86<聖なる星々の国~ギルドの動向と次なる目的地~
パーティでの騒動から十日が経った
宮内は忙しない状態が続いていたが
この頃になってようやく落ち着きを取り戻してきている
『破邪』の能力を持つ新たな聖女の誕生や死者の追悼
魔国に対する聖国の正式な宣戦布告
不正に手を染めていた高官たちの処分……
目が回るような忙しさだったに違いない
徐々に落ち着いてきた宮殿内とは異なり
国内は聖女の誕生と魔国への宣戦布告でお祭りムード
なんてったってこの国は信仰国家、エスティール聖国
『聖女』を信仰し、崇め、絶対としている国だ
聖女さえいれば自分たちの身は安全だと思い込んでいる国民が
距離的にも遠く離れている魔国への宣戦布告で緊張する筈もなく
むしろ自分たちが負けるはずはない、屈するワケがないと病的なほどに思い込んで戦ってもいないのに勝ち戦状態なのだから
官僚の汚職事件を目出度い事と一緒に発表して
国民の不満を逸らそうとする国の思惑は
十分に達成されていると言っていいだろう
「エスティール聖国っ万歳!」
「聖女ラピス様、バンザーイ!」
昼間だというのに酒場では老若男女入り乱れで酒盛りが行われている
つい先日、聖女ラピスのお披露目が大々的に行われた
直後に魔国への宣戦布告も発表されたから
そりゃあ国民も浮かれるってモンだ
「よぉよぉ兄ちゃん!
そんな隅っこで寂しく飲んでないで俺たちに加われよ」
「酒は控えてるんだ、悪いな」
「そぉかァ?じゃあこれは俺の奢りだ!遠慮せず飲め飲め!」
ドン、と
テーブルが揺れるほど強く、目の前にジョッキを置かれてしまう
人の話聞いてねェなこの酔っ払い
…まぁ、でもせっかくの奢りだ
酒には強い方なので一杯ぐらいなら構わないか
度数の低いビールならそう酔う事も無いだろうし
そう思って機嫌のいい酔っ払いからジョッキを受け取り景気よく煽る
「おお!イケるクチだな兄ちゃん!」
「どうも、ホラ
あんたの連れが呼んでるみたいだから戻った方が良いぞ」
「んお?おおー!戻る戻る!」
三分の一ほど飲んだジョッキを置き
店の中心で盛り上がっている集団を指さして適当言って追い払う
お前も来いとか言って絡まれなくて良かった
さっさと飯を食って店を出るか
濃い味の炒め物を掻き込み水を煽ると皿の下に代金を挟んで席を立つ
やっぱり昼食は宮殿で食べた方が良かったかもな
どこの飯屋もお祭り状態だと知っていれば
昼時の酒場にもあえて足を運んだりはしなかったのだが
こうして国全体が浮ついてる時こそ
情報収集するにはいいタイミングだというのも事実
(やっぱりここにも居なかったか)
聖国で活動していた冒険者はほぼ国外、若しくは
国境付近の施設へ拠点を移動し終えたようだ
職業差別の影響で冒険者側も口が堅く
ギルドの大規模撤退に関する情報は
聖国の国民たちに騒がれる程広がってはいない
わざわざ聞き込みをしてみても
「冒険者?そういえば最近見かけないね
活動縮小したのかな」
という程度。むしろ差別対象が目に入らないので
気分がいいという連中も大勢いる
公爵領で活動していた冒険者の扱いはここほど酷くはなかった
ギルド受付嬢サーラから聞いた話を鑑みるに冒険者を奴隷みたいに扱ってる国もありそうだし、この先は移動する毎に
出来るだけ早く国の情勢を確認しておくべきだな
昼食を終えた足で久しぶりにギルドを訪れてみたが
施設は既にギルドとして機能しておらず
最低限の案内と引き継ぎ業務だけが行われていた
常設として張り出されていた依頼どころか
それを張り出すボードすら片付けられている
色々と融通を利かせ情報提供してくれたサーラの姿もない
冒険者が移住する関係で日用品や家具を処分するために
連日開かれていたフリーマーケットも今では殆ど見当たらなかった
聖国はギルドという大きな戦力を失った
冒険者が担っていた町の小さな依頼
それらをこなす者がいなくなった弊害は日を追う毎に表面化し始めるだろう
