謎解き
「三人ともまだクローバー持ってる?」
ハーパーのその言葉でその後が変わった。
何年もずっと一緒にいたんじゃないかと周りに勘違いされるほど、トムとエルフィーが友達になってからは四人で行動することがほとんどだった。
冬休みが終わるまであと五日というときにトム、ウィリアム、エルフィーは図書館で課題の仕上げをしていた。そこにペルセレーナが来てエルフィーの横の席に座ると藪から棒にそういった。その日は課題を終えた後ほうきの練習をするはずだった。何故か三人は今日の予定は変更だなと感じた。
ペルセレーナはテーブルの上に三色のハートを出した。トムとウィリアムも常にポケットに入れていたため混ざらないように離して置く。自然と三人の視線はエルフィーに注がれた。
「使い道もわからずに四ヶ月近く経ってるんだし手放してるよね」
「期待を裏切るみたいで悪いけど」
ウィリアムの言葉を一言断ってからテーブルの上のハートが増えた。
「持ってたんだ、捨ててるかと思ってた」
「捨てはしないよ、これを貰ったときトムとセレーナがいたから僕にとっては記念品みたいなものだったから」
照れくさいのか指先でハートをつつく。それを見てその場の雰囲気がほんわか柔らかくなる。
「荷物の整理してたら入れっぱなしだったから、このハート結局なんだろうなって」
「確かにここまで来たらこのハートがなんなのか、突き止めてみたいよね」
トムはエルフィーをチラッと見た。このはなしに付き合うのか?と問いかけているのが伝わってきた。今日の予定だったほうきの練習はエルフィーがトムとウィリアムにお願いしていたものだった。トムは構わないがエルフィーの練習の方が前から約束していたことなので、話題に乗るかはエルフィー次第だった。エルフィーは乗り気なウィリアムと隣のハーパーをチラッと見てから視線で頷いた。ほうきの練習はまた今度になった。
「三つ葉って事に意味があるのかな」
「色じゃない?」
「三つ葉じゃなくてハートが三つって事に意味があるんじゃない?」
それぞれ意見を出し合っているとスッと席を立ち近くの本棚に向かった。残された三人がしばらく本棚の方を見るとウィリアムは一冊の薄い本を手にしていた。
「これ何?」
「色に関する本だよ」
本の表紙には「魔法研究と色の実験」と刻印されている。内容は火・水・雷など自然現象を魔法で使う際色を変えることは出来るのか、また色の変化によって威力や効果が変わることはあるのかという実験とその過程を子供向けに読みやすくしたものだ。
「この本にヒントがあるのか」
「前に図書室でチラッと見たのを思い出したんだ・・・・・・ほらこれ」
ウィリアムが開いたページには赤・青・緑の色の三つの円が少し重なっている図が描かれていた。
「この三つの色は色の三原色って言ってだいたいの色はこの三色で作れるんだって」
「三原色」
ポツリとつぶやいてトムは十二個のハートを色ごとに分けた。それぞれの色で四つ葉のクローバーが三つできる。
「四つ葉?」
四つ葉を見ると急にハーパーは嬉しそうに話し始めた。
「四つ葉は幸運の印って言うものね。三つ葉よりも四つ葉のほうが運気が上がりそう。それにイギリスでは悪い妖精よけにもなるって聞いたことある」
さすが女子と言うべきかその辺りの情報の提供が早い。
「全ての元になる、そして幸福の四つ葉。何かほとんど答えにたどり着けたような気がするんだけど」
「なんかスッキリしないね。でも色ごとの四つ葉は間違ってない気がする」
「ここからどうしよっか」
トムは前にウィリアムと考えていたときのことを思い出していた。
『学校でしか使えないって事かな』
卒業までまだまだ時間はある。しかしトムは何故か今すぐこの謎を四人で解きたい衝動に駆られた。
「謎を解いたら景品をもらえるものだよね」
何となくつぶやいたであろうウィリアムの言葉に三人がバッとそっちを見る。それに驚いたウィリアムは肩を揺らし説明を始めた。
