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突如、危機

「お嬢様、今すぐ出かける準備を」

「……どこに?」


 あのお茶会から二日後、すっかり回復した私が朝食を取ったあと家庭教師の先生を待っていると、メイドのロゼットがノックをして部屋に入ってきた。


「王城でございます」

「お、王城? 何故?」

 私が目を白黒させている間に、ロゼットはてきぱきと外出の準備を整えていく。


「一昨日、お嬢様が倒れられてしまった後に王妃様から奥様へ手紙が届きました」

「て、手紙……? 内容は?」

「『リーシャさんともお話したいと息子が言っているので、暇があればぜひ王城にいらして』と」

「は……」


 私と話したい? 殿下が?

 い……いやいや、待ちなさい、私。彼と婚約したって幸せになれないでしょう。


 ダメ、ダメよ。だって、行ったら……また彼に会ったら……会って、それでお話なんかしちゃったら……!

 私、今度こそ絶対に恋に落ちてしまう!

 ……まだ落ちてないんだから。


「お嬢様?」

 ふらついた私に支えるように、ロゼットは背中に手を回してくれる。今年で十八になると言っていた彼女は、若いながらも幼少の頃からメイド見習いとして家に使えている信頼できる使用人のひとりだ。

 私はそんな彼女の手ををぎゅっと握りしめた。


「ろ、ロゼットは……私の味方よね……?」

「もちろんです。お嬢様のお傍を離れることはいたしません。何かあればこのロゼットにお申し付けください」

「じゃあ、行きたくないって言ったら、お母様を説得してくれる?」

「しません。私の雇用主は旦那様と奥様なので」


 即答だった。さすがメイド長に気に入られているだけある。しかしながら私もここでは引き下がれない。


「ロゼット、私たちの間には切っても切れない信頼があるわよね……!?」

「ええ、もちろんでございます」

「ならもう少し、温情を……」

「オンジョウ……? なんでしょう、それは」

「ロゼット〜……!」

 なんて頼れるメイドなのだろう。融通が全く利かない……。


「それでは参りましょうか」

「……はい」

 こうして私は、半ば強制的に部屋から引きずり出され、お母様の待つ馬車へと連行されて行った。




「あらどうしたのリーシャ。不機嫌なお顔ね」

 オリアーヌ・フローベル。娘の私から見ても美しいと言えるこの銀髪の貴婦人が、私の母だ。

 先に馬車へと乗り込んでいたお母様は、屋敷からロゼットに連れられてきた私を見て楽しそうに笑った。


「さあ、早く乗ってリーシャ。……ふふ、ヒースにバレたらとっても面倒よ?」

「な、何も言ってないんですか、お兄様に」

「当然でしょう。そんなこと言ったら部屋から出さないとか言いかねないんだから」


 ……まあ、否定はしないが……。

 どうりで私が出かけるというのに兄様が見送りに来ないわけだ……。確かに、王子とはいえ同年代の男の子に婚約者候補として呼ばれたとなればあの人は黙ってないだろう。


 お母様の側近である老執事に手を借りながらおずおずとお母様の正面に乗り込むと、ぱたりと馬車の扉が閉じられた。

 やがて、ゆっくりと馬車が動き出す。


「……あの、お母様」

「うん? なあに?」

「私が呼ばれたのは……その、婚約者候補として?」

「あら、知っていたのね」


 うふふ、と優雅に微笑むお母様に、私は引きつった笑いを浮かべることしかできなかった。


「まあ、まだ社交界デビューもしたことない子供たちだけれど……ラプラード殿下の婚約者に決まれば、早いうちから妃教育もできるもの」


 妃教育。

 確かに、前世の記憶だとゲームの私は殿下に相応しい人物になろうと頑張っていたけれど。でも、そんなの無駄なことだった。

 どのルートに入ったとしても、最初に好意の片鱗を見せるのはいつも殿下の方だから。


「……」

 ちらりと外を見る。窓の外に広がる王都の風景は、とても綺麗に見えた。

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