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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
98/145

98<不義と背信の徒~リペインという名の少年~

「王国領、セインツヴァイト……だと?」


帰宅したシュウから問答無用で飲まされた二種類の薬瓶を取り上げ

よくよく観察して底の刻印を読み上げた老人は驚愕に目を見開く

無理矢理に飲まされたばかりの薬液が口の端から零れているが

老人に気にする余裕はない


セインツヴァイト公爵領


昼の顔と夜の顔を持ち、秩序と混沌が共存する領地

闇ギルドなるものが国に黙認され暗躍を許すほどの勢力を持ち

中でも一級に分類される犯罪者の悪名は

各国に支部を置く殆どのギルドにまで轟いていた


何かにつけてギルドの定期連絡網に名を躍らせた個性の強い領地だったが

世界を終末へと導く第一の兆候が確認されて以降

王国の首都陥落と共に、真っ先に滅んだ領地であったと記憶している


今でこそ魔王の統治する領域となったが

かつての公爵領で生産された最高級回復薬……

帝国ではハイランクポーションと言われる薬を何故シュウが持っているのか

心配が先に立った老人は鬼気迫る形相でシュウの胸倉をつかんだ


「うわっ じーちゃん?!」


「これを!どこで手に入れた!?」


薬を投与されて一寸の後、カッ!!と両目を開いた老人は

心配そうに覗き込んでいたシュウの手に握られた薬瓶を視界に入れるなり

背中にバネでも仕込んでいたかと思わされるほど勢いよく起き上がり

驚くほど機敏な動きで薬瓶をひったくってじぃっと観察し始めた……かと思えば


もの凄い勢いで胸倉に掴みかかられたものだから

シュウは狼狽えながら四肢をばたつかせる


「ど、どこって……同じ冒険者のにーちゃんにもらったんだよ!

ご厚意でェ!!」


老人は尚もシュウの胸倉を拘束し続けいっそう怒鳴り声を響かせる


「ごこういぃい~?

嘘つけィ!こんなモン持ち歩いとる冒険者なんぞ

この国にはひとりもおらんわ!」


「この国の冒険者じゃねーからだよぉ!

なんなのじーちゃんめちゃくちゃ元気になってんじゃねーか!

良かったよおめでとう!!」


「ありがとうよ!この薬じゃなきゃもっと喜んどったわ!!!」


ばちこーん!と

こ気味の良い音を響かせて頬を叩かれたシュウが吹っ飛ぶ

「じーちゃん完全復活……」という辞世の句を読んで

事切れたようにガクリと地に倒れたシュウを横目に

再度薬瓶を睨み付けた老人は「こうしちゃおれん」と呟き顔を上げると

掛け布団を跳ねのけ力強く床を踏みしめ立ち上がる


「これ!いつまで死体のフリしとるんじゃ!

とっとと支度せんかいバカモン!」


「え~も~なんなんだよ?

その薬くれたにーちゃんに会いたいなら落ち合うのは夜中なんだから

それまでゆっくりしてたっていーじゃん」


「夜中ァ?んなチンタラしとられんわ!

こんなやべーモンご厚意なんぞでもらえる訳がねーじゃろ!

ちったぁ頭働かせんか!お前も準備せい!」


「駄目だってばじーちゃん

こっちにだって監視塔の襲撃騒ぎに乗じて抜け出す

って算段があんだからさ」


「なんじゃそりゃあ?!

