78<聖なる星々の国~従僕の追加、入ります(白目)~
既に想定していたらしいルルムスとは異なり
クラウスにバレる可能性を全く考慮していなかった俺。
そりゃバレたら「なんで」ってなるよな、でもガチ泣きするほどか?
俺の従僕になったってメリットなんぞどこにもないというのに。
なんて思っていたら、その思考を読み取られたのだろう
クラウスを中心にビキィィイ!!と、床に集中線のような亀裂が入った
(あ、これサイヤ人がスーパーサイヤ人になった時
地面がちょっと陥没する演出と似てる)
と空気を読まない考えをしてるのは言わずもがな田崎だ
それに伴い、クラウスの泣き声が「ガチ泣き」から「ギャン泣き」にシフトした
物凄い声だ、空気が震えている……現状を冷静に受け止めている間に
周囲に居た通りがかりの学生数名が
空気と音の振動に耐え切れず次々と倒れ始めた
これは緊急事態だ
頭上からパラパラと細かなコンクリート片が落ち始める中
どう対処すべきかと考えあぐねていると肩へ手が置かれ
視線を上げればそこには若干目が据わった状態のルルムスが
有無を言わさぬ雰囲気で俺を見据えていた
「場所を変えて事情を説明してきてあげて下さい
このままでは宮殿が倒壊します、急いで」
と、言いつつ渡されたのは盗聴防止の魔導具
この場はルルムスに任せよう
少しでも泣き声を押さえるべくクラウスの顔を胸元に押し付け抱え上げると
一目散にひと気の少ない方角へ走る
辿り着いた先は上階踊り場から続く広いバルコニー
抱え上げたのが功を奏したのか
先ほどより落ち着いた様子のクラウスを降ろすと
身を離す前に腰にがっちりと抱き着かれてしまった
腹の辺りからぐすぐすと鼻をすする音が聞こえてくる
「あー……クラウス、事情を説明したいんだが」
「おれも、アシュに仕えたい」
「フリッツと主従契約したのにはワケがあるんだ
ルルムスの旅に同行してる間だけっていう期間限定だし
正式なものじゃない、必要に迫られた結果なんだ
嫌々ながら契約したんだよ、分かるか?」
正式なものじゃない、必要に迫られて、嫌々ながら、とか
この場にフリッツが居たら滅茶苦茶傷つけるだろうな
しかし誰になんと言われようと期間限定の主従関係だ
同行している間にもっと相応しいご主人様を見つけてやることで
フリッツには何とかご勘弁願いたい。
「だったら、おれも期間限定でいい
アシュの右腕になりたい」
「右腕?」
「おれがもらったから……
アヴァロッティに行ってる間もずっと不便そうにしてた
だから、おれが代わりになる」
導力回路を渡した事をずっと気にしていたらしい
ああそうか、ここにきてやっと合点がいった
回路の譲渡は俺が望んでやった事なのだから
クラウスが負い目を感じるような事ではないのに
それでも責任を感じたクラウスは、だから
山から戻って来るなり俺に仕えたいだとか言い始めたのか
「お前……」
あの時に教育の所為だと決めつけず、怒りに任せて話を切らずに
もっとコイツの声を聞いておくべきだったと反省する
「アイツが期間限定だっていうならおれも期間限定でいい
お願いだ、アシュ」
眉を下げ涙で濡れた顔のまま腰に抱き着き
じぃっと己を見上げてくるクラウス
美少年という見た目を如何なく発揮したおねだり顔だ
俺に母性とやらが欠片でもあればすぐさま頷いていただろう
しかし現実はそう甘くはない
子供な見た目をしているから若干対応が甘くなっている自覚はあるが
生憎と飽食の世界を生きた怠惰な田崎が宿る俺には
美少年のおねだり攻撃など一切利かない
むしろ、こうもあからさまにお約束系ポーズを仕掛けられると
余計に頭が冷えるんだよなぁ俺は
先ほどは想定外にギャン泣きされて焦ったが
その時の困惑も落ち着き、俺の目の奥が冷めた事に気付いたのだろう
焦り、眉を顰めるクラウスを見下ろしながら
現状の要因を並べ立てて冷静に思案する
『導力回路を譲渡してくれた恩に報いたい』という理由で右腕になりたいのなら既に現状で十分過ぎるほど報いてくれている
アレグロスティ領の人々が無事に隣国へ逃れられたのは
竜族を従える事のできるクラウスの働きがあったからだ
今回の事で竜族やクラウスへの礼をしなければと考えていたのだが
本人が俺の右腕になりたいと望むのなら
それを叶えてやるのもお礼に……いやいや、なる訳ないだろ
領民の避難を手伝ってくれたお礼に俺の下僕にしてやろう!
