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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
89/145

89<不義と背信の徒~狂竜の送迎と黒い海~

宮殿の一室で完全武装を終えたアシュランを見送ったラピスは

気配が遠ざかっても名残惜しむように閉ざされた扉を見つめていた

徐に胸の前で両手を組み、両目を閉じて祈り始める


「どうか、アッシュ様が

無事にお戻りになられますように」


そうして清廉な雰囲気を装いつつも

想い人の姿を思い浮かべた心の中ではこうも思っていた


(ふわっとしたアッシュ様もお優しそうで素敵だけれど

戦装束のアッシュ様も凛としてて素敵……!

出て来た時にコートをバサって広げて身につけた仕草がまるで王子様のようで格好良かった!難しいお仕事なのに率先してこなそうとするお姿格好良かった!ご自分のお力を冷静に加味して時には信頼する仲間をこの場に留めようと説得するご様子も格好良かった……!!)


感動に打ち震えるラピスは上がりそうになる口角を必死に押し留める

しかし残念なことに目じりと眉と顎の角度が隠しきれていない為

正面から見られてしまえば嬉しそうなのは一目瞭然

その姿を田崎が目にしていたなら「ニヨニヨ」という効果音を

付け足していたであろう顔の緩み具合であった


「そうしてると益々聖女っぽいなぁ」


今、正に聖女にあるまじき恋する乙女の表情をしているラピスだが

背中を眺めるフリッツは気付かない

ルルムスとクラウスはそもそも相手の心を読む事ができる為

わざわざ顔を見ずともラピスがアシュランを心配する半面

やや陶酔気味である事など(はな)からお見通しである


人類の仇敵でもある古の王を心密かに大絶賛する聖女の姿に

ルルムスはなんとも言えない表情を浮かべるが

クラウスは己の主人の見目を褒められているので気分が良い

ほのぼのとした空気が漂う中、ルルムスは

アシュラン不在の間にしておかねばならない予定を頭の中で組み上げていく


このタイミングでアシュランが一時離脱した事は

実の所、ルルムスにとって非常に都合が良かった


古の王である彼の立場上

本来であれば単独行動させるのは望ましくないのだが

これから済ませなければならない聖女の役目を考えると

古の王には極力別行動を取ってもらった方が聖者側にとっては安全だ


それを周囲に悟られぬよう

特に、己と同じ『看破』の能力を持ったクラウスに

考えを読み取られぬよう一層心の防壁に気を配る


(あとは然るべき時に竜帝を遠ざけるだけだ)


アシュランが偵察から戻ってくる前に

ラピスによる、聖女の力を用いた混沌の神器(ケイオス・コード)…『預言顔(プロフェイス)』の浄化を

なんとしても終わらせなければ。


「……クラウス、アッシュに小竜は付けたのですか」


「当然だ、アシュから貴様らに伝言がある

『帝国土産を期待していろ』との事だ

慈悲深き我が主が直々に」


愚かな貴様らに下賜(かし)して下さるのだ

畏れ、敬い、天上を崇めるが如き有り難みを以て賜るがよい!

という仰々しい台詞に被せて両手を叩き喜ぶラピスは

クラウスの後半の言葉を全く聞かずに喜び髪の毛先をジャンプさせる


「わぁ!それはとても楽しみですね!

でも貴重なお時間を割いて頂くのも申し訳ないので

クラウス様!お土産の為に無理はしないでとお伝えください!」


「ラピス貴様、今おれの言葉を遮っ」


「変に寄り道などされては余計に心配になってしまうのですが」


「……」


「帝国土産かぁ~どんなのがあるんだろうな?

俺たち王国出身は帝国とは距離もあるし交流が無かったから

教本に載ってる基本的な国色以外知らないんだよなぁ

ラピスちゃんはルベルタ帝国について何か知ってるか?

