リュシーの回顧録①
――――気が付いた時、私は母と思われる女性の写真の入ったペンダントを片手に、各地を転々と巡っていた。
しかし一緒にいるのは母でも父でもない。謎のひとたちは旅の渡りの運び屋ワタリドリだと名乗った。
私にはごく普通に前世の記憶とも呼べるものがあった。それが最初は何なのかわからず、そのワタリドリのひとたちに話して聞かせた。そして私は転生者であると知り、また自覚した。
でもワタリドリのひとたちは、それはあまり外には語らない方がいい記憶だと言った。
その他にもワタリドリのひとたちは私にこの世界のことを色々と聞かせてくれた。そして最北の地エストレラ王国でワタリドリのひとたちとの別れがやって来た。
そこで私はメガネをかけた鋭い眼光の男の人に引き渡された。その鋭い眼光に恐いという感想を抱いた。
ワタリドリのひとたちに私は『行かないで』『私も行きたい』と言ったが、ワタリドリのひとたちは『君はこの地に足をつけて生きなさい』と言って去って行ってしまった。
あぁ……こんな恐いひととこれから暮らさないといけないのか?私は母の写真の入ったペンダントを握りしめ、不安げにその恐いひとを見上げた。恐いひとは何も語らず、私に手を差し伸べた。
その手を恐る恐る握ると、ひどく温かく優しいものに思えた。
私は名をリュシエンヌと言った。それだけは……それだけは知っていた。前世の私の名前とはおよそ遠い響きの名前。
恐いけど優しい手のひとは、私をリュシーと呼び、これからは自らを『お父様』と呼びなさいと告げた。このひとは私のお父様になる。私はこのひとの娘になるんだ。
――――その時やっとわかった。私は親を失った孤児として里親であるこのひとに引き取られたのだと。
私はこのシュテルン領のお屋敷で冷遇されたらどうしよう。知らないひとたちにひどいことをされたらどうしよう……そんな不安を抱えていた。しかしそんな不安とは真逆で私は使用人やメイドたちにたーんと甘やかされて育った。
お父様は普段忙しくあまりお屋敷に帰っては来なかったが、帰って来た時は土産を持ってきて、私の頭を優しく撫でてくれた。
顔は少し恐いけど優しい手を持つひと。私はいつしかお父様の帰りを心待ちにしていた。
――――そんなある日、お父様は私の兄だという
少年を連れて帰って来た。お父様と同じ髪、瞳の色だがひどく優し気な双眸を持つ兄。
「君がリュシーだね。ぼくのことはジェイドお兄様と呼んで」
「うん……ジェイドおにいさま?」
戸惑いながら呼ぶと、ジェイドお兄様は優し気に微笑んでくれた。
そしてお屋敷でメイドたちにかわいがられ、家庭教師に座学や、魔法、護身術の講義を受けたまに訪ねてくれるお父様やジェイドお兄様を心待ちにしながら……いくつかわかったこともあった。
お父様の名はエリックと言う。このエストレラ王国の第3王配にしてこのシュテルン領を含むシュテルン州を預かるシュテルン公爵。
普段は王配として王城に勤めているため、このシュテルン州を実際に治めているのは代官であるお父様の弟・リーンハルト様。
そして紹介されたリーンハルト様の奥方様……メリダ様は私を娘のようにかわいがってくれて、その息子のフーゴは1歳年上で毎日のように遊びに来てくれる。
そしてジェイドお兄様はこのエストレラ王国の第3王子。ウチにはお母様がいないのはお父様の奥さんは女王陛下だから。そう言う理由があったのだ。……と言っても女王陛下は王族の血を引かない私の母ではない。一度お父様に連れていかれた王城で銀色の美しい髪の女王陛下と邂逅した。女王陛下は『私は国民皆の母なのだから、エリックと同じようにお母さんって思ってくれていいのよ?』とおっしゃった。
とても美しく優しい女王陛下。それはもちろん冗談だとわかってはいたが、私はこの女王陛下の治める国で暮らしている……それは各地を転々としてきた私にとって、エストレラ王国が安住の地であると教えてくれたかのようだった。




