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20/21

第20話 競馬で高配当が来るパターンというのは大概の場合人気馬と穴馬の組み合わせであって、馬券内全部が穴馬であることは滅多にない。

 3日後、僕はユイカの言うとおりに市民ホールへやってきた。


 さすがの僕でも今日ここで何が行われるのかは大体わかる。

 他でもない真琴が所属する劇団の公演だ。

 確か、この間の一件で若奥様みたいな役を演るって真琴が言っていたのを覚えている。


 真琴の迫真の演技をひと目見るべきだとユイカは言いたいのかもしれない。けれどもホールの玄関前に来てみたものの、まだ開場時刻にはだいぶ早い。

 一体ユイカは僕と真琴に何をさせる気なんだろうか。


「あっ、いたいた。祐太郎さーん!こっちこっちー!」


 突然どこからか現れたユイカが僕を呼ぶ。

 その姿を見て少し安心した僕は、ユイカへ近づいて疑問に思っていたことをすぐさまぶつけてみた。


「……藤井さん、君に言われた通りの時間に来たけどまだ開演には早くない?」

「それもプランに織り込み済みです。この時間じゃないと駄目なんですから」

「そうなの……?まだ4時間くらい余裕があるのに?」

「いやいや、逆に4時間しか無いんですよ!この間に祐太郎さんには仕上げて貰わないといけないんですから」


 仕上げる……?

 この時間で僕は一体何を仕込まれるんだ?


「時間が勿体ないですからとにかく私についてきてください」

「ああ、うん……、わかったけど……」

「……どうかしましたか?」

「そういえばなんで藤井さんがここにいるのかなって」

「あれ?言ってませんでしたっけ?私、この劇団で脚本を担当しているんですよ。だから今日はこれから、祐太郎さんに急遽とある役をお願いしていただきます」

「へえー、藤井さんって脚本担当なんだ。凄いねえ。………って、僕が出演するの!!?」


 教科書に出てきそうな僕のノリツッコミが決まったところで、ユイカは「とにかく事情は向こうで話しますから」と言って市民ホールの中のとある小さな控室に僕を案内した。


「役と言ってももちろん主役級ではありません。チョイ役です」

「……それなら安心した。いくらなんでも4時間でセリフを覚えて演技するのは無理だもん」

「ただ、チョイ役はチョイ役でも重要な役ですから、元天才子役の祐太郎さんとはいえ手は抜かないでくださいね」

「元天才子役って……。まあわかったよ、それじゃあ台本を見せてくれよ」

「台本なんてありませんよ、場面とやって欲しいことを教えますからあとはアドリブでお願いします」


 さらっと爆弾発言をするユイカ。無茶振りにも程がある。

 いくら場面とやることを教えてもらったとしても、舞台上の雰囲気とか話の流れとかそういうものが把握できなければ、出来る事も出来やしない。


 それでもユイカには勝算があるというのだろう。とりあえず今は彼女の作戦に乗るしかない。


「……それで、どんな場面なんだ?」

「ラストシーンです。結婚式のチャペルに乱入して晴れ姿の真琴先輩を略奪しちゃってください。そこから先はおまかせします」


 僕はあんぐりと口を開けた。

 そんなベタベタなシーンを舞台のラストに持ってくるストーリー展開もそうだし、最後の締めを僕のアドリブに託すとかいくらなんでもギャンブル過ぎる。

 ディープインパクトの菊花賞で殿しんがり人気のエイシンサリヴァンに単勝一点張りするぐらいの無謀さだ。


「……どうなっても知らないからな」

「大丈夫です。お二人ならきっと上手くいきますから。――開演までちゃんとイメトレしておいてくださいね」

「演劇の練習をイメトレで済ませるやつがどこにいるんだよ全く……」


 仕方がない、ここまで来てしまった以上やるしかないのだ。

 僕は気持ちを切り替えて集中モードに入り込む。


 懐かしい感覚だ。自分の演技のことを考えるのは6年ぶりくらいだろうか。脳内で僕のやるべき役のイメージを固めていく。


 舞台上の詳しい状況はわからないけれども、ユイカは結婚式のチャペルであると言っていた。

 おそらくはウエディングドレス姿の真琴とタキシードを着込んだ新郎役、そして牧師がいるシーンであろう。


 花嫁を奪い去るなら勢いが大事に決まっている。

 扉があるのであれば蹴破る、無いのであればとにかく第一声で声を張るのが必須だろう。これは外せない。


 そうしたら次はどうする?

 多分真琴は突然の僕の登場に驚きを隠せないだろう。

 だからそのあ然とした状況のうちに真琴の腕を取って連れて帰ってしまえばいい。ただそれだけだ。細かいセリフも駆け引きも何もない、本当に勢いだけのシーン。


 ……オッケー、イメージは完璧だ。あとはやれることをやるだけ。


 真琴、待っていてくれ。

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