麩女子の集い
――――はぁ……何故こんなことに。
異世界に転生してロザリア帝国の第2皇女として転生し聖女という素晴らしいジョブを得た。
後は愛しの王子様を攻略するだけのはずだったのに。どこをどうして間違ったのだろうか。
自分の周りにヒロインが現れない以上、ここは自分でヒロインになって幸せなハッピーエンドを迎えようと意気込んだ。
それはことごとくあの忌み付き王子によって
阻まれてしまった。
そして華やかな帝国城での生活から一転、ロザリア帝国南部の辺鄙な修道院で今日も粗末な修道服に身を包み、粗末な食事にげんなりする。
ここは罪を犯したり問題を起こしたりした者が送り込まれる更生施設。
いったいどれだけの汚れ仕事をやらされどれだけの貧相な暮らしをさせられたことか。
そしていてもたってもいられず私は修道院を逃げ出した。
何回目だろう。上手く逃げだしたとしてもこの粗末な修道服ですぐに身元がわれ連れ戻されてしまうのだ。
あぁ……今回はどのくらい自由に過ごせるんだろう……。
おなかすいた……。
ぐぅ……。
「あの……どうしたんですか?」
ゆるふわスイートチョコブラウンの髪のかわいらしい顔立ちの少女が私の顔を覗き込んでいた。
まず……っ!
早速ひとに見つかった……。けどどこかで見た顔ね、この子。
確か前世の乙女ゲームでも見た気がするのは気のせいかしら。私が登場する乙女ゲームではなかった気がするけど。
「元気がないの?それならこれをどうぞ」
少女がどこからか取り出したのはどんぶりだった。
そこにはロザリア帝国南部の特産品馬車麩を
タマゴでとじた料理が入っている。
「い……いらないわ」
お麩なんて庶民が食べる貧乏料理じゃないっ!!
ぐぅ~。
う……おなかが……。
「身体は正直ね。どうぞ食べて」
背に腹は代えられない……かしら。
ふん……しょうがないからお麩だけど食べてやろうじゃない。
がつがつがつ……
あ……
何故かしら……
この懐かしい味……
食べたことがないはずなのに……
どこか懐かしくて涙が込み上げてくる……
「うぅ……」
いつの間にか私の眼からは大粒の涙が溢れていた。こんな……こんなおいしいものを初めて食べた。
どうしてこんなにおいしいのかはわからないけれど、宮廷で食べたどんな後宮料理よりもおいしい……っ!!
「あらあら、お麩は全てのひとをハッピーにしてくれるのよ?」
「……こんな……私でも?」
「もちろんっ!!」
このお麩という食べ物を庶民の貧乏料理などとはもう呼ぶまい。
庶民であろうと貴族であろうと皇族であろうと、このお麩は懐かしい味を運んでくれる。
私はこのお麩を通じて、本当の真のハッピーエンドを迎えて見せる!私はお麩教のためロザリア帝国南部を訪れていた麩女子アンジェリーナと固い握手を交わした。
それこそが麩たりの麩女子の始まりの出会いだったという。
――――
「それでフロレンティーアが無事に更生施設を卒業したと聞いたんだが」
その日ロザリア帝国第2皇子のフェリクスは元第2皇女フロレンティーアが収監されていた修道院を訪ねた。
「えぇ。最初はどうなることやらと思いましたが彼女も無事立派に更生されました」
修道院のシスターが告げる。
「……それは何よりです。そしてその後フロレンティーアは?」
あのフロレンティーアが無事更生できるとは。半ばあきらめかけていた長兄も喜ぶだろうと、フェリクスは安堵の笑みを漏らす。
「えぇ。今では大衆食堂麩で看板麩女子と呼ばれていますわ。微笑ましいですわね」
麩女子とは何だろう?そう思いながらも以前の彼女では考えられないような大衆食堂で帝国城では決して見られなかった本当の笑顔を振りまき、お麩料理を提供するフロレンティーアの姿を見て、フェリクスはそっと胸をなでおろしたのだった。
ここは彼女にとっての本当の居場所だったのだとフェリクスは思う。
もう彼女のジョブは悪女ではあるまい。フェリクスは安堵しながら大衆食堂を後にしたのだった。




