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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
84/145

84<聖なる星々の国~プロフェイスの預言と予定調和~

宮内で起こった惨事について

国を取りまとめる席官らから説明を求められたルルムスは

場を収集する兵に連れられ、会場から出て行ってしまった

護衛として同行を申し出たがルルムス本人から「必要ない」と言われ

いくつか聞きたい事があったがとりあえずその場は見送る事にする

あの様子では暫く帰ってこないだろう


ラピス嬢ちゃんは妹の亡骸に寄り添い

遺体回収していた人たちと共に出て行こうとしていたから

ギリギリまで食事を続けていたクラウスを呼んで

嬢ちゃんの傍にいるようにと指示したのだが


「なんだそのふくれっ面は」


「アシュの頼みだから聞くんだ

おれが個人的にラピスを好きだとか

気に入ってるからとかで傍に行く訳じゃないからな」


ちゃっかり嬢ちゃんの名前を呼び捨てしておきながら

何をトンチンカンな事を言ってるんだお前は、鈍感なのか。

嬢ちゃんが旅に同行できないってなった時に

頭撫でて慰めてやるぐらい親密だっただろう


実際は同行拒否され凹むラピスに

盛大なドヤフェイスをキメていたクラウスだったが

丁度真後ろに居たアシュランはその事実を知らない


少し前だって食べ過ぎてたお前を諫めて

気安いやりとりをしてたじゃないか、遠慮のない間柄のクセに

わざわざ好きじゃないだの気に入ってるわけじゃないだのと……

と、ここまで考えた俺はピンときた


(なるほど、ツンデレってヤツか)


本心を見せるのが気恥ずかしくてつい尖った態度をしてしまうヤツだ

思春期あるある。

とはいえ、今このタイミングでその態度はやめておけ

嬢ちゃんは妹を亡くしたばかりだから素直に慰める行動が吉だぞ


クラウスは竜族である所為か

人間の死に対しては非情とも言えるほど無関心だ

でなければ死体の横で平然と食事なんて出来る訳がない

共に贄塚を見上げた時も無反応だったから分かってはいたが

そろそろ人の心の機微というものを学んでおいた方がいい

嬢ちゃんに親しみを覚えている段階なら尚更だ


思考を巡らせる間

クラウスの表情は俺の考えの流れに合わせるように

真摯な様子から冷めた顔に変わり

最後には絶望しきった表情で落ち着いた

一連の表情の変化を「臆した」と解釈した俺は

勇気づける為にクラウスの肩を叩く


「今は寄り添って慰めてやれ、優しくしてやるんだぞ

お前の気持ちはよぉ~く分かってる」


「分かってない

アシュは微塵も、これっぽっちも解ってない」


「押さえる時はしっかり押さえて攻める時はしっかり攻めていけ

ホラ、さっさと行かねェと嬢ちゃんに置いてかれちまうぞ」


くるりと無理矢理方向転換させて背中をトンと押してやる

励めよ青少年、オッサンは若者の青春を応援するぞ

躊躇いながらも歩き出しつつ振り返り、恨めし気に俺を見てから

がっくりと両肩を落として嬢ちゃんの元へ向かうクラウスに手を振った


(寄り添って慰めてやるだけでいいんだぞ

変に突っ走り過ぎるんじゃないぞ)


なんだかんだで恋愛初心者であろうクラウスに心の声で念押しする

ふ、と隣りを見ると俺と同じ結論に至ったらしいフリッツも

微笑まし気にクラウスを見送っていた

これに関してはフリッツと共同戦線を張れそうだな

いつまでこの国に居られるかは分からないが

お膳立て出来る時は手伝ってやろう


「さて、俺らはどうするかな

ルルムスの帰りを待つにしてもその間は暇になるだろうし」


「ここで待つなら俺も後始末の手伝いをしに行ってもいいか?

