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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
83/145

83<聖なる星々の国~聖女のゆるやかな目覚め~

クラウスに担がれ強力な遮断結界の境目に運ばれたラピスは

その場に降ろされながら涙で滲む視界を手で拭い

先の出来事に対する無力感に打ちひしがれ蹲ってしまいたい衝動を押さえながらも覚束なく震える足で必死に立って顔を上げる

前を向いたラピスの視界には、結界の向こう側……

黒い靄が伸びる根源の姿があった

それを視認し、驚愕に目を見開く


「ス、ピカ……?」


傍らで零すように呟かれた人物の名を耳にしたクラウスは

目を凝らすようにただ一点を見つめる少女の横顔を盗み見てから

少女が見ているのと同じ方角へ視線をやる


黒い靄の中心には汚れたドレスを纏った少女が立っている

ラピスの呟き通りであればその少女は

妹のスピカに見えている、という事だ


常人であれば

聖者の一人である導師が張った遮断結界の内側など見る事はできない

黒い靄も、瘴気の幻覚作用が及ぶ範囲では偽りの姿に見えてしまう

だが、魔物の放つ幻覚を無効化し導師の強力な遮断結界の内側すらも見通せる力を持つ者も一握りではあるが存在する

その一握りの存在というのが


この世界の(あるじ)たる 『 古の王 』

()しくはそれに近い力を有する 『 高位の魔族 』

そして導師と同じく、ある分野で突出した力を持つ 『 聖者 』


「どうしてスピカがあんな所に?

それに、あの黒い靄は……」


狼狽え、その場でたたらを踏んだラピスは涙を振り払うように瞬きし

目を擦ってもう一度瘴気の根源に目を向ける

状況が把握しきれず混乱するラピスの目の前で結界全体が発光し

境界内にもう一層の膜が浮き上がるとそれらは稲妻を形成した

靄の中心に向かって全方位から走り

攻撃の意図をもって次々と叩き込まれ強い発光が繰り返される

導師の攻撃に一定の効果があったのか

稲妻を浴びたであろう汚れた白のドレスを纏った少女は

絹を裂くような叫び声を上げた


「スピカ!」


膝を突き、苦しそうに背を丸める妹に向かって

駆け出そうとしたラピスの手首がクラウスに掴まれる


「クラウス様……?!どうして止めるんですか!?

妹を、スピカを助けないと!」


「お前、見えているのか」


「なんの事です?」


「黒い靄の中心に居る者の事だ」


「あの子は私の妹です!」


(やはり、見えている)

クラウスもラピスの妹とは面識があった

そもそもスピカが投獄された経緯に居合わせたのはクラウスであり

そうするよう指示したのはルルムスだ

だから白いドレスの少女がラピスの妹である事も理解していた

問題は、ラピスには瘴気の幻覚が効いていないという事実だ

導師の遮断結界の内側さえ見通している

(何故だ)

今や全ての竜族の歴史を持つクラウスの記憶は

浮かんだ問いに対する解を早々に見出していた




ラピス・シェアトが 『 聖女 』 として覚醒した




いつ、どのタイミングで覚醒したのかは定かではない

一層逃がすまいと手首を拘束する手に力を込めたクラウスは

痛がるラピスの抗議を無視して遠くにいるアシュランたちの様子を窺った

深刻そうに話し込んでいる三人はクラウスたちを見ていない


まだ、気づいていない


ラピスが聖女に覚醒した事を導師は知らない


(殺せる)


今なら聖者の一人を始末できる

簡単だ、目の前にある細首を折ってしまえばいい

そうすれば己が主の脅威をひとつ減らす事ができる


(……)


殺意を纏い、もう片方の手を持ち上げようとした所で

アシュランの言葉が脳裏を過ぎった


『 嬢ちゃんの事、気にかけてやってくれよ 』


思い出したクラウスの目に躊躇(ためら)いの色が浮かぶ

目下で手首の拘束を解こうと藻掻いているラピスは非力な少女だ

聖女として覚醒した後でも、背後を取れる関係ならばいつでも殺せる

何より、アシュランが自ら助けた存在を(ほふ)るのは

主の意向に逆らう事になるので気が進まなかった


(……)


