森に月夜に流れ星
おじいさんは雪がやむと外へ出ました。
外は満天の星空でした。
そのきらめきを見上げながら、重いリュックを背負い、ざっくざっくと雪を踏みしめながら森へと歩いてゆきます。
月の光、星の光をうけ、雪も輝いているようでした。
森の中の広場にある丸太につもった雪を払うと腰をおろして、リュックのなかから薪を取り出し、火をつけました。
森には月の光と星の光、そしておじいさんの起こす火の光で満たされます。そのとき、さっくさっくとおじいさんの来た道から太郎が来ました。おじいさんが森にゆくのをつけてきたのです。
「おじいさん、なんでこんなところにいるん?」
「月がきれいだったからな」
「月がきれいなら森に行くものなんか?」
その声におじいさんは薪をくべながら笑顔だけで太郎にこたえました。
太郎はおじいさんの隣に座り火にあたります。
「寒い日の焚き火はあったかいだろう?」
「ああ。でも、家のなかの方があったかいのとちがうか」
「そうかもな」とあいかわらす、にこにこ笑いました。
そこへ角の立派な鹿が森の暗闇からはい出たようにあらわれました。
「ちょっと火にあたらせてもらえませんかね」
「どうぞどうぞ」とおじいさんと太郎がすすめます。
「今日は寒くて、お月様も冴え冴えとしてみえます」
「お星様も雪に磨かれたようにぴかぴかとしてますね」
鹿の言葉に星がうれしそうに瞬きました。
「今年の冬は寒うございます」
「大丈夫ですよ。鹿さん。寒くなるのが早い年は春も早くきますから」
「そうだったら良いですね」
焚き火にあたたまりながら、鹿は早春の若芽を食むのを思い出したのか口をもごもごと動かしました。
おじいさんは鹿の様子をみるとリュックからごそごそと真っ赤なニンジンをとりだして、鹿さんにあげました。
鹿はありがとうございます、と美味しそうにニンジンを食べました。
そんなおじいさんと鹿の様子を太郎は焚き火越しにみていました。
「太郎、おまえもお腹がへったろう?」とリュックから金網と肉をとりだしました。
鹿は眉をひそめ「いやな、においですね。わたしはそろそろおいとまします。焚き火とニンジンごちそうさまでした。あたたまりましたよ」と森の奥の暗闇に戻っていきました。
焼肉のいいにおいがあたりにたちこめました。
太郎はさっきの鹿のことを思いました。
「おじいさん、おれたち悪いことをしたかもしれない」
おじいさんは太郎に笑顔だけでそれにこたえました。
「さぁ、肉が焼けたよ」
そこへ大きな狼が森の暗闇からはい出たようにあらわれました。
「いいにおいに誘われてきました。ちょっとわけてもらえませんかね」
「どうぞどうぞ」とおじいさんと太郎は一緒に焼肉をするのをすすめました。
「今日は寒くて、お星様も霜にあてられたようにきらめいていますね」
「お月様も氷がはったようにつやめいています」
狼の言葉に星がうれしそうにかがやきました。
「今年の冬は寒うございます」
「大丈夫ですよ。狼さん、雪が多い年は春は早くきますから」
「そうだったら良いですね」
焼肉を美味しそうに食べると焚き火であたたまりながら太郎に狩りと野山の駆け方を面白おかしく話し出しました。
そんな太郎と狼の様子をおじいさんは焚き火越しにみていました。
「肉はなくなったから野菜を焼こう」
おじいさんはリュックからごそごそと玉ねぎをとりだしました。
狼は眉をひそめ「いやな、においですね。わたしはそろそろおいとまします。焚き火とお肉ごちそうさまでした。お腹いっぱいになりましたよ」と森の奥の暗闇に戻っていきました。
冬の夜の寒さと暗闇が月と星を輝かせました。
太郎はさっきの狼のことを思いました。
「おじいさん、おれたち悪いことをしたかもしれない」
おじいさんは太郎に笑顔だけでそれにこたえました。
「さぁ家に戻るか」
焚き火を消すと月の光、星の光が雪を照らしだします。
あたりは優しげな光があるばかりでした。
「なぁ、みんながみんな、うれしいだけのことってあるんかな?」
帰り道、ふわふわの雪を踏みながら太郎はおじいさんにいいました。
「それはあるだろうよ」
当然のようにおじいさんは太郎に笑顔でこたえました。
満天の星空の下、おじいさんと太郎が歩いています。
星々が流れ星になって空を駆けました。
ふたりは笑顔でそれを見上げます。
森の奥でも鹿と狼が別々の場所から空を見上げ、星が空を駆ける姿を笑顔で見上げました。
お月様が流れ星越しにみんなをみていました。