もうひとりの召喚者とヴィクトリア
――――side:ゼン
暗がりから多数の人員を引き連れて、爛滕をかざした黒髪の美女が微笑んだ。
「あなたがゼンですね」
「はい。あなたは……」
「私はロザリア帝国皇后……ヴィクトリアです」
皇后……ということはランベルト様の母親……いや御母上?
「話はランベルトから聞いています。今、あの子はシロナの救出に向かいました。そして私はヒメナを迎えに来たのです」
「……」
迫力のある美女だが敵意は感じない。ランベルト様のような力強くも優しい面影……。
俺は、ヒメナから手を放し、皇后陛下に道を開ける。牢に近づいた皇后陛下はカギに手をかざす。
するとカギは当た片もなく崩れギィッと扉が開いた。
その中に入ろうとする皇后を部下の騎士が止める。
「皇后陛下」
「問題ありません」
そう言って皇后陛下は牢の中に入り、ヒメナを抱き上げる。
「……あ……なたは……?」
朧げな目を開けた彼女は焦点の定まらない目で皇后陛下を見上げている。
「もう大丈夫ですよ。私があなたを守ります」
そう言うと皇后陛下は自らの騎士にヒメナを預ける。
「ゼン、彼女のことは私たちにお任せなさい。
昨晩忍び込んだその者も私の部下が回収しましょう」
「……よろしくお願いします」
そう皇后陛下に頭を下げ俺も地下牢から脱出し、ランベルト様の元へと急いだ。
――――
ランベルト様の部屋へと向かうと、シロナは無事保護されランベルト様の庇護下に置かれているらしい。
そしてヒメナは皇后陛下の庇護の下、まずは治療に専念するという。
「……第2皇女は、どうなったのですか」
「……謹慎処分、減俸……。父上が懇願して聖女としての地位だけは残ったが聖女以外の粗方の権力は没収された。協力した大司祭はその資格を没収、永久更迭だ。それ以外にも大祭壇には腐敗した面は多いが。今すぐに全てをクリアにはできないが……いずれはな」
「……その時は俺もランベルト様の力になります」
「……ふん……頼んだぞ、ゼン」
「はい、ランベルト様」
その後はランベルト様の部下の指導のもと鍛錬に徹するシロナや、皇后の手配で手厚い看病を受けるヒメナを見守りながら、ランベルト様の力になるため戦闘訓練や魔法訓練を受けていた。
後にわかったことだが俺のことを普通に認識できるのは今のところランベルト様と皇后陛下だけだ。
俺が話しかければ相手も俺を認識できるらしい……ということを発見した。
だが唐突に紫色のまんまるい瞳と目が合った……。
「えと……」
紫色がかった銀色の髪はかつて出会った偉そうな第2皇女と何となく面差しが似ているが、そのつり目はヴィクトリア皇后に似ていた。
「む……なんなんだ?お前。最近、ランベルト兄上の側にいる…………じ――――……っ」
ランベルト……兄上?……ってことはランベルト様の弟君。つまりは帝国の皇子のひとり。
もしかして……。
「ディートハルト殿下……?」
「ふんっ!どうやらその目は節穴ではないらしいなっ!」
あ、当たってた!……と言うか随分とツンツンしているな。
そう言えばあの時の暗がりで聞いた声と口調。
やっぱり、ディートハルト殿下だったか。そのことに気が付いた俺は、いつの間にか微笑を浮かべていた。
「何だ、全く!ふぇりく……フェルお兄さまみたいな……?」
うん……?何か、急にもじもじしだした……?
そして頭の上にぴょいんと伸びたアホ毛が嬉しそうにくるくるしている。それに……お兄さま……?
ランベルト様には弟のフェリクス皇子殿下がいたはずだ。つまりはフェリクス殿下のことだろうか……?
というか……この子は俺のことが認識できるのか……。
「あの……」
「べ……別に、気になってるわけじゃないんだからねっ!!」
え……?
