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温かい目で見ていただけたら幸いです。



見てくれが悪役令嬢ってだけで、何にも悪いことしてないのに学園の卒業パーティーの日に婚約者の公爵家令息から急な婚約破棄。彼の横には可愛らしい女の子が寄り添っている。そして、その女の子へのやってもいない罪の数々を挙げられ、挙句の果てには家(子爵家)から絶縁され追放された。

そんな怒涛の一日を過ごしていた。

親から貰った手切れ金(2・3日生きれるか程度のお金)を渡され、真夜中に町の外れに捨てられた私はその場に座り込みひんやりと冷たい土の感触を感じていた。

今後、どうしていこうかと考えを巡らせる。



私、ローズ・ロワットソンは昔から『まるで悪女のような顔だ』と周りに言われてきた。きりっと上がった目と眉毛、唇と目の下にはほくろがあり、大人びた容姿に人々は男を惑わす悪女、傲慢で欲深い、宝石やお金を好む悪女だと言いたい放題言われてきた。表情もあまり変わらないことから『茨の悪女』という不名誉なあだ名で呼ばれていた。親やメイド達も表情の変わらない私を気味悪がっていた。

いくら私が、惑わすつもりはない、宝石やお金なんて興味がないと否定しても誰も認めてはくれなかった。


だから、私は否定することを諦めた。


勝手な噂が流れようと見て見ぬふりをした。

その方がまだよかったのだ。認めてもらえないよりも。




けれど、見て見ぬふりは最悪の結果で終わってしまった。












地面に座り込みながら顔を上にあげると夜空に星が瞬いていた。ドレスが汚れるのも構わず自然と寝転がっていた。噂のない静かな世界に目を閉じる。


(何の雑音がないって最高ね・・・)


爵位もお金も人間関係もすべてゼロ。

まあ、そんなものは最初からあってないようなものだけど。

町の外れの地面で寝ころぶ今の自分が惨め過ぎて何だか笑いが込み上げてくる。

令嬢の時は上手く笑えなかったけど、こういう時に笑えるものだと自分に感心する。

「ふふふっ・・・」

静かな夜空に私の声が響く。

目を開け、星を見つめる。



(私、ここから生まれ変われるかな・・・)



なんて、そんな都合のいいことを星に願った。

身体を起こし、取り合えず寝泊りできる宿を探さなければと思い立ち上がる。

今度の事は宿に行ってから考えよう。






町の中心に向かってしばらく歩くとちらほらと人の影が見えてきた。

真夜中ということで、酒を飲み騒がしく燥ぐ大人たちが酒屋の中で楽しんでいた。所々、怪しいお店も見える。あまり治安が良くなさそうだと思い、足早に宿を探す。しかし、中々見つからない。


案の定危惧していた事が起きてしまう。


「よお、姉ちゃん。どこの店の子だぁ??」

「うおー!すげえキレーな姉ちゃんじゃねえか。こんなキレーな子が売ってる店あったか?近くの店なら連れてってくれよ」

「ひひっいい体してるなぁ」


酔っぱららいの三人の男に絡まれ、道を塞がれてしまう。

嘗めるような男たちの視線に身の毛がよだつ。



自分の見た目の事は良く分かっている。どうもそういう目で見られてしまうようだ。子爵令嬢だった頃もそう。パーティーに出席すれば、人気のないところに呼び出され行為に誘われたり、子もいる年上の貴族に愛人にならないかと言われる事が何度もあった。

それを断ると・・・



「いいえ、私はお店で働いてません。通してください」

いたって冷静に酔っぱらいの男たちに告げる。



しかし、私の言葉を聞くと男たちは眉間にしわを寄せ、だらしなかった顔から怖い表情に変わる。


「はあ?・・・ちっお高くとまりやがって、俺らを馬鹿にしてんのか!?」

「そんなつもりはありません。もう一度言いますが私はそういうお店で働いていませんし、今は宿を探しているだけなので通して下さい」

「うるせえ!!そんな嘘が通じると思ってんのか!」

男が持っていた酒の瓶を地面に叩きつけ割れる音が響き渡る。他の酒飲みや商売女たちがこちらを見る。



そう・・・、断ったりするとこうやって逆上されるのだ。

しかし、困った。子爵令嬢の頃は家の後ろ盾があったから断って逆上されようが私に手を挙げられることはなかった。けれど、今はどうだ・・・?何の後ろ盾もなく、私一人のみ。相手は男三人だ。分が悪いと思い、すきを見て逃げようと構えた時、三人の内の一人が腕を掴んできた。


