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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
85/145

85<聖なる星々の国~事の顛末と長期休暇~

目がァー!


……などと、切迫した状況にも関わらず空気をぶち壊して

お約束のリアクションをしているのはいわずもがなKYの田崎だ

太陽を天体望遠鏡で見続けると人はお手軽に失明できるよ!

とか全く役に立たない知識を補足している


嬢ちゃんの放つ光の直撃を受けた所為で目が眩んだ

目玉がカンデラ焼きになるのはご免だが、万一失明しても

この世界では治癒導術で治してもらえるので問題ない


暫し間を置いておそるおそる目を開く

強い光も一時的だったようで問題なく視力が戻って来た

改めて周囲の状況を確認してみると、先ほどとは違い

凝視しても眩しくない不思議な光を纏っている嬢ちゃんと

血色良く規則的な呼吸をして眠っているエヴィルが居た

一応脈と呼吸、体温を診ておく

俺の邪魔にならぬよう手を離し身を引いた嬢ちゃんは

簡単な診察の様子を固唾を飲んで見守っていた


「……アッシュ様、セイリオスは」


「呼吸も体温も戻ってる、この様子なら大丈夫だろう

今のは治癒導術か?初めて見る現象だったな」


エヴィルから手を離した段階で

身に纏っていた不思議な光が消えた嬢ちゃんは

俺の問いかけに眉を下げて首を振る


「私にも、よく分かりません」


「なんにしてもエヴィルの容態は安定してる

結果オーライだと思うぞ」


「……良かったぁ」


ずっと緊張していたのだろう、その場にへたり込んだ嬢ちゃんは

相当疲れたのか、深く息を吐いた


「椅子に座れるか」


「はい」


どうせ座るならソファーの方がいいだろうと促せば

生まれたての小鹿のように足腰をプルプル震わせ

立ち上がりはしたものの、姿勢は老人のようだった

運んでやろうかと思ったが今の俺は血に塗れており

気軽に抱っこしてやるには障りがある

閉まった扉を背に立っているクラウスを視線で呼ぶも来てくれる気配はない

結局手を貸してやれないまま、嬢ちゃんは独力でゆっくりと移動し

半ば這いずる様に斜め前にあった一人掛けソファーに辿り着くと

倒れ込むように腰かけ……すぐに寝入ってしまった


今の治癒導術で相当体力を消耗したらしい


嬢ちゃんが寝入ったタイミングでやっと扉から背を離したクラウスは

血に染まった家具の傍まで歩み寄ると片手を翳し

ルルムスが使っているような浄化作用のある導術を使って

ぐっしょりと濡れていた俺の下半身も巻き込み

汚れていた場所を清潔な状態に戻してくれた

テーブルの上や床に散ったカップの欠片はそのままだが。


「お前、いつの間に浄化導術なんか

使えるようになったんだ」


「今使った力は導術ではない」


「うん?あー……、そうなのか」


そういやクラウスの奴、俺が瘴気を取り込んだとか

瘴気が元々俺のものだとか嫌な予感しかしない事ばかり言っていたな

詳しく聞きたいような聞きたくないような。


綺麗になったばかりのソファーに腰を沈めて思いっきり体を預ける

なんだかんだで俺も疲労が溜まってたみたいだ

背もたれの枠で後頭部を支えてぼんやりと天井を見ていたら

気を利かせたクラウスが飲み物を持って来てくれた

フリッツがポットにセットしてた紅茶の残りだ

まだ温かいそれで喉を潤し、隣に座ったクラウスを見る


「俺が取り込んだらしい瘴気についてだが

周囲に害を及ぼす類のものなのか?」


「アシュが望まなければそうはならない」


望んだら害を与えられるって事か

当然、こんな危険な物は永久封印確定だ

意図せず兵器武装する羽目になったようで気が重くなる


「今後も似たような事があったら

取り込んでも大丈夫か?許容量とか分かるか?」


「”アレ”は元々アシュのものだから

この先どれだけ取り込んでも問題ない」


「悪影響は一切ないんだな?」


「ない」


ハッキリと断言してきたな

情報源(ソース)は竜族を統率できる能力から来ているのだろうか

俺が知らない事や分からない事も色々知ってるんだろう

さっきの浄化も導術ではないと意味深な事を言っていたし

ここまで来るとチートだな

「竜人だから」が完全にパワーワード化している


「教えてくれてありがとな、問題ないならこれからは

瘴気を見つけたら積極的に取り込んでいくとするか

ルルムスの役にも立てそうだし」


今は安全かそうでないかだけ分かっていればいい


(俺のシックスセンスが『深く聞くな』と言ってるからな)


クラウスの頭を大雑把に撫でていると

左右に動かしている手の影からこちらを窺い見る金色の瞳とかち合う


「アシュ……他に

聞きたい事があるんじゃないのか」


「必要な事は聞いた、十分だ」


触れただけで人の命を奪う瘴気だぞ?

