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イエローマダー  作者: 沖 晶
第一章
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第二話

 少女が頭を下げたからといって、こちらの態度はかわらないはずだったが、少女の口からでた言葉に眉根が寄る。


かくまえ、だと?」

「はい。お力添えをお願いしたく参りました」


 長いあでやかな金髪を揺らすことなく頭を下げたまま、少女は助力を仰ぎに来たと言う。


 距離があるにもかかわらず、はっきりと聞こえた少女の声に強い意志を感じた。

 だが、今ここで易々と承諾できるはずもない。


 昔話とは違い、あの男のような侮蔑した態度でも物言いでもないが、信用などできない。

 短弓を握り直し、弦を胸へと引きつけたまま疑問を口に出す。


 なにせこの少女は金髪ブロンドだ。ならば性根はあの男たちと同じはずだろう。


「金髪であるならば、貴様はリベル家の者だろう。我らの協力など無用のはず」

「……わたくし、いえ、私はリベル家とは何も関係ないただの、ただのレベッカです。どうか、聞き入れていただきたい」


 動揺したのか垂れた金髪が少し揺れ、こちらを少しだけ見つめたレベッカは頭を下げなおし、リベル家と関係がないと言い切った。


 レベッカが密偵の可能性も捨てきれないが、少しだけかち合った、縋るような目線。

 あの目は嘘をついているようには見えなかった。


 嘘ならば、責任をもって葬り去ればいい。


 曰くつきである人間がこの山へ来るならば、それを拒まない。そのおきてを守るために、構えていた短弓をおろした。

 ひとつため息をついてレベッカへ警告をする。


「嘘であったなら貴様を殺す、いいな」

「ありがとうございます」

「気が進まないが、おきてを守るだけだ。礼は長に許しをもらえた後にしろ」


 安心したような声音になったレベッカから目をそらし、箙に矢をしまい歩き出す。

 まばらに降っていた雪は止み、ただ薄暗いだけの山をまた登りだした。レベッカは一定の距離を保ったまま後をついてくる。


 本当にリベル家と関係のない少女なのだろうか。あの忌まわしい金髪は、リベル家の者しか持って生まれてこない。


 町で見かけた高そうな服と似た質のコート、特注するしか手に入らないと聞くロングブーツ。


 レベッカは違うと言い切ったが、どこから見てもそうとしか思えない。


 疑いが頭から離れず足を止め、首をひねり肩越しにレベッカを見た。


 はあはあと息を切らし、慣れない山歩きで暑いのか手袋を外している。

 何が入っているかわからない重そうなトランクを、引きずらないようにと必死だ。


 入っているかもしれない武器を取り上げる口実と、家に帰りつくのが遅くなれば獲物の肉も腐るという焦りから、レベッカのトランクを取り上げる。


 あっと小さく出たレベッカの声を聞こえないといった体で、取り上げたトランクを肩にかけ前を向いた。

 早くしろとだけ背後に声をかけ、先ほどよりゆっくり歩いていく。


 まあ、もう少し様子を見てからでも遅くはないか。


「お優しいんですね」


 レベッカの微笑みを含んだ言葉を黙殺し、あと少しでたどり着く村へ入る前に、レベッカに釘を差した。


「もうじき村だが、その髪は見えないようにフードの中へ。そして、いいと言うまで顔を上げるな、声も出すな」


 少し先を見れば目前に迫っていると気づき、レベッカは急いで髪を束ねてフードを目深に被った。

 助力を仰ぐために来たとはいえ、この村で金髪を揺らし歩けばひどい目に合うだろう。


 子どもならいいが、大人に警戒されてしまえば長にたどり着くどころか、こちらまで村を追い出されかねない。


 下手をすれば殺されるかもしれないが……。


 考えていてもいい考えは浮かばす、円を描くように曲がってしまった木の下を通り、いつも通りに村へ帰ってくる。

 

 後ろから小さい声ですごいと聞こえ、下を向いておけと後ろ手に地面を指さした。


 おかしい。


 大人はおろか、子どもらの姿も見えない。いつもなら積もった雪で遊びまわり、親たちが見守っている。


 時折、家に雪玉をぶつけて叱られる、そんな日常が今日は嘘のようだ。


 雪が降っていた森の中のように、耳が痛いほどの静けさ。

 気味が悪いと急ぎ足になるが、村の奥にあるひと際大きな長が住む家の前に、その人が立っていた。


「ニール様……」


 いつもとは違う異様な光景、そしてこちらを向いてにこやかに笑うニールに、思わず歩みを止める。


 自分の家から出てきているのだから、なにも不思議ではない。だが、用事もなく家の前に佇むような人ではないのだ。


 それに、防寒するようなものを着ていない。

 今しがた家から出てきたとわかる恰好だが、この寒さの中で薄着では立っていられない。


 もしかして、レベッカのことを誰かが見ていてニールに伝わっていたのだろうか。それとも。


「そんなところに立っていないで、お入り。後ろの子も連れておいで」


 落ち着いた口調、心地のいい低い声。普段と変わらないニールの様子に、いつの間にか詰まっていた息を吐き出す。


 こんなにも緊張したり、いろいろと考え事をするのは性に合っていないし面倒だ。

 レベッカの問題を長であるニールに任せ、早々に元の日常へ戻りたい気持ちが強くなる。


 少し震える脚を一歩踏み出し、手招いているニールの元へと歩いていく。

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