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君の抜け殻

作者: ロック

ヒアルロン酸で、膨らんだ瞳。

ネイルは紫で、煌びやかに光りを放つ。

鼻筋は少し丸みがあり、筋には黒子がある。

肌は雪のように白く、彼女の腕にはリストカット痕があり、この子がメンタル的に追い詰められてるのを感じる。


彼女を前にした僕は、躊躇わず、接吻に接吻を繰り返す。

そこに愛があるのかはわからない、

だが一つだけ言える、"僕は彼女を知っている"。


部屋中には大量の本、殆どが文庫本だが、ハードカバーも数冊ある。

乱雑に置かれたゲーム機と、そして大量のケーブル。

パソコン、そして壁中には論文が何枚か貼られている。

彼女を呼んだ時「頭良いんだね」と僕に言った。

だがあの日の彼女はそんなこと何一つ言わなかった。

僕を軽蔑していたのだろうか、それとも僕に対して無関心だったのかはわからない。

僕はあの日以来一種のニヒルに悩まされ、僕は何人か女を抱き賭博に時間を浪費し、そしてたまに読書を行い、電子遊戯に時間を費やすようになった。

仕事は転々とした。なぜなら様々な企業が僕を解雇し続けた結果、どの会社に応募しても、1社も通らなくなってもう4年が経つのだから。


年齢は34歳、何故25の段階で僕は自殺しなかったのか、後悔の念が頭をよぎる。

2020年から始まった今世紀最大の大不況から脱することができず、またタチが悪いことにRPAの進化、代替されていく仕事、少なくなっていく経費、そして女性という存在も"ロボ"の存在により、存在意義を見失いつつある。

大量生産できるようになった女性型アンドロイド。

ほとんどは中国産だが、性的欲求さえ満たされば良い、男達からすれば、ロボだろうが人間だろうが関係ない。

いかにそれがリアルかそうじゃないか、が大事である。


学者である桜田ランデブーが開発した女性型ロボットは、世の女性を失業させるのには充分な性能があった。

ランデブーは、幼少期から根暗で女性に殆ど相手にされることがなく、黒縁眼鏡に童顔といったいかにも女性が嫌いそうな容姿で、かつその腹には脂肪がついており、女性との縁がないのは明白であった。

だからこそ、リアリティを求めた彼は、セックスを研究し、そして女というものを研究した。研究費として、性的娯楽が、経費として落とせたのも彼のモチベーションに繋がったのだろう。

また研究という名目で多くの学生を抱いたランデブーが作り出したアンドロイドによって多くの女が安く買い叩かれることもあった。


キャバ嬢型ロボ、メイド型ロボ、女性高生型ロボ、そしてパーツの組み替えによってロボもカスタマイズができた。

桜田ランデブーは、このロボの特許を取得せず、オープンソースにすることにより、世界の童貞を救うという理念を掲げており、そしてロボには風営法の一部が適用されない。

つまり、避妊の必要性がないため、その部分でも、女性の労働人口を減らした。


だからこそ、僕は指名ありで5000円という破格の値段で人間である彼女を呼べたのだろう。

彼女の感情なんか、1ナノメートルも考えてない僕は自分の知識をひけらかし、そしてマウンティングを行った後に、キスをした。

生身の人間を抱くのは久しぶりだし、僕のような根暗は、一度生活保護の味をしめてしまうと、まともに他者と関わる気が起きない。

仕事に対しては熱意はあるが、熱意しかなく全体的に就労能力が不足している。

恐らく、IQも低いのだろうが僕にはわからない。

ただ今は目の前の女のことだけ、考えれば良いのだから。

恋愛という非合理的なことも僕は飽きた。

僕のような弱者男性はただ、目先の快楽にさえ溺れてれば良いんだ。


しかしだ、彼女持ちは、羨ましい。

彼女という、一つの所有物に対して延々とマウンティングができるし、知識のひけらかしもできるし、それに何より承認欲求の処理の道具としてはとても有効的だからである。

子作りは、一切考えてない、こんな不況時代に子供を産むという行為そのものが一つの児童虐待である。

僕はもう誰かを傷つけたくないし、僕自体も傷つきたくない。

そもそも僕は社会全体から見たら、不要な存在なのだ。

だが、労働人口の減少により、僕のような無能でも最低限生きていける社会にはなった。

本来は、僕はいつ淘汰されてもおかしくはなかったが、時代の変化の恩恵を受けたのだろう。

生活保護受給者も増加の一途をたどり、働きたくても働き口がないという状況は、有能でも無能でも変わらない。

この日本という国は社会主義になりつつある、まさにユートピア!

エドワードベラミーが生存していれば変貌したこの世界を見れば腰を抜かすだろう。

弱者や無能に対して、優しい世界が世界的大不況により現実のものとなったのだ!

僕は15の頃から根暗で社会主義に傾倒しており、格差社会を批判していたが世論が僕の意向に沿うような社会となり、僕としては非常にありがたい!


しかしだ、ふんわりと香るミス・ディオールの香水の香りは、あの頃を彷彿とさせる。

宮内紗希、学生時代に僕が心を開いた少女にその匂いが似ている。

僕の担任教師であった彼女は1年という期間で教職をやめて、そこからは消息不明。

死んだのかわからない、いや、生きていたとしても6歳差だから、年齢も40近くになっているはずだ!

なのに、何故彼女はまるで20歳のような容姿で、肌質もあの日と変わってないのだ。

ファンデーションで塗られた、形跡もない。


しかし、彼女の首元を見ると、番号が見えた。

「も、もしかして君は」


彼女は僕の自宅を出た、走って逃げた。

そして彼女が自宅に戻ってくることはなかった。

僕の自宅に忘れた化粧道具は、彼女の抜け殻なのだろう。

ヘルス店に彼女の所有物を返却しようとしたら、「2度と当店と関わらないでください」と一言言われ、その後は電話が繋がらなくなった。

後日、その店のキャスト表を見ると、彼女の名は除名されていた。


辞めたのかは、わからない。

だが、少なくとも紗希の面影を感じる女が増えた気がする。


僕は一つの仮説が脳裏をよぎった。

"クローン技術の発達により、クローンによる就労人口の増加"。

そしてラジオをつけたら規制緩和が発表されていたが、その内容はよく覚えていない。


君の抜け殻の匂いを嗅ぎながら、僕はタバコを吸った。


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― 新着の感想 ―
読み終わりました。現代版人間失格、第一印象はそんな感じです。社会全体が技術の進歩と共に人間としての価値が下がっていく様に、歪な豊さを感じさせます。 最後にはクローン技術で作られたかもしれない女性とい…
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