表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
9/145

9<昼のギルドと曰く付きの依頼

初めてできた友人と初めてのお茶を楽しんで

神殿を出た頃には時間は正午に差し掛かっていた

上機嫌で出ていく地味ファッションな俺の姿を

すれ違った神官全員が二度見三度見していた


お昼時である


ギルドで簡単な依頼を受けるついでに可能であれば食事したい

ルルムスからは、少なくとも半月は冒険者稼業を休んだ方がいいと言われたが流石に二週間ものんべんだらりと過ごすのも間違っている気がする

小さくてもいいから何か目的を持って行動しておきたいと思う辺り

これはフリーター生活だった田崎ではなく

常にフルアクティブで精力的に悪事を働いていたアシュランの気質が影響してるのだろう、元から仕事人間の気があったのかもしれないな


……仕事するのが好きなくせに勘当されたなんて、つくづく残念な男だ


まだ暫く本調子でない手は有難い事に『腕の良い治癒師』が治療してくれたので日常生活では支障がない分、軽めの依頼ならこなせそうだと判断してのギルド来訪だ

神経が傷ついてたといっても『腕の良い治癒師』が治療してくれたからな

だからすぐにでも軽い仕事とかこなせちゃうんだぞ

『腕の良い治癒師』は時期教皇候補だからな、とても優秀なんだぞ


(アシュランの友人第一号かぁ)


誰かに自慢したいなぁ、ふふふ


……


やめとこう。


現実に立ち返ったら浮かれてた頭が一瞬で冷静になった

ルルムスは俺の友人だぞ、なんて考え無しに触れ回ってみろ

そんな事をしたら大型航空機がブラックボックスに阿鼻叫喚を詰め込み最大高度からフルスロットルで真っ逆さまに地面に向かってめり込むが如く神殿の信用が失墜するだろうが。余りにも潔すぎるパイロットのセルフテロにハイジャック犯も顔面蒼白だわいい加減にしろ。


イカンイカン、友人ができたことで気を抜いてしまった

これから入ろうとしている建物は冒険者ギルド、荒くれものたちの集まる場所だ

隙を見せたら好き放題食い散らかされて即お陀仏になる


入口前で立ち止まり、少しだけ呼吸を整える


緊張感をもってギルドに足を踏み入れるとすぐに食欲をそそる匂いが漂ってきた

昼間にここを訪れたのは何年ぶりだろう

お昼時な事もあり一階で酒場を経営しているギルド施設内はとても賑わっている

見渡しても特に俺に興味を示してくる人も居らず

楽しそうに食事をしている人ばかりだ

夜と違って入って来た者に対してのっけから至近距離でメンチ切ってくる奴もいない……ここは本当に俺の知っているギルドなのか?

懐疑的になりつつ今まで寄り付かなかった食堂の厨房に向かい、注文の邪魔にならぬよう隅に移動しながら食事の受け渡し口近くに張り出されているメニューを覗きこんだ


ここでは依頼で討伐された魔獣や獣が料理として出されている

メニューは豊富だが俺は一度もここで提供されている食事を口にしたことが無かった。作り手の手元が見えない厨房から出される食べ物を警戒していたというのもあるが、一番の理由は貧乏で汚いと差別していた冒険者連中と同じ釜の飯を食べたくないというものだった。アシュランは色んな方面で差別意識持ってたからなぁ。


というわけでここ、ギルドでも俺はとんでもなく煙たがられる存在となっている

二階の依頼受付では受付嬢に暴力を振るったこともあった

とあるパーティをカモに賭け事で有り金巻き上げたり

ホール内で大乱闘したこともあったかなぁ……というか、つい数日前に

受付の女の子の顔を加減せず殴り飛ばした記憶が。


(いやもうホント俺、今死ねすぐ死ね塵も残さず爆散しろ)


脳内舞台でリプレイされた俺のクズ極まりない所業の数々に

観客席を埋め尽くした全俺がRPG構えてスタンディングオベーションだ

拍手の代わりに惜しみなくトリガーを引いてやろう


暴力を振るってしまった女の子は日も浅い新人だった

夜は治安最悪で立ち寄る連中もロクでもなかったけど

俺がここに通うようになって夜に女性が受付をしている事は殆どなくなったが今でもたまーに夜に女の子が受付してる事がある。それが気の弱そうな女の子だったら速攻でマウント取りに行ってた過去の俺


今まで傷つけた女の子全員に袋叩きにされるべきでは?