あれだけルルムスが「近づくな」と警告していた危険極まりない何かを

自分のモノとして取り込んだ俺は何者だよって疑問が湧くだろ?

そんなモン、予想するまでも無く

厄介極まりない答えが用意されているに決まっている


見知らぬ人から突然血塗れの肉切り包丁を渡されて

「これはお前のものだ」と言い逃げされ、その包丁がどうやっても

自分の手から離れなくなっているようなものだ

俺だったらとりあえず常に刃を自分に向けておく

そして速やかに霊験あらたかな神社に警察を呼び

お祓いと事情聴取を同時進行するだろう


クラウス(神主)の説明(お祓い)で

その包丁が手に溶け込んで無害に見えるようになっただけだ

いつでもどこでも即座に振るえる血塗れ包丁を常に装備してる隣人なんてものが居たら事情を知るより先に電光石火の如く引っ越すわ


誰だってそうする、俺だってそうする


世の中知らない方がいい事も沢山あるからな

俺が取り込んでしまった瘴気が無害だという事さえ分かっていれば

それ以外は今すぐに知る必要はない


俺の心の準備が整ってから

追々、小出しで、その時々で確認していけばいい

イキナリとんでもない情報を突きつけられたら

さっきみたいにまた体の自由が利かなくなりそうだからな

暫くは『田崎』と『アシュラン』を俺と統合させる事に集中しよう

そんな俺の決意を受けて

キショいキモいと断固拒否を訴える二人の声は無視しておく


「アッシュ」


ノック音と共にフィルターを通したような呼びかけに応えて

首だけ捻って声の主を確認すれば

ガラス一枚を隔てた向こう側に笑みを浮かべたルルムスが立っていた

背後にあったガラス扉の鍵を導術で開けて

テラスから部屋へと入って来たルルムスの姿に驚く


「おいおい、ここは確か五階だよな?」


「導術で飛んで来たに決まってるでしょう

会場の天井を足場にした貴方が

この程度の事で驚いてどうするんです」


なんて話をしてる間に

フリッツも導技を使ってテラスから飛び込んできた


「さっき部屋から凄い光が漏れてたぞ!何があった!」


「落ち着け、嬢ちゃんが導術を使ってエヴィルを治癒しただけだ

二人とも今は疲れて眠ってるからもうちょっと静かに、な」


「っと、悪い」


フリッツに向かって人差し指を唇の前に立てる

ぐっすりと眠っている二人の光景を見て

反射的に口元に手を持って行きかけたフリッツは

二人とも起きる気配がない事を確認すると

声のトーンを落として話し始めた


「兎に角、間に合って良かった

導師を呼びに行く途中通路で二人とすれ違ったから

事情を伝えておいたんだ」


「ファインプレーだぜフリッツ

嬢ちゃんの治癒がなかったらエヴィルは間に合わなかった

クラウスも、嬢ちゃん連れてきてくれてありがとな」


再度わっしわっしと頭を撫でてやると

見た目相応に嬉しそうな笑みを浮かべるクラウス

子ども扱いされるのが嬉しいって

恥じらいながらも勇気出して教えてくれたんだ

こいつの我が儘に応えられる時応えてやるのも

竜の卵が持ち出された原因を作った俺の責務だからな


ソファーを回り込んだルルムスが割れたカップに気付き

その場に膝を突いて垂れ下がった袖を片手で押さえながら

テーブルや絨毯の上に散らばった破片を拾い始めた

それを見たフリッツが何かを探すように室内を物色し始める


「それで、何があったのか

お話して頂けますか」


「エヴィルの坊ちゃんが自殺を図っただけだ」


カチャカチャと集められた破片が音を立てる

テーブルの下に転がっていた回復薬の空瓶も拾い

ひとまとめにしているルルムスが目を細めた


「最高級の回復薬を五本も消費する程の、ですか」


「骨が見えるほど深く首を切り裂いてたからな

流石に焦った」


「それは……よく死にませんでしたね」


「嬢ちゃんの治癒のお陰だ

……で、ルルムス」


「なんでしょうか」


「この国のお偉方との話は済んだのか」


「フリードリヒが来たので途中退席してきました

彼らへの説明は明日、改めてしに行く予定です」


