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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
87/145

87<聖なる星々の国~大人の約束と子供の約束~

「クラウス様、その問題は

昨日習った方程式を代入するんです」


「むゥ……考えずとも

答えを知る者を締め上げれば済む話だろう」


「なんでも腕力で解決しようとするのは格好悪いですよ?

アッシュ様の右腕ならば力が強いだけでなく

理知的でもある方がもっと格好良いと思いませんか?

クラウス様が何でもできればできるほど

主人であるアッシュ様も輝くと思います」


「おれが出来ることが多ければ多いほどアシュが輝く……

なるほど、確かにその通りだ」


「頑張りましょう、側近のクラウス様!」


「側近…!」


まんざらでもない様子のクラウスが

俄然やる気に満ちた表情で教科書と睨めっこを始めた

嬢ちゃんは順調にクラウスの扱いに長けてきているな

クラウスが『格好悪い』という言葉に

殊更弱い事もしっかりと把握しているらしい


思い出すなぁ

初めてクラウスの靴を買いに行った時のひと悶着(※32話後半参照)


場所は空調管理が行き届いた暖かな図書館の一角

午前の授業を終え、広いテーブルの真ん中に教材を広げて

自主的に勉強しているらしい二人の少年少女の姿に自然と笑みが零れる


ラピスは例の騒動以降『破邪』の能力が認められ

宮中での扱いがガラリと変わった


数日前に聖女のお披露目をしてから生活基盤を神殿へと移し

服装もルルムスと似た系統のものに変わり

元より共に行動していたクラウスは聖女(ステラ)となったラピスの

タウィス一号の任に就いている

イプシロネがステラだった時は黒系統の礼服であったが

ラピスがステラとなってからは白系統の礼服だ


袖口や襟口、裾を彩る金の装飾が

暗めの肌を持つクラウスの美貌を一層引き立てている

控えめに言って滅茶苦茶格好良い、正に人外の美貌

同性の俺から見てルルムスも大概いい男だが

クラウスに関しては規格外過ぎて羨む気にすらなれない

ラピス嬢ちゃんは首から下の露出が一切なく

体の線も分からないゆったりした装いだが

成長期である事を考えれば今の格好の方が都合がいいだろう

顔を見れば健康状態が良好である事はよく分かる

加えて場所は午後の日差しが程よく室内に差し込む静かな図書館

遠目に見ても十分絵になる光景だった


「よォ二人とも

勉強、(はかど)ってるかァ」


「……あ、アッシュ様!?

ふわ、ぁ、あ、おっおひ、お久しぶりですっ」


呼びかけられ、弾かれるように顔を上げたラピスは

俺を視界に捉えると暫し硬直し、クラウスの横で慌てて起立したかと思えば

物凄い速さで身なりを確認して頬を赤らめながらお辞儀してきた

礼儀作法に厳しいと小耳に挟んだトリマン夫人も今は見当たらないし

俺相手にそこまで畏まらなくてもいいと思うんだけどな


「昼飯は済んだか?

差し入れ持って来てやったぞ」


「ありがとうございます

わぁ!串焼き!おいしそう!」


袋から取り出したそれに目を輝かせたラピスだったが

後ろに控えていた数名の神官の内の一人が足早に歩み出て

俺と嬢ちゃんの間に踏み入る


「ステラ様は既に昼食を済ませております

神殿を通していない食べ物の差し入れはご遠慮ください」


その言葉を聞いた嬢ちゃんは目に見えて肩を落とし、沈んだ表情を浮かべる

クラウスは事の成り行きを見守る姿勢を崩さない

俺はというと、後ろに居るルルムスに目配せして

心の中で「駄目なのか?」と問えば、微笑みと共に返事が返された


「構いませんよ、とても美味しい串焼きだったもので

私もついうっかり、手が止まらず三本も食べてしまいました」


ルルムスの返答に再び目を煌めかせ始める嬢ちゃん

しかし横槍を入れてきた神官は尚も言い募る


「導師様、そのような勝手を言われては困ります」

「勝手、とは?

