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世界の王候補とは  作者: 輝月 叶
一年生
4/22

一店目と二店目

それから二人はすぐに「ウォンウォン堂 教材から紀元前の資料まで」という看板が下げられた店に着いた。店の中に入ると奥行きも広く外からの見た目以上に吹き抜けの建物内は高かった。目印にすればユーセスシア村で迷子になることはないだろう。


入り口の近くに置いてある黒板には「世界中の紀元前から現在のものまで取り扱っています。お探しの物が見つからない方は蔵書探索担当の者に声掛けを」とあり、確かにこれだけの本があれば見つからなさそうだとトムは思った。


二人はポケットから手紙を引っ張り出し必要な教材を探そうとしたがその必要もなかった。各学年と新入生のための教科書は入り口近くの目立つ棚にまとめて置いてあったため、ものの数秒で集められた。


「魔法使いの必修以外の授業って受けるかい?」

「まさか、あんな授業受けるくらいなら退学になった方がましだね」


まだ入学してもないけど、というツッコミは心の中に留める。魔法使いの必修以外の授業とは「非魔法族との比較の授業」と「魔術の訓練」の授業のことである。


「非魔法族との比較の授業」というのはそのままの意味で、料理や長距離移動など日常的な行為や自分たちと同い年の非魔法族はどんなことを学校で習うのか、といったことを学ぶ科目。

魔法界であれ表の世界であれ、非魔法族の血が混じっている魔法使いは少ない。そのため両親共々魔法使いの者たちはそういった人たちを差別する傾向にあった。


そして「魔術」の授業。通常魔法使いは適年齢になると魔法を教える学校に入る。その前に基本を身につけていることが前提であり学校に入ってからも杖を使ったり呪文を唱えることはしない。それに対し魔力はあれど道具を使わなければ魔法を使えない人を「魔術師」と呼ぶ。「魔術」の授業はそんな魔術師必修の授業である。魔術師でなくとも授業を受けることはできるが魔法使いで受けようとする者はほとんどいない。そのせいか魔術師を「落ちこぼれ」「出来損ない」と勝手に決めつける者が一定数いる。



二人は会計に行き、先にエルフィーが会計した。レジをしていたおじいさんは教科書を見て、その後トムも同じ教科書を持っているのも見て、すぐ二人が新入生で誰の子かわかった様子だ。


「こりゃ驚いた。フォルサッド家とフェレメレン家の子たちだね。新入生の教科書は5ユレズー2ガンガルだよ」


親が有名だと親にそっくりの子供も有名になる。二人は慣れっこになっていた。

エルフィーはポケットからコインケースを取り出すと爪で5回はじくようにして叩くと次は爪の先で2回コツコツと叩いた。コインケースを開けるとそのまま黒くてボロいキャッシュケースに中身をぶちまけた。


魔法界のお金の種類は金貨がフットゥル、銀貨がユレズー、銅貨がガンガル。


「はい、ぴったり。まいど。次はフォルサッドの坊ちゃんだね。彼と同じ教材だけなら同じ金額を出して」

トムは巾着に肘ほどまで手を突っ込み再び手を出すと手のひらいっぱいの銀貨があった。


「じゃこれでお願い」


銀貨6枚を出しおつりを貰う。


「二人ともこの後まだ買い物があるんじゃないか?よければ教科書はこちらから学校に送っておくよ。配達料は5ガンガルね」

「安いね」

「君たちが通うユーセスシア魔法学校はこの街からは山を越えないといけないけど直線距離だと近いからね。村の航空郵便を使うんだよ」


自分たちがこれから通う学校の話を聞いて二人は落ち着いてきた気分が再び高鳴っていくのを感じた。おじいさんは教科書二人分をカウンターの奥に持って行くと戻ってきた。


「見たところまだ教科書しか買ってなんだろう。早く行かないと他の新入生で混んでしまうからね、早く買い物を済ませてしまうことを勧めるよ。………ああ、そうだ」


背を向けて行こうとしていた二人はおじいさんの声に反射的に振り返った。


「これを持って行きなさい」


それぞれ渡されたのはビー玉サイズの赤いハートだった。


「これ何」


エルフィーが意味がわからないという顔をしてハートを裏返したり振ったりしてみるが何も起こらない。


「毎年新入生の子供たちに配っているんだ。制服を買う「セルセローズ」とほうき、じゅうたん専門店の「カッスルービンノード」でも似たような物を渡されるからそれらを持ってある場所に行くと、もしかしたら良いことが起こるかもしれない。入学おめでとう」


