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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
91/145

91<不義と背信の徒~お家騒動はどこだって面倒臭い~

アシュランが男の尾行を開始した同時刻


某山某渓谷では、一匹の元素竜が

背に幾重も伸びた管を暗闇の中で明滅させ

幻想的な光景を浮かび上がらせつつ『とある作業』に勤しんでいた


体の半分を流れの緩やかな川に浸し

風が葉を揺らすざわざわとした森の音に包まれながら

時折川魚が通り過ぎる水面を無数の目玉でじっと見つめる


すると、水面を凝視する竜の眼力に呼応するように

次から次へと泡が湧き立ち

沸き立った泡はその内シャボン玉となり、水面から


ふぅわり、と


ひとつ、またひとつ宙に浮かび上がる


目玉の一つ一つがシャボン玉の動きを追い

無色透明だった膜の内側が次々と淡く色付き始め

中心に黒い球体が出現する


『 届け……届け……

  我らが王の麗しいお姿…… 』


その元素竜は、アシュランの送迎を担当した個体だった

具体的に何をしているのかというと

量産した「とある記憶媒体」を竜界隈へ広める作業である


シャボン玉の中に作り出された黒い小さな球体に閉じ込められた黒い箱は

長い時を生き続けた元素竜オリジナルの創作『魔法』

力を行使する事で周囲に及ぼす具体的な影響も

今この場に居る個体にしか分かっていない

そんな元素竜の行動を、田崎が住んでいた世界風に言うと


SNSでの個人情報拡散、という言葉が妥当であった


『 慈悲深き王は献身する我ら竜族に褒美を下された……

  他種族に恐れられるを誉れとする我らに態と怯えて見せて下さる

  心優しきお方…… 』


斯くして

アシュランの与り知らぬ所でアシュランが誰にも知られたくないと考えていた送迎中の出来事がドキュメンタリーのようにバッチリ編集された状態で拡散し、竜界隈でのみ殊更詳細に情報共有され大絶賛されるようになる、という未来が確定した


『 元素竜の腹の中で真っ青な顔をして膝を抱えて怯える王の姿は

  庇護欲をそそる程美しく儚かった 』


とか


『 いたずらに内壁を震わせた瞬間口元を両手で覆い

  小さく飛び上がったあの反射神経と鬼気迫る演技は

  何度見ても飽きない 』


とか


『 寝入った時に王の唇から現れた真白の泡には

  かの神樹の朝露をも凌駕する程の力が込められている!

  屍竜(ナイトメア・ドラゴン)氷竜(アイス・ドラゴン)は見習うべきだ!! 』

『 眠りながらもかの世界を見通すとされている白い瞳を開眼なさるとは!

  玉座にお着きになられるのが待ち遠しい! 』

『 この元素竜は何故王の御座をもっと相応しい物にしなかったのか!

  我ら竜族の怠慢、果ては忠義を疑われても不思議ではないほどだ!