静かに目を伏せたクラウスは小さく息を吐いて手の力を緩めた

充血し、手形が付くほど強く握りしめられていた手首が開放されると同時に

痛みも不満も訴える事無く「ありがとう」と礼を言ったラピスは

今度こそ黒い靄の中心に居る妹の元へ走り出し

その背をクラウスの冷めた目が見つめる


助ける方法など何も考えていない

感情に任せただけの場当たり的な行動

大切な妹の傍へ駆けつけたい一心で走るラピスの姿をクラウスは

愚かで滑稽だと心の内で吐き捨てながら見送った


「スピカ!」


名を叫び一直線に走るラピスの存在に気付いたフリッツが目を見張る


「はぁア?!何やってんだあの子!!」

「私の遮断結界を抵抗も無くすり抜けた……!?

まさか!」


「行くぞフリッツ!」


結界内で雷撃導術を唱え終えたばかりのルルムスが

遠くから靄の中心に向かって駆けるラピスの姿を目にして

何かに気が付いたように目を凝らす

鞭のように(しな)って強襲する無数の瘴気からラピスを守るべく

フリッツとアシュランは身体強化を纏い

防護結界から弾丸のように飛び出した

『完全看破』を用いたルルムスの目にラピスの情報が映る

彼女の魂に刻まれた称号、それは



『 聖女 』




「道理で町を探しても見つからなかった訳だ」


聖女はまだ未覚醒だった

だからどんなに探しても見つけられなかった

捜索妨害の所為だけではなかった事に眉を顰める

聖女を最初に見出したのが古の王だなど、とんでもない皮肉だ


「想い耽ている場合ではないか」


アシュランとフリッツが辿り着くまでの僅かな間を持たせるべく

瘴気から守る為に遠隔でアシュランとラピスの周囲に防護結界を張る

フリッツは元より聖者『騎士』が身に着ける装備一式を纏っており

『騎士の加護』という効果によって瘴気に対する防御を支援する必要はない

本来であれば『聖女』もルルムスが手を貸す必要はないのだが

ラピス・シェアトの境遇を考慮すると援護せざるを得ない


覚醒したばかりの聖者がその力を振るうにはそれなりの経験が必要だ

ルルムスは生まれつき『看破』の能力を有していたからこそ

『完全看破』を体得した直後から玄人のように力を使いこなす事ができたが


ラピス・シェアトはそうではない


継承(けいしょう)()』も行っていないので

聖者としての力もより不安定で未発達の筈だ

ヘタをすれば覚醒も名ばかりで力の発現自体が時間を要するかもしれない

そこまで想定したルルムスは一層神経を研ぎ澄ませた


覚醒したばかりの聖女を死なせるわけにはいかない

既に『騎士』の正当なる継承者

アレクサンドル・アレグロスティが死亡している

早々に聖者の一角を欠いているこの現状は

人間側にとって由々しき事態であると言わざるを得ない

終末の世が続く間に次の騎士継承者が覚醒すると分かっているとはいえ

導師の眼を以てしても正確な覚醒時期を読むことは出来ないのだ


「何としても守らなくては」


聖女として覚醒した彼女にはやってもらわねばならない事が山ほどある

何より今結界内で暴れまわっている瘴気の根源

混沌の神器(ケイオス・コード)の一つでもある預言顔(プロフェイス)の浄化は

確実にこなしてもらわなければならない案件だ


「きゃあ!アッシュ様?!」


「死にたいのか!無茶にも程がある!」


ラピスが瘴気の渦に突っ込む前に駆けつける事ができたアシュランが

彼女の華奢な両肩を掴んで怒鳴りつける

少し遅れて駆けつけたフリッツもラピスへの対処をアシュランに任せて

次から次へと襲い来る瘴気の鞭を一刀両断に斬って捨てた

己の周囲にルルムスの防護結界が張られていると気付いたラピスは

表情を歪めながら(うつむ)


「ごめんなさい……でも妹が、スピカがあそこに居るんです

お願いします、行かせてください!」

「ラピスちゃん、それは幻覚だ!

この黒い靄は瘴気と言って、近くにいる奴に虚像を見せる!

