~この世界で俺は~20
馬車の中は無言の空間だった。
あまりにも多くの情報が短時間で頭に入ってきていたからだ。
お互いに頭の中で情報を整理しているのだ。
シューゲンは膝の上に肘を置いて手を組み口元に置いていた。
リーシャは馬車の窓から外を眺めている。
先に空気を破ったのはリーシャだった。
「まずは誘拐されたことについてはごめんなさい。私が無警戒すぎたわ」
「・・・・・いえ、我々も少し気を抜いていた時でしたので。こちらこそ申し訳ありません」
「いいのよ。私もあの場で勝手に動くのが駄目だったの。・・・帰ってから彼らの尋問、お願いね」
「かしこまりました。小さな情報でも必ず引き出します」
彼らというのは誘拐して拘束した三人の事だ。
「・・・次はあの魔族のことね。彼の服用した薬については、戻ってからお父様に聞いてからじゃないとわからないわね。推測で話せるのはグニスさんぐらいかもね」
「そうですね。グニス殿は何というか・・・規格外みたいな感じでしたからね」
「・・・魔族についてだけど、私達では太刀打ちできなかったわね」
「悔しいですが、その通りでした。あのままでは全滅していたでしょう」
そして再び静かな空間になった。
「・・・・それと最後に、あの二人ね」
シューゲンの手に力が入った。
「貴方が言ったようにあの二人は規格外よ。絶対に敵対してはいけないわ」
「・・・・申し訳ありません」
どうして謝るの?と聞こうとし、リーシャはシューゲンの方に視線を向けた。
すごく悔しそうな顔をしていた。
だから言葉を止め、シューゲンの言葉を待つことにした。
「・・・私はあの時、死を感じました。・・・あの場ではきっと貴女様を守るため盾になることだと存じておりました。・・・しかし、体が動きませんでした。・・死という恐怖に足がすくみ、体は震え、呼吸の仕方さえ忘れるほどに。・・・自分の命がとてもちっぽけな物だと。・・・そしてグニス殿がいなければ貴女を守れずに死んでいたでしょう。・・・自分の力のなさに・・・とても悔しいです・・」
体が動かなかったというのはヨツカの殺気に対してだ。
シューゲンの目からは涙が溢れていた。止まることなくずっと。
リーシャはその姿を見て、
「何を言っているのよ。普通、あんなバカげたものを放たれたら、気を失うか精神崩壊でもしてパニックになるわ。私もあと少しでも浴びていたら気がどうにかなりそうだったわ。貴方は優秀な騎士隊長で、私の前にいて助けようとしてくれていた。誇りに思ってもいい事なのよ。・・私だって、悔しかった。何もできずに守られてばかりで・・・。だから変えたかったの。あの人を見て、あの人の強さを知って、あの人の知識を知って。・・・強くなるためにはあの人の教えが必要だと思った。だから私はお礼にもならないことを言って頼んだ。あの人はあの人で何かしようとしているのかもしれない。でも私達も強くならなくちゃいけないの。国を守るために。だからシューゲン。貴方も一緒に強くなるのよ。悔しいと思うなら、その悔しさも、情けなさも、力のなさも、私を守れなかったと思う心も一緒に連れていって強くなるの。貴方もグニスさんから教えてもらったものがあるじゃない。それに半年後には来てくれる。シューゲンも一緒に勉強したらいいじゃない。そして強くなって私を守りなさい。その時には私も貴方を守れるほど強くなってみせるわ」
シューゲンの涙はさらに溢れた。
「はい・・・はい!・・・はい!」
返事と一緒に別の事を考えていた。
(この人はどうしてここまで私を・・・。こんな弱い私のためを想って優しい言葉を・・・・。この人にお慕いしていて本当によかった・・・。このようなことを言ってくださる人など貴女しかおりません・・・・。次こそは必ず・・貴方を守れるほどにもっと強くなってみせます・・・)
これ以上今はお互い話すことが出来ず、エルロッテへ戻るまで馬車の中は静かだった。
そしてグニスはその会話を聞いていた。
何か企みがあるのかもと警戒して馬車に魔法を仕掛けていた。
前世の知識にあった盗聴というものを参考にした魔法。
本には載っていなかった魔法だ。
「ヨツカ。半年後、あの人たちに少し協力してあげてもいいかもしれないな」
ヨツカも聞けるようにグニスは魔法を使っていた。
「そうですね。まだ信用は出来ませんが、私達に少し似ていると感じました。なので私も微力ながらお手伝いさせていただければと」
「基礎部分だけでも教えてあげればあの二人なら強くなりそうだしな。これは、半年後が意外と楽しみになるかもしれないな」
グニスとヨツカも小屋に向けて歩いていった。
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