  慈悲深き王の果て無き慈愛に感謝すべきだ! 』


などなど、古の王に対する絶賛

撮影した元素竜の至らなさに対する批判

それらの意見に対する賛否両論が寄せられる事になる


後に、情報が無断で拡散された事実を知ったアシュランが

極限まで表情と感情を削ぎ落し

『マッド・ドラゴン抹殺計画』を立案実行しようとするのを

クラウスが必死の形相で止めることになる……か、どうかは

今後の竜族による、主に元凶となる元素竜による甲斐性と気配り次第である






*****






二人の協力者と酒場で会い

進展のない定期報告を済ませ家に戻ったアイザックは

気落ちしたまま寝床に潜ろうと寝台の前に立った直後

室内の空気が変わった事を敏感に感じ取り肌を泡立たせる


「……誰だ」


気配はしないが、自分以外の何者かが室内に居る

長年培ってきた冒険者としての勘がアイザックにそう告げていた


「話を聞きたい」


「うっ!?」


何者かが潜んでいるとは思っていたが

まさか真正面から声がかかるとは思わず

ビクリと体を震わせ反射的に身構えてしまう


正面に居たのに気付けなかった時点で

相手の隠密性の高さと偵察能力の高さが玄人のソレだと分かる

しかし、同時に室内に潜んでいた存在が

敵と定めるには不可解な行動を取っている事にも気付き

詰めていた息を吐き出して正面の人影を注意深く睨み据えた


ぱっと見た印象では、どこにでも居そうな特徴のない体格の男

服装をつぶさに観察してみても武装しているようには見えない

そして、服装とはひどく不釣り合いな布が男の顔を覆っていた

というより、男が頭にかぶっているものは

元々この部屋に置いていた大きな布だ

目の前の男があり合わせのもので適当に顔を隠しただけと悟る

こんなにも場当たり的な行動を取る暗殺者はいない


「……」


そう判断した辺りで

アイザックは目の前の男への警戒を殆ど解いていた

窓を背にしている侵入者とドアを背にしているアイザックにとって

立ち位置が優位である事も警戒を緩めた理由のひとつだが

目立った武装が見当たらない上、私物を適当に流用されているマヌケさに

毒気を抜かれたというのが一番大きい


「酒場でのお前たちの話を小耳に挟んでな

もう少し詳しく聞きたいと思って尾行させてもらった

驚かせてすまない」


言葉遣いは冒険者らしく敬語抜きで、しかし最低限の礼儀は弁えた口調

目に見える武装は無いものの隠密には非常に優れているという

ちぐはぐな面はある為一応最低限の警戒は怠らない


「あんたは誰だ」


「俺もお前の事を知らない

ならお互い知る必要はないと思わないか」


「……何が聞きたい」


侵入者に危険な気配はない、場当たり的に顔を隠したのも

そっちの方が後腐れが無いと判断しての事だろう

ならばさっさと要件を済ませるに限る

そんなアイザックの豪気な態度に侵入者も気を良くしたのか

ほんの少し肩が下がったのが見えた


「話が早くて助かる

今、冒険者の連中やギルド職員は何処にいる」


「……『国家反逆罪』を適応されて

帝国都心部のドゥベル地区に収容されている」


「人数は」


「さぁ……家族、親類、懇意にしてた連中まで

見境なく連行されちまったからな

冒険者と職員だけでも帝国国内には一万人以上いたんだ

全部ひっくるめたらどれだけの数になるか……」


「ドゥベル地区ってのはそんな規模の人数を収容できるような場所なのか」


()()ドゥベル地区を知らない……?

という事は帝国に来たばかりの部外者か!)