「だったら今の内に俺らにも説明してもらいたいんだが」


「何から話したものか……

やはり、最初からお話した方が分かりやすいでしょうね」


「フリッツ、一応盗聴防止を頼む」


「有効範囲を最小にしておくぞ

導師、破片と空瓶はこれに」

「ええ、ありがとうございます」


フリッツが小さいトレーを持って来てテーブルの上に置く

さっきから部屋の中をウロウロしてたのは

散らばった破片をまとめて置いておけるものを探してたからか

俺が居る側のテーブルの隅に魔導具を置いたフリッツも

話を聞くべく空いた椅子に座ろうとして立ち止まり

盗聴防止の範囲が気になったらしく身体強化を使うと、話を聞かれないよう嬢ちゃんとエヴィルをソファーごと持ち上げ壁際まで移動させる

近場にあったひざ掛けを二人にかけてから足音を忍ばせ戻って来た

ルルムスもソファーの空いてる場所に腰を据える


「この距離なら万が一起きても話を聞かれる事は無いだろう」


「場も整った事だし

ルルムス、説明を頼む」


「では先ず朗報を……

ラピスが先ほど、聖女として覚醒しました

なので今後の旅に彼女を同行させる事になります」


俺とフリッツは驚きから暫し無言になる

そうか、今までどれだけ探しても見つからなかったのは

まだ聖女が聖女として覚醒してなかった所為だったのか

フリッツが人の悪そうな笑みを浮かべてクラウスを見る


「良かったなぁクラウス

これからもラピスちゃんと一緒にいられるぞ!」

「アシュにまとわりつく虫の分際で馴れ馴れしく我の名を呼ぶな」

「まとわりつく虫って、俺よりもむしろそっちの方がそれっぽい……」

「何だと?貴様、たかが人間の分際で!!」


「クラウス」


フリッツに食って掛かろうと立ち上がった所で呼び止める

短く唸ったクラウスは大人しく俺の隣に座り直すが

場が静かになるのを見届けたルルムスの一瞥を睨み返していた


ルルムスとは既に手遅れだとしても

せめてフリッツとは仲良くしてほしいんだがなぁ……

無理かなぁ


「今回の騒動についてですが、事の発端は

古の王がかつてその身に纏っていたと言われる装具にあります」


(魔王の装具……)

俺に寄りかかり不貞寝の体勢に入ったクラウスをそのままに

田崎世界で言う所のゲームでよくありがちな

エネミーの装備品、みたいなものを思い浮かべる

ラスボスの最強装備とかそんな感じだろうか

……なんか全部呪われてそうだな


「別名は『混沌の神器(ケイオス・コード)

人々には厄災を(もたら)すとも言われています」


(やっぱり呪われてんのかよ)


「装具って言うぐらいだから一つじゃないんだろ

全部でいくつあるんだ?」

「私の知る限りでは十二です」

「十二……?十二と言えば

聖典で習った終末の伝承についても全部で十二節だった筈だけど

それと関係あるのか」

「無関係とは言い難いですね

しかし、他国では王の配下が十二人いるという説があるので

それが事実であれば装具よりも関係性が深いかと」


別の可能性を示唆したルルムスの答えに

顔を顰めて頭を搔いたフリッツはため息を吐く


「それを忘れてた

聖典の解釈は国ごとに大きく異なるんだったか……」

「終末の黙示録を聖書のように祀っている国もある位ですからね

過去にはそれが原因で国同士の戦争が起こった事もありますから」

「授業では毎回議論で白熱してたぜ」


意見のぶつけ合いが拳のぶつけ合いに発展して

医務室に運ばれる奴らが多かったけど、と

懐かしい過去を思い出したフリッツはしかめっ面でコメカミを押さえた

フリッツが学んだ学舎では頭痛を覚えるほど酷い有様だったらしい


聖典は世界中の子供たちにとって英雄譚のような扱いだ

こと娯楽の少ないこの世界で物語に夢中になる者は多い

各々が憧れる英雄像ともなれば誰もが己の主張を押し通したくもなる


導師は英雄の引き立て役だからあまり目立たないが

英雄に関しては期待値が大きいだろう、世界レベルで。


(英雄として覚醒してる奴は周りからのプレッシャー凄いだろうなぁ

そんな役回り、俺だったら絶対にご免だぜ)