どこのバカじゃい!そんなアホな計画立てとんのは!!」


「じーちゃん元気になり過ぎだろ」


さっきまで今にも死にそうな状態だったのに……と、ボヤくシュウは

室内をきびきびと動き回る老人の姿を見て嬉しそうに笑みを零した


身支度もほどほどに向かった先はアッシュが仮眠を取っている倉庫

なんとか人目を忍んで中に入ったシュウと老人は

奥まった場所で木箱を並べ、その上に横になった体制のまま

フードの奥からこちらを窺う黒尽くめの男を見つけて咄嗟に身構える


「あんた誰だ!」


「あー、この見た目じゃ分かんねェか」


「その声……もしかしてにーちゃん?」


「おう」


頷き起き上がったアッシュは

目深にかぶっていたフードを取り去って改めて二人に向き直る

外套の奥に見える立派な武装をチラつかせながら片膝を立てて座る姿を見たシュウは両の眼をキラキラと輝かせた


「カッケェ……」


見惚れるのも無理はない

アッシュが身に着けている武器防具は素人が見てもひと目で分かるほど

最高級品で確かな性能を備えている武具ばかりだったからだ……が、

シュウは武装だけでなくアッシュの立ち振る舞いにまで見惚れていた

顔を確認した老人の表情が先ず驚いたように目を見張り、次いで険しくなる


「お主か、とっくに滅んどる筈の国で作られとった

回復薬と中和剤を持ち込んだ厄介者は」


「てめェがシュウの言ってたギルド支部長の爺さんか

思ったより早かったな……ちゃんと荷造りはしてきたのか?」


「カッケェ……」


「こりゃバカモン!いつまで呆けとる!」


「イテェ!も~バカスカ殴んなよ!

悪ィ、にーちゃん

じーちゃんがどーしてもって言うから

約束の時間より早えーけど連れてきたんだ」


「構わねーよ、こうなるだろうと思ってたからな

それより荷造りはしたのか?かなり重要なことだぞ」


「おう!連行された時に全部没収されちまってるからこれで全部だぜ!

それよりさぁにーちゃんの装備、」


「これから大人の話があるからよ

お前は隅っこでゲームでもして遊んでろ」


「ガキ扱いすんなよォ~」


女子の目が無いからか言動の気安さが目立つ

不貞腐れながらもアッシュに放り投げれたカードの束を受け取り

素直に倉庫の奥に向かうシュウが

久々に手にした娯楽アイテムを見て嬉しそうに表情を綻ばせたのを見届けて

耳飾りの盗聴防止魔導具を作動させると歩み寄ってきた老人へと向き直った

外套の襟で口元を隠しているアッシュを睨み付けた老人が確信を口にする


「アースラム=セインツヴァイトか」


老人の言葉にアッシュは素直に驚き、目を見開いた

支部長という立場ならば他国からの通達で

公爵領での『アシュラン』の悪行が知られている可能性もあったが

まさか告げられた名が悪名高い冒険者の方ではなく

家名付きの本名であったとは……それも地元では大概悪名高いのだが。


「驚いたな、帝国にまでその名が知られているのか」


「数年前に王国から使節団が派遣された

そこで貴様の身内がとんでもねー事をやりやがったんじゃよ

以来『セインツヴァイト』は帝国……特に皇族の間では禁句になっとる」


「元身内のやらかしが原因か、流石に予想つかなかったな」


そんな事情は知りもしなかったと言うような素振りを見せるアッシュの態度に

老人は「知らないふりをしている」と判断する

使節団の件で『セインツヴァイト』という単語が有名になったのは事実だが

ギルド組織は以前からアースラム=セインツヴァイトという男を警戒していた


(闇ギルドの中心人物が、こんな場所に現れるとは……!)


老人は全神経を目の前の男へと向けた

ギルド組織上層部での共通認識は

アースラム=セインツヴァイトが闇ギルドの生みの親であり

王国のみならず列強諸国にまで闇ギルドの存在を黙認させられるほどの頭脳を持ち更には資金源にまでなっているという内容だ

国ですら裁けぬ第一級の犯罪者が目の前にいる事に

緊張しないギルド職員はいない


(僅かでも隙を見せれば喰い散らかされて殺されるわい……!)