「おい、あんたが何者かは知らないが

ギルド側に居る人間ならヘタな騒動は起こさないでくれよ

今は俺らが必死に上に掛け合ってるんだ

状況を悪くさせられたら、これまでしてきたことが無駄になっちまう」


「皇族の覇権争いってのはなんだ」


徹底して無駄話を省くらしい

ギルド側の事情など意に介さない矢継ぎ早な問いかけに

アイザックは不快感から顔を歪めるが

今の所知られて困るような質問はされていない為

相手を探るよりも先に答えることを優先させた


「数か月前に女皇帝が病に倒れた

今は三つの勢力がそれぞれの旗を担ぎ上げて

王位継承権を賭けて争っている」


「現時点で優勢なのは」


「強いて言えば強硬派と呼ばれてる第四皇子

ビヨルタ殿下が率いる勢力だ

優勢と言うより活動が派手だから勢いがあるように見える

もう一つは穏健派、最後に中立派だ」


「三つの勢力が拮抗してるという事か」


「最初は七派閥に分れていたが、ついこの間やっと三つまで減った

団結してるようには見えない、中身はどこの派閥もガタガタだろうよ」


「お前はどうだ」


「何?」


「お前なら、どの派閥を支持する」


「……中立派のシュテマリカ殿下だ」


「理由は」


「ギルド関係者の開放を公約に掲げている

といってもただのポーズである可能性が高いが」


「一番信用ならない派閥は」


「穏健派のヴィディア殿下だ

理由は、後ろ暗い噂が絶えず

支持してる貴族たちも民衆に好かれてはいない

吸収合併した派閥を率いてた奴らは大抵汚職や不正に手を染めている」


「最後の質問だ

今の帝国は聖者を快く受け入れると思うか」


「聖者?」


最後、と言われ

身構えたアイザックにとっては意表を突かれたような質問だった

それまでは「無関係の部外者」か、「外の冒険者」が身分を隠して

ここまで侵入してきただけの…、どちらかと言えば

自分たちの味方になり得そうな存在に思えていた目の前の人物が

途端、得体の知れないモノに見えて

引いたはずの汗が噴き出す


(何故、ここで聖者の質問を?

ただの部外者ではないのか?

こいつは何者だ?)




「 『 答えろ 』 」




(……———ッ!!)


有無を言わさぬ、強制力を感じさせる『声』だった

その声を聞くと同時に

アイザックは重いものでも背負ったかのようにその場に膝を突いてしまい

全身の毛穴が開き、指先ひとつすら満足に動かせなくなる

何が起こったのか理解しようとすらできなかった


(この『声』、には)


逆らえない、逆らってはいけない


本能でそれを理解する


問われた事に対する回答以外考えられなくなった

『声』に促されるまま震える唇を必死に動かす

嘘は言えない、欺いてはならない

そんな、言葉では言い表す事のできない何かが

アイザックの全てを支配していた


頭がとても重い、顔を上げ続けているのが酷く辛い

今すぐにでも目の前のベッドに倒れ込みたい

そんな衝動を必死に抑え、引きつる声を必死に振り絞り言の葉を紡ぐ


「う……、受け入れ、ない、と 思う

強硬派を率いるビヨルタ殿下は

が、外部の勢力が帝国に流入する事を嫌っている

数年前に外交特使が訪れた際も、帝国の

属国のような扱いをしたと問題になった事がある」


「他の派閥は」


「穏健派も中立派も、根っこは帝国至上主義だ

聖者を快く迎え入れるとは思えない

帝国に支部を置くギルドは元々奴隷に近い扱いを受けていた

地元民の理解はあったし実際の待遇は悪くは無かったが

軍属と皇室、富裕層は違った

都心部のギルドは、徹底的に、支配、されていた」


息ができない、苦しい

ヒュ、ヒュ、と喉を鳴らして胸を押さえ、とうとう前のめりになる

目の前の寝台に上半身を倒れ込ませた所で

向かい側に立っていた男の手がアイザックの背中に触れた

熱い、男の手が触れた部分が焼けるように熱く感じる

訳も分からず涙が溢れてくる

今己の身に起こっている事が一体何なのか、アイザックには分からない


「大丈夫か、悪い

無理をさせた」


気遣う声に先ほどのような異様な気配は感じない

ただただ労わるだけの言葉を受けてやっと深く息をすることができた

しかし、シーツに伏せた顔をどうしても上げる事ができない


恐ろしい

何故だかとても怖くて顔を上げる事ができない

目の前に居る男は本当に人間なのか?

