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世界の王候補とは  作者: 輝月 叶
一年生
21/22

もう一人の弟子

暴力表現があるので苦手な方はご注意ください

明日から授業が始まる。つまり課題が終わっていない人にとっては絶望の一日、トムにとっては早く過ぎてほしいような終わってほしくないような複雑な日だった。


結局景品の杯はトムとウィリアムの部屋に保管されることになり実際に使うことはなかった。


「冬休み最後の日だけど何する?」


朝の大広間、エルフィーが眠気を含む声で誰に聞くでもなくポツリと言った。周りは未だに寝ぼけている者、ご飯を片手に課題に取り組む者、冬休みを有意義に使えなかったと愚痴る者など様々だった。


エルフィーの小さな声を拾ったのはペルセレーナだった。


「一年生の冬休み最後だし、何か学生っぽい特別なこととかしたいね」

「学生っぽい事って?」

「イタズラとか」


小悪魔のような笑みに何を考えているのかわからず、嫌な予感がして引きつった笑みを無理矢理貼り付ける三人。


「そういえばまだ行ってない場所があるよ」


ウィリアムの言葉にそんな場所あったんだとトムは他人事のように考える。学校に戻ってすぐはウィリアムに案内して貰い、四人で行動するようになってからは探検と称して、普段生徒も入らないであろう場所を行っていた。


「玄関口から一番離れてる奥の校舎」

「あそこ別に生徒立ち入り禁止でもないのに誰も近づこうとすらしないよな」

「人がいないのに夜中に物音がするって噂は聞いたことあるよ」


女子のゴシップに対する嗅覚は三人とも舌を巻くばかりだった。三人は人が寄りつかないことは知っていたが噂のことは聞いたことがなかった。


「でも面白そうだし行ってみようよ」

「もしかしたら幽霊とか見れるかも」

「意外と虫とかネズミだったり」

「話の落ちとしては一番ありえる」


朝食を適当に済ませ四人は早速その校舎に向かった。









噂の校舎は大広間からも遠いためしばらく歩かなければいけなかった。


「これで何もなかったら骨折り損だね」

「噂はデマって事がわかるだけ良いんじゃない」

「ここで何があっても明日からの僕には関係ないから」

「あ、一人だけずりぃ」


四人で過ごしていればどんな時間も楽しくなり、時間があっという間に感じる。話し込んでいれば四人が普段過ごしている空間ではありえないくらい、埃をかぶり蜘蛛の巣が張った廊下をすすでいた。


掃除はされていないみたいだが壁紙が剥がれたり廊下に面する扉が壊れている様子もない。


「皆噂が怖いとか、遠いから寄りつかないんじゃなくて」

「ただ単に汚いからかもな」


廊下に積もった埃に四人の足跡が残されていく。


「いつから使ってないんだろう」

「先輩が言ってたけどこの校舎はもう何年も使われてないって物音は一年前から噂されるようになったって」


女子の情報は広いということを改めて実感した三人。


「あの扉じゃない」


ペルセレーナが指さしたのは長かった廊下の突き当たりにある木材で出来た飾りっ気のない扉。廊下が埃っぽく、朝だというのに校舎の角度のせいで日が入ってこないため、おどろおどろしい雰囲気が漂っている。


物音の噂は屋根裏からするらしく、目の前の扉からそのまま屋根裏まで行けるらしい。


トムが先陣を切ってドアノブに触れる。


「特に扉に呪文をかけて空かないようにしてる、とかではないみたいだね」


開けようとしてみるが錆付いているのか押しても引いても少し動くだけで開かない。次は四人で押してみると先ほどよりも開いた。しかしある角度を境にピタッと止まる。人一人も通れないような隙間だ。


「錆びてるんじゃないか」

「あともうちょっとで一人ずつなら通れるよ」

「せーの」


四人でタイミングを合わせて押すと蝶番がギシギシと音を立てる。このとき四人の頭には器物破損で怒られるという考えはすっぽり抜けていた。


四人の渾身の力で足腰に力を入れ押すことだけに集中する。扉の隙間に一番近かったエルフィーはチラッと中を見た。中は窓がないのかカーテンのせいなのか真っ暗で何も見えなかった。