国を二つ跨いでるとはいえ位置的には海を隔てたお隣だろ」


「……」


「私も学園で習った以上の事は知らないんです

海を隔てたお隣とはいえ海路での交易は行われてはいませんし」


「交易が無い?勿体ないなぁ

海と言えばそれこそ貿易の宝庫だろ」


「エスティール聖国とルベルタ帝国間の海域は

海流が激しいので船舶での航行は不可能だと授業で習いました

それに、元々聖国と帝国はあまり仲が良くないと聞いたこともあります

理由までは分かりませんが……


プラムになって以降は神殿に詰めていたので

ここ最近の世情に関しては殆ど知らないんです

お役に立てなくてごめんなさい」


「問題ありませんよ

ラピスのそういった事情もアッシュならば既に織り込み済みでしょう

我々全員、帝国に関する知識が乏しいと知っていたからこそ

彼がそれを確認しに行く役目を担ってくれたのですから……

それにしても、意外でしたね」


立て続けに言動をスルーされ、不貞腐れてあさっての方角に顔を背けるクラウスの横で

突然含みのある言葉を向けられたフリッツは

じっと見据えてくるルルムスに何事かとたじろぐ


「なんだよ?」


「彼を主人と仰いでいるのに

あれほどあっさりと別行動を受け入れるとは」


「ああ、なんだそんな事か

それはアイツの偵察能力がズバ抜けて高いのを知ってるからだよ」


フリッツが思い出すのはアシュランに道案内の依頼をした日の出来事

他領冒険者の依頼内容をなんの説明も無しに独自のルートで把握した上

盗賊の内情と騎士隊と俺らの不和を細かく分析して

挙句依頼者の裏取りまでたった一日でこなした

その道のプロと判断して差し支えないレベルの冒険者だ


「潜入や諜報面でも相当熟達した技術を持ってる

足手まといになると分かりきってて

無理に付いて行くような厄介者になる気はないよ」


ただでさえ性格に難有りっていう評価されてるからな、と

落ち込んだ様子で呟くフリッツにルルムスはなるほどと頷く


「ではフリードリヒ、私はこれからラピスと午後の授業に入るので

クラウスと共に待機していて下さい

用事があればその都度呼び出します

基本的にはお二人とも自由行動で構いません

ただ、町に降りる時や外泊の際は一声かけていって下さいね」


「分かった

アッシュはまだ宮内が『キナ臭い』って言ってたからな

俺はそっち方面を警戒しておく

クラウスはどうするんだ?」


「黙れ人間、(くび)り殺すぞ」


ご機嫌斜めである。

しかし二人は全く気にすることなくクラウスへ声をかけた


「アッシュに何かあったら教えてくれよ

頼りにしてるぜ、偉大なる主の『側近』!」


「そうですね!アッシュ様の支えになれる事でしたら

私も全力で助力させていただきますから

なんでも仰って下さい、『側近』のクラウス様!」


「……貴様ら二人はよく分かっているではないか

いいだろう、我が主に何かあれば特別に貴様らには教えてやるとしよう」


(つまり私には一切情報は教えないという事だな)


ルルムスは静かにため息を吐く

しかしお互いの立ち位置を理解しているクラウスの事だ

本当に大事な事は必ず私の耳にも入るよう取り計らうだろう、と

さして心配する事は無かった


フリッツは多少意図的であろうが

ラピスはただただ純粋な気持ちで言ってるのだろう

二人の持ち上げっぷりにころりと機嫌を直したクラウスは

再びふんぞり返って偉そうに宣っている


アシュランが絡むと途端にお手軽になる竜帝の姿に

ルルムスは呆れ果てた眼差しを向けた




昼間のアシュランによる威嚇がよほど効いたのか

これまでは数名の神官が常にラピスに張り付いていたが

午後の授業が始まっても姿を見せることは無かった


これ幸いとばかりに室内に結界を張り

予定のなかったフリッツに扉の外の警備を任せ

ラピスとマンツーマンで授業に臨む

クラウスはアシュランの差し入れを堪能して以降所在不明

大方宮殿内をほっつき歩いて適当に情報収集でもしているか

どこか人気のない場所で食後の昼寝でも――……


(否、このタイミングだと

もしかしたら)


