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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
97/145

97<不義と背信の徒~旅は道連れ世は情け~

四人の子供たちに案内された場所は

狭く入り組んだ石段を上がってトンネルを潜った先にあった建物の間

建築ミスによってできたデッドスペースを無理やり倉庫にしたようだ

目立たない場所といい背景に溶け込む地味な見た目と言い


有体に言えば『秘密基地』といった所か


「見た目はアレだけど奥行きがあるから結構広いんだぜ」


ユレンティアとイリナが先に入り

シュウに促されて俺が入った後にリペインも続く

入って直ぐは一見するとただの狭い倉庫だが

奥へ進み荷物を退けるとその先にはシュウの言った通り

奥行きのある空間が広がっていた


イリナが導力回路に触れ室内を灯して回っている間

リペインが導術を使って扉の施錠を行っていた

施錠開錠の導術は複雑で難度の高いものであった筈

それをまだ十二歳のリペインが使っている

術式の展開もかなり速い


導師(セラヴ)として相当優秀なんだな)


「さぁて、場も整った事だしィ?!

楽しいおしゃべりと洒落込みますか!」


いつも椅子代わりにしているのだろうか

階段のように積み上げられた木箱を駆け上がり一番上に座ったシュウが

己の膝をばしっと叩いて頼もしい表情で場を仕切り始める

その様子を見上げていた俺の背後に歩み寄ったリペインに

上着の裾をくいと引っ張っられ、促されるまま目線を落とす


「あの、シュウはいつも声が大きくて……でも

耳飾りの魔導具……作動させなくても大丈夫、だよ

僕が……防音導術、展開してる から」


「導力、使い過ぎてないか?

さっき施錠もしてただろ」


「だ、だい、じょうぶ

これぐらい なんともないよ」


「そうか、教えてくれてありがとな

だがいざって時の為に導力を温存しておくのも大事だ

今は盗聴防止魔導具があるから防音に導力を使う必要はねェぞ」


「う、うん……でも、大丈夫 だから

僕、導術ぐらいしか 役に、立てないし」


足元に視線を落として自信なさそうに俯き

ぼそぼそと話す最年少の姿に庇護欲が掻き立てられる

丁度良い位置にある形のいい頭を撫でてやれば

そろりとこちらを窺い見る上目遣いの青い瞳が室内灯の光で煌めいた


「なぁに言ってるのリッペ!

私たちがこれまでどれだけ貴方に助けられたと思ってるの?

頭だっていいし、機転だって利くんだから

もっと堂々と胸を張りなさいって普段から言ってるじゃない」

「……うん」

「ユレンティアの言う通りだわ

おじ様、リペインの導術はすごいんですよ!

天才と言ってもいいくらいです!

まだ初歩の回復術と補助術しか使えない私とは

比べ物にもならない導力を持ってるんです!」

「ご、ごめんねイリナ」

「安心してリペイン、謝ってほしいわけじゃないわ

おじ様に貴方を自慢したいだけなのよ」

「……ありがとう、二人とも」

「ちぇー、お前らほんとリッペには甘いよなぁ」


俺には厳しい事言うくせに、と唇を尖らせてそっぽを向くシュウは

十七歳とは思えないほど子供っぽい

だが高校二年生だと思えばこれぐらいのものか。

スネていたシュウは俺と目が合うなりカッと頬を赤らめ咳払いする


「ン"ン"!ガキみたいな話はこの辺にしておいて、だな」

「あんた、さっきから妙~に格好付けてない?

