もうひとりの召喚者と勇者と聖女と
――――side:ゼン
先日と同じように、帝国城の古びた地下牢へと忍び込む。
もうすぐ夕方だ……。
白い髪の少女の来る時間。ケモ耳しっぽの少女は満足な食事もとれずに消耗しているのか眠ったように動かないが息はしている。
白い髪の少女が運んでくれている食事と会話で持ちこたえているんだろうが、そろそろ限界だろう……。
――――と、その時。昨日の低めの少女の声が聞こえた。
それとどこかとんがったような少年の声……?
夜陰に紛れてはいるが、声だけはしっかりと聴きとれる……。
どうやら白い髪の少女がシロナ、相手の少年はディートと言うらしい。
ん……?ディート……?
もしかしてディート殿下……?
でも、皇子殿下がこんなところに来るはずが……。いやしかし、ランベルト様が先ほどディート殿下が度々忍び込んでいると言っていた……。本当にディート殿下かもしれないな。
そうして爛滕の光が揺れながら近づいて来て、やがてシロナの姿を照らし出す。
シロナの持つ盆の上にはいつもとは違いカビの生えていないクラッカーが添えられており、そしてほのかに花の香りがする。
これは……?
シロナが言うにはディート殿下がくださったものなのだという。
ケモ耳しっぽの少女ヒメナは涙を流して食事に手を伸ばしていた。
その光景が彼女が召喚されてから今までの凄惨な監禁生活のすべてを裏付けているのだろう。あの第2皇女はよくこんなことができたものだ……。
いや、むしろ指示だけしてこの現実を見ようともしないのか……?
やがてシロナとの話を終え、シロナは地上へ戻って行く。
そして再び闇に包まれた牢獄の中で、ヒメナは疲れたように冷えた石の床に寝そべる。
俺はゆっくりと彼女に近づく。
真っ暗なはずなのに、暗視カメラのようにどこに、何があるのかがわかる……。牢獄にかかったロックにはカギ穴が無い。もしかしたら魔法で開閉するものなのかもしれない。
もうすぐ……もうすぐだ……。
ランベルト様が助けに来てくれるから……。
俺は彼女に手を伸ばそうとして不意にその手を止めた。
……誰か……来た。
シロナではない。ディート殿下でもないだろう。
闇の中、何者かが彼女に迫る。その手にはナイフを握っている。
俺はその何者かの腹に目一杯の不意打ちを仕掛け、手に持ったナイフを手刀で落とし一気に蹴り上げた。
落ちたナイフの音に少女が一瞬顔を上げるが、力が入らないのか何が起こったのかわからないのか、朧げな目を揺らしている。
「くそ……何者だ!姿を見せろ!」
男の声だ。いや……俺ならお前の目の前にいるんだが……
「仕方がない!」
男は腕を前に出し牢に向かって光を放つ。
あれは……魔法……っ!!?
俺はとっさにランベルト様にもらった短剣を構え、牢の中の彼女を庇うように立ちはだかる。
「うぐっ!」
鈍い振動が体中を駆け巡るが、短剣のおかげなのか、まだ動ける……。
「何故……何故……っ!」
また魔法を使われたら厄介だ……!
俺は自分でも驚くほどに冷たい殺気を纏い男の腹に一撃を決め、首の付け根に強烈なかかと落としを決める。
やがて男は動かなくなり、そこら辺にあった縄で男を縛り上げる。
そして何が起こったかわからない少女の元へと歩み出す。その小さく震える手にそっと手を重ねる。
「……大丈夫……すぐに、ランベルト様が……俺の主が……助けてくれるから……もう少し……待っていて」
「……あな……たは……?」
真っ暗闇で何も見えないはずなのに、ヒメナの目は俺をまっすぐ見ているように思えた。
「……それまでは俺が守るから」
「……どう……して……?」
「……守りたいから」
あの、涙を流した少女を。
今、自分をまっすぐ見つめている少女をただ守りたい……そう思った。
長い夜だ……寝そべり身体を休めるヒメナ。俺は牢の前でヒメナの手を握り続けた。少しでも彼女が安心するように……。
その夜は先ほどの襲撃以外は無かった。そして夜が明け始めただろう時間に複数の足音がこだまする。
何事かと身構える俺たちの前に爛滕を携えた集団。そしてその先頭に立つ黒髪の美女の微笑が俺の顔を確かに捉えていた。




