ディート殿下と闇の地下祭壇
――――side:ディート
あぁ……つまらない。
最近エストレラに行ってやったのだが、つまらなかった……。
鬼みたいな氷の王子には遭遇するし。……あの腹黒王子め。そういえば愛称も黒だったな……。
「いや、元気がないからな……。落ち込んでいるのではないかと」
母親の違う兄皇子が留学先のエストレラ学園が夏休みのため一時帰国しており、ぼくの書斎に顔を出した。別に……呼んでないんだけど。
「別に」
「まぁ、元気出せ」
ぽむぽむ。
何故頭を撫でる!?なんか、顔があっつくて……恥ずかしい……。
「ば……ばかっ!」
何か恥ずかしいので、早速部屋を後にすることにする。
……あ、言い忘れてた。
「別に、なでなでされて嬉しいだなんて、全っ然思ってないんだからねっ!」
「……え?……あぁ、うん」
ふんっだ!
部屋にはフェリクスがいるし、またいつもの通り地下通路を通って大祭壇に抜ける。
「ですからっ!私の聖なる力が……」
「さっすが聖女様。フロレンティーア皇女殿下でございます~」
またやっているよ。ぼくと不本意ながら同い年になった双子ではない妹のフロレンティーア。
皇子皇女だが異母ではない。同母だ。俺が早生まれで、あいつが遅生まれだった。
やたらとあいつにこびへつらうのはロザリア大祭壇大司祭。全くもって頭悪くてダメなダメ聖女皇女のくせにそれにこびへつらうバカ大司祭……。
あぁ、もう一人の異母で同い年のファビアンも嫌いだし……。ぼくの癒しは頭をぽむぽむしてくれたお兄様……じゃ、なくて一番上の皇子・ランベルト兄上!!
ここはつまらないから今日はもっと地下を探索しよう。前に行ったさびれた牢獄とは違い、幻想的な青の空間の中に祭壇のようなものがある。
そしてそこには鮮やかな群青色の髪の、ほっそりとした青年が佇んでいる。
「……何をしているんだ?お前」
「……」
こちらを振り返った青年は凛とした金色の瞳をしており、きれいな顔をしている。
「他人のことをじっと見て何なんだ、お前ーっ」(ぷくぅ―)
「は……っ!すまない……あまりにも……くて……」
何だろう、よく聞こえない。
「ちょっと……お掃除をね。ここは一族代々で管理をしているものだから」
「ふぅん……」
大祭壇にそんな場所があるなんて聞いたことがない。そもそもほぼその存在を知られていない大祭壇の地下だぞ?
……ここは……。
「おい」
「な……なぁにっ!?」
「出口、どこ?とっとと連れてけ」
「えっ!ええぇっ!?……それって……それってデートのお誘い……!?」
……何を言っているんだろう。コイツは。
「うん、もちろん。かわいいハーパンっ子とデー……あぁ、いや行こうか」
「……?」
いや、何なのだ先ほどからぼくの知らない言葉をつらつらと……。
ぷく――――っ!
「お前、名前は?」
「私は……イェリク」
「ふうん……イェリクか……」
「いきなり呼び捨てで……っ!思わずドキッと来る……ハァハァ……」
「は?」
コイツは、何をハァハァしているのだろう……。ひょっとして体力がないのか……?
「ところで、君の名前は!?」
「ディートハ……いや、ディート」
下手に皇子だなんだと騒がれては、ここに忍び込んでいることが城の奴らにばれてしまう……
「ディートくんか、ディートくんねぇ。わかった。ぼくのことはイェリクお兄ちゃんでいいからねっ!」
「何故お前にお兄ちゃんをつけねばならん」
そうこうしているうちに地下通路を抜け、狭い路地に出た。
ここが城下……。
普段は馬車で通り過ぎるだけだったから新鮮だな……。また迷子になったらいけないとイェリクに手を引かれながら……いや、ぼくは迷子じゃない。こうして新たなフィールドに飛び出すための作戦なんだ!……迷子なんかじゃないんだからねっ!それに街行く人々や街並みを眺めるのも楽しいかもしれない。
「おい!あいつだ!」
「取り囲め!」
怒声が響いてぼくとイェリクの周りを多数の衛兵が取り囲む。
「察するに……お前のような小汚い罪人の一族が哀れにもお貴族様の坊やを誘拐したってところか……」
そして衛兵たちの後ろから顔を出す太っちょな男。身なり的に貴族か?……コイツ。……というかぼくは貴族じゃなくて皇族だし。
「何を言うんだ、ぼくは」
「はぁ~い、ぼく?今悪~い罪人の一族の男から救って差し上げます……!見るからに高位貴族のご子息だしなぁ……そして褒美に莫大な報奨金を……ひっひっひ」
腹黒い妄想がだだもれだぞ、お前。
「連れていけ!」
「く……っ!まずいな……ディートくん!ここは……」
「……めんどくさい」
説明が主に。
「アイアンニードル!ファイアブラスト!」
鉄の杭が衛兵どもを蹴散らし、炎攻撃で一掃する。
「行くぞ」
「あっ!ディートくんったら……!情熱的なんだからっ!!!」
後ろでイェリクが何か言っているが、無視だ!