なんでそんなトコ座ってんのよ」

「うっうるせーな!こういう時は女は黙って男を立てろっての!」

「なんですってェ?!」

「ちょ、ちょっとティア……」


微笑ましい内輪揉めだ

やりとりがフレッシュ過ぎてオッサンは肩身が狭い

ユレンティアの肩を引いて耳をそばだてたイリナが

声を潜める……が、奥行きはあれど狭い室内だ

小声とはいえ周囲に聞こえてしまうのは仕方ない


「シュウくんはさっき助けてくれたおじ様の姿に見惚れてたの

きっと良い所を見せたいのよ」


イリナの的確な補足は図星であったらしく

シュウは首から上を真っ赤にして口をぱくぱくと開閉させていた

ふぅん、と含みのある相槌の後ニヤリと人の悪い笑みを浮かべたユレンティアは手で口元を隠しながら一言


「……ぷっ ガキ」

「テッメェ!このっユレンティア!」

「さっおじ様!こんなかっこつけバカはほっといてお話始めましょっ」

「勝手に仕切んな!」

「シュウくん、これじゃあいつまでたっても話が進まないから

抑えて抑えて、ね?」

「……覚えてろよユレンティア」

「もう忘れたわよシュウ・アフマ」


木箱から飛び降りたシュウはユレンティアに詰め寄り

最終的に至近距離で睨み合う二人

それを仲裁するイリナと見守るリペイン……

仲が良さそうでなによりだ


「それで、何故帝国の冒険者全体がこんな事になってるんだ」


俺の問いに、歯をむき出してユレンティアと睨み合っていたシュウは

一瞬だけ無表情になるがすぐに眉を顰め怒りを露にする


「そこから説明を求めるって事は、にーちゃんは他国の冒険者か

わざわざこんな場所に忍び込むなんて物好きだな」

「シュウ、おじ様に当たっちゃダメよ」

「分かってるよ

話すにしても腹の立つ事ばかりだから改めて腹が立っただけだ」


四人がそれぞれ補足しながら話してくれた内容は

確かに(はらわた)が煮えくり返るような事実だった




ギルド組織の歴史はかなり長い


世界展開していた冒険者ギルドは

帝国にとって「危険視すべき外部勢力」という認識であった為

ギルド組織を受け入れたタイミングは世界的に見て一番最後。

組織を受け入れた際、帝国独自の厳しい規約まで設けられ

初めから扱いの良い立場ではなかった


受け入れ当時、帝国の規約の所為で

国の外から来た人間が国に居ついた形であった為

ギルド側でも暫くの間は帝国民を冒険者に採用する事は無く

国の外から冒険者を派遣して業務をこなす日々が続いた


酷い差別も行われ舞い込んでくる依頼内容も汚れ仕事ばかり

人身売買や犯罪じみたトラブルに巻き込まれる事など日常茶飯事

そんな現状で派遣された冒険者が長く居続けるはずもなく

人の入れ替わりの激しさが双方の歩み寄りを遠ざける原因にもなっていた


ク-デターを企てている、などという陰謀論も定期的に噴出するほど

帝国から冷遇されていたギルドであったが

国の風を気に入り、根を下ろすギルド関係者は一定数存在した

彼等の踏ん張りのお陰で臣民からギルド関係者に対する扱いは

時と共にほんの少しずつ軟化し始める


都心から離れた町や村では

真っ当に仕事に励む冒険者を見る目も暖かくなり

庶民に根付いた活動が評価される機会も増え

帝国民との関係は改善しつつあった


その内、冒険者という職種を選ぶ帝国民が増え始めた


景気の悪さと広がり始めた貧富の差も帝国民の冒険者採用を後押しし

冒険者となった帝国民が増え始めると

それを良く思わない帝国臣民との軋轢が生じた


帝国にギルドが進出して五十年ほどになるが

他国と比べるとまだまだ扱いは悪いのだ、と

ギルド支部長のじーちゃんが愚痴ってた、と沈んだ表情でシュウは語る


「俺たち四人、生まれも育ちもエヴスト区……

あ、エヴスト区って商業地区の事な

帝国で一番人が多くて活気があるトコ

……なんだけどさ、俺の家はだんだん生活が苦しくなって

