ラーシュさんの正体
――――side王都某所
今日の彼らの任務は。
「ふあぁ~~~」
「相変わらず君は緊張感がないねぇ、君は。ダガー?」
「だって長官、いま午前5時ですよ~?」
ダガーと呼ばれた男が答える。
「アホ、それくらい暗部なんだから気合で何とかしろ」
しかしその言葉に長官ではない青年が答える。
「うぃ~……相変わらず黒鳶さんったら、紅消さん並みのドS~~~」
「お前もひとのことは言えないだろう。あとコードネームで呼べ。ほら、任務にとっとと迎え」
「ふふふ、頼みましたよ」
「……ふぁーい」
黒鳶と長官の言葉にダガーは仕方がないと頷く。
――――side王都クォーツ公爵邸
「……で、今日は裏の仕事だったの?」
「こらこら~、弟よ。お兄ちゃんの裏の顔をそう暴かないの~」
「はっはっは!」
眠たげな眼をこすり現れたダガーと呼ばれた男を、ヒュイは相変わらずの食えない笑顔で迎える。
「で、今回は違法魔法士の摘発だったんだって?」
「ん、まぁね。しっかし北方竜保護区の未開地で暗部に拾われて、まさか父さんに拾われるとは思わなかった」
「その未開地にも辿り着ける暗部の手腕は伏線大回収祭でも辿り着けない謎だけどね」
「……なに?その伏線大回収祭って」
「ラーシュ兄さんの秘密を大大大発表しちゃう特別フェスティバルだよ」
「よくわからないけど俺の秘密?ふふ、俺も知りたいな。俺は竜の子なのか、その竜そのものが竜の姿をとったのか。一つだけ明らかなのは俺が大鬼の姿になれる大鬼族だってこと」
そして暗部に引き取られ、暗部隊員ダガーとなったこと。
「その後父さんに引き取られるとは思わなかったけど」
「父さんならもしかしたら知ってるかもだけどね?」
「まぁ……そう言えなくもない」
――――――side後宮
「それで、ヨシュア。知りたくない?うちの子の、ラーシュの秘密」
「いきなり後宮に現れたと思えば相変わらずだね、フィーア」
「だって~、ヨシュアに会いたかったんだも~ん」
「本当に……そのノリは永遠の謎ですねぇ。一応ここ、部外者立ち入り禁止なのですが……まぁ完全に部外者でもないのですが」
「これがぼく。そしてぼくだからね。ふふふふふっ!ラーシュはね……かつて大鬼の時代にあの北方竜保護区に迷い込んだ大鬼と竜との間の子。だけれど世界の変革に置いてけぼりにされて長い間子どもの姿であそこで眠っていた。……君たちと同じように普段は大鬼の角を隠して人族の姿を取っているけれどね」
「それで私に回収に行かせたということか。まぁ若干人族以外の姿を取る大鬼もいるけれど」
「そうそう。裏を返せば世界の変革で姿を変えた種族は表裏一体で大鬼の姿を取れる。先祖返りがたま~に出ちゃうんだ。これはどうしても神でも計り知れないことが起こってしまう。それこそが世界の可能性であるのだから仕方がない」
「確かにそれは仕方のないことだが……その後養子に迎えたのは驚いた」
「ははははは。やっぱりぼくは前に大鬼の神様だったんだから責任は取らないとね。我が愛すべき大鬼の子のひとりだもの」
そう言ってヨシュアの用意した紅茶を満足げに啜るフィーアの相変わらずの食えない微笑にそっと嘆息したヨシュアはかわいい我が子クロお手製のクッキーに手を伸ばすのであった。