いっそ去勢したほうがいいよ。アシュランは男を捨てて謝罪すべきだ

そうなると切られるのは俺になるんだが。

田崎の部分が納得できてない、やっぱり「なんで俺が」って思ってる


今後も数えきれないほどあるんだろうな

二つの主張が怒鳴りつけ合うようなこの葛藤

どちらの主張も俺である事には変わりないのに


神殿ではクリストファー神官の手前誤魔化してしまったが

ここでは依頼を受諾する際にギルド証明書を提示して身元を明らかにせねばならない。つまりどんな言動をしても誤魔化しは利かない

依頼を受ける過程でどんなリアクションをされるのか今から戦々恐々だが

どうせなら依頼を受ける前に一般客を装ってここで食事してみたいなぁ


(……いや、止めておこう)


アシュランだと知れたとして今の無関心ぶり全てが塩対応になってもそれはこれまでの自分の行いの所為だ。一階の酒場を利用するのはこの格好の俺が周囲に浸透してからのほうがいい

服装に関してルルムスからは”変わっている”と言いかけたのを

俺に気遣ってわざわざ言い直してくれて「奇抜」という評価を受けたが

最後にはちゃんと「似合っている」と言ってくれたから自信が持てる


俺がそう言ってほしいのを解ったうえで焦らし、会話の最後で言う意地の悪さを鑑みるにルルムスは多分隠れサディストだな、そうに違いない


そもそも俺のファッションセンスが奇抜だという評価を受けるのはある意味必然で仕方のないことだ、なにしろこの世界の生活水準では計り知れないほど文明が進んだ世界基準の着こなしだからな!

このゆるっとファッションだって田崎世界じゃ一時はトレンドだったんだぞ!ドヤ!

なんて、とりとめのない事を考えて一階酒場の美味しそうな匂いを堪能しつつ

体に負担のかからない簡単な依頼をこなすべく受付のある二階へ向かう


昼間の二階は日の光が室内隅々まで包み込んでおり

とても明るく掃除も行き届いている。

空気も雰囲気もギスギスした夜の雰囲気とは違い随分と活気に溢れていた

俺の知っているギルド内の雰囲気と余りにも違いすぎて拍子抜けする


(訪れる冒険者層が異なるんだから当然か)


装備している防具に傷や汚れなどひとつもないピッカピカな新米冒険者の姿も多く、ベテランの先輩に色々と話を聞いている微笑ましい様子が数か所で見受けられる

夜だったら絶対に見られないぞこんな優しい光景

気を抜けば食い散らかされると思っていたが

そこまで緊張する必要はなかったようだ


「初めての方ですか~?

はいはーい!こっちですよー!こちらへどうぞ~!」


……何という事だ

この施設においていまだかつてこんなにも友好的に

声をかけてもらったことがあっただろうか、いや無い。

しかも可愛らしい女の子の声だ、きゃっきゃしてる

声だけで既に癒し以外の何物でもない


優しく声をかけられた時点で俺の罪過(ざいか)ポイントが容赦なく加算されていく

ピピピピピって音立てながら凄い勢いで数字が増えていく

階段を上り切ったその場で、夜と違ってあまりにもほのぼのした光景だったものだからぼんやりと眺め過ぎたのが悪かったか。昼間の受付がこんなにも仕事しいだった事も想定外だった。

だって夜の受付連中、自分からは全く仕事しないんだぞ?

夜の受付全員男が殆どなのに対して昼間は女の子オンリー


この落差、酷過ぎない?


いや、夜利用の冒険者が荒くれ過ぎるのが原因なのは分かってるけどさ

そうなる片棒を担いでる俺が言えたことじゃないけどさ!


きっとこの領地のギルドはどの初心者にも

「夜は決してここに来ちゃ駄目ですよ!」とか

注意喚起してるんだろうなぁ、うん、正しいよそれは。

俺だって昼と夜のあまりの違いにビックリしてるもの

なんなのこの「昼の顔」「夜の顔」状態

こんなに穏やかで微笑ましいギルド二階、二十年近く通って初めて見たよ


気を利かせて声をかけてくれた女の子の方には

「声掛けは結構」の意を示すべく片手を軽く上げて制するジャスチャーをした後

ホールの冒険者たちの間を通り過ぎて

一番奥に依頼が張り出されたボードへ向かう


『階段を上がってすぐ』の壁一面にも依頼書が張り出されるが

内容は殆どが魔物討伐系の、ベテラン向けに高難度なものが多い

当然報酬もケタ違いだ


変わって『ホールの一番奥』に張り出される依頼は

危険度が殆どない、いわゆる初心者向けのもの


そして『ホール中央の柱』に張り出されているのが中堅冒険者向けの若干危険度の高い難易度のものとなっている

つまり、俺が向かった一番奥のボードは初心者向けの簡単な依頼だ

その行動から俺の事は年の行った新米だとでも思われたのか

チラチラと気づかわし気に向けられる視線

下ろしたて装備の多い冒険者に紛れ込むのは身長的な意味で頭三つぐらい抜きん出ているゆるっとした服装の地味な一般人風男


ボードの位置が低い所為でやや猫背である


「オッサン初めて見る顏だな!

