昔話
むかしむかし、ある海辺の町に赤毛の一族がおりました。小さい町でしたが、皆で協力しあい幸せに生きておりました。
ですが、その幸せが終わる日が巡ってまいります。
いつものように漁へ出かける父たちを見送った子らは、母たちの手伝いをしたあとで砂浜に走り出し、きゃっきゃとじゃれあっておりました。
すると、先ほど出たばかりの船が戻ってきたのです。
父ちゃんたちだ、と話す子らの声に母たちがそちらを見やると、父たちの船とは比べ物にならないほどの大きな船も沖からやってくるではありませんか。
母たちは急いで子らを家の中へ隠し、賊が乗っているかもしれない船に警戒を強めました。
「ひっ」
浜へ着いた父たちの船は血に濡れ、おびただしい数の矢が船体に刺さり、何人かの父が体を投げ出すように船端に引っかかっております。
それを見た母たちは怯え、子らを守ろうと自分を奮い立たせました。
立ち向かう準備を整えますが、大きな船から降りてきたのは綺麗な青年がたった一人。にこりと人の良さそうな笑みを湛え、青年は後ろ手を組んだままに母たちへ近づいてきます。
戸から様子を伺っている子らは、母たちの体で前がよく見えません。息を詰め、物音を立てないようにという母たちの言いつけを守っております。
「なんの用だ」
赤毛一族の長の立場にある母―レヴェンナが、低い声で青年へと問いかけました。それに答えることなく、青年は悠然と歩いてきています。
「止まれ!」
何も答えずただ微笑んでいる青年は薄気味悪く、レヴェンナは強く叫びながら身構えました。もうすぐそこまで青年が来ているのです。
子らもまた、戸の内側で追い込まれておりました。のぞき込んでいた戸から離れ、後ろを向いて声が飛び出してこないように口に手を押し付けます。
力が勝手に入ってしまう体をもたれるように寄せ合い、手足だけでなく頭までもガタガタと震えているのです。
目の前に迫っていた青年はぴたりと歩みを止め、首を回して母たちを眺めたあとにやりと薄ら笑いを浮かべます。
青年は日焼けもしていない真珠のような白い肌に、つやつやとした金色の髪、翡翠の色をした瞳は母たちを捉えておりますが、蔑みの色が見えていました。
「本日をもって、そなたたちを――」
容姿に似つかわしくない口調で続けた青年の言葉に、レヴェンナは怒り狂ったのです。