雷のような
鮮烈な初恋だった。
王家主催のお茶会で口上を述べる彼は、私と同い年だというのにしっかりとしていて、見るものを惹き付ける。柔らかい金髪と、真紅の瞳が柔らかく笑みを浮かべている。
こんなに綺麗な人は、見たことがない。まるで雷にでも打たれたかのように衝撃が走って、心臓は鼓動を早める。
この世に、こんな綺麗な方がいらっしゃるなんて。
隣に立つ兄が何か言っているのがわかるが、私にそんなことを気にする余裕などなかった。
衝撃、と言っても差し支えないそれを急に浴びた私の脳は、グルグルと高速で回転する。
まるで走馬灯のように、様々な記憶が呼び起こされた。──それは、私のものではなかった。
ガクン、と視界が揺れる。
「あ、れ……?」
そのままふわりと体が浮く感覚がして、視界がぐるりと回って。
「……リーシャ!?」
世界に音が戻ったとき、聞こえたのは兄のそんな声だった。
耳鳴り、頭痛……全てのことに体が耐えられなくて、意識が途切れる寸前、私はか細い声で呟く。
「あれ……私……リーシャ・フローベル……?」
暗転。
高熱に魘されながら見た夢は、一人分の一生の記憶だった。彼女は私とは違って健康な体を持っていたが、人と関わることが得意じゃなかった。人間嫌いというよりも、みんなでいるより一人でいる方が好き。他人に縛られるのが苦手。そんな人間。
そんな彼女にも、好きな物はあった。それがゲームだった。彼女は色々なゲームをしていた。パズルゲームや育成ゲーム、箱庭ゲーム、ロールプレイングゲームなどなど……。ゲーマーという程ではなかったけれど、彼女のゲーム好きはあの世界でもかなりのものだったと思う。
今の世界にそれらは無いが、私にとっての本のようなものだろう。ゲームの中でなら、本の中でなら、私たちは何にでもなれた。冒険家になれた。亡国の姫になれた。龍になれた。本当はただの少女だとしても。
……そんなゲーム好きの彼女が、生涯をかけてやりこんでいたのが、『Heart of Magic』という、貴族要素を取り入れた学園モノの乙女ゲームだった。
一見普通の乙女ゲーム。しかしその実態は、各ルートにバッドエンドが十種類も存在する鬼畜難易度ゲームだった。例を挙げると、休み時間に行く教室を間違えただけで殺害エンドにたどり着く。そのときはさすがの彼女もコントローラーをぶん投げていた。
けれど、もう名前も思い出せない彼女──前世の私は、そのゲームが発売された高校二年生の頃から、大学生になって、社会に出て、働き始めて、階段から足を滑らせて死んだその時までずっと『Heart of Magic』を愛していたのだ。何度も何度も、オープニングからエンディングまでのキャラクターの台詞を暗唱できるくらいにやり込んでいた。
だからだろうか、死ぬ直前に思い出したのは、『Heart of Magic』と洒落たフォントで書かれたタイトル画面だった。