大幅な戦力低下は由々しき事態だが、幸いなことに聖国には
新たに戦力を補充できるだけの時間がある
魔国と聖国の距離が遠かったのが何よりの幸運だ
(しかし、これは相当大問題だな)
ここへ来てとてつもない不安を覚えた
魔国からも遠く、聖女を象徴している国であるにも関わらず
これほどまで徹底して冒険者が国外退去している、という事は
「魔国の脅威が直接的な原因ではない」のは確定したも同然だ
以前俺が予測した
『 ギルド主導による遺跡国家の誕生 』
という可能性が益々現実味を帯びてきている
ここ数日の情報紙にも謎の遺跡に関するニュースが載ってたからなぁ
ギルドにて最低限の引き継ぎ業務を担当していた無愛想な受付から
目ぼしい情報も無いまま話を聞き終えると
顎に指先を当てて足元を見つめつつ建物を出る
戸が閉まる音を背に、数段分の階段を下りていると
正面から聞き慣れた声が聞こえてきた
「ギルドは完全に聖国から撤退しましたか」
顔を上げると、目の前には
地味な日除けのコートを被ったルルムスが立っていた
お付きの者がいない…と、いう事は
「お忍びか?昼間なのにいいのかよ」
「貴方からの情報でも十分でしたが
町の雰囲気に関してだけは
直接出向かなければ分かりませんから」
なるほど、とどのつまりはサボり……と言えど立場上
ちゃんとした休憩時間に抜け出て来たんだろうな
高官との接見やラピス嬢ちゃんの教育で
休む間もない日々を送ってるもんなぁこいつ
「いつまでも宮殿に缶詰ってのも肩が凝るだろ
折角だから息抜きに付き合えよ
屋台も多いし、なんか欲しいモンあるなら買って来てやるぞ」
「お気遣いありがとうございます
ではお言葉に甘えて、散歩がてら出店を回りましょうか」
町のメインストリートは現在
お祭りムードの関係で殆どが出店で賑わっている
二人揃って歩き出した所でルルムスから
耳たぶに挟むタイプのイヤリングを片方だけ渡された
「盗聴防止です
私が付けている物と対になっているので右に付けて下さい
これを起動している間、私と貴方の会話は他には聞こえません」
手渡されたそれをしげしげと観察してみる
導力核は裏側にはめ込まれており
表面は魔導具と分からないよう銀のコーティングが施され
全体的な形は蝶の蛹を連想させる
曲線に沿って耳の縁を半分覆い装着できるようになっていた
サイズ大きめにも関わらず驚くほど軽い
ちらりと隣を歩くルルムスを見れば
「こうやって付けるんですよ」と言外に示すべく
同じものを装着した左耳を見せてくれた
それに倣って右耳に付けると同時にヴンと機械的な音が響く
魔導具の作動音だろう
「格好良いな
もしかしてコレも自作か?」
「はい、つい昨日完成しました」
「はぁ~……やっぱすげェなぁ、お前」
感心しきりで耳飾りをいじっていると
ルルムスはフードの向こう側で嬉しそうに微笑んだ
この間渡されたおはじき型通信魔導具といい
こいつの趣味は多分魔導具作成なのだろう
全く以て高尚かつ高度な趣味だ
流石はルルムス、この凄さを誰かに自慢したくてウズウズしてしまうが
生憎と自慢できる相手がいないのがつらい
「ねーおかーさん、あの人たちなかよしだね!
おそろいのみみかざりしてるよ」
「坊や、人様を指さしてはダメよ」
「はぁーい!おとーさんとおかーさんのおそろいといっしょだね!」
「そうね、一緒ねぇ」
通りすがりの母子の会話で
俺とルルムスは共に神妙な顔つきになった
フードを目深にかぶっていたルルムスだったが
耳飾りを見せたタイミングを偶然子供に見られたらしい
今の自分たちを客観的に見る事ができたのは幸いと言うべきか。
ルルムスはフードの中に手を突っ込み後ろで束ねていた髪を解くと
耳飾りをしている側の耳を隠すように髪で覆い括り直す
歩きながらフードの中をごそごそさせていたので多少苦戦したようだ
フード被ってるんだからさっきみたいに態々見せない限り
耳飾りが見えることも無いだろうに。
俺とお揃いと知られるのがそんなに嫌なのか?