さっきからあっちの様子が気になるんだ」


隣りに居たフリッツが会場後方に目をやった

つられるように同じ方角に目を向ければ

先ほど嫌な記憶を思い出したばかりの光景と……


「ありゃあ……エヴィル兄弟の兄の方か?」


「ちょっと行ってくる」


眉を顰めたフリッツが俺の傍を離れてそちらへと向かう

遠目にだが、エヴィル兄が複数の卒業生に囲まれているように見える

微かに聞こえてくる怒号から、どうやら諍いが生じているようだ

場に駆けつけた数名の兵士も彼らのやり取りを見守っており

時折乱闘になりそうな場を仲裁しているので

放っておいても大事には至らないだろう


そこへフリッツが向かった、という方が 不 安 材 料 だ が。

相手は殆どが学園を卒業したばかりの子供たちだ

仲裁するよりもむしろ喧嘩を煽るタイプかもしれないフリッツが

あの場に加わってしまうというのがどうにも 不 安 材 料 だ が。

アレグロスティ伯爵お墨付きの問題児とはいえ

流石のアイツも子供相手に本気にはならんだろう

ならないに違いない、俺はそう信じている


半ば強制的に自分を納得させていれば

二名の兵士が礼儀正しい雰囲気で歩み寄ってきた


「失礼致します

導師様の護衛をしていらっしゃる方ですよね」


「導師アッパヤードの護衛を任されている

冒険者ギルド所属のアッシュだ、なにか用か?」


名乗り切った所で即座に失敗したと悟る

目に見えて二人の態度があからさまに横柄になったからだ

宮中を警備してる大体の兵士がステラに対する啖呵の件で

俺に友好的だったものだから油断した


「関係者への事情聴取を行っている

別室を用意しているので我々に付いて来るように」


片方は見るからに嫌悪の表情を露にして俺を睨み付けた

言うだけ言って俺の返事を待たず

背を向けて歩いていく兵士二人に慌てて声をかける


「もう一人の護衛があっちに居る、白い甲冑の奴だ

事情を聞くならあいつにも声をかけてくれ」


その言葉を聞いてゆっくりと振り返った兵士の一人が嘲笑を浮かべた

もう一人はうんざりしたような表情で鼻からため息を吐いている

俺も初めから敬語を省いているが

この言動は冒険者の様式美みたいなモノだ

それを差し置いてもこいつらほど礼を失してはいないと断言できる


「冒険者風情が俺たちに指図したのか?」

「やめろ、一応導師の護衛だぞ

悪いな冒険者、連れが居るならさっさと呼んできてくれ

こっちも忙しいんだ」


運の悪い事に差別主義な兵士に当たったらしい

こういう偏った思想の連中に限って

会場内の面倒な作業をサボる口実ついでに

点数稼ぎで出しゃばったりするんだよな


(例えば、今みたいに導師の護衛(V I P)を案内する役回りとか)


この国のギルドも既に撤退を始めていたし

受付嬢や酒場の同業者から話を聞いて扱いが悪いのは分かっていたが

いざ目の当たりにするとやはり気分が悪いな

兵士二人は後程チェンジしてもらうとして

フリッツへ向けて声を張り上げた


「フリッツ!移動するぞ!」


身体強化で声量を調整する

普段使った事のない方法だったので思ったより声は出なかったが

呼ばれた本人には声が届いたらしい


「少し待ってくれ!」


俺以上にデカい声が返ってきたのでハンドサインで急かしておく

ルルムスが使っていた拡声導術みたくスマートにはいかないな

遠目に観察していると、フリッツはエヴィル兄の隣に立ち

それを取り囲む連中に何やら話を続けているようだ


彼らの傍で横倒しになったテーブルと

今は救出作業で人がごった返しているが

先ほどまで倒れ重なっていた無数の死体を思い返せば

何が起こったのか、ある程度予想は付く


(エヴィル兄は嬢ちゃんに片思い中だったな)