突拍子もない疑問が脳裏を過ぎる


「質問に答えてくれて助かった

邪魔したな」


背中に触れていた手が離れ、男が背にしていた窓が開かれる音が聞こえる

ああ、窓から出て行くんだなと理解すると同時に

窓枠を踏みしめた音が響き

布がはためく音と共に男の気配が遠ざかった


侵入者は消えた


それが分かっていても暫くの間身動き一つ取る事ができなかった

暫しシーツの布地を見つめ、呼吸を整え

己の心音に集中し感情を凪へと導く

数分かけてやっと体を起こす事ができたが

全身の緊張が解ける気配はない、項の毛が逆立ち

あれだけ体を落ち着けようと集中したのに

まだ指先の動きがぎこちない


「一体、なんだったんだ……?」


自分はおそらく 『 威圧 』 されたのだろう


どの冒険者でもある程度導力が扱えれば

導技、導術双方で使える基本技だ

アイザック自身も威圧したりされたりする事は血の気の多い冒険者行き交うギルド内では日常茶飯事であったが

先ほどの侵入者から受けたそれは

これまでアイザックが知っていたものとは明らかに性質が異なっていた


巨大な竜に威圧され足が竦み動けなくなった事がある

過去の出来事を思い出し瞬時に先ほどの出来事と照らし合わせるが

やはり魔物から受けた威圧とも異なる、と首を振った


魔物じゃない、冒険者が身近に感じるようなものではない


もっと違う何か


恐ろしい「何か」だ


少なくとも人間業ではない

もう二度と近づきたくない、関わりたくない類の……


「まさか、あれが聖者?」


伝承でしか知らない伝説の存在が先ほどの侵入者なのであれば

本能に訴えてくるような畏れも忌避感も納得がいく

もし、本当に先ほどの人物が『聖者』と呼ばれる類のものであれば

なんと人外な力なのだろう、とアイザックは戦慄していた


人間の前に立ち、ほんの少し問うただけで

無条件に人間の首を垂れさせる

その者の知っている真実のみを語らせる


正に人外の、そして通常では相対し得ない存在


「聖者が……帝国(ここ)に来る……?」


その可能性が高い事に今更ながら気が付いて

直後とんでもない胸騒ぎを覚えた


伝承で聞く所によると、世界の終わりが始まると

『導く者』が世界中を回り、聖なる魂を宿すものを選別し集めて回る

それが『英雄』『聖女』『騎士』『賢者』『導師』という五人の聖者の事であり

人では到底太刀打ちできない力を有しているという言い伝えだ


伝承が事実ならば、言い換えれば聖者は『兵器』


権力争い真っ只中の帝国にとってはこの上なく魅力的な道具だ


(そんな連中が、ここに来る…だと?)


では、先ほどの得体のしれない男はまさか、聖者ではなく


(” 導く者 ” ……?)


アイザックは帝国生まれの帝国育ち

聖典の解釈がいくつもあるという事実を知る事無く

たった一つの解釈とその教えによって育った男が

先ほど本能で体験した言葉にできない出来事を疑う理由は無く

その思い込みは別の思惑を生み

悠長に寝ている場合ではないと急いで立ち上がると

先ほど別れたばかりの二人に会うべく家を飛び出した






*****






名も知らぬギルド関係者のお宅を突撃訪問した帰りの道中

立ち寄った鐘塔の屋根の上は

叫ぶにもってこいの絶景スポットだった


「お家騒動真っ最中かよ~

しかも最初は七つあった派閥が今や三つて……

どーせ出血大サービスとかしたんじゃないのそれぇ~

しかも第四皇子?第四って言ったよな?

第一でも第二でもなく第四が勢い乗ってて

しかも強硬派で頭張ってるとか不穏すぎない?」


人の居ない鐘塔の天辺で

ルルムスから借りた盗聴防止魔導具を作動させながら

クソデカな独り言を不満全開で叫ぶ俺は

完全に田崎寄りの言動をしている、というより


必要に迫られたが為、田崎の代弁者みたいな状態になっている


どうせ皆夕食を終えて就寝しようかという時間帯だ

町を一望できる寒々しい塔の天辺に来る物好きなどいない

今の内に思う存分不満を叫び倒してやろう


「女皇帝が通例としても帝位を継げる皇子が少なくとも四人いるとか

どんだけマンモス家族だよ?そんなに居たら

皇位継承争いで人死に出すの推奨してるようなもんだろ!

