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攫われたわたしの6日間 2

その美しい方とすれ違ったほんの一瞬、不思議な香りの風が吹いたことを、ずっと忘れられずにいたの。


再会したのは数年後。その方はならず者たちに襲われていたの。

それを助けてあげたら、彼女はこう言った。


“わたくしの運命の騎士。この危機の時に貴方がいらっしゃることを、わたくしははるか昔から知っていた気が致しますわ”

彼はその言葉に胸を突かれて、恭しく跪くの。

“今日この時、私が貴女をお救いすることは、神代の頃より天に定められておりました。そのことを私は今知ったのです、私の運命の姫”


「なんのこっちゃ」

「こら、フラン!」


その姫は王女様だったのよ。それで王様が言うの。

“最も国に貢献し、功績を上げた騎士に姫を嫁がせよう”って。

それで騎士は都を離れて、旅に出た。

国境に行って戦いの最中に飛び込んで、敵兵をひとりで千人切ったり、赤ちゃんを攫っては邪神の生贄にしていた恐ろしい邪教徒たちを捕えたりするの。


そして夜には、いつも一緒にいる相棒の鳥に文を託す。鳥は月に向かって飛んでいくの。

そして、王女様は部屋の窓辺に落とされている文をみつける。夜空を見上げると、星が一筋流れたの。

“我が友たる鳥よ、飛べ、月に住まう姫の元へ”

“ああ、わたくしの運命の方。貴方の名は星の騎士…”


「王女様の部屋は無用心だな。ていうか夜に鳥を飛ばすな」

「こら、フラン。物語(フィクション)だ」


もちろん最後は騎士は王女様と結婚するのよ。

国中の人が騎士を称えて、祝う声は百日も絶えることがなかったんですって。


「うわ、市民の生活が成り立たんな」

「…フラン」


貴女にも星に定められた、運命の人がいます。

貴女が心から救いを求めた時、彼はきっと貴女の前に現れるのです。

……って物語は終わるのよ。



ディーナ様が拍手した。

「リリアン、すごいな!最初から最後までよく覚えている。まるで語り師のようだった」

「“星の騎士と月の姫”は首都で大人気なんですもの。読み語りに何度も行って覚えたんです。それに自分でも読んでみたくて、今、文字のお勉強中なんです。…いつか騎士様と文通もしたいし、きゃっ」

「おお。物語広めたあの方の狙いが当たったな。女性の識字率上げるって」

「…フラン!」

…広めたあの方?シキジリツ上げる?



馬車に閉じ込められて3日目。

なんだか無性にイライラしてたら、ディーナ様に、

「ああ、退屈過ぎる。リリアン、何かお話でもしてくれないか?」ってお願いされたの。

だから“星の騎士と月の姫”のお話をして差し上げたわけ。

思ったよりもスラスラ語れて自分でもびっくりしたわ。

フラン様に途中途中で茶々入れられたけど、気にしない。

首都で読み語りに出かけた時も、お偉い男性が飛び込んできて、

「年頃の子女にとんでもない妄想を植え付ける悪書だ!」て喚いていたことがあったもの。

こういう美しいお話が嫌いな方もいるのよね。

でもこの物語は空想(フィクション)でも、妄想でもないのよ!


「“星の騎士と月の姫”の星の騎士様は、8年くらい前に国境で活躍された英雄ヴァン様のことなんです。だからこの物語は全部、本当にあったことなんです、ディーナ様」

「……そ、そうか」

あら、ディーナ様のお顔が引きつっているわ。

驚きすぎ?