そう言ってとてとてと駆けて行き、遠くの柱から顔を覗かせているディートハルト殿下。
これってツンデレってやつか……?試しに手を振ってみると頭の上のアホ毛がぴょいんと揺れ、顔を赤くしてどこかへ立ち去ってしまった。
これは嫌われた……?いや、懐かれた……?いやいや、まさか……ね。
考えふけっているとランベルト様に呼ばれ、俺は玉座の間と呼ばれる場所へと連れられてきた。
俺はランベルト様の後ろに控えているだけでいいということだったが皇后陛下と皇帝陛下が並んでいると緊張するなぁ。
そしてランベルト様の隣には青髪の青年がいる。あちらが異母弟のフェリクス殿下だ。
異母ということだがこの2人はどこか互いに信頼し合っている……そんな気がした。
「さて、勇者シロナ、聖女ヒメナ」
皇后陛下が口を開く。
皇后陛下と皇帝陛下の前にはシロナとヒメナが呼ばれていた。
「まずは突然の召喚に加え、我がロザリア帝国があなた方に行った仕打ちについてロザリア帝国皇帝……そして皇后である私から、正式に謝罪いたします」
そう言うと皇后陛下と皇帝陛下が立ち上がり、両名とも2人に頭を下げた……。
普通……こんなことしないよな……。
シロナとヒメナも驚いたように2人を見ていた。
そして再び顔を上げ、皇后陛下が口を開く。
「2人とも……何か希望があれば言いなさい。私が後見となり、あなた方の力になりましょう」
「……」
「まずは、シロナ」
「……私は……私は、強くなりたいです。もっと……もっと……そして……赤髪の召喚勇者を……」
助けに行きたいのか……。一応俺はランベルト様から彼の無事を聞いているけれど、彼女たちは気が気でもないだろうな。
実際にシロナはランベルト様の庇護下に置かれてから、度々西方荒野に行きたいと懇願していた。
だが今の実力ではとてもではないが生き残れない。そんな現実を、ランベルト様の部下たちに敗れた彼女は肌で実感していたはずだ。だからこその願いだろう。
「それでは諸国を回り、剣の修業をするのはどうですか?」
「諸国を……」
「えぇ……シルヴァリー共和国や南部連合王国で己を鍛えてみてはどうでしょう?師匠や路銀の手配はこちらで致します。」
「……っ!はいっ!よろしくお願いします!」
シロナは皇后陛下に向かい、精一杯のお辞儀をした。
そんなシロナに不思議と皇后陛下が笑みを漏らす。
「それでは次に、ヒメナ」
「わた……しは……仕えたい方がいるんです」
「……仕えたい……?」
「そのために、必要なことを身につけたい……けど……どうすればいいのか……」
「そうですね……では、聖女としての研鑽を積んではどうでしょう?」
「聖女としての研鑽……ですか?」
「えぇ。こちらの世界では精霊士と言います。今回のような一件があったばかりです。ロザリア帝国の祭壇での修業はやめた方がいいでしょう。ただ隣国のシルヴァリー共和国はあなたのような獣人族が多くいます」
「私のような……?」
「えぇ。あなたの耳としっぽはこちらの世界では珍しいですが、シルヴァリー共和国には雑種と呼ばれる様々な獣人族の特徴を持った者もたくさんいますから、とりとめて偏見を持たれることもないでしょう。シルヴァリー共和国で精霊士になるため、勉強してみませんか……?」
「それは……思ってもないことです」
「祭壇で読み書きを覚え精霊士として研鑽を積むこともまた、お仕えする際に必要な所作、知識が身につきます」
「……それではそうします!」
「わかりました。まずは2人とも、シルヴァリー共和国ですね。早速シルヴァリー共和国行きの便を手配しましょう」
『ありがとうございます!』
2人の少女はお互いに顔を合わせると、新たな自由の道に希望の光を灯しながらロザリア帝国を出立していった。