金を稼がなきゃならないから冒険者になったんだ


他に働き口も無くて、選択肢なんて無かった

周りの奴らも似たり寄ったりで、でもギルド所属になったからって

帝国民である事をやめたつもりはなかったんだぜ

なのに、頭の硬い連中は事ある毎に言うんだ

『 帝国への裏切りだ!売国奴め! 』 ってな

父さんや母さんの働き口を奪った側のくせに」


「私もそう、元は下位貴族の出身だったんだけど

不況のあおりを受けて家や爵位を売った……

唯一私たち家族に仕事を与えてくれたのがギルドの人たちだったの


最初はギルドと関わるかどうか、家族みんなで悩んだわ

自分たちが差別対象になるのが嫌だったからよ

でも、ギルドに関わっていく内にそこで働いてる人の優しさに触れて

自分の方が間違ってたんだって気付いたの

だから、私の家族もギルドで働くようになったわ

元貴族でも、やっぱり周りから差別される様になっちゃったけどね


そうやって世間の冷たい風にさらされ続けた私たちだったんだけど

帝国民としての権利は変わらず行使できていたわ

どの店にも入れるし飲み食いできる、町の外にだって自由に出られたし

冒険者をやってない親しい友達とだって気兼ねなく交流できてた


けど、今から二か月……いいえ、もう三ヵ月前になるかしら

女皇帝が病に倒れたっていう知らせが帝国中を騒がせて


その頃から帝国の、ギルドに対する扱いが変わった


これまで何度も囁かれては立ち消えて、を繰り返していた『陰謀論』を

事実だと公言する皇族が現れたの

勿論、ギルドが国家転覆を謀っているなんて話は嘘っぱちよ!

でも……」


俯き、消沈するユレンティアの肩を支えて寄り添ったイレナが言葉を繋ぐ


「ギルドが明確に弾圧され始めたのは

『終末』の第一節が世界中で確認されて以降です

帝国軍が、国内全てをしらみつぶしに回って

ギルド関係者を一斉に捕らえ始めました


都心から一番遠い村や町から始まって……

最初は都心に近い場所に居る者ほどその事実を知らなかったんです

町から町への行き来が制限されて、厳しい検問が布かれて


普段通りエヴスト地区で依頼をこなしていた私たちは

何があったんだろうねって暢気に首を傾げてました

外では沢山の人たちがドゥベル地区に連行されていたのに

何も気づかなかった」


「にーちゃん、外から来たなら他の村や町の様子も知ってるよな

どんな感じだったんだ?」


「ギルド関係者は隠れて生活していたな

隠れている冒険者に好意的な町人もいた

ここまでの道中立ち寄った町で

親切な住民から身分証は隠せと忠告を受けて

軍の連中に捕まる事無くここまできた」


「運が良かったな

ギルド関係者を見つけて通報したら国から莫大な褒賞が出るって話だぜ

町から出てもそれ目当てで通報する奴がうようよしてる

ここから逃げて連れ戻された奴が話してたんだ」

「最低だわ、そいつらもここに放り込まれればいいのよ!

ここがどれほど酷い場所か身を以て知れば

逃げ出した人を通報したりなんかしないのに!」


「ここの環境が劣悪なのは入ってすぐに理解できたが……

そもそもどうしてギルド関係者が連行されるに至ったんだ?

お前らは何か聞いてないのか」


三人がシュウへと目を向けた

なんだかんだで最終決定権は最年長にあるらしい

三人の視線を受けて暫し押し黙ったシュウはちらりと俺を窺い見る


「ギルドライセンスを見せてくれ」


おっと、それは今

上空で待機してくれている小竜に預けた荷物の中だ


「今の俺は手ぶらだ、ギルドカードは仲間が持ってる」


「だったら……ギルド関係者にだけ出されてた

布告の文言を言えるか」


「ギルド関係者にだけ出されてた……?ああ、アレか

確か冒険者全員に旅支度を整えろとかいう……

なるほど、ギルドの大規模撤退が強制連行の原因か」


思い当たった俺の反応にシュウたちは安堵の表情を見せた

(やっぱりな)