思考を巡らせたルルムスは

昨日の続きから受講すべく意気込んで席に付いたラピスの手元で

開かれたばかりの教本を片手で閉じる


「ルルムス様?」


不可解な行動に目を丸くして顔を上げたラピスは

己をじっと見下ろす真剣な様子を目の当たりにして

即座に姿勢を正して表情を引き締めた

話を聞く態勢が整った少女を前に僅かに表情を緩めたルルムスは

そのまま結界内をゆっくりと歩き出す


カツ


コツ


と、間隔を開けて床を踏み鳴らす音が時間の経過を一層意識させる

緊張を走らせた聖女は一層気を張って、導師が話し始めるのを待った


「———ラピス、聖女の役割とはなんですか」


「はい、ルルムス様

聖女のお役目は終わりゆく世界の不浄を祓う事です」


「その通り、貴方の役目は 『 不浄を祓う 』

この一点のみに絞られます

それが『聖女』を継承した貴方の責務であり義務でもある」


「心得ております、導師様」


「聖者の立場に優劣は有りません、故に敬称は不要

聖者として相対する際は私の事も『導師』とお呼びなさい」


「分かりました、導師」


「結構

聖者はどの国でも通常であれば国賓として扱われますが

聖者同士は常に対等であり平等

つまり、人類代表である我々より上の位を持つ者は存在しません


今後訪れるであろう公の場であっても

年齢や経験に臆することなく聖者の一人として意見を言い

己を主張する事を心掛けなさい

侮られ、弱所を突かれ、一度でも使われでもすれば

政者どもは直ぐにでも貴方の立場を利用するでしょう」


「……身を以て思い知っている所です」


ラピスは公式に聖女である事を認められて以降

神殿の者たちに事ある毎に干渉され、自由を制限されている

本来であればそのような事態には決して陥る事は無いのだが

押しに弱く、控えめな気質だったラピスは

周囲に言われるがままに動いてしまう事が多い

元がプラムで初めから宮内の者たちに侮られていたのも原因であった


「すぐに対応を改めるのは難しいでしょう、ですがそれを自覚し

理解できているのなら今後の立ち振る舞いは問題ありません

守られるばかりの存在になりたくないという意思があるのなら

第一歩として神殿勢力を掌握するという課題は

貴方にとって良い経験になるでしょう」


「アッシュ様は凄いです

私やルルムス様のような身分ではなく冒険者だと侮られていたのに

たった一度、睨みを利かせただけで

私があんなにも手を焼いていた彼らを黙らせてしまった」


ラピスの言葉に先の図書館での出来事を思い出したルルムスは

面映ゆい気持ちを持て余すように笑みを零す


「ふふっ……彼は元々高い身分の持ち主ですから

コツを知っていて上手く利用しているだけですよ」


「コツ、ですか?」


「貴方も、自分が一番偉いんだという顔を忘れないことです」


「自分が、一番偉い……」


これまでの人生で常に搾取される側にいたラピスには

とても難しい事のように思えた

困った顔で俯く彼女に、ルルムスは悪戯っぽく微笑む


「そういえばラピスは読書が好きでしたね」


「幼少の頃から本の虫と言われる程大好きです」


「これまで読んできた本の中に

身分が深く関わってくる創作書物は無かったのですか?

若しくは身分差の物語とか」


「へあ!?あ、あぅ、ぃぇ、その……」


暗に恋愛小説の事を指しているのだと理解したラピスは

しどろもどろで動揺するも、そのリアクションが答えを物語っていた

頬を赤らめ小動物のようにそわそわしている姿を見たルルムスは

声を出して笑ってしまわないよう袖で口元を押さえる


「その中に最も偉い立場の登場人物も居たでしょう

それらを参考にしてみると想像しやすいのではありませんか?

焦点は主人公とヒロインの恋愛だったかもしれませんが

彼らの周囲に出て来た権力者の動きは

正に最上位権力者のそれでしょうから」


「……なるほど、確かに登場人物として出てくる国王様や

主人公の父親は殆どの物語の中で絶対的な権力を振るってました

ルルムス様、私何か分かってきた気がします」


「とはいえ、架空の物語というのが前提ですからね

鵜呑みにしないよう、参考程度に留めるように」


「はいっ」


「では今日から数日間は当初の予定を変更し

集中して『破邪』の強化に努めましょう

この国を出るまでにやらねばならない事は山積していますからね」


「よろしくお願いします、ルルムス様」


よぉし、アッシュ様が戻るまでに沢山学ぼう!

子守とかお荷物だなんて言われない為に、皆の役に立つ為に!

それから、アッシュ様のお手伝いも……できるようになりたい


声に出すことなく両手拳を握って意気込むラピス

どこまでも好意に満ちた純粋な彼女の想いを前に

ルルムスは眩し気に目を細めた






*****






俺は今、竜の腹の中に居る


何を言ってるか分からないって?

単純に言えば魔物に「丸呑みされた」という事だ

山頂へと向かった俺を迎えに来た竜の見た目に唖然呆然していたら

なんの説明もなく頭からぱっくんちょされて

せーのっと言う間もなく腹の中にダイブ、←イマココ。


巨竜に食われそうになったトラウマを思い出す間も無かった


「この世界の海ってトンでもねェ魔の海域じゃねェか

それともここだけ特殊なのか?

