ディート殿下と白の勇者
――――side:ディート
ロザリア帝国帝都帝国城。
「召喚勇者?バカバカしい……」
ロザリア帝国第4皇子ディートハルト、12歳の夏。
ロザリア大祭壇より、聖女立ち合いの元異世界より勇者召喚が行われたという知らせがロザリア帝国中を駆け巡った。
異世界より来た召喚勇者は様々な特別なスキル、ステータスを持つらしい。
そんなことをするから隣国の西方魔王国との緊張が増すんだ。ここ最近はたいした衝突もなく平和に過ごしていたのだが……。
奴らの動きが鈍くなっている時こそ好機と先走る者たちがいる。鈍くなっているのではなく万が一に備えて溜めているだけではないのか。
その沈黙がどうにも不気味なのに……。
何が好機だ。最悪だ。
そんなバカバカしいことばかりをすれば、以前のようにエストレラ王国は助けてくれないだろう。いくら我が帝国が世界の2大大国といえど……。
ただでさえあの国には属性精霊の中でも力のある氷の精霊がいるのだ。あの精霊が本気になれば温暖なロザリア帝国が一瞬にして極寒の地になってしまう。
さらにジョブ勇者を授かった元第1皇女がエストレラに魔族退治の名目で攻め入り、それ以前にもかつてのロザリア筆頭魔法士長がエストレラ王国の王子を忌み付きと罵ったのに。
そしてロザリア大祭壇はことあるごとにエストレラの闇の精霊信仰を非難し、太陽の精霊をロザリア大祭壇へ返せと求めている。
これでは我が母である皇后陛下が上手くエストレラの王配と仲を取り持っているのが台無しではないか。
はぁ……最近は修行という名目でロザリア大祭壇に入り浸ってわがまま放題しているあいつのせいか……?
ほんと、ばかばかしい。
よし、脱走しよう。城はつまらない。
――――ロザリア帝国帝都ロザリア大祭壇
風情の欠片もないただでかくて豪華絢爛な建物だ。警備も厳重、仕える精霊士は国内有数のエリート集団。――――しかし、甘いな。
ロザリア大祭壇と城は何かあった時のためにこうして地下通路でつながっているのだ。地下通路は外観と違い古代の趣があっていい。通常はいつものルートで大祭壇内部に侵入するのだが、今日はいつもは使わない横穴が少し気になった。
油断すると迷子になるのだが……ふん、このぼくが迷子になるはずがないんだからねっ!
よし、行こう。
ポッ、ポッ、ポッ……
雫が垂れる音がする。
所々さびれて地上からの光が漏れている。通路の両脇には鉄格子が並んでいる。ここは古い大祭壇の牢獄か……?
若干、土ぼこりが取れている箇所がある……。まさか今もこんなところを使っているのではあるまいな……?
ぞくりっ
何だ?恐怖ではない。自分の中の何かが反応しているのか……?
「……!」
誰かがいる……!それは淡い金色の短い髪をした少年……いや、女か?キレイに整った端正な顔立ちだ。上から下まで黒い装束で身を固めほっそりとした体形だが力強さを感じる。腰にはひとさしの剣。
「……まさかフロレンティーア?」
声は低いが女か……?女は驚き目を見張りながらも怒気をはらんだ目で見つめてくる。
「はぁ?あの女と一緒にするな!ぼくは男だ」
といって上着を上げる。
「……すまない、男だったか。しかしフロレンティーアが実は男だったという可能性は……」
「ないよ!気持ち悪いこと言うな!」
全く、ぼくを何だと思っているんだ。
「ふふっ……どうやら本当らしい。ごめんね。ちょっと……君があの女によく似ていたから」
ふうん……仮にも第2皇女である聖女フロレンティーアをあの女呼ばわりとは……。やるじゃないか、この女。
「ふんっ。なかなか話の分かる奴じゃないか。気に入ったぞ」
「……よくわからんが」
「わからんのかっ!お前脳筋か!」
「……お前はここに何しに来た?」
脳筋かどうかは答えない気か、はぐらかす気か。まぁ別に興味なんて……な、ないんだからねっ。
それにこのぼくをお前呼ばわりとはいい度胸をしている。ふん、まあその度胸に免じて答えてやろう。
「ここはぼくの庭と同然!何をしようとぼくの勝手だ!」
「……ふふっ……変な奴だな」
「お前だって変な奴じゃないか。こんなところで何をしている?」
「何って……飯を運んでる」
確かにその女は皿を載せたトレーを持っている。
しかしそこに載っていたのは明らかに日のたった硬いパンと、ほぼ水のスープだった。
「お前のメシか?」
「いや……友人のだ。こういうものくらいしか用意できなくてな。私の分を減らして友人にあげたくても……それすら許されない」
「ふん……っ!しょうがない奴め」
本当にしょうがないので手持ちのロザリア特産最高級花茶の茶葉をスープに浮かべて、もしもの時用のブロック携帯食をくれてやった。
「感謝するがいい!それくらいなくてはメシとは呼ばん!」
「ちょ……っ!せめて名前を……っ!」
「……ディート。名乗ってやったんだ!お前も名乗れ!」
「……シロナ……シロナ・シラヌイ」
「ふんっ!覚えておいてやるかもしれない!感謝しておけ!」
そう言ってぼくは軽快に元来た道を駆けていく。
――――あ、一つ言い忘れた。
「別に、心配してやったんじゃないからねっ!」




