99<不義と背信の徒~天才に対する天才の嫉妬~
「そもそもの話よ?
本当におじ様が悪者なら、わざわざお爺様の怪我や病気を治さずに
最初からシュウに塒へ案内させて
そこでシュウを人質にとって死にかけのお爺様に色々喋らせるんじゃないの?
私たちみたいな子供だって助けたりなんかしないわ、違う?」
「怖ぇーよお前
なんでそんなに犯罪者の行動心理に詳しいの」
「ちょっと考えれば誰だって分かるわ、だからリッペだっておじ様を守ったの!
おじ様も、どうしてわざと悪党のフリをするのかしら?
こじれるでしょ、現にこじれてるでしょ!」
身内に説教を続けていたユレンティアがぐるんと勢いよく振り向き
他人事のように眺めていたアッシュへ振り返るとビシィッ!と
効果音が聞こえてきそうな勢いで指差す
(おっと、こっちにまで飛び火したか)
こういう時は素直に応じるに限る
大半の女性が心の内に般若を飼ってるからな
ヘタに刺激せず女性の望む言葉を選ぶべき……と、いう
田崎の役立つ助言に従って大人しく謝るを選択する
「気を揉ませて悪かったな」
「えっ……あ、いえ、こちらこそ強く言い過ぎたわ
おじ様の事情も知らないのに」
ユレンティアは怯んだように強気な態度を引っ込めて肩を縮めた
それを見ていたシュウがなるほどこう扱えばいいのか、と言いたげに頷く
この時、奥のスペースで横たわっている人物が微かに身じろぎした
それに気づいたアッシュは目を細めて背後へと意識を向ける
同時にリペインのコートが僅かに蠢いた事にも気が付き眉を顰めた
おそらくコートの下で杖を構えたのだろう
(俺が爺さんを警戒するのは分かるが、なんであのガキまで)
リペインの、動機の見えない行動は
傾倒されているアッシュにとっては『不気味』でしかない
ユレンティアの説教が途切れたのをいい事に
話題転換を狙ったシュウが両手を叩きパン、と音を立てる
「兎に角さ、次にじーちゃんがにーちゃんに突っかかったら
今度は俺らで止めるから安心してくれよ!」
「そうね、私もリッペもおじ様を守ってあげるわ!
脱出を手引きしてくれるんですもの、それ位のお礼はしなきゃ」
「うん……絶対に、守る よ」
子供たちを交えた話がひと段落した所で一度場を離れたユレンティアが
倉庫を入ってすぐの場所で待たせていた四人を連れてきた
全員着ている服はくたびれているが
立ち姿や所作の端々から品の良さが窺える
「紹介するわ、私の父、母、兄、妹よ」
簡単な紹介を受けて、アッシュよりも歳のいった男が一歩前へ出て
家族を代表し、胸に手をあて軽くお辞儀をする
「初めまして、ユレンティアの父
イェルパス=フレムバイアだ
シュウくんやリペインくんとは家族ぐるみで顔馴染みだ
君が今回脱出の手引きをしてくれるという外国の冒険者か?」
「アッシュだ
そこの爺さんが起きたらどうせ知れる事だから先に言っておくが
今は亡き王国の公爵領出身、悪名高い公爵家の元嫡男だ」
「遠い国の方がなぜ帝国へ」
「詮索はするな」
「そうよお父様
私たちに人に言いにくい過去があるように
彼にも事情があるのだから質問してはいけないわ
あの、おじ様
助けたい人たちがいるならと言われたから
遠慮なく家族を連れて来たけれど……人数が増えても大丈夫なの?」
「構わねェよ」
「イリナも家族を連れてくると思うわ……しかも、その、多分かなり多く。
人数が増えるけれど、本当にいいの?」
「ああ、まぁ……大丈夫だろ」
「他人事みたいな言い方ね
貴方の事は信頼してるけれど、正直不安だわ
大人数で脱出する事のリスクがどれほど高いか分かってるもの
だから私たちだって必要最小限で脱出しようとしてたワケだし」
「どれだけ人数が増えようと安全は保障してやるし
隣国まで送り届けることも確約できるが
それを脅かす可能性があるとすれば”お前ら自身”だ
例えばむやみに騒いだり、今回の事を誰かにリークしたり……
そうなると助けてやることはできないな」