……嫌なんだろうな、そりゃそうだ
「指輪にするべきでしたか……否、それだと別の意味で
いやしかし髪飾りと言うのもそれはそれで」
「耳飾りが一番無難だと思うぞ
声が届く範囲も”省エネ”で済みそうだし」
「……」
俺の返答に不自然な間が開く
視線を感じて横を見てみるも、俺が目を向けた時には既に
ルルムスは前を向いてしまっていた
アシュランが古の王であると分かった日からほぼ常時と言っていいほど
『看破』の能力を使って彼の者の心を読み取っているルルムスにとって
理解できない単語が常に飛び交っているアシュランの心の内を読み解くのは容易な事ではなく、知らない単語が出てくる度に
あえて尋ねるような事はせず会話前後の流れや雰囲気で解釈し
不自然にならぬよう話を繋げている
その為今日に至っても、常に理解しようとするルルムスの努力と
それを悟られまいとする機転に、アシュランは全く気付いていなかった
「導力消費量を最小限に抑えるために
口に近く着脱しやすい耳飾りにしたのは事実ですが
揃いを避けて隠す意味では首飾りが良かったかもしれません
作る事に集中して周囲の目まで気が回りませんでした」
「もの作りに初めから完璧なんてないだろ
つっても、俺からしたらこれで十分完成されてると思うけどな
これ以上改良を加えようと思っても俺の発想じゃあ
精々小型化するぐらいしか思いつかねェよ
俺はこれがいい」
「全く、貴方という人は」
どこか呆れたような、気の抜けた声
ルルムスに緩い笑みを向けられ、拙いフォローを
見透かされた気がして気恥ずかしさから目を泳がせる
今の俺の服装は愛すべきゆるっとファッションだ
服の下の武装は最小限に留めてある
装飾など一つもなく首元や耳元が無防備全開だから
大き目の耳飾りは余計に目立つが
そのフォルムは今の服装に似合わないわけでは決してない
むしろワンポイントとして結構良い線いってるのでは?
通りがかりにガラス張りを見かけたのでいそいそと歩み寄り
ガラスの反射で自分の見た目を確認する
(……うむ、オシャレッティ)
ゆったりした服が織り成す曲線の中で鋭く光る銀色のイヤリング
蛹と称した通り、先が上向きで外へ跳ねてるのもアクセントとしては中々良い
これで銀のプレート型ネックレスでもあればより完璧だな
足元がハイカットブーツだったらトータルコーディネートは文句なし……
と、思ったが手首もちょっと寂しいな
シルバーブレスレットとかあると統一性があっていいかもしれない
メンズ腕時計も欲しいな、ついでにベルトにチェーンも付けて
服の裾でチラ見せできるように……
(装飾まで凝りだすとキリがないか)
これ以上想像するのは止めておこう
耳飾りは二つで一組だから
用が済んだらルルムスに返却する事になる
おはじき型通信魔導具も使用後は導力充填の為返却予定だ
(返したくねェなぁ)
アシュランは贈り物をしてもらった事がない
耳飾りをいじりながらついそんな事を考えつつ
ショウウィンドウの前で軽くポーズを決めてる俺の後ろで
小さな咳払いが聞こえた
「服飾に興味があるのですか」
「うん?」
「度々服装にこだわっていたでしょう」
「特別って言うほどじゃあない
個人的な美的感覚に寄る所が大きいって程度だ」
「では、装飾品に関しても特にこだわりはないと?」
「普段着に似合ってりゃそれでいい」
「普段着、ですか」
含みのある言葉に聞こえてジト目で振り返りルルムスを見る
「今の服装の事だぞ
間違っても黒革テカテカでボディライン丸解りの
上半身前面ほぼ丸出しな服装の事じゃないからな?」
「そこまで強調しますか」
年齢だけで言えば装飾品を付けること自体に抵抗があるけどな
高身長で体つきも若々しいアシュランの見た目だから気にせずに済んでいるが、田崎のような冴えないおっさんが装飾品を付けても映えることは殆どないだろう
俺自身の気持ちは田崎寄りなので辛い所だ
「そろそろ行きましょう、そうやって何度も確認しなくても
ちゃんと似合ってますから」
「そっか?