あやふやな表現に二人は眉をしかめたがおじいさんが満足そうな顔をして店の奥に引っ込んだため店の外に足を向けた。


「さっきの何だろうな」

「新入生をからかってるんだよ」


二人は「セルセローズ」の店に向けて歩いていた。


「からかってるようには感じなかったけど、あ、見えた」


魔法使いと魔女たちの町「ユーセスシア」、その町の真ん中を流れる「アレール川」に架かる橋を渡ると「セルセローズ」の看板が見えた。


「セルセローズ 制服、喪服、ビンテージ物から各国の民族衣装まで」とウォンウォン堂と同じく一言服を扱うと言ってもそのジャンル一色あるらしい、しかしウォンウォン堂と違い建物は高くなくて周りの建物と同じく二階建てだった。

 店の前には5人ほどの列ができていた。最後尾に並んで二人で先ほど貰ったハートの話をしていると前に並んでいる人物が話しかけてきた。


「待ってる間に記入しておいた方が良いよ」


声をかけてきたのは茶髪のロングが似合う女の子で手には二つのバインダー。受け取ってじっくり見ると身長や体型、腕の長さなど主に体のサイズに関する項目を記入する欄が並んだ紙が挟まっている。


「ありがとう」

「二人も新入生?」

「ああ、僕はエルフィー・フェレメレン」

「僕はトム・ウォルサッド」

「私はハーパー・ネルソン。私も新入生なの」


トムとエルフィーは驚いた表情をしてお互いの顔をチラッと見るとハーパーと握手した。

偶然か必然かハーパーの姓も有名なものだった。トムとエルフィーは知っている範囲で項目を埋めていく。その間も三人の会話は続いた。


「君はもう友達できた?」

「まだ、ここにはママと来たんだけど効率が良いからって分かれて買い物してるんだけど、私人見知りでそばに誰かいないとまともに話せないの」

「でも僕たちに話しかけてくれた」


エルフィーのハーパーを見る目がどこか夢見ているようなうっとりした瞳だとトムは思った。


「君が声をかけてくれなかったら店の中で急いで書かないといけなくなるところだった。ありがとう」


トムがお礼を言うと、視線が合いハーパーは俯いてしまった。髪がカーテンの役割をして顔を隠してしまったからハーパーの頬が赤くなっていることを二人は気づかなかった。


話している間も一人また一人と店の中に消えていくのと同時に三人の後ろには長蛇の列ができはじめていた。トムとエルフィーが最後尾だったときに店の中に消えた黒髪の男の子がいくつかのバインダーを持って店から出てくるとトムとエルフィーの後ろの列に配り始めた。一人一人丁寧に対応しているのか後ろから「ありがとう」と言う声がひっきりなしに聞こえてくる。


制服を買った後どの店に行くか、学校での授業は何が楽しみかなど新入生の話題は尽きない。気づけば店内で、あとは前の人が終わるのを待つだけだった。しかしゆっくりしている客とは対照的に受付や会計をしている店員は忙しそうだし店の奥からもドタドタとたくさんの足音が聞こえてくる。ウォウォン堂は中が広かったうえ新入生以外にもたくさんの人がいたから気にしていなかったがこの店は店員が女性しかいないことにトムは気づいた。店名に入っているとおり店内はかすかにバラの匂いがした。