「こっちだって命がけだもの、足を引っ張ったりなんかしないわ
どういう方法で脱出するの?」
「ここに留まっても長くは生きられない……なら、
偶然通りがかった馬車に便乗してみるのも悪い話じゃないだろう
御者の俺はただお前らに『乗るか?』と聞いただけだ」
「……カッケェ」
「シュウ、話しの腰を折らないで。
教える気はないって事ね」
「身内を炉に放り込むような目に遭うよりもずっとマシで手軽だ
しかもその馬車は、黙って大人しく幌から顔さえ出さなけりゃ
確実に隣の国まで送り届けてくれる、乗らない手はないと思うがな」
「黙って幌から顔を出さなければ……」
「大人しく、も大事だぞ」
念押しするアッシュの意味深な様子にリペイン以外の全員が緊張を走らせる
額に汗を浮かせたユレンティアが難しい顔をして考え込んだ
「やっぱり、どこかに身を潜めるのね
今ここに居る私たちは大丈夫だと思うけれど
イリナの連れが予想通りの子たちだと隠密行動は難しいかもしれない」
「『子』たち?……まさか」
「そう、そのまさかよ
イリナは孤児院の出だから……何人か、もしかしたら全員連れてくるかも……
ちょっと心配だから見てくるわ
本当にあの子たちを連れて来ようとしているなら
襲撃が行われる夜中を待つしかないもの
おじ様が気絶させた警備兵も目を覚まして騒いでるでしょうし
リッペ、一緒に来てくれる?」
「……ごめん ね、ユレンティア
僕は……この人、の 傍に……居たいから」
「お願いリッペ~!貴方の導術がどうしても必要なの!
この通り!お願いっ」
「駄目、だよ
イリナも馬鹿じゃない、から……ちゃんと、夜中まで
じっとしてる 筈、だから……みんなが、寝静まった後に……
両手に 抱えられる、人数…だけ連れてくる よ、きっと」
「そうかも、しれないけれど」
「僕が行ったら……きっと、僕 の……導術を頼りに
連れて行けるだけ、連れて……行こう と、する
かも、知れない し」
「……うん」
「脱出 の……成功率を、上げたい なら
人数は少ない……に、越したことは ない
それは……ユレンティアも、解ってる……よね?」
「…うん」
「嬢ちゃん、孤児院の子供たちが集まってるなら、当然
イリナ嬢ちゃんの他にも大人はいるんだよな?」
「今はもう、いないわ
子供たちの面倒を見てくれていた大人は何人かいたけれど
最後の一人がつい先日体を壊して……死んでしまったの
子供たちを守ろうと無理をする人だった
今あの子たちの面倒を見ているのはイリナだけよ」
「何人いる」
「十日ほど前に私が見た時は15人だったと思うけれど」
「俺、三日前に見に行ったけどそんなにいなかったぜ」
「ええ?じゃあ、何人か亡くなったのかもしれないわね
病気がちな子が多かったから……やっぱり
心配だから行き違いになる前に私、様子を見てくるわ」
「ユレンティア」
「分かってるわ、リッペ
場合によってはイリナを説得する
私だって少しでも脱出の成功率を上げておきたいもの」
「……なら、いいよ」
「うん!じゃあ、ちょっと行ってくるわね
母様たちも今の内にしっかり休んでおいて!」
「お姉さま、気を付けてね」
ユレンティアの妹が兄の後ろに隠れたままそっと手を振る
それに笑みで返し、外へ向かった友達思いの少女の背中を見届けて
それぞれが思い思いの場所で腰を落ち着け
襲撃の時間になるまで休んでおく事になった
狸寝入りを続けている老人が起きる気配はない
リペインは当たり前のようにアッシュの隣へと腰を下ろし
シュウも興味津々な様子でにじり寄ってくる
「な、な、にーちゃん
装備っ見せてくれよ!」
「勝手に見りゃあいいだろ」
「じゃあ遠慮なく!」
ばさっと外套の裾をまくったシュウは
鑑定士のような目で足元の装備からまじまじと観察し始める
「おおお……っ!ええっ?!これスッゲ!
うひょー!!」
「シュウ、楽しそう だね」
「リッペも見てみろよ!