「それで、今回の騒動の元凶……

混沌の神器(ケイオス・コード)ってのは見つかったのか?」

「はい、既に私の方で捕縛してあります

目的が『聖女』の殺害だったという事も調べが付いています」

「まるで意志を持ってるかのような言い回しだな」

「仰る通り、混沌の神器(ケイオス・コード)は意思を持っています

一見するとただの道具ですが

古の王だけを主と認め従う、列記とした『魔物』です

人間が知らず扱えば(たちま)ちに魂を汚染され廃人になってしまう」


「嬢ちゃんの妹がああなったのは廃人になったからか」


俺の指摘にルルムスは静かに頷き、肯定する


「最初に出会った時はあれほど酷い状態ではありませんでしたが

ここ数日で一気に浸食されてしまったようです

瘴気を発する段階になってしまうと我々では手の施しようがありません

聖女だけが瘴気を浄化し、魂の破壊を癒す事ができるとされています」


「前に聞いた『破邪』とかいう能力だな」


「ええ、ですが今のラピスでは力不足でしょう

正式な継承もなく覚醒してしまった所為か能力も不安定です

その証拠にたった一回、力を使っただけであれほど消耗している

瘴気を祓うには相応の修練を積む必要があります」


「旅の道中で鍛えるしかねェか」


「暫くは私が彼女を指南しましょう

聖女として覚醒した以上、その役目は全うせねばなりません」


眠っている嬢ちゃんを遠目に眺める


俺の心中は複雑だ

気にかけていた子供の今後を見守れることには一定の安心感を覚えたが

それがあろう事か聖女に覚醒するとは。

あんなにもか弱い女児……実際は既に年頃の女の子ではあるが

それでも大人の庇護下にいる年齢に変わりはない

にも関わらず世界を救う旅に出なければならないとは


「守ってやんねェとな」


「……そうですね」


俺の呟きにルルムスが微笑した

フリッツもこれ見よがしに嬉しそうな笑みを浮かべている


「前にラピスちゃんが付いて行きたいって言った時

足手まといだーとか、子守なんて御免だーとか

率先して憎まれ口叩いてた奴の台詞とは思えないな」


「うるせェよ」


そういうのは言わぬが花だろうが、無粋な奴め

暫しの沈黙の間眠る少女をぼんやりと眺めていると

フリッツがルルムスへ尋ね始めた


「なぁ、気になる事があるんだが……

人の魂が浸食されるって事は原因である混沌の神器(ケイオス・コード)には

相当厄介な能力があるんだろ?

捕まえるだけじゃなく始末しておいた方がいいんじゃないのか」

「残念ですが、混沌の神器(ケイオス・コード)