俺には気持ち悪い化け物の姿に見えてるんだ!」

「え!?そ、そうなんですか?でも、あの姿は確かに妹で」


フリッツの説明を真に受けたラピスは

走り出そうとしていた足を一旦その場に留めると

何度も目を擦って瘴気の中心を見る


少女の姿が見えているのはアシュランと共通だ

しかしそれが必ずしも同じとは限らない

ラピスの妹というなら以前一度目にする機会があったが

それと今では余りにも容貌が違いすぎる為

同一人物かどうか判断が付かなかった

ならばこの場で照らし合わせるしかない


「嬢ちゃん、それはドレスを着ているのか?」


「はい!白いドレスを着ています!汚れていて断言はできませんが

イプシロネ様が壇上で着ていたものとよく似ています

靴も片方履いてません、髪の色は私と同じ金髪で下ろしています

髪飾りは付けていません!俯いていて顔は見えませんが

瞳の色が青だったら確実に私の妹です!!」


瞳の色についての言及にアシュランは眉を顰めた

最初の攻防の最中見かけた少女の目の部分は醜く爛れ落ち

黒い液体を絶えず流し続けていると知っているからだ

すぐに目にする事になるだろうが

姉である彼女に告げるのは気が進まない


「生憎だが目の部分は

多分瘴気の所為だとは思うが黒く染まっていた

俺の目に映ってるモノと嬢ちゃんが見てるモンの見た目は同じらしい

今は隔離結界ってので抑え込んでるから急いで対処しなくても大丈夫だ

これ以上被害は出ない……だから落ち着け、嬢ちゃん」


「……、はい」


両肩を掴んだまま言い聞かせると

つかんでいた肩から力が抜けてラピスは深呼吸する

その様子を見届けたアシュランはひっそりと安堵の息を吐いて

周りで瘴気を退けているフリッツへ声をかけた


「後退するぞ!フリッツ!」


「おう!

……うわっ!?なんだイキナリ!」


余裕たっぷりに返事を返したフリッツの声が直後、焦りに染まった

ルルムスを正面に構えていた白いドレスの少女の体が突然アシュランたちに向かって方向転換し、同時に瘴気の攻撃が一層激しさを増す

雷撃によって痛みに俯いていた顔が明確な殺意を持ってラピスへと向けられた


「ラァァ"ァ"アア"アピィ"イスゥゥヴヴ!!!」

「スピカ!やっぱりスピカなのね!」

「ぐっ……う!」


「フリッツ!」


瘴気の塊がフリッツの体ごと横殴りに弾き飛ばす

まともに攻撃が入ったように見えたアシュランは慌てて声をかけるが

転がされた先で咄嗟に受け身を取っている様子を見て胸を撫で下ろす

瘴気の中心から聞こえてきた声は既に女性のものではなかったが

呼びかけから白いドレスの少女がラピスの妹なのは確定だと判断する


瘴気に巻かれた少女は、スピカ・シェアト


姉であるラピスへ肌が痛いほどの殺意を向けている

アシュランが助けた生徒たちは全員が瘴気に触れており、絶命していた

ならば今は動き喋っている彼女もおそらくは、と嫌な予想をしてしまう

そんな最中、再び焦り始めたラピスがアシュランの腕に縋りついた


「アッシュ様、どうすれば妹を助けられますか!?

助けたいんです!これ以上死なせたくないんです!」


「兎に角、一旦ルルムスの所へ」


言いかけ、方向転換した所で

アシュランとラピスは共に、凍り付いたように動けなくなった


先ほどまで互いに距離があった筈の少女が瞬きした次の瞬間

ルルムスの張った防護結界にべったりと張り付いていたからだ

結界のお陰で接触せずに済んだものの

視界を覆い尽す恐怖の姿は

アシュランとラピスの息を止めるには十分であった





*****






深夜———……


ひと気のない山道を一人で運転(ドライブ)

