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クロ殿下と剣聖ヴェイセル【伏線大回収祭編】  作者: 夕凪 瓊紗.com
ディート殿下ツンデレ感謝祭編

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ヒメナとシロナ


――――side:ヒメナ


それは突然のことだった。生まれ育った世界からいきなり見ず知らずの場所にいた。


その豪華絢爛な広間には私の他にも3人の少年、1人の少女がおり皆呆然としていた。そして私の前に耳もしっぽもない耳なしたちがいる。紫がかった銀の髪の少女が歩いてきて何かよくわからない言葉でまくし立ててきた。


次の瞬間私は武器を持った耳なしたちに取り押さえられた。赤髪の少年も私と同じように取り押さえられている。


何故……?何故こんな……?


先程まで呆然としていた淡い金髪の少女が何かを言っているが、銀髪の少女の怒声に彼女も取り押さえられていた。


そのまま私は鈍い衝撃と共に意識を失い、気が付いた時にはひどく埃っぽい……このさびれた牢獄にいた。


目の前には鉄格子、ところどころ天井が崩れているのか光が差し込んでおり、水の下垂る音が静かに響く。


「??????」

ふと暗がりの向こうから声がした。暗がりの中から歩いて来たのは、先ほど同じく広間におり銀髪の少女に食らいついていた淡い金色の髪の少女だ。


一見少年のようにも見える。だけど声は低いが、少女のものだとわかった。


「??????」

少女が何かを言っている。しかしわからない。暫くすると少女が首から下げていたクマちゃんを差し出してきた。クールでかっこいい印象の彼女にしては、かわいらしい趣味だと思っていたのだが……。


「言語翻訳の魔法がかけられているらしい。暫くはそれを交代ではめて会話しよう。……言葉、わかるか?」


私は頷く。


「私たちは、異世界に召喚されたらしい」


……は……?


少女の名はシラヌイ・シロナ。地球という星の日本と言う国からやって来たのだという。


私はホウライという国からやって来たヒメナだとそう告げると、シロナはひどく驚いた顔をした。


彼女の世界では伝説上のホウライという国があるそうだが、あくまで伝説である。私のような耳、しっぽを持つ存在は創作物の中にはいるが実在はしないのだという。

私の世界ではむしろ、私のような耳、しっぽを持たない耳なしの方が珍しいというとシロナも驚いていた。


そして召喚された者たちの中にはシロナの知らない世界から来た少年もいたのだという。


「それは……もしかしたらヒメナと同じ世界から来たのかもしれないな」

複数も世界があるのは驚きなのだが、私の世界に、耳やしっぽを持たない耳なしがいたことも驚きなのだ。


「私の世界の……耳やしっぽを持たない耳なしは絶滅したと言われています」

「絶滅……?」


「しかし姿を見たという噂や、実は隠れ住んでいるという噂もあります。彼らは……その昔、私のような耳やしっぽを持つものを迫害、手当たり次第襲おうとしたため討伐されたと言われています」

「まるで……召喚されたこの帝国みたいだ」

私たちを召喚したのはロザリア帝国。この世界でも歴史ある大国だった。


この国では耳、しっぽのない人族が優位で私と同じような耳、しっぽをもつ種族を獣人族と呼ぶのだとか。しかしこの国では獣人族の地位は低く、差別を受けることも少なくない。いわば、人族がまだ討伐されていない世界。


「あの銀髪の女……あれはこの帝国の皇女で聖女らしい」

あの、偉そうな人が……。


「鑑定したところ、君のジョブは聖女だったんだ」

ジョブとはこの世界で言う天職。その才能があるという意味らしい。しかし私のジョブが聖女……?


「召喚者というのは特別なスキルやステータスを保持しているらしい。だからあの女は獣人であることや、自身より上を行く可能性のある召喚聖女であることが気に食わなかったらしい」


そんな……そんな理由で……。


「あの、赤髪の子はどうなったの?」


「あいつは勇者のジョブを持っていたが赤髪という理由だけで追放されたらしい……私にもっと力があれば……」

何故、産まれもった髪の色だけで……?


「……あの女の監視が厳しくて、こんなものしか持ってこれなかった……」

シロナが差し出した盆に乗っていたのはほぼ水のスープとカビの生えかかったパン。


ないよりはましだ……。


「でも、いつか私が強くなってヒメナを助ける」

「……どうして……そうまで……?出会ったばかりなのに……」


「困っている人がいたら助けるのが剣士の心得だ」

シロナの世界ではそれが普通なのだろうか……?


「ロザリア帝国の北方にエストレラという国があるらしい。そこでは獣人族も人族も差別なく暮らしているのだという。ここを抜け出して……一緒にエストレラに行かないか?」

「うん、そうだね」

かなうかどうかわからない夢。でも見ず知らずのこの非情な世界で生き抜くために私には必要なものだった。


あれから何日たっただろう。十分な栄養がないから体力は衰え、気力もわかない。だけどシロナが毎日、1日1回の食事を運んできて話をしてくれるから少しはましだった。


今日はシロナはまだだろうか……。遠くで誰かが話す声がする?1つはシロナの声だろうか。

もう1つはひどくとがった声だ……。


暫くするとシロナがいつものように声をかけクマちゃんを手渡してくれる。


その日シロナが差し出した食事はいつもと違った。ほのかに花の匂いがする……?

金属と土とホコリの匂いしかしないこの牢獄では決して嗅ぐことのないはずなのに。


「ディート……という少年にもらった」

その盆にはカビの生えたパンの他にクラッカーが添えられており、ほぼ水のスープには花が咲き誇るように浮かんでいた。


「花茶……というらしい」

この世界に来て初めてのまともな食事な気がしてしまった。

カビていないクラッカー……味のついたスープ……。


何故か涙が頬を伝って……。


「もう少し……もう少しだけ待って……必ず助けるから」

鉄格子越しにシロナがそっと抱き寄せてくれるのがわかった……。



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