「追ええぇ!人攫いだ!」
いや、誰が人攫いだ!イェリクの腕を引っ張って走っているこの状況だと皇子のぼくにが人攫いになるだろ!?
「そこまで!」
太く、凛とした声が響く。こ……コイツは……。
帝国民人気皇子ランキング2位……。
因みに1位は当然ながらランベルト兄上である。
「ひ……っ!フェリクス殿下!!」
太っちょや追って来た衛兵が驚愕している。
「誤解です!フェリクス殿下!我らはそこのお貴族の子息を汚い罪人の一族から保護しようと……っ」
「それは本当か?ディートハルト」
フェリクスが俺を強いまなざしで見てくる。
む……。こういう時の表情は父上の激おこモードに似ていて嫌だ。
ぷく――――っ!!!
「違う。人攫いはあいつら」
ぼくは太っちょ軍団を指さす。
「だ……そうだが?少々理由をお聞かせいただこうか?」
「な……っ!ディートハルトって……まさか……第4皇子!?」
「ち……違います!ディートハルト殿下が罪人の一族と一緒にいたのですよ!?信用できません!脅されている可能性も……」
「ぼくがそんな脅しにのるかっ!」
ぼくをなめるな!
「罪人の一族か……確かにこの帝国にはそういう陰習があるな。だがそういう意味では、私もそうなるが?信用ができないと」
あぁ……コイツの破門になって野に下った母親のことを言っているのか……。
「いえ……っ!そういうわけでは……っ」
「安心しなさい。あなた方の身柄については司法庁が公平に対応してくれる。皇族を金目当てに追い回していたという事実をな」
「う……っ」
「お前たち、あいつらを捕らえてくれるか?」
『はっ!』
フェリクスに連れ立っている従者の騎士ども……目が血走ってんぞ。
まぁ……フェリクスは母妃があれでも、父上に中身が似てるから部下たちから人気がある。貴族をはじめ、平民にも人気があるし……。
「内緒の逃避行か?侍女や護衛たちがお前の姿が見えないと青い顔になっていたぞ?」
またフェリクスが頭をぽむぽむしてくる。別に……っ!嬉しくなんてないんだからねっ!
全く、城の奴らも普段なら率先してぼくを探したりなんてしないのに……。今日に限って運が悪い。
「とうひこう……ディートくんと逃避行だなんて……っ!それも身内公認っ!」
おい、何言ってんだコイツ。
「で、隣の彼は?」
ん―……どうしようか。久々に見つけた面白そうなやつだからな……。
「ん、ぼくの従者にすることにした」
「え……それってつまり……一生ディートくんに付きまとっていいという……本・人・公・認!?」
「……彼は大丈夫かい?皇族の専属従者ならば父上の許可がいると思うけど」
頭と身元、どっちの意味だろ。
「別に!先日従者、侍女どもを丸ごと罷免したばかりだから!父上も人選に困っていた!だから構わん!」
「うんうん、わかったわかった。そんなに好きなんだね。ディートがランベルト兄さん以外に懐くなんて珍しい」
ぽむぽむするな。シャーッて噛むぞオラ。
「好きだなんて……っ!もう、ディートくんったら……っ!」
コイツは何を浮かれているんだろう。今までの侍女や護衛には無い反応だ。これはこれで新鮮だが……何故鼻の下を伸ばしているんだか。
べ……別に、ぼくの従者になれるのが嬉しいとかそんな風に思われても……別に、嬉しくないんだからねっ!!
「こら!ぼくの下僕になるんだから、ディート様だ!」
「あれ、従者じゃないのかい?ディート?」
と、フェリクス。
「従者と書いて下僕と読む!」
「はい!ディート様にでしたらお兄様のバカッと言いながら踏みつけてもらいたいです!!」
「うん、よくわかってるじゃないか」
「ディート……本当に彼、大丈夫かな?」
全く、フェリクスは心配しすぎだ……っ!ふんっだ!
別にフェリクスが心配してくれるから嬉しいわけじゃ……ないんだからねっ!!