……そうか、似合ってるか」
素直に嬉しいな
久しぶりにのんびりした時間を過ごせているのも気分が良い
再び共に歩き出し、賑わう露店をゆっくりと通り過ぎる
「ギルドの動き、どう思います」
「冒険者の活動に依存してる国は多い
場所によっては相当拙い事態に陥ってる筈だ」
「と、言いますと?」
神殿暮らしが長かったルルムスは
俺の言葉の意味を把握しきれていないらしい
香ばしくて良い匂いを漂わせている出店の前で足を止めた俺は
店員にハンドサインで数を示しつつ再度ルルムスへと目を向ける
「冒険者は職業柄差別されやすい」
「存じています」
「ギルド職員からの情報で、魔国の侵略があった国では
冒険者が使い捨ての戦力として徴用されてる話があってな」
「それに反発の声が上がって
冒険者が次々に疎開し始めていると?
少し妙ですね」
「魔国の侵略は単なる切っ掛けだろうけどな」
品と交換で金銭を渡し、釣りを受け取ってまた歩き出した
「まいど!」と景気の良い店員の声が背後で上がっている
「やはり別の所に目的が?」
「お前も一度は耳にしてるだろ
世界中の至る所で発見されてる妙な遺跡の話」
「冒険者しか立ち入る事が出来ないと噂になっているのは知っています
ひと所では財宝が出土したとかなんとか」
「勝手な憶測だが
冒険者が各国から撤退する動きを見せてるのは
それが原因じゃないかと思う」
「ふむ、聞かせて下さい」
「これまでのギルドは支部を置いているそれぞれの国の方針に
従わなければならない立場だっただろ?
そこに、冒険者だけが立ち入る事のできる遺跡が発見されて
しかも財宝まで出土し始めたとくれば
ギルド勢力が『長きに渡る抑圧からの開放』ってヤツを
遺跡に見出したとしてもおかしくはない」
次に足を止めたのは甘い香りの出店
ブースに置かれたケースから零れる冷気が肌に心地良く
酒場で濃い目の食事を終えた俺にとっては
丁度良いデザートになりそうな食べ物が並んでいた
先ほどと同じく店員に少し多めの数を示して品を受け取り代金を払う
「なるほど、遺跡の存在がギルドの立場を盤石にすると……
しかし、それでもギルド全体を大移動させる理由としては
納得するには足りない要因ですね」
「権力者だけが所有してる鉱山と同等の価値がありそうな遺跡が
冒険者しか立ち入れない場所になったんだぞ?
ギルド連中がその特異性を放っておくワケがない」
「彼らの行き先が気になりますか?」
「そりゃあ、まぁ……
ギルドは世界最大の戦力と言えるほど人数だけは多いからな
そいつらがひと所に集まれば国ができてもおかしくない
新しい国の形が誕生するかもしれないと思ったら
折角だし、見に行ってみたいと思うだろ」
「貴方は、ギルドが遺跡を中心とした国を立ち上げるとお考えなのですね
ですが、流石にそれは飛躍し過ぎでは?
