表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
79/145

79<聖なる星々の国~「私」の友人と大切な気持ち~

沢山の人の目が見守る中

クラウス様が導力圧で壊してしまった床や壁面の修復を瞬く間に終え

大勢の卒業生たちの関心を引きつつも優雅な立ち振る舞いで階段の奥へと消えていったルルムス様がアッシュ様たちを連れて戻って来るのを待つ間

場に集まっていた卒業生が会場に入りやっと周囲が静かになった所で隣りで背筋を伸ばし私と同じくしていたフリッツ様を見上げ

躊躇いがちに話しかける


「あの……フリッツ様」


すると、それまで真顔でどこかを見ていたフリッツ様は僅かに腰を屈め

それでもまだ高い目線から笑みを浮かべて私を見下ろしてくれた


「どうかしたかい、ラピスちゃん」


行動だけでも十分に彼が優しい気質の男性だと分かって安堵の息を吐き

まるで子供に話しかけるような言動に苦笑いする

私の見た目では仕方のない事だけれど、それが少しだけもどかしい


「私、発育不全で身長も低いですが

こう見えて十七歳です」

「え!?そ、そっか……トリマン婦人といい、女の子って凄いな

で、何か用か?」

「フリッツ様はどうやってアッシュ様の騎士になれたのですか?

従者の印を使われたという事は、ルルムス様の旅に同行なさるんですよね」

「う~ん……どうやって、と言われてもなぁ

あ、様って柄じゃないから俺の事は気軽に呼んでくれて構わないぞ」

「はい、フリッツさん」

「……アッシュの騎士になれた理由、なぁ」

「はい」

「目を輝かせて言われても、いい話じゃないぞ

それでも知りたいのか?」

「はい!」

「……どうしても?」

「どうしても知りたいです!」


握り拳を胸に抱き、元気よく頷くと

歯切れの悪いフリッツさんは眉を下げて目を閉じ

困りきった様子で思案する

あまり言いたくないというのはすぐに分かったけれど

フリッツさんが羨ましくて仕方がなかった私はどうしても知りたかった

なんとか糸口を見つけたかった


私も、アシュラン様に付いていきたかったから


ほんの少しでも望みを見出すべく

一言すらも聞き逃さぬよう身構えていると、居心地悪そうに自身の首を撫でたフリッツさんは小さな声で教えてくれた


「俺は結構向こう見ずな所があるんだ」

「……そう、なんですか?」

「ああ、だから騎士にしてもらえたというか」

「向こう見ずな性格だから、アッシュ様の騎士になれたのですか?」

「う……まぁ、つまりはそういう事だな

でも、他にも細かい理由はあるんだぞ?

性格の所為ばかりじゃあないんだからな?」

「その、細かい理由というのは……」

「そっ……れは、だな

ちょっと説明できない、かな」


フリッツさんは歯切れ悪く目を泳がせる

やっぱり詳しい事は教えてもらえないみたい

当然よね、ルルムス様は厳しい旅路の途中だもの

簡単に口を割るような人を同行させたりする筈がない


「ラピスちゃんは、どうして旅に付いて行きたいんだ?

死ぬかもしれない危険な旅なのに」

「え?あ、私は」


どうしよう、なんて答えればいいのかしら

馬鹿正直に「アッシュ様が好きだから」なんて言うワケにもいかない

ただでさえスピカと話をした時にバレたんじゃないかって気が気じゃないのに

この不純な動機を知られてしまったらきっとルルムス様もお怒りになるわ

世界の命運を賭けたとても重要な旅だもの……でも、


アシュラン様と、もっとお話がしたい


自分でもどうしてこれほど彼に惹かれてしまうのだろうと初めは戸惑っていたけれど、スピカにそれが恋なのだと指摘されてからはそうとしか思えなくなってしまった

恋って怖ろしいのね、こんなにも一人の人の事を考えてしまうんだもの

思わず己の両頬を両手で包み込んで気が付いた

顔が熱くなってる!