流石に全部『コレ』ってワケじゃないよな?」


目下に広がる(おぞ)ましい光景に息をのむ

俺の知ってる海と違う、青い海原とかそんなんじゃない

快晴の空の色を反射することなく真っ黒に歪む波

そして、その中で赤く蠢く怪しげな光……


地獄


ここは地獄の海に違いない、超怖い、泳げる気がしない

むしろあの黒い水に触ったら即死しそうな気さえしてくる

ザザー、とかバシャバシャとかいう波の音は聞こえず

ゴウンゴウンという腹の底に響くような不穏な音が響いている

竜の腹の中で改めて想う


こ の 世 界 め っ ち ゃ 怖 い 。


遠い目をして現実逃避真っ最中の俺は現在海(?)の上を横断中だ

海って言うか油?タール?少なくともまともな生き物は生息していまい。

本日クラウスが用意してくれた移動用竜族は、なんと



元素竜(エレメント・ドラゴン)



ウッソだろお前


と、言いながら思考真っ白で見上げたのは一時間ほど前

そもそも元素竜なんてお目にかかれる人間など殆どいない

この世界では希少過ぎる存在だ、言うなれば古代竜よりも伝説に近い

実物を目にするまで俺も本の中にしかいない生き物だと思っていた

こんな特殊個体を一体どこから呼びつけやがったんだクラウス


教本通りであるなら

そこいらの導術使いでは到底太刀打ちできないほどの導術に長け

非常に賢い個体、という事らしいのだが

実際に目にして異文化交流した俺は声を大にして言いたい

人間以外に「賢い」という表記がされた生き物は

もっと誇張して賢い表記すべきだ、と。

それこそ『人外レベルで賢い』のだ、と。

当たり前みたいに話しかけられた時は幻聴かと疑ってしまった


クラウスは竜族とはいえ人型をしているから

喋って当たり前だと思っていたが、こう…「The()!魔物!!」と

言えるような生き物が喋ると衝撃が半端ない

翼竜のエリアマネージャーでも人語を理解する程度だったのに

まさか喋れるなんて思わないじゃないか

予想はしててもいざ目の当たりにすると腰抜かすわ


頭から丸呑みされた段階で腰から下が暫く力入らなかったけどな!


(俺一人の時で良かった)


嬢ちゃんとフリッツが居たら

生まれたての小鹿みたいな無様を晒して

年上としての示しが付かなくなるトコだった


ルルムスに見られるのは別にいい

クラウスの所為で翼竜の巣へ特攻かました時に

散々ビビリ散らした姿を見られてるからな


(……)


やっぱり何度目だろうと情けないから

ルルムスにも見られなくて良かった。

今は胡坐をかいてふわっふわの背もたれに思う存分体重を乗せ

ゆったりのんびりさせてもらっている


こんなに快適な空間なら

ゆるっとファッションに着替えてごろ寝とかしたいなぁ

田崎の時みたいな布団の上生活、懐かしい感覚だ


実は竜の腹の中だということはあえて考えないでおく


『 (あるじ)よ、乗り心地は如何か 』


「か、快適です」


重低音の音質で突然話しかけられるとそりゃあうっかり敬語にもなる

声ではなく音に呼びかけられるのは未だに慣れなくてビクっとするから話しかける前は何かしらアクションしてほしい

ドアをノックするみたいな前置きが欲しい


何故竜人のクラウスだけでなく

元素竜まで俺を(あるじ)呼びしているのかと問うと

(おさ)がそう定めたから」という理由が返ってきた

長なんぞ知らん、主と呼ぶのを止めてくれと言っても

「長がそう定めたから」の一点張り

長って誰やねんと尋ねても「長は長だ」と融通の利かない返答


……なんだろうな、この返答に対する既視感

前にもどこかでそういうやり取りした覚えがあるぞ


(おさ)って事は竜族の長老とかそういうポジションの奴の事だよな

それこそ古代竜(エンシェント・ドラゴン)の事だろ?

古代竜とは面識がない故に主と呼ばれる理由もない

にも関わらず長とやらからそう呼ばれているという事は


(クラウスが絡んでそうな気がする……

というか、絶対絡んでるだろこれは)


あの野郎竜族全部に指示が出せるとか言ってたからな

俺の事で何か言ったに違いない


可愛い孫(クラウス)の我が儘を聞いてあげるお爺ちゃん(古代竜)的な流れか?)


その結果、何故か俺が元素竜から「(あるじ)」と呼ばれる羽目に。


この原因はアレだろ?

俺がクラウスを右腕扱いし始めたからだろ?