老人の額を汗が伝う

犯罪者による施しで体の健康を取り戻したのだから

当然、見返りを要求される

不利な状況に追い込まれる前に、と先手を打つべく話を切り出した


「それよりも以前からお前さんは有名だったがのぉ

とっくの昔に廃嫡された貴族のボンボンがなんの用でここへ来た」


「廃嫡された事も知ってるなら『アシュラン』の事も知ってるだろ

依頼を受けてここに居る」


「ほお?奴隷紋の所為で領から出られんと聞いておったが

国が滅んでその制約も無効化されたか」


「なんのための揺さぶりかは知らねェが

首を押さえられてるのは理解してるんだろ?

なら、とっとと払うもの払ってもらおうか」


ぎゅ、と眉を顰めた老人は遠目に此方を窺うシュウへと視線だけを向けると

奥歯を噛みしめ、再度アッシュを睨めつける


「……何が望みじゃ」


「分かり切った事を聞きやがる

テメェが知ってるこの国の皇族の情報を洗いざらい吐いてもらうぜ

それに見合う対価を気前よく先払いしてやったんだからよ」


「よかろう、子供たちの命には代えられん

話してやるわい」


そこまで話した所でシュウが歩み寄ってきた


「なぁじーちゃん」


「お前はアッチ行っとれ」


「話はよく分かんねーけど……俺、もしかして人質だったりすんの?

にーちゃん、スゲー悪い人だったりすんの?」


(……んん??)


シュウの言葉から盗聴防止魔導具が正常に作動していない事を覚り

耳元に触れて再起動してみるが、作動音が妙に小さくなっている事から

ルルムスに充填してもらっていた導力が切れかかっている事に気が付いた


(しまった)


シュウに聞かせるつもりのない会話だったが

魔導具の効果で不明瞭ながらも話の流れを読まれたらしい

ヘタすると一戦交える事態に陥ってしまう為

背後から近づいてくるシュウの動きに警戒して

外套の下で暗器を構えた所で爺さんが声を上げた


「ガキが大人の話に首を突っ込むんじゃあねェ!!

えーから隅っこ行っとれ!」


「でもさ、」


「邪魔じゃー言うとろーが!」


「わ、分かったってば」


老人の剣幕に圧されたシュウは再び倉庫の隅っこに戻っていく

物理的な距離ができたことで安堵した老人は

一度目を伏せ傍にあった木箱に腰掛けると

先ほどまでと比べ声のトーンをかなり落とした状態で話し始めた


「ワシの知っとる事を全て話そう

じゃから、あの子にだけは手を出さんでくれ……頼む」


「それはアンタの話す内容次第だ

この期に及んで、義理立てする相手を間違えてくれるなよ?」


アッシュとしてもこの状況は本意ではなかったが

先に勘違いして話を進めた老人にノる事にした


(俺の経歴を知っている人間の印象を

変ようとする方が難しいからな)


どうせ警戒されるならトコトン悪い方へ振り切って行動した方が相手の思考も読み易い

伏せていた目をゆっくりと開けた老人は淀みなく話し始めた

帝国のギルド支部長を勤めて長かったお蔭か

最近の皇族の動きなど細かい所まで知る事が出来た


皇位継承最有力候補はビヨルタだが、彼が皇帝になれば

ギルド関係者は使い捨ての労働力として殺されるだろう事や

環境汚染が深刻で一部地域では死者が出ている事

隣国でも大気汚染の影響で健康被害が出ている事

それらの苦情に対して帝国側は知らぬ存ぜぬ関係ないの一点張りで

両国の関係が悪化しており、いつ開戦してもおかしくない状態である事

そこへ皇帝が病に倒れ、ギルド関係者の弾圧が始まり

皇城では日々皇族たちの殺し合いが行われている


(中にも外にも火種多すぎだろ)


これでよくもまぁ大炎上せずに居られるものだ

粗方話を聞き終えた所でギルドのパイプ役だった男に尋ねた事と

同じ質問を老人へとぶつける


「最後の質問だ

聖者を受け入れる可能性のある皇族は誰だと思う」


すると、それまで素直に答えていた老人の気配が変わった

目を皿のようにしてアッシュを見つめて後

何かに思い当たったような素振りで立ち上がる


「何故貴様のような輩が聖者様を語る?!」


「答えろ」


「何を企んでいる、アースラム=セインツヴァイト!!