先代の聖女が神殿で過ごされていた時は

随分と自由で開放的だったと記憶しておりますが」

「イプシロネ・ファイフの事を仰っているのですか?

彼女は正当な資格保持者ではなかったので

比べる対象としては論外ですよ」

「おや、ではやはり聖国は正当な聖女不在の間

国も認めるただの『お飾り』を据えていたと仰るのですね」

「そうは申しておりませんしその様な事実もございません

歴代の聖女で『破邪』の力を覚醒させた聖女が

一握りであるというだけの話です

お飾りなどと無礼な事を仰らないでいただきたい」


イプシロネがステラだった時は規律や規則など無いも同然な有様だったのに

後ろ盾も権力もない少女がステラになった途端

さもそれが道理であるかのように振舞い始める神殿の連中


(なるほど)


ルルムスが「十日以内には、()()()()()()()」と

ぼかした言葉で苦い表情をするワケだ

この様子だと嬢ちゃんも四六時中神殿の監視の元

神殿と宮殿の敷地内に軟禁されてるも同然なのだろうな

食事も決して満足のいく物ではなさそうだ

でなければ嬢ちゃんが出店でよく売られている珍しくもない串焼きを前に、あれほど目を輝かせるはずがない


しかしこの状況、俺が勝手をしてもいいものか……


ルルムスが裏で活動しているのだから

俺がヘタに動くとマイナス要素になり兼ねない

とりあえず差し入れの品を二人に食べてもらうのは決定事項なので

クラウスにアイコンタクトする

俺と目を合わせるや否や、テーブルに広げていた教材をまとめて

図書館に持ち込んだ文具と数冊の教本を持ったクラウスは

大きなテーブルを回り込むことなく

その場で嬢ちゃんを脇に抱えて出入り口に向かって跳躍する


「ステラ様!タウィスめ、何を勝手な事を!」


一斉に追いかけようとした神官の前に歩み出た俺は場の神官全員を威圧した

その場でたたらを踏みたじろぐ連中を睨み付け

後ろ手でルルムスに「先に行け」とハンドサインを出す

背後で遠ざかっていく足音を聞きながら神官たちを睨み据えた


ここに居る神職者共は俺の国に居た神官とは大きく異なる

俗世に染まり切った、政を行っている神官たちだ

孤児院の牧師の方がよほど清廉な雰囲気を纏っていた


「神官の方が立場が上だなどと勘違いしてくれるなよ

なにより優先されるべきは導師の意向だ

お前ら神官の言うステラの規律だの規則だのは

導師の前では無いも同然、己の領分を弁えろ」


「たかが冒険者の分際で我々に意見するか

身の程を知れ!」


「その認識を改めてもらおうか

貴様らの前に居るのは聖者がひとり

導師ルルムス・アッパヤード直属の護衛だ

冒険者の資格などついでに取得しただけに過ぎん

導師の行く道を邪魔立てするのであれば……


今ここで全員斬って捨てる権利が私にはあるのだからな

命を捨てたい者は前に出るがいい」


それっぽい口調に変えてノーブル(貴族)の気品を出来る限り纏ってみる

腰に装飾多めの長剣を差しといてよかった

とはいえ、ゆるみきった服装だし

片手は串焼きとデザートの袋で塞がってるから

あんまりサマにはなってないが。


威圧だけでビビる相手だ

追加でちょっとした殺気でもぶつけておけば大人しくなるだろ


脅しの為に途中まで剣を抜いて刀身を光に反射させると

数名はその場で腰を抜かして座り込み残りは足を竦ませて震え始めた

挑んでくる者は一人もいない

俺の威圧程度で腰抜かすとは思わなかったので

想像以上の軟弱振りに呆れる


半目になって剣を納めると鼻で短くため息を吐いて踵を返す

振り返った先に見えた図書館の出入り口には

とっくに出て行ったと思っていた三人が居て

嬢ちゃんは興奮した様子で、クラウスは不貞腐れた顔で

ルルムスは苦笑いを浮かべてこちらを見ていた


(ぐわぁ……!)