「こらー!」


後ろから聞こえた怒声に四人は驚き扉から手を離してしまった。すると独りでにガシャンと音を立てて閉まってしまった。


四人が真っ青な顔で振り返ると副校長がいた。表情はいつもと同じだが怒っているに違いないと感じた四人は急ぎ足で副校長の前に来る。


「あのすみません、つい気になって」

「何言ってるんだい、あんたに客だよ」


怒られると思っていた四人は肩透かしを受けた気分になりキョトンとするが、すぐにエヴァースとミラのことだと気づき既に歩き始めた副校長の跡を追う。


「こんな埃っぽくて汚い場所に進んで来る生徒がいるとは思わなかったよ」


副校長のムスッとした表情は変わらないうえ言葉にはしていないが「呆れた」と言っているようだった。


「あの一つ聞いて良いですか」

「なんだい」


自分から声をかけるなんて勇気があるのか、副校長の雰囲気を気にしていないのか。ウィリアムが口を開いた。


「怒ってないんですか?」

「なんで怒るんだい、別にここは汚いけど生徒立ち入り禁止じゃないよ」

「でもさっき怒声あげてましたよね」

「あれはあんた達の後ろまで行くのが面倒だったからさ」


そんな理由であんな雷が落ちたような声で探検を中断させられたのかと四人はガクッと肩を落とした。トムは気分をあげようと初めて自分から副校長に声をかけた。


「お客って背の高い男性と黒髪の女性ですよね」

「いいや、ボサボサ髪の男一人だよ」









「あなた誰ですか」


トムが彼と向かい合って最初に発した言葉だった。身長はトムより少し高く見たところ年上、地毛なのか風呂に入ってないのか髪は灰色でボサボサ、服も穴こそ開いていないものの使い古されているのがわかるほどで、学校という場においてはとても浮いて見える。


「俺はエン・ケーター、エヴァースさんの最初の弟子だよ」

(本当なのか?少なくとも僕だったらこんな弟子嫌だ)


疑ってしまうのも仕方がないことだった。トムの中ではエヴァースの弟子はミラだけで師匠があんな性格だと弟子がしっかりするんだとトムは実際に見て学んでいた。そして何より今までエヴァ-スに他に弟子がいること、ミラにとっての兄弟子がいるなんて聞いたことがなかった。


「すみません、さすがに初めて会った人のことを信じられなくて、何か証明できる物とかありませんか」

「これならどうだ」


ケーターがズボンのポケットから出したのはミラと同じデザインのブレスレットだった。まさか物的証拠を出してくるとは思っておらず固まってしまう。ミラが付けているときから綺麗な一品だと思っていたが、それが使い古されたズボンに入れておくのは何か違和感があるなとトムが思考を動かしていると腕を掴まれた。


「じゃあ行こうか」

「どこにですか」

「何って、また学びの旅にだよ」

「いや、なんであなたが」

「エヴァースさんに頼まれたんだよね、ちょっと向かい行けそうにないからよろしくって」

(言いそう)


見ず知らずの人に、一時的とはいえ保護者の立場になる人が迎えに行かせるだろうかと思ったがエヴァースならやりそうだなと呆れるトム。


「エヴァースさんが無理ならミラが来てくれるんじゃないんですか。ミラならエヴァースさんが忙しいの近くで見ているだろうし、しっかりしてるし」

「やめろ」


トムの腕を掴む手に力がこもり血を止められているのか掴まれている先が冷たくなっていく感覚がする。力が治まる気配はなく寧ろどんどん力が増していくためトムが抵抗しようとするよりも早く、エルフィーがケーターを突き飛ばすように当たり立ちはだかった。まるで身を挺してトムを守ろうとするかのように。


ペルセレーナは掴まれた方の袖をまくりショックを受けた顔をする。ウィリアムはエルフィーの隣に立ちケーターを睨んだ。


「お前本当にあの男の人の弟子か?嘘ついてトムを誘拐しようとか考えてるようにしか見えないんだが」

「本当だとしてもこれはやり過ぎです。トムに話を聞いただけですけど、少なくともミラさんはそんな他人任せな事はしない人だと思います」

「トム絶対行っちゃ駄目だよ。遠目でブレスレット見たけどやっぱりあの二人の知り合いとは思えない」


トムは三人にたくさん旅の話をしていた。そしてそれを話すトムの表情は柔らかく、エヴァースとミラの話をする声には尊敬と信頼が感じ取れた。だから実際に深く関わったわけではない三人にはわかるのだ。二人がどんな人か。


「・・・・・・ぇな」

「・・・・・・」


小さくつぶやいた彼の声は四人には聞こえなかった。


「うるせえな。ガキが偉そうな口叩いてるんじゃねえよ。言うこと聞けって言ってるのがわかんねえのかよ!」


ケーターが上げた腕を肩の高さまでに下ろす、水がまるで意思を持っているかのように玄関口に広がった。この水はどこからなんて考える暇もなく、空間が真っ赤に染まった。


(油だったのか)


一瞬で炎はトムの背丈ほどの高さになり逃げ道がなくなる。炎の中にも限らずケーターはためらいなく歩き出すとエルフィーとウィリアムの頭を掴みぶつけた。二人は頭を抱えしゃがみ込む、しかし涙目になろうとその目はケーターを睨んでいる。しかしそれ以上何も出来なかった。


それを気にする様子もなく進むと炎が道を開くようにケーターを避けていることにトムは気づいた。


ケーターはペルセレーナをチラッと見る。トムが背に庇うが頬に衝撃が来て倒れる。痛みに耐えながら立ち上がり戻ろうとするが炎の壁に阻まれる。


「いたっ!」


ペルセレーナは髪を掴まれゴミを捨てるかのようにトムとは反対方向に投げられた。ケーターはトムの元に来ると襟元を掴み鳩尾に蹴りを入れた。後ろへ衝撃を逃がせなかったトムはそのまま気絶してしまった。首裏の襟首を掴むとそのままずりずりと引きずっていく。


「あーあ、ガキのせいで余計な時間食っちまった」


大きな舌打ちをして自身はほうきにトムを小さめの絨毯に乗せて学校から姿を消した。

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