やだ、今の私ってばきっと顔が真っ赤になっているわ

そんな私の慌てようで何かを察したフリッツさんが

意地の悪い素振りを見せ始める


「はっは~ん、分かったぞ

ズバリ、好きな男がいるからだろう!」

「あうぅ……フリッツさん揶揄わないで下さいっ」

「クラウスか、導師か?誰にも言わないから教えてくれよ」

「ちっ違います!そんなんじゃなくて、私は、私は

少しでも、皆さんのお役に立ちたくて……」


ああ、なんだか嘘をついてしまった気分だわ

役に立ちたい気持ちは本当だけれど、一番の動機は違うんだもの

後ろめたい気持ちに駆られた私の声は綺麗にしぼんでしまう

これ以上の追及はしないで下さいフリッツさん、嘘ではないんです

ただ、一番の理由ではないだけなんです

俯き目を閉じて必死に心の中で訴えていたら

少し遠い場所から覚えのある声が聞こえて

恐怖から反射的に肩が震えた


「あら、そこに居る小汚いのはもしかして

私の奴隷ではありませんこと?」


私にとっては正面だったけれど、フリッツさんにとっては背後

そこから聞こえてきた声に眉を顰めてゆっくりと振り返ったフリッツさんは

なんの感情も見えない表情で声をかけてきた人物を見下ろした


後ろにご友人二人を伴いそこに立っていたのは

元ステラの、イプシロネ・ファイフ様


「小汚い奴隷ってのは誰の事だ」

「見ない顔ね

非常識にも軽々しく私に話しかけるという事は、他国の方かしら」

「もう一度聞くぜ、お嬢さん

小汚い奴隷ってのは誰の事だ?」


鼻で笑い、尊大な言動をする彼女に向かって再度同じ質問をしたフリッツさん

私は彼の袖を引いて慌てて耳打ちする

耳打ちといっても身長差がありすぎて

目の前まで歩み寄ってきた彼女に声が丸聞こえですけど

なんの説明もしないよりはマシです


「あの、フリッツさん

彼女はこの国の公女でイプシロネ・ファイフ様です

この方がステラ……聖女であった時に私は傍仕えをしていました」

「へぇ、それで、小汚い奴隷ってのは誰の事だ?」


ああっ……フリッツさんの目が彼女に固定されたままで

私の方を全く見て下さらない!私の説明はどうでもいいみたいです

フリッツさん、お願いですから聞く耳持って下さい

相手はこの国の公女様なんですよ

彼女の不興を買ったらまた周囲の人が沢山困ってしまいます


風の噂で耳にしたのですが、導力を失って学園を去った筈の彼女が

この卒業パーティに出席できるものなのでしょうか

ご両親がこの国の偉い方々なのでそういった事も可能なのでしょう


「まぁ、何度も同じ言葉を繰り返すしか能のない方なのかしら

嘆かわしい事だけれど、そこの雑巾に話しかけているだけあって

お似合いと言った所かしら」

「全くですわねイプシロネ様」

「どんなに着飾った所で所詮はその程度ですもの」


彼女の後ろに付いていたご友人二人の(あざけ)りが私の胸に刺さる

今身に着けているドレスは私の家庭教師をしてくれている婦人がご厚意で用意して下さった物……いちから仕立てて下さった物なだけに、貶されてとても悲しくなった

でも、と思い直す


(アッシュ様は、褒めて下さったわ)


よく似合っていると言って下さった、それが例え社交辞令だとしても

アシュラン様に対して恋煩いしてしまっている今の私はとても単純だから

その場で小躍りしたくなるほどに嬉しいと思えてしまったから

心無い言葉をぶつけてくる彼女たちに思うのは悲しいという事だけ。


学園に居る間は彼女たちからの陰湿ないじめに遭い、毎日が地獄だった

ステラとなったイプシロネ様の傍仕えに任命されてからは

学園に通う余裕もなくなってしまったからいじめられる事もなくなったけれど

それまで彼女たちから受けた仕打ちは

今でも鮮明に思い出せるほど記憶にこびりついている

再び沸き上がって来たあの頃の恐怖に耐えるべく

胸元で両手を強く握りしめる


大丈夫、まだ口で言われるだけなら大丈夫

怯えながら、もっと酷い目に遭いませんようにと祈っていると

この事態に気付いて通りすがりで立ち止まり

様子を窺う生徒が少しずつ増え始める

そんな周囲の状況を気にした素振りのないフリッツさんの

感情のない声がその場に響いた


「お嬢さんこそ、何度同じ質問をしてやれば答えることができるんだ?

人に対して小汚いだの雑巾だの……下らない事を言える品性の欠片も無いお嬢さんの方がよほど雑巾と言える

雑巾を育てる汚い教育しかできないお嬢さんの親は憐れだな」

「な、なん……なんて無礼な!所属を明かしなさい!

今すぐお父様に言って貴方のような下賤な男は直ぐにでも牢送りに!」

「落ち着いてくださいイプシロネ様!

ここはひと目が多うございますわ」

「こんな失礼な者には構わず会場へ入りましょう

イプシロネ様のお時間が勿体のうございます」


思わぬ発言に麗しい表情は一転、まるで悪魔でも取りついたかのような形相でフリッツさんへ食って掛かろうとしたイプシロネ様をご友人のお二人が必死に宥めて逃げるように会場へと入って行ってしまいました

フリッツさん、なんという事を……

そんな事を言ってしまったらきっとただでは済まな……あっなるほど!

分かった気がします先ほどのお話

アッシュ様はフリッツさんの性格に『抑止力』が必要だから

主人という抑止を作る為に従者契約を交わされたのですね

彼女のご友人二人のお陰でこの場がなし崩しになったので

とりあえずは大事にならずに済んで安堵しましたが……


「騎士の従者契約って

そういう理由で交わされても、いいものなのでしょうか……?」

「えっ今そのツッコミをするのか?