心の中で地面を転がる

三人とも先にルルムスの部屋へ向かったと思ってたのに

めちゃくちゃ格好付けた一部始終を見られてしまった

恥ずかし過ぎる、見世物じゃねェぞこんちくしょう

各々の表情にはあえて触れずに皆の元へ歩み寄れば

案の定、嬢ちゃんはテンション高く先の俺の言動を褒め始めた


「アッシュ様、とても格好良かったです!

ねっクラウス様!」

「当然だ、本気のアシュはもっと凄いぞ」

「先ほどよりも凄いんですか!?み、見たいです……!」


おいこらやめろクラウス

純真無垢な少女の期待値を上げるんじゃない

キラキラとした眼差しで見上げてくる嬢ちゃんの頭をポンポンと手で宥め

串焼きの入った袋を渡す

嬢ちゃんを見てるとつい食いもの持たせたくなるんだよな


「ルルムス、こっちの袋冷やしてもらえるか」


もう一つの袋もずっと抱えていたものだから

折角の冷製菓子がぬるくなってしまった

季節は寒い時期だが時間は正午で暖かい時間帯

こってりした味付けの口直しには好評な筈だ


「そっちも温め直しましょう」


冷製菓子の入った袋と嬢ちゃんに渡した袋も取り上げたルルムスが

両手に一つずつ袋を持ちながら術式を展開させる

すると片方からは湯気が、もう片方からは冷気が零れ始めた


「素晴らしいですルルムス様!

同時に二種類の術を発動させるなんて……!

どのようになさったのか、午後の授業で教えて下さい」

「ええ、勿論です

熱いですから火傷に気を付けて下さいね」


湯気が立つ袋の端を持つよう促すルルムスから

嬉しそうに頷きつつ受け取るラピス


「良い香り……」

「ウマそうな匂いだ」


香ばしい香りを存分に吸い込んで堪能する嬢ちゃんと

その傍らで涎を滲ませながら袋を凝視するクラウス

どう見ても食事量が足りてないな、この二人

部屋に辿り着き我先にと入室して早速テーブル席に座り串焼きを分け合う二人の姿を見ながらルルムスに尋ねる


「なぁ、アイツらちゃんと食べてんのか?