俺に対しても警戒心を露にしていた様子を思い出す

避難時、共にあの場に居たのなら

好きな子を守ろうとする余り咄嗟の判断を誤って

結果、意図せずあの惨状になった可能性もあるな


今回の惨事に乗じて瘴気の所為にするにも距離が離れすぎている

早い段階で隔離結界が張られたから被害も後方までは及んでいない

外へ逃げ切った人々がその場で振り返り

テーブルをバリケードにしたのが誰なのかを目撃してしまったのなら

知り合いが目の前で死んだ原因に恨み言のひとつも言いたくなるだろう


俺だったらどう足掻いてもフォローできない状況だが

フリッツはどうやって場を治めている事やら。

兎にも角にも、彼の今後は生き辛くなるに違いない

家門を大切にしており、弟思いの真面目なヤツだったから

ヘタな方向に折れなければいいが


いつまで待たせるんだ、と

ブツクサ言ってる兵士の声は聞こえないフリで待つ事数分

フリッツはエヴィル兄の背を支えながら戻って来た

酷く憔悴している様子のエヴィル兄はあの場で散々責め立てられたらしい

目を合わせたフリッツは気遣わし気にエヴィルを見下ろし

再度窺うような眼差しで俺を見る


「悪い、放っておけなくて……

連れて来た」


「俺だってそうしただろうから気にすんな」


「助かる」


ぎこちなく笑ったフリッツの態度から察するに

場を上手く治めきる事は出来なかったんだろうな

二人が歩いてきた方角から殺気が向けられているのがいい証拠だ

追いかけて来ようとする被害関係者数名を兵士が留めているから

早くこの場を去った方がいい


「チッ勝手な事しやがって」

「では付いて来て下さい」


案内役で来た兵士の一人の舌打ちと暴言にフリッツが面食らった

面倒くさそうに歩き出した兵士二人の背中に付いて行きながらも

どういう事かと視線で尋ねてくるフリッツに肩を竦めて返すだけに留め

会場出入り口に差し掛かった所で

場を仕切っているであろう隊長らしき人物を見つけた俺は

目の前をだるそうに歩いてる兵士二人の首根っこを掴み

その隊長であろう男の元へ引き摺って行く

身体強化で引き摺っているので

兵士二人の抵抗などあってないようなものだ


「貴様!何をする!」

「今すぐその手を離せ!」


喚く兵士を無視している間に相手もこちらの状況に気付き

慌てた様子で駆け寄ってくる


「導師様の護衛の方、どうされたのですか?」


「案内役を変えろ

こいつらでは態度が悪すぎる」


この場でもひと際身なりの良い防具を纏った男の両サイドに向かって

首根っこを掴んで引き摺って来た兵士を力加減無しで放り投げる

床の上を無様にスライディングした二人を視界の端に見送った男は

表情を変える事無く敬礼してきた


「は、申し訳ございません

直ぐに別の者に案内させますので少々お待ち下さい」

「隊長聞いてください!こいつらは冒険者です!

