の芥子の花が燃え盛っているらしい



麓にあるこの村は、その煙を完全に浴びる立地にある

必然的に村は地獄と化していた


僕は頬杖を付いて、二階の自室から外の様子を視ている

痛みを感じなくなった人々が何度も窓から飛び降り、街道を血で染めている


別の場所では火薬の炸裂する音が何度も繰り返していたが、あれは大砲に自分を詰めた人々が次々に打ち上げられる音らしかった


今やこの村では痛みは忌避されるものではない

福音であり、救いであると見做されていた


飛び降りたり打ち上げたり以外にも、刃物を持った人々や金槌を握った人や物が、互いを傷付け合っている

表情はみんな明るい

黙示録の光景に他ならないこの景色の中で、あらゆる者が安らかな笑みを浮かべていた



僕は何故無事なのかと言えば、家から一歩も出ていないからだ


危険にいち早く気付き、窓も締め切っている

時間の問題なのかも知れないが、それでも他の村人より自分が無事である事は明白だった



その時、僕の部屋の木の扉が壊され、人影が押し入って来た

僕より二歳上で、今度ハイスクールに進学する予定だった兄だ


もちろんこんな終末が訪れている以上、僕も兄も恐らく進学する事はもう出来ないが



兄はまばたき一つしない表情で僕の服の襟を掴むと、僕を持ち上げ、ベッドに叩き付けた


そのまま僕にのしかかり、喉に思い切り噛み付いてくる

異常な力で噛み裂かれた喉は、皮膚の内も外もみるみる血塗れになっていく


僕は喉に詰まった自分の血で呼吸が出来なくなり、恐慌を起こしながら両手を振り回した


兄が僕を全身で押さえつけながら、ごくごくと血を飲み干していく


僕は兄の眼を視た

兄は優しさに満ちた眼で僕を視下ろしていた


誰かの投げた石が部屋の窓を突き破る

煙が部屋を満たしていく


痛みが過ぎ去っていき、悦びだけが僕の心に残った



「美味しい?」


僕が霞んだ眼で兄に尋ねる


兄は僕に口付けた

口付けながら、一瞬のうちに体温が喪われていった


直ぐに、殴り合う様に互いが擦り付けていた唇さえが、氷のように冷たくなっていく

自分の躰もそうなっていくのが朧気な感覚として僕にも解った


僕は兄の背中に両腕を回しながら、微笑んだ


それだけでは足らなくなり、僕は両の脚を兄に固く絡み付かせた



そして僕の肉体と意識も、冷たくなっていった

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