「リリアン。貴女が時々言ってる“もうすぐ助けに来てくれる騎士様”って。もしかして英雄ヴァンのことなのか?」

ディーナ様がそんなとんちんかんなことを言うので、わたしは思いっきり首を振った。

「星の騎士様は月の姫の騎士様です。わたしの騎士様はわたしの運命の騎士様です」

「……なるほど?」

「みんながわたしの騎士様は国境軍にいるはずだって言うんです。だってわたしは国境を守るガルーシア家の娘だし、英雄ヴァン様だって国境軍にいた方なんですもの」

「……つまり。リリアンの騎士というのは、これからリリアンが出会う、たぶん国境軍にいるだろう騎士なんだな?」

「そうです、そうです。…わたし首都で攫われて、馬車で国境に向かってるわけでしょう。騎士様とはどこかの道ですれ違うんじゃないかって思ってるんです」

「……なるほど」

ディーナ様は何か複雑な顔をしたあと、にこりと微笑んだ。

…ディーナ様の微笑みって、なんだかドキッてするわ。

「そうだな、きっと来るだろう。リリアンを助ける騎士が……フラン、笑うな!」


フラン様は前屈みになってぷるぷる震えていた。

これって笑ってるの?

フラン様って本当に失礼な方!



✼✼✼



3日目の夜は不思議なことが起きた。


それまで人攫いたちはずっと、わたしたちを荷物か何かのように、荷台に閉じ込めっぱなしだった。

なのにこの夜はわたしたちを荷台から出してどこかの邸宅の部屋に押し込んだのだ。


初め部屋は暗くて、今度はどんなところに閉じ込められちゃったんだろうと思ったけど、フラン様が一本だけあった蝋燭の火を燭台に次々と灯していくと、そこが気持ちよく支度された部屋だとわかった。


きちんと整ったベッドが4台。

壁際には鏡台や、布張りの椅子。

大きな木のテーブルの上に湯気立つ鍋とお皿類。

お湯が満ちた盥は、湯浴み用?

さあ、どうぞくつろいで下さい、みたいな声が聞こえる。

いきなりこの親切な用意はなにごとかしら?

人攫いたちは何考えてるの?


「これって、ちょっと気持ち悪くないですか?」

そう言うと、ディーナ様は何故か笑い出した。

「気持ち悪いか。確かに。でもまあ、好意は素直に受け取ろう」


馬車の中でも思ってたけど、ディーナ様もフラン様も、緊張感とか警戒心とかがなさ過ぎじゃないかしら。


わたしがいろいろ考えている間に、フラン様はささっとディーナ様の服を脱がせて、濡らした布でディーナ様の体を拭き始めた。

…ここでもフラン様はディーナ様のお世話係なのね。

そしてディーナ様のお体すごい綺麗。大人の女性って感じ…


「せっかくのお湯だから、リリアンも使うといいよ。自分で出来る?フランに手伝わそうか?」

ディーナ様が声をかけてくれる。

自分が手伝うんじゃなくて、フラン様にさせようか、て言うところが、さすがディーナ様って気がする…。

「大丈夫です。出来ます」

わたしひとり考えてても、お二人が好きにしちゃってるんだからしょうがない。

ええい、と思い切って3日ぶりに服を脱ぎ、体を清めた。


体をすっきりさせると、次は鍋の中の温かい具沢山スープでお腹と心を満たす。

そしてベッドに倒れ込んだ。

体を伸ばして、柔らかいところに寝そべるって、こんなに幸せなことなのね。

人攫いたちの事情とか、もうどうでもいいわ!