にーちゃんが身に着けてる武具、全部魔導具だぜ?!
見るからに高そう!総額いくらだよ!?想像もできねー!!」
大興奮するシュウは珍しい乗り物を前に目を輝かせる少年そのものだ
リペインもじっとアッシュの顔を見つめると何か言いたげに目を泳がせ
また見つめてくる、という動作を繰り返す
なんだ、どうしたと声をかけてほしいのは察したが
リペインという少年を警戒し始めていたアッシュはあえてその空気を無視した
「……あの、おじさん」
「なんだ」
結局話しかけてくるんかい、と
内心でツッコミを入れたアッシュは渋々リペインに目を向ける
「その耳飾り……充填式の魔導具、だよね
見せてもらっても、いい?」
「ああ、構わねェが
大事に扱ってくれよ」
耳から取り外した盗聴防止魔導具をリペインへと渡す
手の中でくるりと回転させ、全体を眺めたリペインは
一瞬、不快そうに眉を顰めるがすぐに無表情になる
まるで慌てて感情を押し殺したような不自然さを感じたアッシュは
リペインの動向をじっと観察した
「コレ、誰かの手作り?」
「ん?ああ……分かるのか」
「僕ぐらいになると見れば分かるよ
導力が切れてるね、僕が補充してもいい?」
「できるのか?」
「見くびらないでよ
できるよ、こんなの簡単だよ
単純な回路構成だもの、赤ん坊の玩具みたいなものだよ
ああ、別にこの魔導具が稚拙な作りだと言ってるわけじゃなくてさ
この程度の魔導具、僕の腕なら補充も簡単だって話。
素人の手作りなんだもの、補充もし易くて当然だよね」
流暢に話し始めたリペインの様子に驚いたシュウは
一旦アッシュの装備から顔を上げると
物凄く珍しいものを見るような目で見つめた
「リッペ、めちゃくちゃ喋るじゃん」
「シュウうるさい黙ってて」
「あ、ハイ」
早口で戒められ、大人しく口を噤むシュウとアッシュが見つめる中
リペインの手の中にある耳飾りが淡い光を放った
瞬間、
「あ、」
「うわっ」
「あー!リペインのおにいちゃんが壊したァ!」
元々こちらを気にしていたらしく
離れた場所から様子を窺っていたユレンティアの妹が
先ほどの姉の真似をするように指を差して声を荒げる
それを母親に諫められる光景を尻目に
リペインの手の中で粉々に砕けた耳飾りを
アッシュは呆然とした顔で見つめていた
シュウが焦りだすが、リペインはこうなる事を想定したかのように冷静だった
「おいおいおいリッペ!壊れちまったんだけど?!」
「そうだね、まさかこんなに脆い作りだとは思わなかったよ
耐久性が全く無かったみたいだね
魔導具を作るなら考慮して当たり前の要素なのに
これを作ったヤツはよっぽど才能が無かったのかな
耐久性がないって事は安全性もないってことだよ
壊れたのが、おじさんが怪我をする前で良かった
安心してよ、こんな玩具よりもっと良いものを
僕が作ってプレゼントしてあげるから」
「リッペ、めっちゃくちゃ喋ってんじゃん……」
「シュウうるさい」
「あ、ハイ」
人の物を壊したというのに一切悪びれもしないリペインは
手の中で砕けた耳飾りのかけらをゴミのように床に捨てると
手をはたいてアッシュを見上げ、笑みを浮かべる
「……」
この時、アッシュの腸は煮えくり返っていた
初めての友人がくれた、初めての贈り物
それを散々に貶されただけでなく粉々に壊された上に謝りもしない
(相手は十二歳のガキ相手は十二歳のガキ相手は十二歳のガキ)
今すぐにでも脳天に拳を叩き込んでやりたい衝動に駆られるが
己に必死に言い聞かせる事でなんとか衝動を抑制する
(落ち着け、落ち着け……こういうのは何が悪いのか分らせないと
いきなり痛みに訴えても意味がない)
静かに深呼吸して脳へ十分に酸素を送る
もう一度床に散らばった欠片を見てしまったら
確実にゲンコツしたい自分を抑えきれないだろうと悟ったアッシュは
あえて足元を見ないように努めつつリペインへと向き直った
「リペイン、お前は今
人が大事にしている物を壊した」
「ああ、うん、ごめんね
でも僕はこんなお粗末なものをおじさんに渡した人にこそ謝ってもらいたいよ
一歩間違えれば怪我をしていたのはそれを身に付けていたおじさんだもの」
普段の痞えっぷりはどこへいったとツッコむのは後回しだ
アッシュは怒りを煽られるのを感じながらもリペインの肩に己の手を『乗せる』
本当なら思いっきり掴んで肩を握りつぶしてやりたいほど怒っているが
それを必死に抑え込んでただただ『乗せる』だけに徹する
「リペイン、こういう時はな?