なんだよそれ!肉親同士で殺し合うのがこの国の常識なのか?

前時代的!全く以て平和じゃない!

血縁関係による骨肉の争い反対ィ!!」


ぜぇ、はぁ、と呼吸を乱しながらも力いっぱい言い切った所で

ほんの少しスっとした胸を押さえ、それでも全く晴れない表情で

夜の街を彩る小さな街灯やうっすらと見える家の灯りを眺める


田崎、こうして声を大にして主張までしたのだから

少しは頭の中で叫んでいる声のトーンを落としてくれないか……?

確かに田崎の居た法治国家な世界でも親類縁者の争いがあった

無関係な者を巻き込まない当事者同士での話だけどな


皇族の!殺し合いに!民衆を!巻き込むんじゃねェ!!

当事者同士で勝手にやって勝手に死滅しろ!!

ギルド関係者一万人!?いちまんにんって何!?バカなの?!

しかも家族も友達も関係者ってだけで連行?!バカだ!

正真正銘のバカ確定だ!!


(イカン、田崎がヒートアップして止まらない)


ルルムスに盗聴防止魔導具を借りといて本当に良かった


(……)


借りたっていうか、これは……いや、うん

今は別に思い出さなくてもいいか

蛹型盗聴防止耳飾りを片方だけ所持するに至った当時の経緯を思い出した俺は熱くなった頬を冷ますべくパタパタと手で顔を扇ぐ

いや~暑い暑い、夜風が冷たくて気持ちいいぜ


さて、田崎の事だがこのままでは俺の声が出なくなるまで叫び倒しそうだ

そして俺も幾分か同意している影響で遠慮なく引っ張られている


対するアシュランは終始冷静

田崎の主張を真っ向から淡々と否定しまくっている

無能な民草は貴族に利用されるのが当たり前

むしろそうする事になんの問題が?

上位の者に使ってもらえるだけ有り難いと思うべきだし

それが国を動かす立場の者ならば民衆が従うのは道理

存在価値を見出してやっているのだから感謝すべき

などと供述しており……


これまでも散々、立場も考えも全く異なる二人だとは思っていたが

ここまで水と油だとは思わなかった


アシュランも頼むから田崎を煽るのを止めてくれ

このままだと頭の中が喧しくて仕方がないし

とてもではないが休息が取れない

双方をなんとか宥めつつ鐘塔から降りる


宿に戻ったら荷物番をしてくれている小竜を通じてルルムスに報告だな

俺の話を聞いた上で、これほど情勢が不安定な国に

それでも来なければならないというのであれば

偵察日数を増やし、今度こそ帝国皇城内の状況を

確認しに行かなければならない


俺が想定するのはいつだって俺にとっての『最悪の事態』だ


今回の場合は聖者であるルルムスとラピスの

この国に滞在した場合にどれだけ彼らの安全を確保できるか、という

その一点に絞られる


ギルド関係者の男は体調が悪いにも関わらず

「受け入れないと思う」とハッキリと明言してくれたからな

帝国至上主義、か

縁が無いもので軍国主義とだけ知っていた所で思い至る事はできなかった

嫌な予感がしたからこうして先行偵察に赴いているワケだが。

長く独裁体制が続いた帝国であれば染まって当然の思想だ

それがどの程度のものか、見極める必要がある


宿に戻った俺は早速小竜を通じて

クラウスにルルムスを呼び出してもらった

いやに上機嫌なクラウスに「ちょっと待ってて」と言われて数分……

ん?今小竜からクラウスの声がしなかったか?

通訳通さないと竜語も理解できなかった筈だが……などと思っていれば


『 アッシュ、偵察ご苦労様です

  無茶して怪我などはしていませんか? 』


「ふォア!?」


小竜からルルムスの声が直接聞こえてきたものだから

吃驚して変な声が出た


「え?ルルムス?