人の手では破壊する事も殺す事もできません」

「魔物なんだろ?だったら殺せるじゃないか」

「確かに分類上は魔物ですが混沌の神器(ケイオス・コード)には

導術に対する強力な抵抗回路(アンチスキル)が備わっています

破壊しようにも不用意に触れたりなどすれば

スピカ・シェアトのように魂を食い荒らされてしまいます」


生半可な導術は効かない、物理も危険すぎる……ならば


「聖女なら破壊、ないしは殺せるって事か」


「不可能です、浄化に特化した聖女の能力では

相手が例え魔物であっても害する事はできません」


なるほど、それで破邪による無力化しか方法がないのか

しかし不思議だな

そんな無敵の魔物が十二匹も居るならとっくに

世界中が大混乱になってる筈だが

疑問を浮かべた俺に目を向けたルルムスが淀みなく答える


混沌の神器(ケイオス・コード)は古の王の目覚めと共に本来の力を取り戻し活動を始めます

装具は残り十一、見つけるのはさほど難しい事ではありません

人々の噂になっている”縁起の悪い物”を探せばいいだけですから」


「縁起の悪い物?」


「持ち主が必ず不幸になる宝石

手にした者が非業の死を遂げる呪いの武具……

ありふれた都市伝説ばかりですが

それこそが混沌の神器(ケイオス・コード)を見つける手掛かりになります」


「魔王と共に目覚めるって事は、魔王が倒れればそいつらも

(ちまた)を騒がせる程度の呪いグッズに戻るってことだな」


「断言はできませんがおそらくは……

ですが、全ての混沌の神器(ケイオス・コード)を聖女の能力で無力化させれば

()()()()()()()()()人々の生活が脅かされる事はなくなるのですよ」


ルルムスの言葉にフリッツの視線が鋭くなった

何かを見極めようとするかのようにルルムスをじっと見つめているが

その眼差しの真意に気付いているのは目を向けられているルルムスだけだ


「わざわざ十二匹全部を見つけるより魔王一匹倒した方が早いだろ」


もたれ掛かり過ぎていつの間にやら俺の膝を枕にしていたクラウスが

もそりと身じろぎしているが気にせず話を続ける

より効率的な案を出したつもりだったが

ルルムスはそれを咎めるかのように厳しい目で俺を見つめてきた


「いいえ、アッシュ

混沌の神器(ケイオス・コード)は古の王だけが装備できる特別な装具です

それを我々が集めるという事は彼の王を弱体化させる事にも繋がります


装具全てを見つけておけばまた次代の王が目覚めた時

より早く弱体化の対応ができるので、私の代で全て見つけて

聖女の力を借りて無力化した後、永続封印を施します


ですから貴方には

装具回収の情報収集に協力して頂きたいのです

『古の王を倒すだけ』という結論は絶対にあり得ません」


……そっか、ルルムスは導師だもんな

元凶叩いてはい終わりとはいかないか。俺の考えが浅はかだった

世界中の人たちの日々の生活も守ろうとしているなんて尊いが過ぎる

流石はルルムス、こいつの志には天辺が無い

ひとつの土地に(つぐな)おうとしている俺とはスケールが違うな


「聖者を集めるだけかと思ってたけど、案外やる事多いんだな

情報収集なら得意分野だ

微力だが力になるぜ、ルルムス」


「貴方がいて下さって心強いです、アッシュ

これからもよろしく頼みます」


こうした咄嗟の切り返しで相手のモチベーションにも配慮できる

なんという理想の上司、有能過ぎて部下のやる気スイッチが入りっぱなしだ


(そんな男を無能と罵れるこいつが不思議でならん)


不満を表すべくクラウスの前髪を指先で撥ねておく

俺に向けられる教皇ビームが全身に刺さるほど眩しいが

真人間になる為にもこのビームは積極的に浴びていくぞ

俺は密着カメラマンだからな(※55話終盤参照)

なんて事を考えていたら芋づる式に思い出した当時の会話




『お前、実は破邪の能力持ってるだろ』

『何を仰ってるんですか藪から棒に』

『隠さなくていいぞ、聖女ルルムス』

『アホですか』




「……

…… ……

…… …… ……あー、ルルムス?」


「はい」


「お前、もしかして」


伝承通りだと俺が聖女という事になる、とか

緊迫した場を弁えず質の悪い冗談言ったのは

あの時の会話の仕返しだったりする?なーんて


(聞けるワケがねェ)


不覚にも女優泣きした過去を「何もなかったことにしてくれ」と

ボケをかまして見事にスベったのは外ならぬ俺だ

改めて聞く事はできないが、おそらく俺の予測は正しいだろう

ルルムスはやられたらやり返す、意外と根に持つ性格だし

これまでも大なり小なりやり返されてきたからな

そんな俺の予測を肯定するかのように

俺の声なき問いを読み取ったルルムスが


にっこり、と


満面の笑みを浮かべて深く頷きやがった

……そうか

俺は、自分の失言の所為で泣かされたのか


(ごめんなさいねェ!!)