「前に家族で日本に行ったとき泊まったホテルで謎解きゲームをして、頑張って解いたら景品がもらえたのを思い出してさ」
「物って言ったらあそこだよな」
エルフィーの言葉に三人は納得がいったのか席を立ち図書室を後にした。
「ここしかないよな」
四人が来たのは購買の部屋。壁が一面だけなく中は廊下から丸見えなため部屋と言うよりは店に近かった。購買には様々なものがある。教材やネクタイ髪飾りなどの小物、旬の数量限定のお菓子も購買の管理をしているおばさんが作って置いている。
いつも一定数以上の生徒は訪れているのに今は誰もいなかった。
「ここでどうすれば良いんだろ」
「物々交換とか」
「あらお坊ちゃんにお嬢ちゃんが中に入らずどうしたのかしら」
四人とも背後からの声に驚いて振り返ると購買で販売員をやっているマッキンジー・テイラーが柔らかい笑みを浮かべている。
髪はカールして白髪がほとんどだが何束か金髪が頭にちょこんと載せている帽子からはみ出しているのが見える。杖はついていないが腰は少し曲がっていてハーパーよりも小さい。セーターやコートを着込んでいるうえ、レースのスカーフや厚手のマフラーや手袋をしている。
寒いのはわかるが見ているだけでこちらにも暖かいを超えて暑いが移っている気がした。
「それで何か捜し物かい?売り切れたのなら在庫見てくるよ、無いものでも頼んでくれれば私が注文書出しておくよ」
おばあちゃんらしさと面倒見の良い母親のような人物に四人は心が温かくなる。
「入学前にもらった三つのハートのヒントがここにあるかなと思って」
「何だって」
先ほどまでの朗らかな雰囲気からガラッと変わり驚愕に目を開き存在しないと言われていた物をいきなり目の前に置かれたように、何も言葉を発さず固まってしまった。
「おばさん?」
「あ、あぁすまない。こっちにおいで」
エルフィーの声がけで我に返ったのか、四人を購買の部屋の奥のカーテンが掛かった生徒立ち入り禁止の先へ引き連れていく。中は五人が入るには十分な広さだった。暖炉は既に火が付いていて暖かい。部屋をぐるっと見渡すと他にテーブルと四脚のイス、壁に向き合うようにして職務用であろう机が置かれていた。部屋の四分の一を大きさが様々な木箱が占拠していた。
「荷物が多くて悪いね。さ、適当座って」
五人は暖炉の前のソファに座った。この部屋では冬の寒さをみじんも感じないのに、テイラーは一つも衣服を脱ぐ気配はない。熱くないのだろうかと疑問に思っているとテイラーが口を開いた。
「さ、どうしてここにハートに関するヒントがあると思ったんだい」
「答えを教えてくれるの?」
ハーパーの問にテイラーはゆっくり首を振った。
「お前さんらが考え出したその結果によるかな」
男子三人はそれぞれポケットに入れていた物を出す。赤・青・緑の四つ葉を見ると「ホォー」と感嘆の声を上げた。
「それで?」
「色は三色、全ての元になる。そして幸福の四つ葉、四つ葉にするには四人集まらなくちゃいけない」
「これが一番大事なところだと思うけど」
「四つ葉を一人一つ持つと持てない人が出る」
「今の私みたいに」
ハーパーは四つ葉を持っていないことをアピールするように両手をヒラヒラ振った。
購買の部屋に着くまでにまとめていた考えを順番に話し始める。テイラーは口をはさむことなくただ耳を傾けた。
「それこそが引っかけじゃなかったんですか」
トムの自信にあふれた質問にテイラーは愉快だというように「ヒッヒッヒ」と笑った。
「答えにたどり着いて三人が四つ葉を持っていてもそれは正解じゃない」
「友達なら仲間外れにしない」
「自分たちと違うことがあっても変わらない」
「全ての元になる、幸福、そして変わらない友情。これが個のハートに込められた謎の答えなのかなと」
「そこから僕の思い出話で何か景品がもらえるんじゃないかなって話になって」
「物と言えば購買だなって」
