シャルロッテ妃
――――side:ロザリア帝国
「かぬれなのれす~、おしょろいなのれす~」
「まぁ、かぬれちゃんったらかわいい」
くすりと微笑んだのはロザリア帝国でも珍しいロップイヤー系兎耳族であるシャルロッテ。彼女はロザリア帝国第1皇子ランベルトの妻である。
シャルロッテは自身にそっくりなロップイヤー系兎耳しっぽをもつ森の精カヌレをお膝の上に乗せて、なでなでしてかわいがっていた。
その反対側にはカヌレと同じ森の精ろざりあていと支部隊……略して森の精ろざってぃ支部隊のたぬき耳しっぽフォカッチャと猫耳しっぽのシナモンがかわいらしくすちゃっと座っている。
「かぬれ、しゃるお姉ちゃまとおしょろいなのれす」
「ふぉかっちゃはひめなお姉ちゃまとおしょろいなのれす」
フォカッチャとお揃いな召喚聖女であるヒメナはこの世界では珍しいたぬき耳しっぽの獣人族だ。
シャルロッテが知っている限りでもたぬき耳しっぽはヒメナとフォカッチャ以外には見たことがない。
「……しなもんはなのれす?」
その時シナモンがこてんと首を傾げる。
「そうねぇ……」
そこでそのそばでランベルトからの仕事を手伝っていた森の精たちの番人であり召喚者であるゼンがはっとなる。
「えっと……だね」
「ゼンくん?」
シャルロッテもゼンを見やる。
「ここは……こうだから」
ゼンはロザリア帝国の他の森の番人たちからもらった森の番人マニュアルを取り出す。
ロザリア帝国だけならず世界樹の管轄ごとに森の番人組合が存在する。晴れて召喚番人となったゼンに対し、森の主体精霊ドラシールが預かる西部地域の森の番人たちが結婚祝いにとくれたありがたいマニュアルの数々。
それをもらったきっかけはと言うとつい先日行われたゼンの結婚式だった。
結婚相手はなんだかんだで親しくなった召喚者仲間……召喚勇者のシロナだった。
その結婚式のさなかかわいらしい森の精たちが感極まって泣き出してしまったのだ。
それをかわいいなぁと見守っていたゼンは不意に木の精霊ハスキと参列していたクロ殿下が慌てて駆け寄って、森の精たちをあやしてくれたのだが……そこにドラシールが現れた。
ドラシールは『えっと……タイミングが遅かったみたいで西部地域の森の精ちゃんたちが一斉に泣き出してしまったんです』と告げた。
まさかこんな恒例行事があったなんて……。森の精たちは森の番人や親しいひとが結婚するとき号泣してしまうのが常々で、素早くあやしてあげないと世界樹のリンクによって一斉に全ての森の精たちが泣き出してしまう。
そうなってしまうと森の主体精霊に怒られてしまうとかなんとか。
ドラシールさんからは『もう、おちゃめさんっ』とかわいらしく叱られてしまった。そんなことがあって新米の召喚番人であるゼンに西部地域の各番人たちから森の番人組合を通して結婚祝いにと森の精マニュアルをたくさんもらったのだった。
いやはや森の番人組合なんてのがあるとは……それも驚きではあるが。そのマニュアルを参照し、ゼンは結婚祝いにとクロ殿下からもらった剣聖特製マジックバッグからとあるものを引っ張り出す。
そしてそれをすちゃっと頭とお尻に取り付けた。
「ほら、俺とおそろい」
「はぅっ!!!おしょろいなのれす~」
ゼンがシナモンとおそろいの猫耳しっぽをつけたことでシナモンはぱああぁぁぁっっ!と顔を輝かせ、ぴょんぴょん飛んで喜んでくれる。
森の精はおそろいが大好き。だからこそそのおそろいは森の番人が率先して行わねばならない……。そんなことまでもマニュアルにはしっかり書かれていた。
因みに今のゼンはニンジンのアップリケがついたエプロンを身に着けている。とりとめて隠密、警護任務がない時はマニュアルにあった森の番人の必需品を身に着けているのだ。
「お菓子~」
「お菓子なのれす~」
唐突に森の精たちがお菓子をおねだりしてくる。森の精たちはお菓子が大好き。お菓子を用意してあげるのも森の番人の役目である。
さすがに最初はお菓子を作れなかったゼンはシャルロッテに作ってもらっていた。今では時間があればゼンもシャルロッテと一緒にお菓子を作り、森の精たちにふるまっている。
「今日は自信作なのですよね」
「はい!皆~どうぞ~」
ゼンはバスケットに入れたマフィンを森の精たちの前に差し出す。
ぱああぁぁぁっっ!!!
「おいしそうなのれす~」
「はむはむ、おいしいのれす~」
「おかわりなのれす~♪」
どうやら好評のようだ。
「ふふふ、気に入ってもらえたみたいです」
「はい。初めて自分だけで作ったので……上手くいったかどうかわかりませんでしたが……」
シャルロッテからの課題で本日はゼンだけで作ったのだ。
「うん、おいしいです!」
お菓子の師匠シャルロッテにも及第点をもらえたらしい。
「ゼン。そう言えばこちらの書類の件だが……」
と、そこへゼンの主人であるランベルトが書斎に顔を出した。
「はい、ランベルト様」
すかさずランベルトの前に駆け寄ったゼンに何故かランベルトは驚いたように目を瞠っている。
「……」
「ランベルト様?」
「その……それは森の番人のアレか?」
ランベルトはどうやらゼンの頭上を見上げているようだ。
そしてゼンはハッと気づく。猫耳しっぽをつけたままだったということに。
「あああぁぁっっ!!!申し訳ありませんっ!!!」
「いや……いい。久々に面白いものを見れた」
「うぅ……誰にも言わないでください」
「まぁ、似合っているのに」
「シャルロッテ様まで~」
「ふふふ、それにしても、シャルロッテ……」
「はい、ランベルト様」
「本当にそっくりだな。カヌレは」
ランベルトはシャルロッテのお膝の傍らに座ってもひもひとマフィンを食べるカヌレを見て、普段の彼のいかつい表情からは打って変わってとても柔らかく微笑んだ。
「えぇ。子どもができたらカヌレちゃんみたいに私と同じ兎耳しっぽでしょうか……?それともランベルト様似かしら?」
そう呟いたシャルロッテにまたまたランベルトは固まっていた。
「そ……その……」
「楽しみですね、ランベルト様」
「あぁ……」
そしてシャルロッテのおなかをなでなでするカヌレに、その場が和やかな雰囲気に包まれるのであった。
――――その後、ランベルト殿下とシャルロッテ妃殿下は無事シャルロッテ妃殿下似の一女を……そしてその2年後にはランベルト殿下似の一男に恵まれたという。
当然のことながらとってもかわいらしいシャルロッテ妃殿下似の姫にその弟が類まれなるシスコンを発動させたということは……言うまでもない。