おま、え?どうやってんのソレ」


『 クラウスから小竜をお借りして

  互いの小竜を通じて声を通す方法を教えてもらいました 』


「教えてもらいましたって……いやいや」


そういうのって、教えてもらっても

すぐに成功できないほど高度な技術が要求されるヤツでは?

しかも俺の方は特に何もしてないんだが?

そっちでなんやかんやちょめちょめして出来るようになった的な?


(……)


教えてもらっただけですぐ出来るようになるって、お前凄すぎない?

しかしクラウスよくやった!遠く離れていても

ルルムスと直接話せる手段があるのは非常に都合がいい

携帯電話でもあればもっと便利なんだけどなぁ

文明の利器が恋しい


『 何やら今日は午後からずっと機嫌が良かったようで……

  見慣れない黒真珠のような耳飾りもしていましたし

  貴方が傍にいないのにあんなに上機嫌なのは気味が悪…おっと 』


「どうした?」


『 クラウスの悪口を言ったと判断されたようで、小竜に噛まれ 』


「おいそっちの小竜

ルルムス傷つけたらタダじゃおかねェぞゴルァ」


『 ……ああ、いえ、噛まれそうになっただけですから

  貴方の威圧は小竜にとっては洒落にならないようなので

  怒るのはその辺にしておいてあげて下さい 』


「お前が怪我してないならそれでいい

ところで早速報告したいんだが、構わないか?

それとも連絡する時間を決めといた方がいいか?」


『 いいえ、私も今の貴方のように

  常に小竜を肩に置いて構わないとクラウスから許可をもらったので

  伝えることがあればその都度時間を気にせず教えて下さい 』


理由は分からないが今のクラウスは本当に機嫌が良いらしい

まさかルルムスに小竜を預けるばかりかそれを使役する事を許すとは。


「今の状況でクラウスには聞こえてるのか?」


『 傍に居ますから聞こえていますよ

  都合が悪いのであれば聞かないよう配慮してもらいますが 』


「いや、丁度良いから一緒に聞いてくれ」


そうして現時点で分かった事を伝え終えるとルルムスは暫し押し黙った

この様子だと即断即決とはいかないか

一旦就寝を挟んで明日の朝改めて連絡しよう、と

提案すべく口を開いた所でルルムスの声が先に届く


『 それでも、向かわない訳にはいきません

  聖者のひとりでもある『賢者』が、既に覚醒した状態で

  帝国国内で生活している可能性が高いので 』


……そういう理由なら

情勢が不安定だろうと、歓迎されるどころか

成体兵器として利用される可能性が高かろうと

ここに来ない訳にはいかないよな。


つくづく思う

せめて女皇帝が病に倒れるタイミングがあと数か月遅かったなら、と。


兎に角、先行してこの国を訪れた俺がすべき事は大体定まった

覇権争いに巻き込まれる事必至であろうこの国で

ルルムスたちの安全を確保すべく色々と先手を打っておかなければ。

最低でも緊急時の逃走手段だけは確保しておきたい


「分かった

俺はこのまま帝国都心に向かって

お前らが来るまでに皇室の現状を出来る限り把握しておく

ギルド上部会に顔が利く奴から聞いたといっても

内容の殆どが裏取りできてない情報だからな」


『 ええ、宜しくお願いします 』


「賢者とやらが実は皇族のひとりだった、なんて

お約束な事態が起こらないとも限らねェし」


『 そういう事は、口にすると現実になるのでは?

  私としてはそちらの方が国ごと扱い易くてありがたいのですが 』


エスティール聖国みたいに。

とかいう言葉が聞こえてきた気がして寒気を覚える


「ルルムス……お前、実は魔王じゃないのか?