何かがもらえるならできるだけ自分の取り分が少なくならないようにと四つ葉を奪って一人で解いたとしても、ただいらないからとハートをもらって答えにたどり着いても駄目。
一通り説明を終えるとテイラーは俯きがちだった顔を上下に揺らした、船をこいでいるのかと思ったが違った。テイラーは口角を上げ綺麗な白い歯が見えるほどの笑顔を浮かべた。目尻にシワが寄ったことで目が細くなりこちらが見えているのか不安になる。
「よくぞ、よくぞここまで。まだ一年のお前さんらが。一人は少し前まで一人で尖って、一人はほとんど学校にいない、しかも紅一点でたどり着くとは思わなかったよ」
「間違ってはいないですけど、僕とエルを問題児みたいにいうのやめてください」
テイラーは感慨深そうに言うとハンカチを出した。鼻にあてると鼻水をすする音が聞こえる。見ただけだと風邪を引いている様子もなく泣いているわけでも無さそうだ。感動している、というのが一番しっくりきた。
「お前さんらが考えついた答えは正解だよ」
胸が嬉しさでいっぱいになる。謎を解けたことは勿論、この四人で何かを成し遂げたという事実が嬉しかった。
「ユーセスシア村にいた時何かに気づかなかったかい」
いきなりの別角度からの質問に首をかしげる。
「これは一人でいた方が気づきやすかったかもね」
「あ」
ペルセレーナはまるで先生に質問するかのように手を上げた。
「いろんな人から入学おめでとうって言われた」
「そういえば、教科書や制服、ほうき店以外でも新入生かい?って聞かれて肯定したらいろいろサービスしてくれた」
「え、なにそれ僕知らない」
「僕も」
エルフィーとトムが声を上げる。そして村での行動を思い出す。確か三つの店では祝福の言葉を貰ったけどそれは学校関係の店だからだと思っていた。そして三店以外で入った店では二人、正しくは二人と父親達はとても祝福できる雰囲気ではなかった。
その後はトムはもぬけの殻だったし、その時のエルは周りからの祝福に耳を傾けてはいなかっただろう。二人がズーンと音がしそうなほど落ち込む様子にウィリアムとペルセレーナは苦笑した。
「私たち魔法使いが一番大事にしているものは何か、わかるかい?」
四人で首をかしげるとあっさりと答えを出した。
「子供だよ」
「私たち?」
「未来を作るのは、偉大な魔法使いが生み出した魔法でもなく、地位や金のある者でもない。無知で無垢な希望と光と未来にあふれる子供達だと私たちは思っている。だからこのハートにはこれから魔法の基礎を学ぶ新入生へのメッセージを込めた」
確かにそれを聞いた後だとこの四人で溶けたことが奇跡にすら思える。嬉しいを通り越して感無量になっているとテイラーは立ち上がり執務机の一番大きい引き出しから一見古そうな木箱を取り出し、ソファに置いた。
「正解した子達には景品をあげないとね」
もったいぶるように開けた箱の中には三つの金の杯が入っていた。箱が古く見えるのに対して杯は汚れ一つなくピカピカだ。
「これが景品・・・・・・どう使えと?」
「不満かい」
「仲間はずれは駄目だって言ったばかりなのに景品三つって、矛盾してね?」
「実は私も景品を見るのは初めてでね」
「え、そうなんですか!」
「この職を引き継いだときに言われたんだよ。正解を考え出した生徒達が来ない限り開けちゃ駄目だとね」
「よく誘惑に勝てましたね」
「そう言われると開けたくなるよな」
「私もそうだったさ」
「やっぱり開けたことあるんじゃないか」と四人の心の声が揃った。見ていただけではただの机と箱、だれでも見ようと思えば見れる。
「でも頑張って耐えたのさ」
「どうやって」
「見たいと思った瞬間に髪を一本一本抜いていく。その結果、見たいという好奇心より髪がなくなるという恐怖が勝つ。いくつになっても髪は女の命だからね」
「・・・・・・」
ペルセレーナは髪は女の命という言葉に共感し何故か感銘を受けているようだったが、他三人は「そこまでするのか」と若干引いていた。