どう見ても腹減らしてるようにしか見えないんだが」


「クラウスに関しては底なしの胃袋なので

常に空腹みたいなものですが

ラピスに関しては十分な食事は出ていますよ」


ルルムスがそう言うのなら

食事に関して心配はないのは確かだな


「じゃあなんであんなに嬉しそうなんだ?」


「……貴方が差し入れたものだからですよ」


俺を見たルルムスの目じりが和らぐ

微笑まし気に言われてもあまりピンとは来ないな


「食いすぎは腹壊すぞ」


「あれ位であれば大丈夫でしょう

世の中には別腹というものがありますからね

さて、私は冷製菓子の方を頂きますか」


いそいそと簡易キッチンへ向かったルルムスは

いくつかの食器を手に戻って来た

四人でテーブルを囲んで、串から具を外したラピスは

ルルムスから渡された皿を使って大きな肉をナイフとフォークで切り分け

野菜と共に口に運び味わうべく咀嚼する

熱々にも関わらず最初の一口を安易に含んだ嬢ちゃんは

はふはふと言いながら口の中で慌てて冷まし始めた


クラウスは口の端から湯気が立っているにも関わらず平然と咀嚼している

そらそうか、竜って口から火ィ吹くもんな


「美味しいですアッシュ様

濃い味で嬉しいです」


「そいつは良かった

ああクラウス、二本残しとけよ」


「……分かった」


袋の中身を全部食べようとしていたクラウスは

俺の制止に不満顔をすると渋々袋から手を引く

宮殿兵をしごいてやってるらしいフリッツの分も残しておかないとな

俺とルルムスは小さいカップに入ったデザートを食べる事にする

スプーンで掬ったジェラートを同じタイミングで口に含み

俺とルルムスは同時に口元を緩ませた


「口直しには丁度良い清涼感ですね

甘くて冷たくて、後味が爽やかで心地良い」


「おう、これ選んで良かったぜ」


美味しそうなリアクションを見た嬢ちゃんが

皿に乗っている串焼きの具をせかせかと食べきると

まだ串に刺さっていた残りをクラウスに渡してデザートに手を伸ばす

そしてひとくち含むとその表情は瞬く間に至福に染まった

空いた方の手で頬に手を当てて花を飛ばさんばかりに喜んでいる


「これが冷製菓子……初めて、食べました……」


感じ入る様にしみじみと呟くラピス

これは聞き捨てならんことを聞いてしまったな

嬢ちゃん位の歳の子がデザートを食べた事が無いだって?

これからの旅でたらふく美味いもん食わせてやらないとな

幼少期のアシュランが大好物だった

『カスタードクリームチョコもっちマシュマロ』も食べさせてやりたい


食は最も身近な幸福


この意見に田崎は心底同意している


遺体を複数間近で見てしまったであろう出来事と

妹を亡くした事から精神面が気になっていたが嬢ちゃんの様子を見るに

表面上では少なくとも深刻なほど引き摺っている様子は無さそうで

一応は安心、といった所だろうか

暫く注意深く見ておきたい所だ……なんて考えてたら

ルルムスが含みのある笑顔で俺を見ていた


守りたい、あの笑顔


とでも言うと思ったかこんちくしょうめ

その、微笑まし気に見守ってます~みたいな構えを止めろ


(言いたい事があるなら言いやがれ)


居心地の悪さにツンケンしてたら

ノックと同時に扉が開き間を置かず不満げな声が室内に響いた


「アッシュ、なんで導師の部屋に居るんだよ」


頑丈なロングブーツに生地の厚いズボン、上半身はシャツ一枚という軽装で

首にかけたタオルで汗を拭うフリッツが無遠慮な足取りで入って来た

俺の右手甲に騎士の誓約紋を刻んでから

短距離ではあるが凡その俺の居場所を感覚で把握できるようになったらしく

こうして時間が空くと用も無いのに俺の傍に控えるようになった

対外的にはルルムスの護衛という立場なので

フリでもいいからルルムスの傍にいて欲しいのだが

その要望は数日前に双方から笑顔で却下されてしまった

俺の『ルルムス推し主人化計画』は早々にとん挫した形だ


それにしても、フリッツが嫌がるのは理解できるが

ルルムスまで拒否してくるとは思わなかったな


デザートを食べ終えた俺は空になったカップを片付け、フリッツの分として取っておいた串焼きとデザート一つを目の前に置くと席を立つ


「お前の分だ、ここ座れ」


「差し入れか!

