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赤ちゃんはどこから来るの?


 生物の生殖行為については様々な手法が用いられるが、概ね雄蕊と雌蕊で説明が出来る。ドラゴンという摩訶不思議な異界の生き物の性行為についても地球の生物と同様であるかは些か自信がないが、彼女の異常なまでの初心っぷりを見るに、赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくると信じていても驚きはもうしないだろう。

 てか、僕を一口に丸呑みにしといて、キスは恥ずかしいってどういう羞恥心だ? 乙女心はドラゴンの生態以上に複雑怪奇だ。

 ドラゴンの生態と乙女の心、その二つの謎について思いを馳せるのも有意義なことだろうが、残念ながら今はそんな悠長な場合ではない。強姦はするのもされるのも罷りならない。彼女の蛮行を止め、美しくも清らかなものを保つために今すぐ行動するのだ。その為には彼女の初々しさを利用しなければならないのは非常に心苦しい。


 僕は意を決して辛うじて動かせる首を持ち上げて、頭を彼女の顔に近づけた。ドラゴンさんは顔を真っ赤にしたまま後ずさった。その際に僕を押し付けていた腕も離れた。

 さっきまでの威圧は完全に鳴りを潜めて、ドラゴンさんは今ではただの初心な女性だ。僕は怖気を押し除けて、彼女の肩を掴んだ。やや筋肉質で、骨格ががっしりしてる気がする。心は乙女だが、肉体はドラゴンパワーを凝縮した人の形をした兵器だと考えて差し支えないだろう。この混迷を利用しなければ勝機は一切失われてしまう。


「ドラゴンさんよく聞いてください」

「な、なんだ……」

「いいですか、キスだけでは赤ちゃんは産まれません!」

「なっ! じゃ、じゃあ、どうすれば子供を作れるんだ?!」

「どうする必要もありません。でも必要なものがあります」

「必要な物? なんだそれは?」

「それは…………」


「“愛”です」


 僕の言葉にドラゴンさんは固まってしまった。呆れてものも言えないのか、金言に心打たれて沈黙の感動に浸っているのか。僕は静かに彼女の次の言葉を待った。

 沈黙は長かったようにも思えるし、短かった気もする。彼女はゆっくりと口を開けた。


「ど、どうすれば、お前はオレを愛してくれるんだ?」


 おっかない印象から色眼鏡をかけて見ていたが、彼女は非常に素直でピュアな人なんだろう。初めから話し合いで解決する道もあったかもしれない。


「すぐに、とはいきません。人と人との関係は、そんな簡略化できるものではありませんから。でもね、一番の問題はですね、僕がどうこうではないんですよ。ドラゴンさん」

「……? 何が問題なんだ?」

「それはあなたが僕を愛しているか、愛せるか、という問題なんです」

「……!!」


 僕の口調は穏やかだったが、ドラゴンさんは雷にでも撃たれたかのような衝撃的な表情をした。この問題はまさに彼女にとって青天の霹靂と言ったところだろう。


「きっかけはどうあれ、愛は一方的なものではありません。……お分かりいただけましたか?」

「クソッ! ならどうしろっていうんだよ! こんな、なんの変哲もない弱い男をどうやって愛せっていうんだよ!!」


 目の前で自分自身が愛するに値しない凡夫だと嘆かれては、流石の僕も男としての立つ瀬がない。しかし成り行き自体は思惑通りだ。ドラゴンさんには自分に見合った素敵な男性とお付き合いしていただきたい。


「なら僕のようなちんけな男に執着する必要もないですよ。きっとドラゴンさんにお似合いの強くて大きな人がこの世には……」

「そうだ……お前の言う通りだ……」


 僕の言葉を遮るように彼女はつぶやいた。どうやらドラゴンさんは納得してくれたようだ。こんな素直な良い人を誑かすような手段しか講じる事が出来ないのが情けなくてしょうがない。いっそのこと「頑張ってドラゴンさんに相応しい男になってみせます!」と啖呵を切れたら、どれほど男らしかったか。


「お前をオレ好みの男に鍛え上げてやればいいんだよな!」


 ドラゴンさんは満面の笑みでそう言った。どうやらドラゴンさんは素直で良い人でしかもとても前向きな性格の人らしい。

 自身の立つ瀬の狭さに嘆き、啖呵を切れたらどれほど男らしいかと歯痒く思っていたが、実際こうなると些か僕には荷が重い話しである。

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