「三人とも紙の内容は全部埋めたかしら」


ロングヘアーを後ろで三つ編みにした女性が三人の元に来た。トムとエルフィーの顔を見て驚いた顔をするがすぐに戻った。バインダーを三人が差し出す。


「お嬢ちゃんだけ一つ埋まってないよ」

「そこは測ったことなくて」

「オッケー、まかせて」


女性がポケットから出したのはテーラーメジャーで指を鳴らすと独りでに動き始め手から浮き上がった。すると男子2人の前だというのにハーパーのヒップを測ろうとしたためハーパーは顔を真っ赤にして抵抗した。


「ちょっと!」


ハーパーの初めての大声にトムとエルフィーは驚いた。しかし二人だけじゃなく女性店員も驚いていた。


「ああ、ごめんなさい。配慮が足りなかったわね。こっちに」


女子二人はそのまま店の奥に入っていった。


「次のお客さん」


さきほどエルフィーが先に会計をしたため譲ってトムが先に受付前に来ると髪をカールしたおばさんはエルフィーも来るよう呼んだ。


「お二人は友達でしょう、一緒に採寸確認してしまいましょう」


会計後ろにある棚からユーセスシア魔法学校の男子の制服が掛かったハンガーを二つトムとエルフィーの前に差し出される。おおよその大きさは合っているように見える。


「それを体に合わせてみて」


鏡があるわけでもないのに体に制服を合わせ試着などをしなくて良いのかと二人でいぶかしんで顔を見合わせるとおばあさんが両手の指を鳴らした。すると一瞬で服を脱いでいないのに二人は制服を身につけていた。二人は初めて着る制服に感動している中おばあさんは仕事を進めていく。


「黒髪の坊ちゃんの方はもう少し裾を折っておきましょう。でも男の子は身長がグンと伸びると思うわ、お父さんと同じでね。それに合わせて裾を伸ばせるようにしておくわね。あとシャツとベストとセーターはもう一つ上のサイズにしておきましょう」


「今のサイズでぴったりだけど」

「さっきも言ったとおり身長は伸びるし、あなたたちが入る学校は三食しっかり栄養を管理してくれる人もいないからきっとすぐに脂肪が付くだろうしね」

「じゃあ今着てるこれと上のサイズどっちも買うよ。入学初日からダボダボの制服を着た、みっともない姿をさらしたくはない」


おばあさんが店の奥に向かって声をかけるとどこの国の物かわからない民族衣装をたくさん抱えた女性が出てきた。


「黒髪の坊ちゃんが今着ているサイズの一つ大きいサイズの物を一式持ってきて」


指示を受けると女性はさっさと奥に戻った。


「さて、もう一人の坊ちゃんは・・・・・・大丈夫そうね」

「え、エルみたいに身長が伸びたときの予備とか買っとかないと」

「あなたには必要ないわ。さ、会計しちゃいましょう。客はあなたたちだけじゃないのよ」


トムが後ろを見ると確かに自分たちが来たとき以上の長さの列ができはじめていた。


「黒髪の坊ちゃんは1フットゥル8ユレズー9ガンガル。ブロンド髪の坊ちゃんは9ユレズー4ガンガルね」


トムは今度は巾着からぴったりの金額を出し、エルフィーはまたコインケースを叩いたり振ったりしてぴったり出した。


「後これも忘れないように」


会計をしたおばあさんが二人に差し出したのはウォウォン堂と同じハートだった一つ違いがあるとすれば色が青ということだ。


「坊ちゃんたちはもうそろえたの?」

「これで二つ目だよ」

「これなんだよ」

「それは私からは何も言えない、毎年恒例の伝統行事だからね。まあ、謎解き頑張りなさい。ここ数十年これを解いた人はいないけどね」


おばあさんの話が終わったタイミングで、さきほどエルフィーの一つ大きいサイズを持ってくるよう言われた女性がサイズの違う二つの紙袋を持って来て二人に渡した。


「入学おめでとう、学校生活楽しんで」


二人でお礼を言い店を出る。既にハーパーが待っていた。ハーパーはもう怒っている様子はなく恥ずかしそうにしていた。

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