理由も言い訳もいらねェ……ただ誠心誠意謝る、それだけが大事だ」
「だからごめんねって謝ったよね
それよりも問題なのはこの粗悪品をおじさんに渡した人、」
「リペイン、俺が大事にしている物をお前が壊した
『でも』の先も『それよりも』の先もいらねェんだよ
今この場で必要なのはお前の、俺に対する、心からの謝罪の言葉だ
俺の言っている事が分かるか?」
「おじさんこそどうして僕の心配が分からないの?
こんな粗末な玩具がなんだっていうの?
この程度なら僕にもいくらだって作れ、」
直後、倉庫内に 『 ゴイン 』 と鈍い音が響く
間近でそれを見ていたシュウは反射的に自分の脳天を押さえて
「いってェ!!!」と言いながら物凄く痛そうな表情を見せた
アッシュのゲンコツが落ちた先はシュウではなくリペインの頭なのだが。
遠目に様子を見ていたユレンティアの家族も
痛そうに顔を歪めるが口出しはしてこない
「仏の顔も三度までだ
言って聞かねェなら体に分らせてやるしかねェよな
それでも理解しねェってんなら……」
「わー!待って待ってにーちゃん!
ホラっ欠片拾っといたから!これ!ねっ!
リッペが分からず屋でごめん!にーちゃんの大事な物壊してごめん!
コイツの兄貴分として謝ります!ごめんなさいでした!!」
床に散らばった欠片を高速で拾い上げたシュウはそれを差し出しながら
リペインの頭を無理やり掴んで下げさせる
ボディバッグから小袋を取り出し、差し出された欠片を袋へ納めたアッシュは、目の前で兄貴分として下げられたシュウの頭を大雑把に撫でた
「顔を上げろ」
その言葉を受けて、おそるおそる顔を上げたシュウと
まだ不満そうな表情をしているリペイン
上目遣いに様子を窺うシュウからジロリと横へ視線を移したアッシュと目が合ったリペインは、やはり不服そうに眉を顰め視線を横にずらす
「……ごめん、な さい」
生意気な態度は崩さず
やっとの事で謝罪だけを口にした子供をアッシュは鼻で笑う
「周りから導術の天才と持て囃されても、ガキはガキだな
俺のダチの手製魔導具の完成度に嫉妬したんだろ」
「違う!!」
アッシュの言葉に、リペインは今まで見た事がないほどに取り乱し
腰掛けていた木箱から飛び降りると拳を握って抗議してきた
分かりやすすぎる反応で「図星だな」と言わんばかりに言葉が続けられる
「現物を見て、到底及ばない実力差を理解して
悔しかったんだよな」
「そんなんじゃない!嫉妬なんかしてないし
悔しいなんて微塵も思わなかった!
そんな玩具!魔導具とは呼ばないよ!!回路も出鱈目だし
その証拠にちょっと導力注いだだけで壊れたんだから!」
鼻息荒く食って掛かろうとするリペインを後ろから羽交い絞めするシュウ
「にーちゃん!頼むからリッペを煽らないでくれよぉ~」
「そぉーかそ~かぁ、俺の自慢の親友は
導術の天才すらも嫉妬させるほど凄い才能を持ってるのかぁ
そりゃあ俺も鼻が高ェなぁ~」
「僕の方が凄いよ!僕の方がもっと凄いもの作れるもの!!
おじさんの親友なんて大したことないよ!!」
「そぉぉおおかなぁぁぁあああ~?
俺の親友の方がも~っと凄いもの作れると思うなぁ~あ?」
「うー!」
「にーちゃん大人げねーよ!!
