【異世界】不良貴族を狩る。自称、ペットの散歩をしている街娘
☆帝都市場街
「これ、娘、ワシの服が汚れたぞ!」
「この方は、男爵様だぞ!」
「そうだ。この方のお洋服は、この方の顔、つまり、お前は、男爵家の顔にドロをぬったのも同然!」
「申訳ございません!申訳ございません!何卒ご容赦下さい」
貴族とイモ売りの少女がぶつかったようだ。
男爵の足下には、イモが転がっている。
少女は倒れ、そのまま平伏している。
男爵の服は、どこが汚れているか分らない。
しかし、貴族が汚れたと言ったら、汚れたことになるのだ。
男爵と取巻きたちは、少女を下から上まで、なめ回すように見ながら、更に恫喝する。
「ほお、娘、体だけは成長しているな」
「ヒヒヒヒヒィ、なら、お屋敷まで、来てもらおうか」
「お屋敷で、しっかり、貴族に対する礼を教育してやろう」
「お許し下さい!」
ザワザワザワザワ~~
野次馬たちは、この状況下でも余裕だ。
「見ろ。あの田舎貴族、ここに、どなたがいるか知らないんだ」
「はあ、はあ、あの方に知らせて来たぜ」
「リヒター、お疲れ!」
「もう、来るぜ!」
民衆たちが頼りにしている人物がいる。
その人物は、自称、ペットを連れて、散歩している街娘だ。
「ほら、来い。男爵様の教育が終わったら、俺たちが教育してやるぜ!」
「「「ヒヒヒヒヒヒヒヒ」」」
「キャア!」
取巻きが少女の手を取ろうとしたとき。
犬の遠吠えが、三重奏で聞こえて来た。
「「「ワオ~~~~~~ン、ワン、ワオ~~~~~ン」」」(((僕たちはここにいるよ)))
「な、何だ!」
ガラガラガラガラ~~~~
車輪の音が響く。
野次馬が綺麗に別れ、そこから出て来たのは。
「ケルベロス戦車!」
「誰だ。乗っているのは、巨躯だな。女か?」
「「「ギャアアアアアーーーーーーー」」」
取巻きたちがケルベロスに踏まれた。
中には、口にくわえられて、宙に放り投げられた者もいる。
戦車の上に乗っているのは、
身長180センチは超えているであろう女、金髪は、風がないのに、たなびいている。
ゴオオオオオオーーーーーとどこからともなく、音が聞こえてくる。
男爵たちは確かに聞いた。
服装は、
下は茶色の膝下スカートに、エプロン。
勤労平民女子の一般的な服装であるが、一目で、上等な生地で仕立てられたと分った。
「貴方様は、もしや・・・」
男爵は、一度、見ている。皇城で、謁見室の遙か後ろから・・・男爵位でも最下位なので、こうして、平民相手に鬱憤を晴らしているのだ。
まさか、
まさか、
まさか、
お忍びで?伴もつけずに、
言葉を間違ったら、死ぬ。
男爵は、人生で最も深く思考したが、
「うぬは何をしているか?」
秒で言葉を間違った。
「第二皇女殿下!・・」
「我は華のフローラ皇女殿下ではない!ペットを連れて散歩している街娘だ!」
「ヒィ、お助け下さい!誰にも言いません!」
「皇女パンチ!フンハー」
戦車の上から、男爵を殴った。
男爵は、
ガタン、ゴロゴロゴロ~~~~
道の遙か先まで、転がっていった。
娘に声を掛ける。
「うぬ、大事ないか?」
「ヒィ、有難うございます!有難うございます!」
「同じ、平民だ!遠慮はいらない!!」
野次馬たちは、ささやきあった。
「皇女殿下・・・いや、あの街娘さんはこうして、街の不良貴族を狩って下さっている」
「ありがたや」
「立派な方だ」
しかし、フローラの心中は別であった。
「パビー、ギリー、ストレンよ。中々、運命の出会いはないな」
「「「ワン!ワン!ワン!」」」(見つかるまで、お伴しやすぜ!)
「うむ。運命の出会いは中々ない。だから、一興よ!」
「「「ワン!」」」(はい!)
フローラ、15歳の秋であった。
彼女は、不良に絡まれているイケメンを助けて、二人は恋におちる。
そんな運命の出会いを探していた。
ペットのケルベロスとともに、
不良貴族を狩るのは、単に、結果にしかすぎない。目的ではない。
もはや、ケルベロスは、強敵と書いて、「とも」と読むから、
戦友と書いて、「とも」であった。
☆☆☆数ヶ月後
「さあ、パビー、ギリー、ストレンよ。今日も、散歩にいこうぞ!」
「「「クゥ~~~ン、クゥ~~~ン」」」
「どうした。具合でも悪いか?」
バタン!
ケルベロスは倒れた。
・・・・・
医者の診断の結果
「聖魔法は、魔物にとって、体に毒です。もしや、皇女殿下、聖女になられたのではございませんか?」
「何?」
鑑定の結果、フローラは、ジョブ、聖女であった。
民衆の感謝の念がふりそそぎ。聖女のジョブを後天的に授けられたのだ。
「「「クゥ~~~ン、クゥ~~~ン」」」
ケルベロスは日に日に弱っていく。
皇帝はフローラを諭す。
「フローラよ。お互いにとって、一緒にいるのは、良くない。別れて
聖女の修行に行くのだ!」
「父上!我は別れたくないのです!」
「ならぬ。ケルベロスは、ワシが責任を持って世話をさせよう」
「ウゴ、グスン、グスン・・・ペットは最期まで責任を持って飼うと決めたのだーー」
☆数日後
ケルベロスはいなくなった。
部屋には、一番、お気に入りの骨のオモチャが置いてあった。
「ケルベロスの決意を無駄にしてはいけない。ペットに負担を感じさせてはいけない。
さあ、聖女の修行に行くのだ」
「父上・・」
☆数年後、聖女山修道院
今日は、フローラの卒業式である。
「聖女第108期生!主席、帝国出身フローラ!」
「うむ!」
(((態度デケ-)))
すると、どこからともなく、
「「「ワオ~~~~~~ン、ワオ~~~~~ン」」」(姐御、おめでとう!)
遠くから、ケルベロスの遠吠えが聞こえて来た。
聖女たちは怯える。
「魔物!」
「ヒィ」
しかし、修道院長は、一喝する。
「聖女たる者、魔物の声で、騒いではいけません!」
「「「修道院長!」」」
「この近くにいる。ケルベロスは、善の魔物です。
帝国の紋章の首輪をつけたケルベロスが、近くの村で、溺れた子供を助けたと、報告を受けました。
今、遠吠えしているそのケルベロスでしょう。魔物でも善の心が宿るのです。ましてや、人間、善の心を持って無くてはなりませんよ」
「「「はい!」」」
フローラは決意する。
・・・パビー、ギリー、ストレンよ。
我は聖女になった。
次は、囚われの王子様を助られるくらいに強くなるぞ!
大空に、ケルベロスの顔がはっきりと浮かんだ。
最後までお読み頂き有難うございました。