「っ離して下さい・・・っ!!」


力強く掴まれ、必死に抗うがピクリともしない。





「こんな人を誘うような顔をしてるのが悪いだろーがよぉ!!」


誘うつもりなんて微塵も無いわよ!と口にしたいがこの男たちには何言っても無駄なのだろう。この人たちも私を見てくれだけで見てくる貴族の奴らと一緒・・・。


「調子乗んなよこのアバズレがっ!」


腕を掴んでいた男が叫びながら手を振り上げた。

どこに行っても同じ。



(ああ、私は生まれ変われないのね・・・)

星に願ったことを後悔する。そうよ今までだってそうだったじゃない。誰かに理解してほしくて、期待して・・・。



期待なんてしなきゃよかった・・・・っ!!




目を瞑り、ぐっと来るであろう衝撃に身構える。

しかし、その衝撃は来ることはなかった。






「はいはい、そこまで。殴ったら現行犯逮捕になるわよ?」







その声に目を開ける。

絡んできた男たちとは違う独特な話し方の男の声だった。確かに分かることは、その男に助けられているということだ。騎士の服を身にまとった男が酔っぱらいの腕を掴んでいる。掴んだ腕で騎士の顔は良く見えない。


「うげぇ!!騎士団っ」

「ずらかるぞっ!!」


といって三人はあっという間に逃げて行ってしまった。しばらく状況が掴めず、逃げて行った男たちの方を見ていたが「大丈夫?」と騎士に声をかけられ、はっとして騎士の方に体を向け頭を下げながらお礼を言う。



「あの・・・、助けていただき本当にありがとうございま・・・え?」


「ん?・・・あら、貴方」



上げた頭が固まる。

向こうも私に見覚えがあるようだ。かくいう私も見覚えがあった。



綺麗なブロンドの髪に凛々しい顔立ち、そして女性のようなしゃべり方・・・。このお方はアラン・ルーバルト伯爵令息ではないか。何度かパーティーで会ったことがあった。独特な方でそんなに関わったことはないが印象に残っている。騎士の服に身を包んでいるが、彼で間違えないだろう。



「確か、ローズ・ロワットソン令嬢よね?・・・一体こんな危ないところで何をやっているのかしら。お散歩にしてはちょっと危険な場所すぎるわ」


アラン様が首を傾げるとさらりと綺麗な髪が揺れる。

何をしている、と聞かれ、この状況を話すのもどうかと思い。考えて口を開く。


「その、今泊まれる宿を探してまして、いい所があれば教えていただきたいのですが・・・」

と聞くことにした。私のその言葉にアラン様は目を見開き固まる。


「・・・家出なら、宿なんか探さず帰るべきだと思うわ。子爵家まで送るわよ」

どうやら家出令嬢だと思われたようだ。それもそうかと今置かれている状況を正直に話すことにした。



「あの、実は・・・」


今日会ったことを簡潔に分かりやすく伝えていく。その話を聞いていたアラン様の顔は険しくなっていく。

一通り説明し終わると、アラン様は「はぁぁぁああああああ」と大きなため息をついた。


「婚約破棄にありもしない罪で家から絶縁され追放・・・とんでもない話ね」

どうやらしっかり伝わったようだ。


「そういう訳で宿を探していたんですが、探していたところあの三人に絡まれてしまい今に至るといったところです。本当に助けていただきありがとうございました」

改めて危ぶない所だったと思い出しお礼をする。


アラン様はふふっと笑い

「騎士なのだから当然のことをしたまでよ」

と可憐にウインクする。


確かアラン様には確か隠れファンが多いと聞いた事があるが、頷ける。優しい騎士様だ。女性の喋り方でなければファンはもっと増えそうだと心の中で思う。


「それで、宿の事なんですが・・・」


私は本題に戻る為に宿の事を聞く。

そういえばそうだったとアラン様が言い、考える素振りをする。


「うーん・・・そうね、いい場所が一つだけあるわ」


「・・・!」


アラン様がおすすめする宿なら安心できるだろう。

が、しかし

「あの・・あまり料金が高いと・・・」

お金をそんなに持ち合わせていない・・・と小さく呟く。


「ローズ嬢は今、仕事もないってことよね?」

「ええ、はい」

追放されたのは割とさっきのことなので。


「その宿、住み込みで働けるわよ。だから働けば宿代もタ・ダ♡おまけにご飯もついて来るわ」


とてもいい話だけど・・・


「そんなうまい話が・・・」

「あるある!さっ行きましょっ」

「えっ」


有無を言わさずニコニコとしているアラン様に背中を押される。行く当てもないため少し迷ったがすぐにアラン様について行くことに決めた。



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