丁度腹が減ってたんだ」


喜び勇んで席に付いたフリッツは豪快に串焼きにかぶりつき

頬一杯に含んで美味しそうに噛みしめる

その様子を横目に空のカップを屑籠に放り込んだ俺は

部屋続きになっている隣室に向かった

ルルムスが寝起きしている寝室だ


嬢ちゃんの目が無ければ

わざわざ部屋を移らずにその場で着替えてたんだけどな

女の子がいる時は気を遣える時に極力配慮しておいた方がいいだろう


魔導袋から普段の装備と服を取り出しさっさと着替えて

慣れた手つきで装備を整えると部屋を出た

全身を覆い隠す黒の外套を翻し身に付けつつ皆の元へ向かう

先ほどまでのゆるっとスタイルから

アシュランの通常装備に着替えた俺の姿に目を見張る四人

いの一番に声を上げたのはデザートまでしっかり完食したフリッツ


「どこか行くのか?俺も付いていくぞ」


立ち上がろうとするのを片手で制する


「ちょっとした諜報活動だ

数日で戻るからお前らはここで待ってろ」


俺の言葉にフリッツは苦い表情を見せた

バツが悪そうに後頭部を搔いている


「隠密行動に向かない俺は足手まといだな」

「おれは付いて行く

次からは同行するって約束したからな」


「残念だがクラウス、今回の目的に関してはお前も邪魔だ

隠密行動は俺一人の方が身軽で動きやすい

この宮殿内もまだ、どうにもキナ臭い空気が残ってるからな

二人には嬢ちゃんとルルムスの護衛を頼む」


「キナ臭いって、どういう事だよ?」

「アッシュ、皆にちゃんとした説明を」


訝し気に尋ねるフリッツの向かいの席でデザートを食べ終え

優雅に口元へナフキンを当てているルルムスに動揺はない

道中で大雑把な予定を立てていた俺の心を予め読んでいたのだろう

「説明を」と言うのであれば

ルルムスは俺の単独行動を許可してくれているという事だ


「次の目的地はルベルタ帝国だ

一切の情報なしに入国するには危険な国だからな

ちょっとした視察を兼ねた情勢確認をしてくる


人数が多ければ多いほど時間もかかるし

不測の事態に巻き込まれる可能性も増える

効率と安全を踏まえて今回は俺一人ってワケだ」


「分かった、ラピスちゃんの事は任せてくれよ

絶対に俺が守ってやるからな」

「ありがとうございます、フリッツさん

あの……アッシュ様、どうかお気を付けて」


気遣う嬢ちゃんに笑みを返す

フリッツは冒険者としての経験もあるから

『適材適所』というものをよく理解しているのだろう

説得に手間取らずに済んで良かった……

が、やはり一番の難関はクラウスだな


「この場で納得していないのは、クラウスだけのようですね」


ムスっと不貞腐れ顔で俺を睨むクラウス

言いたい事は分かる、だが今回は

前回と行動主旨が異なるのでダメなものはダメだ


「アシュは……嘘つきだ

結局置いていくというのなら

賭けなどした所で意味がないではないか」


「聞き分けろクラウス、諜報活動は俺の十八番(オハコ)だが

行動が大雑把で力に頼る傾向のあるお前が付いて来たんじゃ

敵地のど真ん中で花火を上げるようなモンだ

完全アウェーで足手まといをフォローしてやれる余裕はない

今回はここで大人しくしててくれ」


「いやだ、絶対に付いて行く」


断固としたクラウスの態度に長いため息を吐く

俺だってお前が忍者ばりに経験豊富で隠密暗殺なんでもござれな

玄人達人だったら喜んで同行を許可したとも。


しかし今回だけはどうしてもダメだ


向かう先は独裁者が統べる、広大な国土を持つ軍事国家

そういう国はセキュリティレベルも高く、スパイの侵入には容赦がない

国賓待遇である聖者が二人入国するとなると

確実に皇帝に目通りする事になる

なので当然、今回の俺の諜報活動には

皇帝周辺の状況を確認する事も含まれている


初見のフィールドでボス手前まで

気付かれる事無く潜り込む、となれば難易度も相当高い

隠密行動に自信を持っている俺でも不安を覚える


(ルルムスの『完全看破』なら

危険人物を見分けるのも容易だろうが)


それはあくまで”対象と対面した時”に出来る判断だ

そうなった時点で全て水際での対処になってしまう

聖国は聖者の一人を祀っているだけに初手から友好的ではあったが

帝国は国土や軍事力の面で聖国とは比べ物にもならないほど強大だから

万が一敵対関係であったと分かった場合

水際では対処しきれないのは明白だ

故に今回の諜報活動で、最低でも


『 聖者に対して友好的であるか否か 』


の確認だけでもしておかねばならない

もし帝国が魔国の方針に賛同している国であったら

二人が入国した際命の保証ができないからだ

それほどに重要で練度と経験がものをいう諜報活動に

まるっきり初心者のクラウスが付いてこられるとは思えない


俺をじっと睨み付けていたクラウスは徐々にその目力を失う

俺の考えを読んで、非常に繊細な仕事なのだと理解したようだ


(それでも、まぁ、約束を違えるのは事実だからな)