隣のベッドからスースーと寝息が聞こえる。

「あれ?もうディーナ様、寝ちゃったの?」

さすがに早い。今日もディーナ様は長いお昼寝をしてたのに。

フラン様がしぃと人差し指を立てた。

「もうディーナは限界だ。せめて今晩はゆっくり眠らせたい」

ひそひそと言われたフラン様の言葉は、すごく深刻に聞こえた。

「あの。ディーナ様はもしかしてお体が悪いんですか?」

フラン様は重い息をついた。

「そうだ。ディーナは今ひどく体調を崩してる。本当は馬車なんて乗せられないくらい」

「ええ!?」

「顔色もずっと悪かったろう?人攫いたちもわたしたちを国境まで死なしたくないから、こんな部屋を用意したんだと思うよ」

「…そんな」

全然気づかなかった。

ただよく寝る人だな、くらいしか思ってなかった。

人攫いたちが気づいて、慌てて部屋を用意するくらい、ディーナ様は体調が悪かったなんて。


フラン様がわたしが寝そべるベッドに座った。

「ディーナは優しい奴なんだ。元々、誘拐犯たちは私を狙っていて、たまたま側にいたディーナも一緒に捕まってしまった。けれどディーナは一度も私を責めない。

そして馬車の中では同じように攫われた子どものことをずっと心配して、気を配り続けている。体の不調も隠して」

ひっそりとした声で、フラン様は言う。

わたしは項垂れて、返事も出来なかった。

そこまで、ディーナ様に気を配ってもらってたのに、気づかなかった。

子どもって言われてもしょうがない。

わたしは駄目な子どもだわ。


「ディーナは昔から女と子供に優しすぎるんだ。いいか、リリアン。ディーナに負担をかけないようにしてくれ。言われたことは素直に受け入れろ」

「はい…」

枕をギュッと抱きしめた。



次の日の朝、なかなかディーナ様は起きなかった。

「ぎりぎりまで寝かせておこう」

フラン様が言うけど、いつ男の人が部屋にやって来るかと思うと、どうしようもなくハラハラした。


「出発の時間だ。部屋を出ろ。……あ?まだ寝てんのか?」

ノックもなしにドアを開けたのは、無精髭を生やしたボサボサ髪の中年男だった。

ベッドにいるディーナ様をみつけて、のしのしと近づくと、ディーナ様のお顔を無遠慮に覗き込む。

汚らしい身なりの男が、美しいディーナ様に顔を近付ける様にぞっとした。


「あ、あの!ディーナ様はお疲れなんですっ」

わたしは必死に言ってみる。

男はちらりとわたしを見て、ふうんと呟くと、ディーナ様をシーツごと持ち上げた。

「きゃあ、ディーナ様!」

思わず悲鳴を上げたわたしの横で、フラン様が鋭い声で男を止めた。

「待て。馬車に連れて行く気なら私が運ぶ」

男は鼻で笑った。

「へえ。最近の奥方は力もちなんだなあ」


その時、ディーナ様がんん?と声を上げた。

フラン様と男がはっとディーナ様を見る。

「なんだ?」

まだ寝ぼけているのか、ディーナ様はぼんやりと自分を抱き上げる男を見上げた。

その耳元で男が何かを囁き、ディーナ様が頷く。

なに?何を言ったの?


男はディーナ様を横抱きにしたまま、

「あんたらも後から馬車に来い」と言い捨て、

開きっぱなしだったドアから出て行ってしまった。

「ど、どうしよう、フラン様…」

その時、ドガッとものすごい音がした。


「あの男…ふざけるなっ」

フラン様がガンッガンッと壁を蹴っていた。

美しい衣装に似合わない固そうな靴がひどい音をたてて何度も壁に当たる。

壁にヒビが入り、穴が空いていく…?

壁って壊れるものなの?


「やめて、やめてください、ねえ」

とめようと頑張ったけど、なかなかフラン様はやめてくれなかった。

フラン様、なんて恐ろしい方。

この方は絶対怒らせちゃ駄目だわ。気をつけよう。わたしは思った。




馬車の荷台の中には、木箱を並べた上に綿入の敷布、その上に毛布、大きな枕、とちょっとしたベッドが作られていて、その中でディーナ様はすやすや眠っていた。


考えられる限りのことをしました、みたいな感じが、昨日のお部屋よりもすごいわ。

「これって、人攫いたちがしたの?それとも妖精でも来たの?」

わたしがびっくりしてると、今は落ち着いた様子のフラン様が事もなげに言う。

「まあ、騎士でも来たのかもな」

わたしははっとフラン様を見た。


「ああ、ああ、騎士様が。やっぱりどこか近くにいるのですね!」

そうよ。

人攫いも妖精もこんなに良くしてくれるわけがない。

こんな事をしてくれるのは、わたしの騎士様以外に思いつかないわ!

そう気づくと、昨日から落ち込んでいたわたしの胸にふわっと力が湧いた。

ああ、騎士様がどこかから見てるわ。

わたし、頑張らなきゃ。


その日はディーナ様は起きても怠そうで、揺れる荷台の中で静かに時が過ぎる。

そして夕暮れごろ、また馬車はどこかの家の前に止まり、わたしたちは部屋に連れて行かれた。

ああ、ディーナ様が今日もちゃんと休める、とわたしはホッとした。

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