冒険者登録は済んだのか?まだだったらあっちの受付でできるぜ!」


……何という事だ

この施設においていまだかつてこんなにも友好的に(以下省略)


冒険者になってちょっとこなれてきた感のある少年がにこやかに声をかけてきた

その少年にも「声掛けは結構」の意を示すべく

片手を軽く上げて制するジャスチャーをして張り出された依頼を吟味する

声をかけてくれた少年は不満そうな顔をしたが直ぐに別の事に気を逸らした

反対側に居た少女が元気な独り言で宣言する


「あたし薬草採取にする!草には詳しいんだぁ」


周囲に連れが居るわけでもないのに一人自慢してる少女、かわええなぁ


「薬草知ってんのか?スゲー

おれ全然わかんねーよ」


知り合いでもなさそうなのに女の子を褒める少年、かわええなぁ

こういう出会いがパーティ組んだり恋愛に発展したりするんだろうな


「僕はこっちの清掃にしよう」

「ネズミ退治かー、苦手なんだよね、ネズミ……」

「ドブさらいは臭いからイヤ~」

「文句言うなよ、こういう事からコツコツやってくんだぞ!」


周囲に居る少年少女が眩しい、存在感からして色々眩しい

汚れ切った大人の居心地の悪さよ。子供に交じると自分の年齢を痛感するな

このままここに居たらギルド出る頃には還暦迎えてるんじゃないか?

あまり老け込みたくないので現在のブースからは早々に逃げ出したい気分に駆られるがとりあえず良い物件は逃したくないので端から端まで依頼を読む


(うぬぅ……)


危険度のない依頼なら受けられそうなものもすぐに見つかるかと思ったが

そうでもないらしい、どれも何気に肉体労働が多く

体に負担がかかってしまう内容ばかりだ


初心者用ボードから離れて今度は中央の柱へ

そこそこに場数を踏んだ冒険者に紛れるのは

ゆるっとした服装の地味な一般人風無精髭男。

昼時が関係しているのか食事を終えて依頼を受けようとする者が多いのかは分からないが一階から上がってくる人数が増えつつある

ホールのテーブル席はあと少しで満席になりそうだ


人込みは好きではない

これ以上人でごった返す前にさっさと依頼を受けて出なければ。

手軽に店番の代わりとかあれば良いんだが

文字の読み書きが出来ない前提の冒険者ではそもそも金勘定

もとい信頼に関わる仕事は滅多に回ってこない

今の俺なら誠心誠意勤め上げられるんだが無理だろうな

アシュランは信頼そのものと無縁だから。


「おう、兄ちゃん

見ない顔だがなんの依頼探してんだ?

張り出されてない依頼もあるから受付に聞いてみろよ」


……何という事だ、本日三度目だぞ


昼間の冒険者ギルド善良過ぎだろ、夜とは別世界が過ぎる

善意のアドバイスに感謝の念を込めて小さく会釈しつつも一応は張り出されたものに一通り目を通す、受付に問い合わせて分かる依頼があるのは知っているがそれは基本「信用」重視であったり指名依頼のものが多い

なので信用が底辺を貫いているアシュランが受けられないのは分かっている

問い合わせるだけ無駄だ

逆に、張り出されている依頼は「引き受ける冒険者を問わない」が大前提なのは勿論の事「緊急」の内容が多かったりする。階段を上がってすぐの壁に張られているベテラン向けは危険度だけでなく差し迫ったのものも多い

だからその分報酬も多い……が、違約金も高い


柱にも条件の良い依頼は無かった

仕方ない、階段すぐの壁の依頼を見てみるか

それでも見つからなければ今日の依頼は諦めて買い物して塒に戻ろう

ホールを行き交う人の間をぬって階段傍まで歩み寄った所で

受付から声が上がった


「はーい皆さん注目でーす!緊急で高額依頼が来ましたよー!

報酬はなんと金貨百枚!」


その声に場に居た冒険者の半分ほどが沸き立つが

もう半分は事情が分かった風な雰囲気で我関せずとそっけない態度

へぇ、昼間ってこういう依頼の出し方もしてるのか

金貨百枚は非常に魅力的だな、どういう内容だろうか


「依頼内容は古文書の転写!」


その言葉に殆どの冒険者が落胆の声を上げた

我関せずだった連中は「ホラな」とばかりに肩を竦めている

そりゃ落胆もするわ、冒険者の殆どが読み書き計算ができないんだから

受ける以前に大量に(ふる)いにかけられる内容の依頼だが

俺なら古文書ぐらいさらっと読めるし転写も楽勝だ

割も良いし折角だから受けてみ……



「依頼は当領地公爵邸にお住いの貴族様からでーす!」



も と 実 家 か よ !!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