冒険者の分際で俺たちに向かって偉そうな事を」


「事実偉いんだよ、貴様らよりもな」


ひとりは青褪めた様子で何も言わずに起き上がり姿勢を正したが

終始喧嘩腰だったもう一人は怒り心頭で隊長に訴える

その頭を鷲掴み、思いっきりアイアンクローしてやった


「我々は聖者『導師』直属の護衛……

ここまで言っても分からないのなら

この場で首を撥ねられても文句は言えんぞ」


言い回しを少々尊大なものに変えておく

いつの世も威厳ってのは大切だからな

聖者直属の護衛という立場がどれだけ偉い位置に居るのか

そんなのは俺の知った事ではないが

この程度の出まかせだったら後でどうとでもなるだろう


断続的に上がる悲鳴を無視して徐々に握力を強め

軋む頭蓋骨を前に問題の兵士を睨み付けていれば

隊長の男が俺と兵士の間に片腕を差し込み、頭を下げる


「部下の失態をお詫びします

彼らは私共の方で然るべき罰を与えますので

これ以上はどうか、ご容赦頂きたく……」


「いいだろう」


物分かりの良い上官に免じて手を離す

ここまで真摯な態度で接してくれているのは

白くて立派な甲冑を纏ってるフリッツが後ろに控えてるのも理由だろう

スムーズに案内役のチェンジができて良かった

別の者を呼び寄せようとした隊長を制して

偶然後ろを通りがかった見知った人物を指名する


「アヴィオール、こっちだこっち」


「アシュランさん?!」


通りがかったアヴィオールは驚きながら歩み寄り

傍にいた隊長に気付くと即座に姿勢を正し敬礼する


「ご用ですか、隊長」

「セイフ、お前に護衛の方々の案内を頼みたい

場所は第八貴賓室だ」

「了解しました

皆さん、どうぞこちらへ」


アヴィオールの案内で会場を出てすぐの階段を登り

上層階のとある豪奢な扉の前で立ち止まると

第八貴賓室の形式的な説明を交えつつ部屋の扉が開かれる

”貴賓”と言うだけに置かれている調度品も立派なものが多い

いつの間にやら気絶から復活していたアシュランの審美眼が

まるで機械のように目に入る目ぼしい品を金額化させていく


頭の中でチャリンチャリンと響く効果音を

「絶対に盗まんからな」という一言で一蹴して

他者の目がこちらに向いていないタイミングで金貨を一袋分取り出し、案内の役目を終えてこの場を去ろうとするアヴィオールに手渡した


「案内ありがとな」


「案内料にしては多すぎませんか?」


「稼ぎ所を奪った原因を作った側の謝罪と施しだ

有益な情報を教えてもらった礼も含まれてる

遠慮なく受け取れ」


施し、という言葉に思う所があったのだろう

僅かに眉を顰めたが諸々を加味したアヴィオールは

最終的に苦笑いを浮かべて袋を受け取ってくれた

以前経済的に困窮してるようなことを言っていたから

少しでも助けになれば幸いだ


「そこまでハッキリ仰られると受け取らない訳にはいきませんね

正直、突然タウィスの収入がなくなって

首が回らなくなっていたので助かります」


「おう、是非役立ててくれ」


「はい、ありがたく……ところでアシュランさん

イプシロネの手の者に暗殺されたと聞きましたが

ご無事だったんですね」


「この通り五体満足でピンピンしてるぜ

そっちはどうだ、今の所分かってる事はないのか」


さっきの案内役二人が事情聴取も兼ねてるような事を言っていたから

もののついでだ、今の内に話をしておこう

と思っての質問だったが、アヴィオールは俺の質問を

今渡したばかりの多額のチップの見返りと捉えたらしい

真面目な顔になると一度部屋の外に顔を出して周囲を確認してから

扉をしっかりと閉め、内輪でのみ回っている情報を提供してくれた


「詳しい事はまだ分かっていませんが

会場内で騒ぎが起こった同時刻に

イプシロネとアルトバーンの二名が地下牢で遺体となって発見されました

二人とも酷い有様で……イプシロネは全裸で首が引きちぎられ

アルトバーンは一滴の血も流すことなく全身の骨を折られていました

皆さん、何かお心当たりはありませんか」


「学園長が連れて来た兵士に

お前の従妹が連行された後の事は知らないな

アルトバーンってのは?」


「元タウィスのカストル・アルトバーン

イプシロネと一番深い仲だった男です

牢の鍵を持っていたので

イプシロネを脱獄させるために地下牢に来てたようですが

彼もその場で何者かに殺されてるんです

外傷がないのに骨だけを折るなんて、できると思いますか」


「その件については力になれそうもない

俺もフリッツも会場からは一歩も出てないからな」


「そうですか、隊長にはそのように伝えておきますね

……エヴィルは何故あんなにも憔悴しきっているんですか」


フリッツに促された部屋の奥のソファーに座ったエヴィル兄は

酷く落ち込んだ様子で背を丸め、足元を見つめている

見かねたフリッツは室内に備え付けられている簡易キッチンで

飲み物の準備を始めていた


「避難の際に色々あったみたいでな

今は事情を聞くのも難しそうだ、少し時間を置いてやってくれ

会場の方で目撃者が多かっただろうから

そっちから話を聞いた方が情報も多いだろう」


「分かりました

彼はエヴィル家の長男なので家の者が迎えに来ると思います

こちらに通すように話しておきましょうか?」


「そうしてくれると助かる

他に気になる事はあるか」


「今の所はこれぐらいですね