ガードレールのないカーブに差し掛かった


曲がり角にぽつんと灯る街灯

その隣に備え付けられているカーブミラーには

先が闇に呑まれた道が映し出されている


対向車は無し


チラリと目線をやっただけで確認を終えたドライバーが

正面へと視線を戻し、瞬きをした次の瞬間



髪を振り乱した女がフロントガラスにべったりと張り付いていた



というぐらいの恐怖だ。

そんな光景を突如目の当たりにして

悲鳴上げてハンドル操作を誤らない人間はどうかしている

そう、断言できるほどに

己の目の前に広がっている光景は物凄く怖かった


田崎は満開の恐怖で震えあがりそのまま口から泡を吹いて失神

アシュランは俳優顔負けと言わんばかりに悲鳴を上げた後、気絶

己の中の二名が無事ご臨終したお蔭で頭の中は随分と静かになった

残った俺は二人が取り乱してくれたお陰で

最初こそ息を詰めたが冷静に目の前の光景を見つめる事ができている


「逃がす気はないらしいな」


立ち往生している間に周囲を瘴気が覆い

濃い瘴気に触れている結界陣が所々歪みを発生させている

このままではいずれ俺も嬢ちゃんも瘴気に巻かれるだろう

ルルムスがしきりに瘴気に触れるなと警告していたから

俺みたいな常人が触れたら即効で死ぬような代物って事だ


頭上を見上げ、覚悟を決める

結界が崩れると同時に身体強化で嬢ちゃんを抱えて天井まで跳躍し

天井を足場にルルムスの元へ急降下するしか離脱の手はない


「スピカ……どうして、どうしてこんな事に」


「危ないから触るな」


変わり果てた姿の妹に結界越しでも手を伸ばそうとする嬢ちゃんを留め

跳躍し易い態勢で抱え上げると脱出のタイミングを見計らう

防護結界が徐々に形を失う間

シェアト妹は嬢ちゃんへの恨み言を吐き続けた


あんたが居なければ私が聖女になれたのに


助けるんじゃなかった、殺すべきだった


セイリオスは私のもの、奪うなんて許さない


要約すると、彼女の言い分はこれぐらいだろう

女性は恨み辛みが過ぎるとナマナリ(般若)になると言うが

彼女などは正しくそれではないだろうか


私見で言わせてもらえば彼女は魔物とは一線を画す存在だ

瘴気なんてのも生まれて初めて見たし

人間がバケモノ染みたものに変貌した様も初めて見た

この、人でも魔物でもない存在の誕生はやはり

世界の終わりが始まった所為なのだろうか


「アッシュ!上に飛べ!!」


フリッツの叫び声が聞こえると同時に頭上の靄が束の間だが晴れた

そのタイミングを逃すことなく跳躍し、すぐさまフリッツの無事を確認すると

空中で方向転換した俺は天井を蹴ってルルムスの居る方角へ戻ろうとしたが


やはりシェアト妹の動きは人のソレではなかった

先ほど一瞬にして目の前に移動してきた時点で

俺では目で追えないほどの俊敏性があるのだと分かってはいたが

天井を蹴ろうとした時点で既に

ルルムスへと向かう進路上に彼女が待ち構えていた


こいつは嬢ちゃんに並々ならぬ殺意を抱いている

ならば標的も嬢ちゃんなのだろう

抱えたまま突っ込むのは余りにリスキーだ

天井を蹴るタイミングと同じく抱えていた手を放し

自由落下を始めた嬢ちゃんを真下から見上げていたフリッツに任せ

足場にした天板を粉砕するほど脚に導力を込めた俺は

単身、シェアト妹に向かって突っ込んだ

成れの果てと言えど彼女は生身、元々は人間だ

一撃で気絶させればもしかしたら黒い靄も収まるかもしれない

瘴気に触れてしまうか否かは賭けだが

進路上に構えられては今更方向転換する事も難しかった


ならば、鳩尾狙いで蹴りをブチ込むしかあるまい


「いけません!アッシュ!!」


ルルムスの制止が聞こえてきたが引ける状態じゃない

一直線に突っ込む俺自身で死角を作ったお蔭か

シェアト妹は俺がまだ嬢ちゃんを抱えていると思い込んだのだろう

迎え撃つ姿勢を確認できた段階で片足を彼女の腹に叩き込んだ


手加減なしの全力だ……とはいえ、俺の導技は下の下レベルだから

相手の瘴気による装甲を破る事は出来ないだろうことも想定済みだったが。

思った通り、彼女は俺に蹴りを叩き込まれる直前に濃い瘴気で自らを覆い

そこへ突撃した俺の視界は瘴気の闇へと包まれてしまった