……改めてしみじみ聞かれると傷つくんだが」

「察しが悪くてすみません

()い話ではない、とはそういう意味だったのですね」

「格好つかないから忘れてくれ」

「ふふっ努力します」


その後、ルルムス様がアッシュ様とクラウス様を連れて戻って来たので

五人で会場へと入ったのですが、ルルムス様は国賓という立場から挨拶の場があるらしくアッシュ様を伴って壇上へと向かわれました


「……」


と、いう訳で

先ほどからとっても、とっても、とぉ~っても!機嫌が良さそうで

私の前を何度も、何度も、何っっっ度も!行ったり来たりしているクラウス様にこれでもか!という程嫌な予感を覚えつつも

「尋ねろ!」「聞け!」「構え!」と言わんばかりな無言の要求に耐え切れず、悔しい気持ちを抱きながら彼が望む通りに話しかける事にしました


「機嫌が、良さそうですね」

「そうか?そう見えるか?おかしいなぁ本当にそう見えるか?」

「ええ見えますね、とても見えますよ、鬱陶しいほどに見えてますよ」

「だろうなぁ、そうだろうなぁ

このおれがこんなにも機嫌が良い理由を知りたいか?知りたいよな?

何しろアシュに関わる話題だからな、知りたくて仕方がないよな?」

「いいえ全く」

「そうかそうかそんなにも知りたいか、仕方ないなぁ

寛大なおれが特別に教えてやろう」


くぅ……!クラウス様は本当に意地が悪いです!!

先ほどはあれだけ猫被ってアッシュ様を困らせていたのに!

私は悔しいです!

何が悔しいって、彼の周囲に居る人たちの大半が

彼の見た目に騙されている事です!!


クラウス様は最初、アッシュ様の指示で私の護衛をしてくれていました

当初は私も彼の持つ美貌に惑わされ

寡黙で滅多に表情を崩さない彼にある種の羨望を抱いていました

一緒に教育を受け始めた時は私の方が素地があったので彼に教えることも多く、まるで弟ができたような慕わしささえ感じていました


でも、違ったんです


ある日突然彼は私に「アシュの事が好きなのか」と問うてきました

そこからです、彼の意地の悪い本性が次々と露になってきたのは。

彼がアッシュ様の話題を小出しにしてくる度に喜んだ私に

話題の最後には必ず「おれの方がアシュを解っている」「おれはアシュの特別だ」「おれはアシュの唯一無二だ」などと(のたま)ってきやがったのです!!

……いけません、最近の私もクラウス様につられて

言葉使いが崩れることが多くなってきてしまっています

これではまたトリマン婦人に叱られてしまいます

落ち着いて私、平常心平常心……


それはもうコテンパンに言い負かされて、私は毎日傷心でした

ルルムス様の寸分の隙も無い一流の毒舌による援護がなければ

今頃私の心は粉々に砕け散っていた事でしょう

ルルムス様に言い負かされるクラウス様を前に

心の中で何度「ざまみろです!」と思った事か……


そして今回は特段に悔しいのです

二日前、旅の同行を申し出て見事玉砕し心が凹み切っていた私にその場でトドメを刺すかのような勝ち誇った笑みを浮かべ

ダメ押しに私の頭を撫でてきた憎きクラウス様の

心無い所業すらも霞むほどに悔しいのです!

だって、先ほど大泣きしてアッシュ様に慰めてもらったであろうクラウス様が

こんなにも上機嫌な理由なんて一つぐらいしかないじゃありませんか!


「ラピスは察しが良いな

その通り!おれはアシュの右腕になったぞ!」


ほらぁぁああああ!!絶対私に自慢してくるヤツだと思いましたよ!

もうっ!もう!!クラウス様のばか!!


「羨ましいですぅ……!!」

「そうだろう、羨ましかろう!

ははは、素直なのはいい事だ」

「くぅぅううう!!!」


絞り出すように言えば

クラウス様は更にふんぞりかえって嬉しそうにしていました

とても悔しい!悔しい!……けれど、クラウス様は

「アシュの右腕になりたい」と、ずっと仰ってましたから

アッシュ様が戦争に行っていた間もずっと心配そうにしてて

寝不足になって目の下にクマを作ったり

落ち込んでいる時もあって……そんな彼を

私の拙い言葉でも気休めになればと慰めたりしたこともあった


(同じ人を好きな立場としては

クラウス様がこんなに喜んでいらっしゃるのは私にとっても

嬉しい事だわ)


旅に同行できずいずれ別れの時が来る私とは違い

アッシュ様と更に距離を縮めることに成功したクラウス様

悔しくて羨ましいのは事実だけれど

親しくしている人の望みが叶って、嬉しい


「願いが叶って、良かったですね」

「……うん」


浮かれた気配を潜ませたクラウス様は、本当に嬉しそうに笑った後

表情を消してじっと私の目を見つめてきた

何か言いたげな、気遣わしい眼差し


言いたい事があるならどうぞ、と目で返事を返したけれど

クラウス様は小さく「なんでもない」と呟いて視線を逸らしてしまいました


(気を、遣わせてしまいましたね)


とても意地悪な人ですけれど、こうして優しい所もあるんです

だから、一緒に居て楽しいと思えるのでしょう

クラウス様を護衛に付けて下さったアッシュ様には

改めてお礼を言わなければなりません


学園でもロクに友達を作る事が出来なかった私に

大切な友人を作る機会を与えて下さった事

本当にありがとうございます、アッシュ様



願わくば、貴方の旅が幸多からんことを

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