っていうかリッペもこんなにキレることあるのな!?俺ビックリだよ!」
アッシュの言葉が何もかも図星だったリペインは
最後にはボロボロと涙を零し、声を殺して泣き出してしまった
フードを目深に被って顔を隠し、足元に涙の粒を落とし続けるリペインの頭を
壊れ物を扱うように優しく撫でるシュウ
「やりすぎだってばにーちゃん、容赦ねーなぁも~」
「素直に謝らんからそうなるんだ
どんな理由であれ、理不尽に人の物を壊すのは悪い事だからな」
「リッペの頭、タンコブできてんじゃん」
「お得意の導術で患部を冷やしゃいいだろうが
俺の親友はその程度息をするようにこなしてたんだがなぁ?」
ルルムスが冷却導術を使ってスイーツを冷やしていた事を思い出す
おやおやぁ?導術の天才と言われるリペインくんは出来ないのかな~?
などと煽ってみれば、リペインは
静かに涙を零しながら杖を振って頭部のコブを冷やし始めた
「こんなの、僕にだって、できるもん……」
「スゲーじゃん!流石リッペ!頼りになるぅ!」
「シュウは黙って」
「あ、ハイ……」
ぐす、と鼻をすすったリペインの顔は恥辱で赤くなっている
初めて目にした手製の魔導具の、その余りに美しい回路と
組み込まれた技術が卓越したものだった事に気付き、嫉妬した
製作者には眩しいほどの才能がある事を本能的に悟ったリペインも
過去、探求心から魔導具の開発に携わった時期があった
しかし、その余りに難解な技術から思うように開発が進まず
現存する魔導具に似たり寄ったりなものしか作り出せない事で
散々苦悩した末―――匙を投げた
アッシュの耳を飾る魔導具の存在に気付いた時、悔しくて堪らなかった
余りにも目障りで、早く視界から排除してしまいたいと苛々を募らせた
そして、やっと自らの手で破壊出来た時リペインはこの上ない幸福を感じた
結果、アッシュからの信頼を損なう事になったが
口先では謝罪しつつ、心はとても軽くなっていた
『 目障りだったものを排除できた、やっとだ
ずっと邪魔だった、ずっとだ
目障りで邪魔立てをしたんだから当然だ
僕の邪魔をしたんだから、当然だ 』
心の内でひっそりと笑みを浮かべたリペインは
殊勝な態度を心掛けながら、アッシュへと歩み寄り
子供がするような仕草で外套をつまんで引っ張り、相手の関心を引く
目論み通り顔を向けた大人に対して
媚びるような眼差しを意識し、あざとさを演出したリペインは知らなかった
アッシュが身の内に別の心と経験を持ち、その影響で
お約束と言われるシチュエーションに対して
完璧なまでに『塩対応しかしていない』事を。
「おじさん……その、お詫びに 僕が
もっと、良い 魔導具作るから 受け取って……くれる?」
リペインの容姿はイリナやユレンティアが口癖のように褒めるほど可愛い
泣きはらした目元をそのままに、潤んだ眼差しで見上げるリペインは
相手の大人が笑って頷いてくれることを確信していた
事実、アッシュはリペインの予想通りに笑って頷いた
「絶っっっ対に い ら ね ェ 」
俺のダチを散々こき下ろしたガキのプレゼントなんぞ受け取って堪るか
アッシュの言い分は実にシンプル
「大人げねー!」とツッコむシュウの台詞は空しく流れた
十二歳の子供に言い聞かせ、ゲンコツを落とし、謝罪させたにも関わらず
それでも尚ルルムスからもらった初めての贈り物を嫉妬という身勝手な動機で木っ端微塵に壊された事実が腹に据えかねたアッシュの器は
子供たちの予想を遥かに上回り、とっても小さくなっていた
同時刻――……
小竜を通じて会話の一部始終を聞いていたルルムスはまんざらでもなさそうに苦笑いし、クラウスは面白くなさそうに不貞腐れ
詳細を知りたがるフリッツとラピスに何があったのか教えてくれとせがまれた
その時のにーちゃんの顔は
笑顔なのに鬼みたいな形相だったんだぜ
と、シュウは後に
その場にいなかったイリナとユレンティアに語った。




