表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

雷のような

 鮮烈な初恋だった。

 王家主催のお茶会で口上を述べる彼は、私と同い年だというのにしっかりとしていて、見るものを惹き付ける。柔らかい金髪と、真紅の瞳が柔らかく笑みを浮かべている。


 こんなに綺麗な人は、見たことがない。まるで雷にでも打たれたかのように衝撃が走って、心臓は鼓動を早める。

 この世に、こんな綺麗な方がいらっしゃるなんて。


 隣に立つ兄が何か言っているのがわかるが、私にそんなことを気にする余裕などなかった。

 衝撃、と言っても差し支えないそれを急に浴びた私の脳は、グルグルと高速で回転する。

 まるで走馬灯のように、様々な記憶が呼び起こされた。──それは、私のものではなかった。

 ガクン、と視界が揺れる。


「あ、れ……?」

 そのままふわりと体が浮く感覚がして、視界がぐるりと回って。

「……リーシャ!?」

 世界に音が戻ったとき、聞こえたのは兄のそんな声だった。


 耳鳴り、頭痛……全てのことに体が耐えられなくて、意識が途切れる寸前、私はか細い声で呟く。

「あれ……私……リーシャ・フローベル……?」

 暗転。




 高熱に魘されながら見た夢は、一人分の一生の記憶だった。彼女は私とは違って健康な体を持っていたが、人と関わることが得意じゃなかった。人間嫌いというよりも、みんなでいるより一人でいる方が好き。他人に縛られるのが苦手。そんな人間。


 そんな彼女にも、好きな物はあった。それがゲームだった。彼女は色々なゲームをしていた。パズルゲームや育成ゲーム、箱庭ゲーム、ロールプレイングゲームなどなど……。ゲーマーという程ではなかったけれど、彼女のゲーム好きはあの世界でもかなりのものだったと思う。


 今の世界にそれらは無いが、私にとっての本のようなものだろう。ゲームの中でなら、本の中でなら、私たちは何にでもなれた。冒険家になれた。亡国の姫になれた。龍になれた。本当はただの少女だとしても。


 ……そんなゲーム好きの彼女が、生涯をかけてやりこんでいたのが、『Heart of Magic』という、貴族要素を取り入れた学園モノの乙女ゲームだった。

 一見普通の乙女ゲーム。しかしその実態は、各ルートにバッドエンドが十種類も存在する鬼畜難易度ゲームだった。例を挙げると、休み時間に行く教室を間違えただけで殺害エンドにたどり着く。そのときはさすがの彼女もコントローラーをぶん投げていた。


 けれど、もう名前も思い出せない彼女──前世の私は、そのゲームが発売された高校二年生の頃から、大学生になって、社会に出て、働き始めて、階段から足を滑らせて死んだその時までずっと『Heart of Magic』を愛していたのだ。何度も何度も、オープニングからエンディングまでのキャラクターの台詞を暗唱できるくらいにやり込んでいた。


 だからだろうか、死ぬ直前に思い出したのは、『Heart of Magic』と洒落たフォントで書かれたタイトル画面だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