いいや、何を考えていようとどうだっていい

貴様のような悪党が聖者様に手を出すなど大罪にも等しい!

これ以上地獄を作らせて堪るかァア!!」


「じーちゃん?!」


「シュウは下がっとれ!

コイツはギルドでも有名な王国の犯罪者じゃ!

ここで……殺さんといかん!」


隠し持っていたナイフを構えて突進してきた老人の初撃を躱し

行き違いながらくるりとターンしてそのまま大きく距離を取る

シュウが居た倉庫奥に退路はない

立ち位置が入れ替わった事で人質を取らずに済んだ事に

安堵の息を吐いたアッシュは倉庫の出入り口を背にじりりと後退した

老人の思考はアッシュを敵と認識する方向へ振り切れている


(地元でもない帝国で、ここまで目の敵にされるとは……

ギルドではどんな風に情報が伝わってるんだ?)


「さては王国を魔族どもに支配させたのも

公爵領を魔物に蹂躙させたのも貴様の仕業か!

聖者様はこの世を終末からお救い下さる尊いお方!!

貴様如き下賤な犯罪者など名を口にする事すら烏滸がましいわ!!」


わざと間合い以上の距離を取ったにも関わらず

老人は身体強化を使って一瞬で距離を詰めてきた

その軌道から獲物を抜かざるを得なくなり、鋭い金属音が倉庫内に響く


アッシュは対人戦が不得手だ

相手を殺さぬよう手加減する、などという高等技術が使えるはずもない


「くっ……!」


「ほお!狭い場所でやり合うのは苦手と見える!

ワシをただの老いぼれと思うなよ!

元はSランク冒険者じゃ!今ここで引導を渡してやるわ!!」


(Sランクつったら最上級冒険者の事か!

翼竜一匹を一人で相手できるような実力者……マジかよ!!)


手加減を考えるどころではなかった、全力でやっても敵わない相手だ

玄人のナイフさばきはすぐさまアッシュの急所を捕らえ

防御も間に合わず致命傷を避けられぬ状況に陥ったその時

二人の間に展開された術陣が老人だけを弾き飛ばし

シュウを飛び越えた老体が壁へ叩きつけられる


「じーちゃん!」


コンクリート張りだったその場所にはヒビが入り、そこから剥がれ落ちる様に地面へ落ちた老人の後を追うように

ヒビの入った中心部からコンクリート片が零れ落ちた


「じーちゃん!!しっかりしろ!」


アッシュは、老人を腕に抱えて必死に呼びかけるシュウを呆然と見つめる

何が起こったのか分からずにいたアッシュの背後で足音が響き

その音で咄嗟に身構えたシュウは

場に姿を見せた人影を目にして声を震わせた


「なん、で……なんでじーちゃんを攻撃しやがったんだ!

リッペ!!」


「シュウこそ、なんでこの人を殺そうとするようなヤツを庇ってるの」


倉庫内に新たに姿を見せたのはその身をローブに包み

片手に(ワンド)を構えたリペインだった

普段と比べて淀みない口調が際立つ

一瞬、小竜かクラウスの仕業かと思ったアッシュだったが

思わぬ人物の加勢に呆気にとられ、リペインを見下ろした


フードの奥からちらりと目線を向けたリペインは

アッシュと目が合うと嬉しそうに笑みを浮かべる


「だい 丈夫、だよ

あなたは、僕 が、守る から」


「リッペ!そいつは犯罪者だってじーちゃんが言ってたんだぞ!