やっぱり従僕なんぞ増やすんじゃなかったと後悔するが

過ぎた事なのでどうしようもない


「そういや嬢ちゃんから『側近』だとか言われて

舞い上がってたなぁ、アイツ……」


少女に手の上で転がされているクラウスを想像してため息を吐く

肩の上で大人しく丸まってる小竜を介し、クラウスに問いただしてみたが

返事は「(あるじ)は主だからだ」という要領を得ないものだった

お蔭さんで思い出したぞ

覚えのあるやり取りは正にクラウスとの会話だった


(全く進歩無しかよ)


(おさ)とやらまでクラウスと同レベルだというのは知りたくなかった

竜族の未来(さき)が思いやられる……

呆れるやら疲れるやらでがっくりと項垂れた

「主は主」というクラウスの返答は

小竜の鳴き声を元素竜が翻訳してくれたから分かった事だ


『 寒くはないか、酔ってはいないか、腹は減っていないか

  退屈ならば歌おうか 』


「お、おぅ……大丈夫、大丈夫

お気遣いなく……」


何かと気遣ってくれるこの元素竜

Intelligenceインテリジェンスが突き抜けてヤバい

竜種の中でも相当特殊な個体なのだろう

そう思いたい理由は元素竜の姿かたちが禍々しすぎる所為だ


最初に目にして頭真っ白で唖然呆然した理由、それは

竜族にも関わらず前足と呼ぶべき部位が見当たらなかったり

体内の一部が透けていたり

目の数が尋常ではなく、在らぬ所に目玉があったり

尻尾と呼べるかも定かではない、背骨に沿って幾重にも伸びた

淡く発光する鞭のような何かがある等といった

一見して竜とは思えない異形振りが際立っていた所為だ


ちなみに体内の一部が透けていた、というのは

今正に俺が納まっている腹の中の事


外から見たら腹の一部だけが透けて見えたんだが

腹の中から見た光景はまるで自分自身が浮いているような錯覚を覚える

視界の大半が透明で、背中と座っている部分以外外の景色が丸見えだ

常時発動しているであろう導術がハイレベル過ぎて理解できない

「お前らはどれも同じような見た目で同じ力を持っているのか?」

という俺の問いに、元素竜は事も無げにさらっと返してきた


『 我ら元素竜に同一の個体は無い、何故なら

  各々が望む思考と趣向に合わせているからだ 』


「へぇ、思考と趣向ねぇ」


『 …… 』


「……」


流石は伝説に近い生き物

賢い竜は言う事が違うなぁ、なんて暢気に返したのは最初だけ。

この説明を細かく噛み砕くのに時間を要した俺は

次第に顔面蒼白になっていった

先ほどの竜の言葉の意味を完全に理解すると同時に

俺の意識はスゥーッと遠ざかっていく


元素竜にとって肉体改造など当たり前


それゆえ個体ごとに見た目が大きく異なる


と、言いたいのだこの竜は。

つまり、この世界に存在する全ての元素竜は

己の体を作り変えるのも躊躇しないほど好奇心と探求心が強い。

人間でいう所の


トンッッッでもない 『 マ ッ ド サ イ エ ン テ ィ ス ト 』


そんなイカれ竜の腹の中に納まってる今の俺は

狂った科学者がメスだの注射器だのを構えている実験台の上に

無防備に横たえられたモルモットと同じなのでは?

という疑問に辿り着くは必然


(死んだわ……)


なんて、諦めモードで乾いた笑みを浮かべた瞬間

それまで外の景色を映していた腹の壁面全体が


ギョロリ、と


数えきれないほどの血走った「目」に覆い尽くされ

その視線がひとつ残らず物凄い目力を込めて俺へと向けられ


(……)


その時、俺は確かに

己の見返り美人な心臓が時を止めたことを悟った


パタリ、と

笑みを浮かべたまま泡を吹いて

力なく倒れ込んだ俺をじっと覗き込む無数の目


『 む……眠ってしまったか

  我らが古の王の尊き笑みを目にしてしまった喜びで

  つい視核魔力を全開にしてしまった…


  先ほどの王の笑顔は我らが長、クラウス様と

  同胞たちにも見てもらえた事だろう……

  後で他の竜族たちにも王のご尊顔と尊きお声を届けに行かねば


  欲を言えばもう少し色々なお声を聞きたかったが

  仕方あるまい

  我らが王の眠りを妨げぬよう、我慢するとしよう


  しかし、嗚呼……なんという麗しい寝顔

  このお方が我らの主……恐悦至極、恐悦至極……

  大切にお運びせねば…… 』


残念がりつつも喜びを抑えきれない元素竜の声は

白目を剥き完全に意識を飛ばしてしまった俺に届くことはなかった

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