最初の町で酒場に集まっていた男たちの話を

盗み聞きした時に予想した通りだった


「帝国を仕切ってる連中は随分と勝手だな

冷遇してたギルド勢力が国外に流出する事さえ嫌がるとは

土壇場になって惜しくなったか

覇権争いに利用しようにもこんな待遇じゃ

協力なんぞ得られんだろうに」


目障りだった存在が勝手に出て行くのはむしろ

帝国にとって喜ばしい事だろう

パイプ役が中立派の皇族シュテマリカを支持していたから

少なくとも覇権争いの駒として考えられているのは確実……


「おじ様の考えは少し違うわ」


「どこがだ?」


「帝国はギルドの力を()()()()んじゃない

ギルドの国外退去を国家反逆の尤もな理由に仕立て上げて

労働力として使えるだけ使い潰して()()()()()()()()()だけ」


「帝国ギルド支部の関係者は

中立派のシュテマリカ殿下を支持してるらしいじゃないか

ギルド解放を公約に掲げているという話を聞いたが、違うのか」


「皇族がギルドを解放?!あり得ねーよ!!」

「ギルドの陰謀論に疑問を呈した皇族はひとりもいなかったわ

ドゥベル地区での強制徴用も誰も反対しなかった」

「今更公約で解放なんて掲げられても、信用できませんね」

「そうやって、いつか解放されるかもって 希望を抱かせて……

僕たちを、大人しくさせよう…って 魂胆かも」

「それよ!リッペの言う通りだわ!」


「なるほど……

じゃあスラムはどうだ」


「スラム?ドゥベル地区の境目にある貧困街の事か」

「あそこは正真正銘、クズの吹き溜まりよ

犯罪者やワケ有り連中が落ちるとこまで落ちて最後に行き着くような場所

……それでも今はここより住み心地良いでしょうけどね」

「あそこに住んでるやつら、嫌い」

「リペイン……」


俯きハッキリと嫌悪を示したリペインの頭を優しく撫でるイリナ


「何かあったのか」


「リッペは導術の才脳があったばかりに

何度もスラムの連中にいいように利用されてきたの

大人たちに顔も覚えられちゃってて

私たちが活動してたエヴスト区まで来てちょっかい出してきてたのよ

だから私たちにとってスラムの奴らは敵なの!

帝国民にとっても、冒険者にとっても良い存在じゃないのは確かよ」


「……例えばだが

ギルド関係者を少しでもスラムに匿う為に

スラムの連中が監視塔を襲撃するとしたら

お前らはどうする」


「監視塔を襲撃?!」

「気は確かかよ!!」

「そんな事をされたら、警備が一層厳重になって

ここから逃げ出せる冒険者が一人もいなくなってしまうわ」

「あいつらが……冒険者を、匿うなんて

嫌な予感しか しないよ」

「善意なんか絶対に無い!悪意だわ、断言できる!

あんな連中に匿われるなんてコッチから願い下げよ!!」


やはり現場の声ってのは大事だな

国内で差別されている冒険者でさえ嫌う存在だったとは。

スラム街近くの辻馬車のじいさんも近づくのを嫌がっていた


「イリナ嬢ちゃんよ」


「はい」


「さっき、逃げ出せる冒険者がいなくなるって言ってたが

個人で勝手に逃げ出した奴らについてはなんとも思わないのか?

逃げた連中の所為で残った奴らがもっと酷い目に遭う事もあるだろ」


「え?!……え、と……うん、と……」

「おじ様、子供に対して厳しい質問をし過ぎだわ

逃げ出す人に罪はない!

残っている人たちの事まで考えていたら自分が死んでしまうもの」

「じーちゃんが言ってたぜ

『助けたいなら先ず自分が助かれ』ってな!」

「そう!それよ!ひとりでも多く生き残れば

なんとかなるかもしれないでしょう!」


「言い方が悪かったな

お前ら、脱出ルートを探して軍人に追われてたんだろ?

逃亡を画策する当事者であるお前らの心構えが知りたかっただけだ」


「おじさん……そんなものを知って、どう するの?」


不安げな目で俺を見上げるリペインの頭をポンと叩き

気休めだが無表情よりはいいだろうと笑みを作る


「ここを脱出したとして、次はどうするつもりなんだ」


「確実な脱出経路を確保する!

それで家族もここから助け出す!」


「それが成功したとして、次はどうするんだ」


「えっ」

「えと……と、とりあえず帝国の覇権争いが落ち着くまでは

国外に出て様子を見る……かしら?」


「国を出る覚悟はできてるって事だな」


「でも、帝国民であることは決して止めないわ!