魔王ルルムス」


『 ……

  …… ……

  今の一言で貴方が普段から私の事を

  どう思っていらっしゃるのかがよく分かりました

  前回の件で懲りていらっしゃらないようですね、アッシュ 』


「いや、嘘、冗談だ、うん」


『 実は貴方にずっと隠していたことがあるんですが、 』


「冗談だって、ごめんて」


『 貴方は古の王で、この世界を滅ぼす元凶の―― 』


「ごめんてェ!不謹慎な事言ってすみませんでしたっ!!

美味しい串焼き用意して待ってるからゆるして!」


『 帝国の串焼きは美味しいのですか? 』


「そりゃもう!そっちで食べたヤツに

負けないぐらい美味(うま)かった!」


と、言えるような串焼きを帝国内で早急に見つけ出さなければならない緊急ミッションが追加された瞬間だった

見つけられなかったら俺が手作りして振舞おう

誠心誠意心を込めて謝ればきっと許してくれるはずだ


『 それは楽しみですね、ところでアッシュ 』


「……なんだよ」


『 貴方が古の王だという先ほどの話

  実は本当だと言ったらどうします? 』


アカン……ルルムスめっちゃ怒っとるがな……

やられたら倍返しだ!を地で行く天晴な男に

お尻もツルツルになる心境に駆られる

すぐに謝れば茶化しても笑って許してもらえるよね!?

とかいう俺の予測は楽観しすぎていたと言わざるを得ない


あんなにルルムスをいじらないと誓ったのにどうしていじったんだ俺。

なんで我慢できなかったんだ俺。そんな心の問いかけに

「だって、アッシュはいい歳してウェルカム型パリピ特化コミュ症患ってるし

友達同士のフランクな会話に飢えてたんだもん、いい歳して」

と、田崎が代わりに答えてくれた。ありがとうこの野郎黙ってろ


「自決、ずるじか、な"い……」


気持ちハラハラと頭を禿げ上がらせながらめそりとべそかきつつ

初めて出来た友に永遠の別れを告げる気持ちで

鳥の首を絞めたような声色で答えると

小竜から聞こえてきたのは控えめな笑い声


『 フフッ……くっふふふ……冗談ですよ

  そんなに死にそうな声で仰らなくても……ふっフフ 』


「いっそ盛大に笑えや……お前が楽しそうで何よりだよ、もう

頼むから冗談を返してくれるならもっと軽めにしてくれ」


『 加減が下手ですみません

  私自身、ここまで親しく話せる友人を持ったのは初めてなもので

  こういうやり取りが出来るとつい浮かれてしまうようです 』


(……)


そうか、ルルムスでも浮かれることがあるのか

その割には、やらかした後のフォローが巧すぎるというか

人を持ち上げるのが上手なんだよなぁ

先ほどまでルルムスの怒りを鎮める方法が分からず

本気で死にそうな気分になってたのに

ちょっとした一言で立ち直ってる俺が単純なだけなのかもしれない


(ルルムスが珍しく声出して笑ってくれたから、よしとするか)


通信を終えた俺は小竜にお疲れと労って布団に入る

直ぐに寝付けそうな気配に、先ほどのやり取りを思い出して

つい笑みを浮かべてしまった


寝る前に遠くに居るダチと電話するみたいに駄弁ってしまった

これだよこれ、俺が求めてやまなかった気安いやり取り!

「そろそろ寝るわ」「はい、おやすみなさい」という流れるような挨拶!


(あ~~~~~!平~~~和~~~~!!!)


最高に幸せだ

アシュランの罪を償ったらこんな毎日を堪能したい


(田崎!アシュラン!羨ましかろうフハハハハ!)


今ならお前らがどれだけ騒いでも全く気にならないな!

ハンカチ噛みしめて素直にギリィ…!する事で

珍しく空気を読んでくれてる田崎と

理解できない生き物でも見るような眼差しを向けるアシュランへ

存分に勝ち誇った笑みを浮かべる


今日は絶対にいい夢が見られる、そう確信した俺は

より一層その身を布団で包み込むのだった

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