ああ、俺の旅もここで終わりか……なんて思ってたら

次の瞬間には真っ暗だった視界が綺麗に晴れていた


「……んン?!」


しかもまだ滞空中だ

蹴りを入れた体勢の俺の目の前には意識のないシェアト妹

僅かな浮遊感を感じた後、彼女と共に重力に従って落下が始まる

先ほどまで遮断結界の中を好き放題暴れまわっていた瘴気の影などどこにもない

ルルムスが土壇場で何かしてくれたのだろうと判断して

驚異が無くなったであろうシェアト妹に手を伸ばすと

彼女を抱えて危なげなく着地した

手で触れている彼女の体温は……氷のように冷たい

俺の背後でコンマ遅れて嬢ちゃんがフリッツにキャッチされ

遮断結界を張ったままホバー移動で駆けつけてきたルルムスを横目に

シェアト妹の状態を手早く確認する


「スピカ!」


駆け寄ってきた嬢ちゃんが俺の傍らに座り妹の容態はと必死な様子で尋ねてきたが、やはり残念なことに妹は既に事切れていた

胸元で両手を組み、縋る様に俺を見つめる嬢ちゃんにそっと目を向け

言葉なく首を横に振る

俺のジェスチャーの意味を理解した嬢ちゃんはみるみる内に表情を歪ませ

体を震わせながら物言わぬ妹の亡骸に縋りついた


「嘘……嘘!

スピカ……スピカぁ……目を開けて……」


嗚咽を零す嬢ちゃんの傍らを離れルルムスの元へと歩み寄る

俺の後ろからフリッツも続き

嬢ちゃんから少し離れた場所で声を落として話を始めた


「ルルムスが何かやったのか?」


「……」


尋ねてみるが、ルルムスは厳しい表情で俺を見つめたまま返事を返さない

フリッツに振り返っても同様の反応だった

いつまでも話し出さない二人に苛立ちを覚える


「いつまで黙ってる気だ二人とも

瘴気はどうなった、何が起こったんだ」


「それは、」


「フリッツが消したのか?

瘴気に触っちゃダメだって言われたが

確実に触っちまったというかむしろ突っ込んじまったんだけど」


「アッシュ、あのな……」

「さっきの瘴気はアシュが吸収した」


「クラウス!」


何か言いかけては淀む二人の煮え切らない態度に

すわ死の宣告かと不安を感じ始めた所で

どこかで様子を窺っていたらしいクラウスが

ルルムスが張っている隔離結界をすり抜けて歩み寄ってきた

今、とんでもなく聞き捨てならない言葉が聞こえたんだが?


「俺が、吸収しただと?」


「アレは元々アシュのものだ

だからアシュの中に還った、自然の摂理だ」


「自然の摂……いや、それよりも俺のものってどいう事だ?

触れただけで人命を奪うような危険極まりない瘴気とやらが

現在進行形で俺の中にあるのか?」


「ある」


「……」


キッパリと断言されてしまった……イカン、キャパオーバーだ

クラウスの言ってる事が俺の理解の範疇を超えている


「詳しい事はそこの無能が知ってるから後で聞けばいい

……アシュ」


額を押さえて天上を仰いでいたら

現状に全く動じていない様子のクラウスは

隔離結界の外側に目を向け指さした


「……おう」


「まだ無事な料理、全部食べてきてもいい?」


どんだけ食い意地張ってんだお前は


「姿隠しとけよ

場が撤収されるまでっていう時間制限付きだ」


「分かった」


俺から許可を取ったクラウスはスキップでもしそうな軽い足取りで

姿を景色に溶け込ませつつ会場後方へと向かった

……うわ、よく見たら食事ブースが物凄く悲惨な事になってる

倒されたテーブルはバリケード代わりか?

ヘタしたら瘴気よりも被害が大きいかもしれない

積み重なった死体の横で無事な料理が物凄い速さで消えて行ってる

死体の傍で食事とは、クラウスはまともな神経してないな


そりゃそうか、そもそも竜族だし。


極々小規模ではあるが人が折り重なった山を遠目に見て

セインツヴァイト領にあった贄塚の光景を思い出し、気分が悪くなった

反射的に口元を覆いかけた所で会場入り口が騒がしくなる


「導師様!これは一体何事ですか!!」


ルルムスが隔離結界を解除すると同時に

会場に雪崩れ込んできたのは宮殿の正規兵団だった

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