沢山苦労したし、嫌な思い出もあるけど

それでもここは私たちにとっての故郷だもの」


「……そうだな」


ユレンティアの言葉で脳裏を過ぎったのは

今は見る影もないセインツヴァイトの町

あとどれくらい先になるかは分からないが

必ず俺の手で再興させる。

その時に彼女のように戻ってきたいと思っている人が

一人でも残っていればいいのだが


「……」


っと、つい物思いに耽ってしまった

じっと見つめる四人の子供の遠慮ない視線にたじろいだ俺は

コホンと咳払いをして息を整える


「出会いも一期一会、旅は道連れ世は情けってな

四人とも、助けたい連中が居るならそいつらの所へ戻って

しっかり身支度をして、夜が更けたら

誰にも見つからないようにここに連れてこい」


「……いきなり、何?どういう事?」

「にーちゃん、何かしてくれんのか」


「ここで会ったのも何かの縁だ

国外まで連れてってやる

そこから先はお前ら次第だがな」


「……」


突然の提案に三人は困惑した様子だったが

リペインだけは俺の上着の裾をしっかりと掴んで

にこりと控えめな笑みを浮かべた


「僕、信じるよ

僕は貴方に付いて行く」

「リッペ、お前……」

「うわ、リッペが笑ったの初めて見たかも」

「あの、おじ様

リペインは確かに可愛いですけど、その

見ての通り幼い子なので、あの」


「おいやめろ、誤解を招くような事を言うんじゃねェ」


「僕……うちに戻って、準備 してくる

おじさんはここに 居るの?」


「おう、お前らが集まるまでここで一休みさせてもらうぞ

ああそうそう、今夜スラム四番街近くの監視塔が襲撃されるから

その騒ぎに乗じて巧い事ここまで辿り着け」


「なによその重要情報?

おじ様の主導だったりするの?」


「いいや、俺は『襲撃に参加しないか』と

スラムの奴に声をかけられただけだ」


「……ほんとのホントに?」


「慎重になるのは構わねェが

お前らに国外逃亡の提案をする俺のメリットデメリットも考えてみろよ」


「……わかんねー」

「私も」

「見当もつきません」

「じゃ……僕、先に帰るね」

「あっ、待ってリペイン!ひとりじゃ危ないわ」

「私も行く!今夜またここで落ち合いましょうおじ様!」


リペインに釣られる様に出て行く女子二人の背を見送って

振り返ったシュウの目はとても真剣だった


「俺は……リッペみたいに頭もよくねーし

導術だって使えねーけど、あいつらは大事な仲間で

まだ組み始めてたった半年でここに放り込まれちまったけど

もう家族と同じぐらい大事な連中なんだ」


「見てりゃ分かる」


「弟分のリッペがにーちゃんを信じるって言ったのに

兄貴分の俺が信じない道理はねーよな!

俺もにーちゃんを信じるぜ!でさ、本当に国を出られたら……

その、お、俺のっ!師匠になってくんねーかな!」


「断る、さっきの軍人は不意打ちだから上手く倒せただけだ

本来の俺は対人戦には弱いし導技もそんなに使えない

誰かを教えるには不向きだ」


「そんなコトねーよ!スッゲー格好良かったし、スッゲー強そうに見えたし!」


「見てくれだけな

さぁとっとと行け、旅の準備は大事な事だ」


「……」


「なんだ、まだ何かあんのか」


「一緒に連れて行きたい人がいるんだけど

その人、歩けねーんだ」


「怪我か、病気か」


「両方」


「じゃ、見捨てるしかねーな」


「いいや、俺がおぶってく!

脚は遅くなるかもしんねーけど

それでも道中見捨てずにつれてってほしいんだ」


「……ちょっと待ってろ」


シュウを庫内に残して外に出ると一足飛びに倉庫の屋根へ飛び乗る

ハンドサインで小竜を呼び寄せ

荷物から中和剤と回復薬を一本取り出すと

待ちきれず倉庫から出て来たシュウが

辺りをキョロキョロと見まわし始めた所で目の前に着地してやった


「うひゃ!?」


「中で待ってろっつっただろ」


「や、なんかじっとしてらんなくて」


「ホレ、病気と怪我で動けねェ奴に飲ませてやれ」


「え?なにこれ」


「回復薬と中和剤」


「ふーん?薬か!

ありがとな、にーちゃん」


シュウにとっては見慣れぬ物であったらしい

ハルバードはハイランク回復薬という存在を知っているが

冒険者をしているシュウはこれを知らない……?