内心でキレながら謝罪する

感情に任せて顔面覆って背を丸めてしまったが

本心ではちゃんと反省しているので態度だけでも見逃してほしい

こんなんじゃおちおち揶揄(からか)う事もできないじゃないか

友人をおいそれとおちょくれないのは寂しいが

今後はルルムスをいじり過ぎないよう気を付けよう

じゃないと今回のように万倍返しされる

泣かされるのは一度だけで十分だ


そうして俯き落ち込む俺を見て

今回は流石にやり返しすぎたと感じていたルルムスは

「次からはもう少し手加減してあげよう」と密かに自省していた


俺とルルムスの声なき会話をフリッツが困惑気味に見ている

そういえばフリッツはルルムスとクラウスが

人の心を読める事を知らないんだったか

リアクションオンリーで展開されてる今の状況に戸惑うのも無理はない

不自然な会話の途切れから一向に口を開かない俺たちの空気に耐えかねたフリッツが無理矢理に話題を切り替えた


「アッシュが触った瘴気は大丈夫なのか?」

「それについては何か問題が起これば私が対処します

アッシュ、瘴気が効かない特異体質とはいえ

今回のような真似は二度としないで下さいね」


「特異体質……なのか?俺は」


「本来であれば聖女だけが無効化できる類のものです

それを聖者でもない貴方が行えるという事は

なんらかの特異体質であるとしか言いようがありません

セインツヴァイト公爵家が初代聖女の血筋であるというのなら

また別の可能性もありますが」


「……分かった

お前がそう言うならこれからは気を付ける」


確かに遠縁とか先祖返りとかそういった可能性もある

クラウスがいやにハッキリと『元から俺のものだった』なんて断言するものだから嫌な予感しかしなかったが、ルルムスの言う可能性の方が幾分か安心感があるな

セインツヴァイト家は長い歴史を持っているが、流石に魔王が実在したと言われている千年以上前の家系図は見た事が無い

ハッキリと断言できない以上初代聖女の末裔という可能性も捨てきれないので今は信じたい方を信じておこう、俺の心の平穏の為にも。

考え事に集中していた視界の端で

ルルムスが仕切り直すように居住まいを正す


「では、今後の予定に入りましょう

ラピスはこの国で聖女として果たさなければならない役目があります

私は暫く彼女の教育に専念するので

用事が終わるまで皆さんは国内で自由に過ごしていて下さい」


「休暇ってことか

教育となると月単位かかりそうだな」


「出来る限り急ぎます」

「俺たちに手伝えそうな事はないのか?」

「ありません、ここからは『聖者』の領分

導師である私と、聖女である彼女にしか出来ない事ですから

貴方がたのそのお気持ちだけ頂いておきます」

「そういう話じゃあしょうがないか、なぁアッシュ」


「ああ……ルルムス

俺たちの手が必要な時は遠慮なく頼れよ」


頷いてくれたルルムスとの話の後、フリッツが何か言いたげに俺を見て

何度も唇を歪めたが結局言葉を発する事はなかった


それから一時間も経たない内に扉がノックされ

エヴィル家の使いの者数名がセイリオスの迎えに部屋を訪れた

彼が自殺を図った事、精神的に非常に不安定である事を伝え

眠ったままのエヴィルを背負って帰っていく使者の背中を見送る


さて、次は嬢ちゃんだが……まだ起きそうにないな

もうすぐ夕飯時だが起こしてやった方がいいだろうか

物凄く疲れてたっぽいから無理に起こすのも忍びない

顎に手を当て考えこもうとした所でルルムスが席を立つ


「彼女は私が部屋まで運んでおきます

貴方がたにも新しく客室が用意されているでしょうから

そちらの方へ移って下さい」


こうして話し合いの場はお開きとなった


ルルムスを迎えに来たのは宮の使用人十名……

十名?多すぎないか?

否、国賓であればそれ位が普通なのか

パーティ参加以降、凄いVIP待遇になったな


使用人が運ぼうとするのをやんわりと断り、自ら嬢ちゃんを姫抱っこして部屋を出て行くルルムスにまた明日と告げ

続く俺たちにも別の使用人の迎えがあり

用意された部屋へと移動する事になった

案内された先は来賓が宿泊する上層階の豪華な客室

先ほどまで居た来賓室をデラックスとランク付けするなら

この部屋の設備は高級リゾートホテルのスイートだろう

セインツヴァイトで根城にしてた一室を思い出させる贅沢さだ


公の場で導師直属の護衛であると紹介した影響だな

最初に宮殿に来た時との待遇の差が大きい

何しろ初日は牢屋だったからな

これだけ広ければ一緒に居たいと訴えたクラウスを室内に放逐するのも容易だ

夕飯食ったら寝る、と言って疲れを滲ませた顔で隣室へ入るフリッツとも挨拶を済ませた俺も室内を見渡して最初に目についた上等なソファーに身を預けた


(やっと寛げる)


今日一日で色んな事があった

部屋の設備を興味深く見て回るクラウスの姿を視界に捉え

鈍い動作で防具を外し終えるとそのまま仰向けに寝そべる


(夕飯が来るまで仮眠でも取っておくか)


ゆっくりと目を閉じれば、俺の意識は直ぐに睡魔に呑まれてしまった

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