遺跡といっても鉱山ほど利益が出るとは思えませんし
資源は取り続ければいつか必ず枯渇するものです」
「だが、今一番遺跡の実態に詳しいであろう冒険者を束ねるギルドが
世界中のギルド支部に『国から撤退するように』っていう
大規模な指示を出してる事実も無視できないだろ?」
「確かに、その通りですね」
あと、遺跡に潜って一獲千金という点にも興味がある。
俺の持ち物の大半は贖罪の為に活用する予定だし
個人の資産となるとほぼ無いに等しいから
今後の活動資金の為にも金策は大事だ
賑わう路地を通り抜けた俺たちが向かっているのは宮殿の方角
「憶測でものを言ってるのはちゃんと自覚してる
今の話は冒険者の浪漫とでも思って話半分に聞いといてくれ」
「でも、気になるんですよね?」
「ぉ、おう…」
思いがけずズズイと顔を寄せて迫られ狼狽えながら頷く
なんだ?妙に念押ししてきやがって。
前傾姿勢で俺の目をじぃっと見つめたルルムスは
妙に胡散臭い笑みを作って姿勢を正す
出店通りを抜けたから周囲に人は殆どいなくなったが
耳飾りを外すのは話の内容上まだ早いか
「ところで次の目的地ですが
『帝国』に向かおうと思っています」
「ここから二つ隣の国か
いつ頃出立予定だ?」
「あと十日以内には、なんとか出たいですね」
厳しい表情をする辺り事の進捗が思わしくないのだろう
聖女を旅に同行させる過程がすんなりいかないかもしれないとは聞いていたがやはりその点が難航しているのか
場合によっては聖女を強制的に連れ出し、だな。
その際は空路が一番手っ取り早いか
「分かった、クラウスに頼んどいてやるよ」
「話が早くて助かります」
「お前ら仲悪いもんなぁ……聖者と竜族なのが理由だとか言ってたが
そういう先入観をとっぱらえば仲良くなれるだろうに」
「彼の本性は竜ですから、本能的に受け付けないのでしょう
でなければ生き物に『天敵』などというものは存在しませんよ」
「食物連鎖、自然の摂理ってかァ?
意思疎通できる相手にそんな大それた問題かねェ」
「私としては歩み寄りたい所ですが
クラウスは相当に私の事を毛嫌いしていますから」
「一緒に行動するなら関係も円滑であるに越したことはねェからな
二人の負担にならない程度に、協力させてもらうぜ」
「アッシュがいれば百人力ですね」
「よせやい
おだててもこれぐらいしか出ねェぞー」
と、最初の出店で買っておいた串焼きを一本ルルムスに差し出す
すんなりと受け取ったルルムスを尻目に新たに取り出した一本を口に含み
まったりした甘辛いタレと丁度良い焼き加減の肉の味を堪能する
間に挟まっている瑞々しい葉のシャキシャキとした触感が
肉の柔らかさを一層引き立てていた
「うんっま!匂いに釣られて衝動買いしたけど
これんっまいな!」
「確かに、中々の味ですね」
「デザートも買ってあるから
後でクラウスたちと一緒に食べようぜ」
神殿育ちなら出店の串焼きなど抵抗があるのではと思ったが
ルルムスは結構豪快に口に含んで食べている
タレが零れないようくるくると串を回している辺り
こういった庶民の食べ物に慣れているようだ
手際よく食べ終えたルルムスが
俺が抱えている串焼きの入った紙袋の中に串だけを戻す
口元が全く汚れていない、こいつ…できる!
「もう一本下さい」
「昼飯食ってないなら先に言えよ」
言いながら二本目を渡す
一本でも結構なボリュームだが
ルルムスは平気な顔で二本目にかぶりついていた
普段は洗練された教皇然な立ち振る舞いなのに
こういう下町っぽさが妙に板についている
俺相手に拳で喧嘩できる図太い性格してるから
ただの温室育ちとは思わないが……
ルルムスは『看破』の能力の持ち主
デリケートな要因を多く含んでいる可能性が高いので
そこまで踏み入った話をするのはちょっと勇気が要る
幼少期を話題に出すのはまた今度にしよう
(頭を切り替えるか)
次の目的地は『帝国』だったな
この世界で『帝国』と呼ばれる国はひとつしかない
ナガルートゥ・エヴストゥルートゥ・ドゥベルタトゥタ皇帝国
言い辛い事この上ない長ったらしい正式名だけはよく覚えている
通称、ルベルタ帝国
セインツヴァイト公爵領からは更に遠く国交のない国だった所為か
代々青き血の女皇帝が統べる強大な軍事国家だと教本で学んだ以外では
全くと言っていいほど知らない国
旅程は、馬車での移動であれば一か月半は見積もる距離だな
ここから更に国二つを跨ぐ、しかしそれは陸路であればの話だ
エスティール聖国の南に広がる大森林と海を隔てた先に帝国があった筈だから空路を駆使すればさほど遠くはない距離になる
帝国国境近くまでならクラウスに頼んで日帰りで足を運べるかもしれない
全員で帝国に向かう前に、出立までの数日を使って
俺単独で下見に行っておくか
快晴の空を眺めながら歩く俺の横で
ルルムスは三本目の串焼きに手を出していた