ここで殺さなきゃ、いけないって!それでっ……なのに!!」


「それでも、僕 らを助けてくれた事には……変わりない、よね?

シュウ だって、お爺さんの体…治すための 薬、もらった でしょ?」


なのに、この人を殺すの?

問いかけるリペインにシュウは黙り込んで

腕の中でぐったりとしている老人を見下ろす


(俺がシュウに薬を渡す所を見てたのか?

……どこから見てやがった)


パーティの中では十二歳と一番幼いリペインは依然臨戦態勢を崩すことなく年齢にそぐわないほど冷めた目でシュウを見つめている

仲間に向けるような眼差しではない


敵を見据え、容赦なく殺そうとする目だ


身支度を整えるべく真っ先に倉庫から出て行った筈の子供が

最後に倉庫を出たシュウが薬を渡された事を知っていた

強力な攻撃系導術を使用しても疲労を見せず

慣れたように顔見知りを傷つけた点も異様過ぎる

アッシュがリペインを訝しむ中、シュウの震えた声が倉庫内に響く


「だからって、こんな風に攻撃する事」


「殺そう、と してたなら

殺される覚悟、だって……しておくべき、だよ」


「リペイン!じーちゃんによくしてもらったことだってあるのに

よくそんな事が言えるな!」


「それはそれ、これはこれ」


(容赦のない雰囲気がクラウスに似てる……)

妙~に懐かれている状況に

「いやだなぁ」と素直な感想を心の中で呟いたアッシュは

ため息を吐きながら短剣をホルダーに収め

リペインの手からひょいと杖を取り上げると

悲痛な表情で老人を見下ろすシュウへと近づく


「ほら、回復薬だ」


「……なんで、助けてくれるんだよ」


「争う気なんざねェし

お前らを国外へ連れていくって話も本当だからだ」


「じーちゃんの事、俺を盾にして脅してただろ!」


「そうしたほうが話が早かったからだよ」


「悪党じゃ!ねーのかよ!!」


「元悪党だ、今は違う」


吠えるだけで噛みつく気配のないシュウの前にしゃがむと薬瓶の栓を抜き

老人の割れた頭皮や、背中の服をまくって患部に直接薬液を振りかける

目に見える怪我はなくなったが壁に激突したショックからか

呻くだけで目覚める気配はない


「目を覚まさなかった時の為にもう一本渡しとくぞ」


「……こんな施し受けたって、信じねーぞ

俺にとっては、じーちゃんの言葉の方が大事なんだ」


「テメェが信じたいモンを信じりゃいい

何を疑われようが俺のする事は変わらねェ

俺自身が移動するついでにお前らを国外へ連れてく、それだけだ」


立ち上がろうとしたアッシュの外套を

しっかと掴んだシュウが物凄く必死な形相で見つめてくる


「なんだ?

うんこを我慢してるような顔しやがって」


「あー!もー!!いちいちカッコイイなあんたは!!

分かったよ!今度こそにーちゃんを信じる!