騒ぎの規模が大きいのでまた改めてお話を聞く事になるかも知れません

導師様のお立場もあるので護衛のアシュランさんたちには

ご不便をおかけする事もあるかと思いますが、ご協力をお願いします」


「勿論だ」


一礼して部屋から出て行くアヴィオールを見送り

さて次は、とエヴィルを見やる

青年の前に紅茶を一杯置いたフリッツはそのままの足で俺の傍に歩み寄り

エヴィルに聞かれないように手持ちの魔導具で

盗聴防止を施してから話し始めた


「アイツ、会場のずっと後ろに居たから

入り口の騒動に気付くのが遅れて

いきなり押し寄せてきた人の波からラピスちゃんを守るために

咄嗟に傍にあったテーブルを倒して防壁作っちまったらしいんだ」


「その時クラウスは傍にいたのか?」


「それは分からなかった」


クラウスなら咄嗟でも嬢ちゃんを抱えて

その場を退く事など造作もない事だからな

もし傍にいてそれを見過ごしていたなら説教ものだ


「で、結果的に避難経路のど真ん中に障害物作っちまった所為で

色んな悪条件が重なって踏み殺される人が続出したみたいなんだ

本人もテーブル周りがあんな惨状になってるなんて気付かなかったらしい

俺が駆けつけた時には周りの連中が非難する中

死体の山を見て呆然としてたよ」


「責任感強そうなヤツだから独りにするのは不味いな

突発的に自殺されても(かな)わん

家の迎えが来るまで俺らで様子見とくぞ」


「いや、自殺は流石に」


ないだろ、と

言いかけたフリッツの背後で何かが割れる音が響き

慌てて振り返ったフリッツと俺の目に飛び込んできたのは

割ったカップの破片で己の首を引き裂いたエヴィルの姿だった


まるで漫画の演出か何かのように勢いよく首から噴き出る血飛沫

瞬く間に赤に染まるソファーとテーブル


既に想定していた俺が身体強化で真っ先に動き

倒れ込もうとするエヴィルを受け止め

腰に常備していた回復薬を取り出し栓を飛ばして

裂けた首目掛けてぶっかける

やばい、こいつどんだけ力込めて首を裂いたんだ

回復薬ぶっかけた時に一瞬だけど首の骨見えたぞ!おぃい!!


これ以上の出血を少しでも抑える為に首を傾けて血止めをしつつ

続けざまにもう一本の回復薬の栓を飛ばす

景気良過ぎるほどがっつりと首が裂かれていた為

出血が滅茶苦茶多かったので予断は許さない

世の中には出血性ショックとか失血死というものがあってだなぁ!

怪我の程度によっては回復薬では間に合わない場合もあってだなぁ!

エヴィルの肌の色から体温から相当拙い状況だ


「ルルムスを呼んで来い!急げ!!」


「分かった!」


扉をブチ破る勢いで出て行ったフリッツが

エヴィルの置かれた状況を甘く考えていたのは

(ひとえ)に、フリッツ自身が人を殺す事に慣れていて

人が死ぬ状況にも慣れていたからだ


その大前提からして間違っている

エヴィルはまだ学校を卒業したばかりの子供

人殺しはおろか人の死すら全く無縁だった子供が

ある日突然複数の人間の命を奪ったと知ったら

それが真面目で責任感のある奴だったら自分を責めない訳がないだろう


最初は理解しきれなくて呆然としてても

頭の整理が出来ない内に複数に囲まれて責める言葉を散々浴びせられて

そんな状況でふと我に返ったこいつがどんな行動に出るかなど

飽食の世界で生きた田崎であれば当たり前に想像できる結果だ

この危機感は田崎ならではだな。

いち早く対応できて良かったが怪我の程度が深すぎる


「ルルムス、早く来てくれ……」


最終的に五本もの回復薬を消費してなんとか傷だけは塞いだが

その間にも大量の血が流れてしまった、依然体温は戻らず肌も真っ白

治癒師に頼ろうにもこの国の導力レベルは低い

ルルムス以外に今のエヴィルを治癒できる存在はいない可能性が高い

今からでも俺がこいつを抱えてルルムスの元に走るべきか?

しかし入れ違いになる可能性もあるからヘタに動けない

気が気でないままエヴィルを別のソファーに横たえて

両足を肘掛けの上に置く……血が足りない時は上半身に血を集めるといいって医療漫画で知識を得た田崎が訴えてるからな!

それで人ひとりの命が助かる可能性が僅かでも上がるなら藁にも縋るわ!

冷え切った体温もどうにかできないだろうか

役立つ物はないかと魔導袋の中身を確認しようとした時


「アッシュ様!セイリオスは無事ですか!?」


開け放たれたままの扉にノックもなく飛び込んできたのは

妹の亡骸と共に会場を出て行った筈の嬢ちゃんだった

続いてクラウスがひょこりと顔を覗かせる

ソファーに横たわっているエヴィルの姿を見つけた嬢ちゃんは

俺の返事を待たずに駆け寄りエヴィルの力ない手を取ると

あまりの冷たさに驚き体を震わせる


「セイ、貴方まで死なせはしない!」


冷たい手を握りしめたまま祈るように目を閉じた嬢ちゃんは

治癒導術を使い始めたらしく全身を僅かに発光させ始めた

おお?ルルムスの治癒導術とは随分見た目が異なる……

と、思った瞬間


「治って……!お願いっ

死なないで!セイリオス!!」


嬢ちゃんの声に呼応するように彼女の体から溢れ出した淡い蛍火が

室内全てを真っ白にするほどの強い光を放った



ぐぉぉお!目がっ目がぁ―――!!!

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