なにやら妙だが、俺の勘が正しければ

シュウが連れてくる人物が答えを知っているだろう


手を振って去っていくシュウを見送り

人の気配が無くなった所で不可視のままの小竜と共に倉庫へ入った

バックパックの中身を広げ武器防具の状態を確認しながら

時間をかけて完全武装を終えると一息ついて

倉庫奥の木箱を適当に並べ、その上に寝転がった

この国で購入した柔らかい鞄と服が空になったバックパックの厚みと重なり

良い感じの枕になってくれている

首元に不可視の小竜を滑り込ませると襟を撒いてフードを深く被り

本格的に眠る態勢に入った


「あ、そうだ」


ルルムスに、帝国内での内偵を中断して聖国へ戻る事を伝えなければ

あとクラウスにも移動用の翼竜とゴンドラを手配してもらおう

出来れば妖竜の不可視が通用する竜種で

こっそり姿を隠してここまで迎えに来てもらえれば手間が省けていいのだが


「礼は何を用意するべきか……」


またしても俺の我が儘でクラウスたち竜族の世話になろうとしてるんだ

しかし礼と言っても本人の希望を聞くぐらいしか思いつかない

貧相な発想しかできない自分のおつむが憎い


「クラウス、今話しても大丈夫か」


『 安易に玉体を晒さぬよう控えてくれ、アシュ 』


「……何をさらしたって?」


『 妖竜(ピクシー・ドラゴン)

  次に主の生着替えを見たら焼いて喰ってやる 』

「ピュィイ!!」


「お前、頭大丈夫か」


先ほど武具を点検しながらのんびりと着替えたが見てたのかお前

なんの得があるんだ?むしろ損しかないのでは?

四十手前のおっさんの生着替えに需要がある、と

本気で思い込んでいるらしいクラウスの頭が心配だ

竜族を統制できる力を身に着けてから

竜族経由で色々と学んでいるクラウスの成長は著しい

……著しいのは幸いだが、聊か情緒面で不安を覚える成長を遂げている


(一度竜族とのコンタクトを遮断させるべきか)


もうちょっと人間寄りの教育を施したい

教育係をしてくれているミモザ夫人に

何卒宜しくお頼み申し上げます、と念を送る


『 それで、何か必要か 』


「一度そっちに帰るからルルムスにも伝えておいてくれ

着くのは明日の明け方頃になると思う」


『 分かった 』


「送迎に関してなんだが……十数名、連れが増えたんだ

ゴンドラとそれを運べる竜を迎えに寄こしてもらえるか」


『 アシュはおれの主だ

  頼む必要は無い、命令してほしい 』


「……今回の礼をしたいんだが、何か欲しいものはあるか」


『 今よりも、もっとアシュの力になりたい 』


「そういうのじゃなくてだな」


『 もう置いてけぼりにしないでほしい 』


「……善処する」


クラウスの独り立ち計画に陰りが見えている気がしないでもない

兎にも角にも、妖竜の魔力を目印にドゥベル地区上空に

ゴンドラ付きで竜を一匹手配してくれる事になった

これで連中を国外に連れ出す算段は付いたな


監視塔襲撃と同時に軍部で行われる皇族ビヨルタの軍視察がどうなるのか

気になる所だが俺の優先順位は決まってしまったので

今回は軍施設の確認はスルーするしかない


先ほどのクラウスの物言いから

再度一人で帝国へ来ることも難しそうだ

聖者の一人、賢者であると発覚したヴィドー青年の

身辺調査を念入りにしておきたかったがそれも結局後回しになった


(……だってなぁ、あんなモン見せられたら)


例え一握りであろうとなんとかしてやりたい、と

せめて自分の手が届く範囲だけでも助けてやりたい、と

そう思ってしまうのは仕方がないじゃないか

数的に、焼け石に水にすらなっていないのは解っている

だからこそ理解した



ドゥベル地区の開放には

皇族の後ろ盾が必須である事を。



隠れているギルド関係者が言っていた通り、ドゥベル地区の惨状は

一刻も早く対処しなければならないほど差し迫っている

妖竜の視界を通してルルムスにも伝わっている筈だ

あちらに戻ったら皇城で得た情報も色々と提示してみよう

……何かの役に立てばいいのだが。

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