なんて言い分がお礼になるのならこの世は狂っていると断言せざるを得ない
「おれ!おれ、今回の手伝いのご褒美くれるなら
アシュの右腕がいい!」
心境の変化をつぶさに読んでいたクラウスは
自身の旗色が良くなったであろうタイミングを逃すまいとすかさず提案してくる
その台詞、捉え方によってはスプラッターでカニバリズム甚だしい事になるから言い方には気を付けてくれ
大体、その要望ではクラウスになんのメリットも無いだろう
「なる!物凄くメリットになる!!」
お礼がご褒美扱いされているのも納得いかん
礼と褒美は当事者同士の関係性が大きく異なるんだぞ
俺がいつお前に褒美をくれてやるような偉そうな立場になったって言うんだ
そもそも実働してくれたのは翼竜や地竜なのだから
彼らにとっても利になるものでないと礼の意味が……
なんて煮え切らない事を考えていたら
それまで少年然としていたクラウスの雰囲気が
痺れを切らしたように妙に大人びたものに変化し始めた
か細かった語気までハキハキと男らしく響き始める
「あれらはアレグロの都を巣に出来ることを喜んでいた
それだけで十分褒美になる!」
「なにが褒美だ、アレグロを竜の巣として活用する案は
魔国兵の侵攻を妨げる防壁にする、っていう
人間にとって都合の良い理由が含まれてるんだ
都の竜巣化がいかに竜族にとって都合がよくとも
お互いにwin-winのやり取りになってる、礼には含まれない」
「ええいっ!我が王は四の五のと難しく考えすぎなのだ!」
「……クラウス?」
「助力した同胞全てがそれで充分見返りを貰ったと納得している!
だが我はまだ納得していない!我の望みは其方の右腕となる事なのだ!
名目など礼でも褒美でもなんでもいい!くれるというのなら其方の右側を寄こせ!」
「おま、なんか雰囲気が違」
「 寄 ・ こ ・ せ ! 」
「……ハイ」
「よしっ言ったな、了承したな?
もう取り消しは利かぬぞ、我は今よりアシュの右腕となる」
「お、おぅ……っていうかお前、」
吃驚した、雰囲気が変わり過ぎて物凄く吃驚した
えらく尊大で偉そうな立ち振る舞いになってるが
「もしかして、その言動が 『 素 』 ……なのか?」
戸惑いながら尋ねてみると
ピタリと動きを止めたクラウスは気まずげに目を逸らし
腰に回していた手を放すと俺から一歩身を引いて
俯いたままボソボソと話し始める
「導力回路を取り込んだ折に成体になったと話をしたであろう」
「ああ、竜の姿になれるって言ってたな
確か人の形も」
「そうだ、竜の姿だけではなく人型であれば大人にも子供にもなれる
確かにこの世に生まれ出でてまだ半年にも満たないが
全ての竜と繋がっている今の我は
長い時を生きる古代竜と同等の知識を共有しているのだ
そこいらにいる人間の小童どもと同じではない」
「そう言い張る割には、ギャン泣きが板についてたな」
「あれは……!!」
がばっと顔を上げたクラウスの顔は真っ赤に染まっていた
慌てて言い募ろうとしたが直ぐに冷静になれたらしく
再び顔を伏せるとまたボソボソと言い辛そうに呟く
「……た、から」
「うん?」
「アシュが、子供の我を甘やかしてくれていたのが心地良かったのだ
止めねばとは思ったのだが、手放すにはあまりに惜しい……
仕方なかろう!同胞の何千年にも及ぶ知識を以てしても
アシュが我にしてくれたような経験をした者は、ひとつとして
……存在、しなかったのだから」
気恥ずかしさからか、一旦声を荒げて取り繕うもすぐに勢いを失くす
言われる程甘やかした覚えは無いのだが、そうか
だから大人の姿になれる今でも子供の姿を維持していたのか
まぁ、実際クラウス自身は生まれてまだ三か月にも満たない赤ん坊だしな
子供の特権とやらがいかに自由で得難いものかを田崎はよく知っている
いくら竜族と同期してもそれは単なる知識で
クラウス自身が体験したものではない
「竜族である我が甘えられるのは
アシュしかおらんのだ」
こうして素直に感情をぶつけてくれるなら、まぁ……うん
「しょーがねーなぁ」
