第二話
少女が頭を下げたからといって、こちらの態度はかわらないはずだったが、少女の口からでた言葉に眉根が寄る。
「匿え、だと?」
「はい。お力添えをお願いしたく参りました」
長い艶やかな金髪を揺らすことなく頭を下げたまま、少女は助力を仰ぎに来たと言う。
距離があるにもかかわらず、はっきりと聞こえた少女の声に強い意志を感じた。
だが、今ここで易々と承諾できるはずもない。
昔話とは違い、あの男のような侮蔑した態度でも物言いでもないが、信用などできない。
短弓を握り直し、弦を胸へと引きつけたまま疑問を口に出す。
なにせこの少女は金髪だ。ならば性根はあの男たちと同じはずだろう。
「金髪であるならば、貴様はリベル家の者だろう。我らの協力など無用のはず」
「……わたくし、いえ、私はリベル家とは何も関係ないただの、ただのレベッカです。どうか、聞き入れていただきたい」
動揺したのか垂れた金髪が少し揺れ、こちらを少しだけ見つめたレベッカは頭を下げなおし、リベル家と関係がないと言い切った。
レベッカが密偵の可能性も捨てきれないが、少しだけかち合った、縋るような目線。
あの目は嘘をついているようには見えなかった。
嘘ならば、責任をもって葬り去ればいい。
曰くつきである人間がこの山へ来るならば、それを拒まない。そのおきてを守るために、構えていた短弓をおろした。
ひとつため息をついてレベッカへ警告をする。
「嘘であったなら貴様を殺す、いいな」
「ありがとうございます」
「気が進まないが、おきてを守るだけだ。礼は長に許しをもらえた後にしろ」
安心したような声音になったレベッカから目をそらし、箙に矢をしまい歩き出す。
まばらに降っていた雪は止み、ただ薄暗いだけの山をまた登りだした。レベッカは一定の距離を保ったまま後をついてくる。
本当にリベル家と関係のない少女なのだろうか。あの忌まわしい金髪は、リベル家の者しか持って生まれてこない。
町で見かけた高そうな服と似た質のコート、特注するしか手に入らないと聞くロングブーツ。
レベッカは違うと言い切ったが、どこから見てもそうとしか思えない。
疑いが頭から離れず足を止め、首をひねり肩越しにレベッカを見た。
はあはあと息を切らし、慣れない山歩きで暑いのか手袋を外している。
何が入っているかわからない重そうなトランクを、引きずらないようにと必死だ。
入っているかもしれない武器を取り上げる口実と、家に帰りつくのが遅くなれば獲物の肉も腐るという焦りから、レベッカのトランクを取り上げる。
あっと小さく出たレベッカの声を聞こえないといった体で、取り上げたトランクを肩にかけ前を向いた。
早くしろとだけ背後に声をかけ、先ほどよりゆっくり歩いていく。
まあ、もう少し様子を見てからでも遅くはないか。
「お優しいんですね」
レベッカの微笑みを含んだ言葉を黙殺し、あと少しでたどり着く村へ入る前に、レベッカに釘を差した。
「もうじき村だが、その髪は見えないようにフードの中へ。そして、いいと言うまで顔を上げるな、声も出すな」
少し先を見れば目前に迫っていると気づき、レベッカは急いで髪を束ねてフードを目深に被った。
助力を仰ぐために来たとはいえ、この村で金髪を揺らし歩けばひどい目に合うだろう。
子どもならいいが、大人に警戒されてしまえば長にたどり着くどころか、こちらまで村を追い出されかねない。
下手をすれば殺されるかもしれないが……。
考えていてもいい考えは浮かばす、円を描くように曲がってしまった木の下を通り、いつも通りに村へ帰ってくる。
後ろから小さい声ですごいと聞こえ、下を向いておけと後ろ手に地面を指さした。
おかしい。
大人はおろか、子どもらの姿も見えない。いつもなら積もった雪で遊びまわり、親たちが見守っている。
時折、家に雪玉をぶつけて叱られる、そんな日常が今日は嘘のようだ。
雪が降っていた森の中のように、耳が痛いほどの静けさ。
気味が悪いと急ぎ足になるが、村の奥にあるひと際大きな長が住む家の前に、その人が立っていた。
「ニール様……」
いつもとは違う異様な光景、そしてこちらを向いてにこやかに笑うニールに、思わず歩みを止める。
自分の家から出てきているのだから、なにも不思議ではない。だが、用事もなく家の前に佇むような人ではないのだ。
それに、防寒するようなものを着ていない。
今しがた家から出てきたとわかる恰好だが、この寒さの中で薄着では立っていられない。
もしかして、レベッカのことを誰かが見ていてニールに伝わっていたのだろうか。それとも。
「そんなところに立っていないで、お入り。後ろの子も連れておいで」
落ち着いた口調、心地のいい低い声。普段と変わらないニールの様子に、いつの間にか詰まっていた息を吐き出す。
こんなにも緊張したり、いろいろと考え事をするのは性に合っていないし面倒だ。
レベッカの問題を長であるニールに任せ、早々に元の日常へ戻りたい気持ちが強くなる。
少し震える脚を一歩踏み出し、手招いているニールの元へと歩いていく。