柄じゃないが、戻ったらうんと甘やかしてやろう


「クラウス

前の時みたいに俺に小竜を付けてくれないか

そいつが居ればお前らにもすぐに情報が行くし

小さくて小回りも聞くから色んな面で役立つだろ」


こうして頼りにすればクラウスの機嫌も少しは上向いて……


「おれよりも、妖竜(ピクシードラゴン)の方が役に立つのか

おれよりも、 『 おれ(竜帝) 』 よりも……!」


完全に俯いてしまったクラウスは両手をプルプルさせながら

それがさも耐え難い事実かのように不穏な空気を漂わせ始める

……機嫌を取ろうとしたが失敗したようだ

それにしても何か物凄く含みのある言い方だな

竜人のクラウスが小竜に劣るみたいな解釈をされてしまったかもしれない

竜族って総じてプライド高いもんな

下位の竜種に劣るなどと言われればそりゃあ誇示も傷つくか


(クラウスって竜種の序列ではどれぐらいの位置なんだ?

古代竜ぐらいだったらそりゃ傷つくだろうが……)


生憎とクラウスが竜種の頂点に立つ

古の王の右腕『竜帝』である事を知っているのは

この場でルルムスとフリッツだけだ

憤慨しているクラウスにフォローが飛ぶ


「適材適所ですよ、どの竜種も得意不得意があるでしょう」

「そうですよクラウス様

数式が解ける竜族はきっとクラウス様だけだと思います

それって凄い事だと思います」


「なんだ、嬢ちゃんは

クラウスが竜人だってのは知ってるのか」


「ルルムス様から伺いました

誇り高く気高い種族だと初代聖女様の備忘録にも記されていたので

実際にお会いして交流する事が出来てとても光栄だと思っています」


食いしん坊なのが玉に瑕ですけれど、と

弟を見る姉のような笑みでクラウスを見つめるラピス

上手にもちあげる彼女の言葉に悪い気はしないらしく

少しばかり気が上向いたクラウスは

それでも俺に縋るような眼差しを向けた


「どうしても付いて行ったらダメなのか」


「……」


金色の瞳が潤みキラキラと輝いている

だからな?そういうあからさまなおねだりビームをされると

オタク田崎で耐性が付いてる俺は究極に冷めるんだよ

半目になった俺はクラウスの頭に手を置く


「今はしっかり知識身に着けて力を蓄えとけ

山ほど学んでおけば後々役立つ時が必ず来るからな」


しょぼくれた頭を撫でつつ言い聞かせるがやはり納得した様子はない

不満爆発で無理やりついてこられたりしたら困るしなぁ


「よし、じゃあこうするか

数日で戻るからお前には俺の命ほど大事な物を預けておこう」


「……魔導袋?」


「俺が生きていく上でなくてはならないものだ

ちゃんとお前の所に帰ってくるから

それを俺の命だと思って大事に持っててくれ」


クラウスに渡した魔導袋二つには

今後の俺の人生に大きく関係するモノが山ほど入っている

持ち主に返さなければならない、決して失ってはならない財産だ

これを失くしたらいよいよ死んで償わなければならない事態だからな


帝国でヘマする気はサラサラないが

身元を隠して潜入するなら身バレするものは持ち歩かない方がいい


(それに)


魔導具に頼り切らずとも

クラウスの目を借りた小竜が十分に役立ってくれそうだしな

大いに活用させてもらうぞ


「よろしく頼むぜ、クラウス」


なんだかんだで行動を起こす時は

一番!頼りにしてるんだからな!


「……アシュは、やっぱり

ずるい」


クラウスは複雑な表情で俺を見上げ

俺の外套を掴み軽く引っ張ると、呟くように


「いってらっしゃい」


と言ってくれた

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