一度反故にして悪かったよ!!次からは絶対に考えを変えねー!」


「変えねェのは己の信念だけにしとけ」


「……」


「それ以外は状況に応じて柔軟に変えていくべきだ

考えも、立場も、付くべき相手もだ……そうしねェと生き残れねェぞ」


「にーちゃんマジでカッコ良過ぎかよ

言う事全部名言じゃん、俺なんも言えねーじゃん」


アッシュから渡されたもう一本の薬瓶を素直に受け取り

プルプルと感動に震えていたシュウは

手持無沙汰に両手指を絡ませているリペインに気が付き、アッシュがいかにも邪魔そうに手元で遊ばせている杖をじぃっと見つめる


言外に「その杖、アイツに返してやってもいいか?」

という意味を込めたあからさまなアイコンタクトにため息を零したアッシュは

手元であそばせていたそれをシュウへ向けてぞんざいに放り投げた


一・二度手元で掴み損ねつつ受け取ったシュウは

そっと老人を床に降ろして躊躇いがちにリペインに歩み寄り

言葉を痞えさせながら話しかける


「ごめんな、リッペ

先に仕掛けたのはじーちゃんだし、お前の言う事も最もだった」


差し出された杖を受け取りながらじっと見つめるリペインの目は

依然厳しいままだ


「分かって くれれば、いいよ

でも……次は、ない からね」


「こえー事言うなよ、仲間だろ」


肩を竦めて苦笑いしたシュウに

眉を顰めたリペインが更に苦言を呈する


「……たまにさ、いるんだよね

家族だから、とか 仲間だから、とか

そういう 言葉を……最もらしい理由に、して

許してもらおうとする、助けてもらおうとする……厚かましいヤツ」


「厚かましいって、そこまで言う事ないだろ」


「その、言葉は さ

許す側が……助ける側が使うから、価値が あるんだよ

許されたい側、助けられたい側が 使うものじゃ、ない」


「……

お前の言う事、時々難し過ぎて分かんねーよ」


分からないなりに「許してもらえたわけではない」と

理解したのだろうシュウが肩を落として項垂れる


(おいおい、子供のやりとりじゃねェぞアレは)


どんな生き方をすれば

たった十二歳であそこまで悟ったような発言ができるんだか。

仲直りしてハッピーエンドとはいかなかった二人に歩み寄ったアッシュは

しょぼくれたシュウの頭を豪快に撫でてやると

リペインの頭もフードの上から同じくする


「ガキは山ほど失敗するモンだ

テメェだってこれまで山ほど失敗しまくってんだろ、リペイン」


「……それは……そ う、だけど」


「その度に、正してくれたヤツが傍に居たんじゃねェのか」


「だけど、でも」


「シュウは、声はデカいが悪い奴じゃねェんだろ」


「…… うん」


コクリと頷いたリペインはシュウへと向き直り

杖を仕舞ってフードを脱ぐと、しっかりとシュウを見上げる


「許して あげるよ、シュウ」


その言葉にがばっと顔を上げて嬉しそうに破顔したシュウは

鼻を指で擦ると元気よく声を張った


「次は絶対に間違えねーから!俺!」


「バカシュウ

『正しい選択』をするってすっごく!難しいんだから

私たちが傍にいる時に限り何度だって間違っていいのよ!

相手を傷つけないこと前提でね!」


「げぇっ!ユレンティア!?

いつの間にっ」


「リッペと一緒に来たの!リッペもやり過ぎよ!

おじ様が薬を持ってたから良かったものの、イリナもいないのに

取り返しのつかない事になってたらどうするつもりだったの?!」


ばちーん、と

気持ちのいい音を響かせてリペインの後頭部をはたいたユレンティアは

両腕を胸の前で組み二人をその場に正座させて説教し始めた


タイミングを図って会話に割り込んだユレンティアのお陰で、収まる所へ収まった子供たちの様子にアッシュはひっそりと胸を撫で下ろす


(とりあえず、()()()()に対しては警戒度を上げておくか)


一時とはいえ動向を知られていたことに加え

世話になった事もある老人を躊躇なく殺そうとした冷酷さや

仲間である筈のシュウに向けられた明確な殺意は

どれだけ過酷な経験をしていたとしても

冒険者歴たかだか一年程度の子供が持ち得るものではない


ユレンティアに説教される二人の様子を眺めていたアッシュに

ちらり、と視線だけを向けたリペインが

互いの目が合うと同時に青い瞳をうっそりと細める



隙のない、まるで獲物を狙うような鋭い眼差し



先ほどフード越しに撫でてやった掌がムズムズとし始め

不快感に眉を顰めて外套の下で何度か握って開くを繰り返す


()()()()で見られる覚えはねェんだがな)


この時点でアッシュはリペインの事を


『 導術の才能がある頭の良い子供 』 だと思うのを止めた

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