目の前の丸い頭をわっしわっしと豪快に撫でる
別に甘やかしてるワケじゃない
竜がどういう子育てしてるのかは知らないが
竜を甘やかしてはならないなんて決まり事は無い
クラウスは竜族の中でも希少な人型だしな
人型っていうなら人対応しても問題ないだろ
「分ぁかった、クラウス
俺の右腕になってくれ
ただしフリッツと同じで期間限定だ、いいな?」
告げるや否や
ぱぁぁぁああっ
と、花を散らす効果音でも付きそうなほど嬉しそうな顔をしたクラウスは
俺に飛びつき喜びを全身で表した
およそ一般家庭の子供でもしない喜びっぷりが妙に獣寄りで
ああ、やっぱり人間の子供とは違うんだなと納得する
「丸く収まったようですね」
丁度話が終わった所で
バルコニーに通じる通路に姿を見せたのはルルムスだった
飛びついたままのクラウスを抱えて歩み寄れば
俺の姿を眺めたルルムスは僅かに眉を下げて小さくため息を吐く
「全く……甘やかすのもほどほどになさって下さいね」
「悪い、手間かけたな
そっちは大丈夫だったのか、その……器物破損とか」
弁償しろとか言われたら拙いよなぁ、と思いつつ戦々恐々窺うが
「大丈夫ですよ」と答えてくれたルルムスのお陰で
俺の心配は杞憂に終わった
「通路の床や壁は修復導術でなんとか。
学園の卒業パーティを兼ねているだけに
瞬く間に学生が群がって来てとんだ課外授業になってしまいました
聖女に依存した体制故か
この国の導術教育の水準は思った以上に低いですね」
「聖女が見つからない理由のひとつになってそうだな」
「ええ、可能性が低いとはいえ
この国の学園卒業生全員が介する貴重な場ですから
一応確認はしておかないと」
「時間かかりそうだな」
「その点はさほど苦労もないですよ
なにしろ国賓ですから、私」
「そうかよ」
催し事に参加するにしても押さえるべきところはしっかり押さえてるらしい
ルルムスがそう言うのなら安心だな
「俺は傍にいた方がいいか?」
「そうですね、貴方の生存を知らしめるためにも
最初の場だけは付いていてもらいますが
以降は目立たない位置で美味しい物でも食べて
大人しく良い子にしていて下さい」
「おい」
「彼を甘やかすのが貴方なら
貴方を甘やかす役目は私が担いますよ
次からは寝起きのお世話もして差し上げましょうか?」
「……悪かった、冗談でも勘弁してくれ」
俺の寝起きが今後もネタにされそうな気配を察知したので
二度と蒸し返されない為にも今の内に謝っておく
四十手前のオッサン甘やかす美青年とか地獄絵図にしかならん
「残念です」と笑うルルムスを前に
バツの悪い俺はクラウスを降ろして頭を搔く
床に足を付けたクラウスが即座に俺の前に歩み出た
「悪魔め、我の目が黒い内は貴様の好きにはさせんぞ」
「おや、かの竜人はどうやら」
口調からルルムスを睨み付けてるんだろうな
唸るクラウスを宥めるべく隣へと歩を進めて頭をポンポンと撫でておいた
聖者ルルムスを無能だの悪魔だのと言えるのは
後にも先にもコイツしかいないだろうな、と思ったが
そういえばフリッツもルルムスの事をクソ野郎とか言ってなかったか?
「猫を被るのを止めたようで……」
何故だ、俺にとってルルムスは
自慢しまくりたいほどいい男だというのに
「ンンッ」
などと考えていたらルルムスが唐突に咳払いした
「あ、悪ィ」
「いえ」
やや顔を伏せたルルムスの頬が僅かに赤らんでいる
すまん、心が読めるのにあけすけに持ち上げられると居心地悪いよな
さっきのおっぱ……魅惑の光景については故意だが
こういうのを読まれると俺も多少は気恥ずかしい
どうせ読まれるのだからと開き直っている部分もあるが
親しき中にも礼儀あり、だ。今後も出来る部分は自重していこう
(……)
いや、でもやっぱり納得できん
無能とか悪魔とかクソとかどれだけ考えても全く当てはまらん
何より俺の友人だぞ、聞き流すにも限界がある
クラウスにもフリッツにも
コイツがいかにいい男か分からせる機会を一度くらいは設けなければ
今後の旅に同行するのなら尚更だ
クラウスとフリッツからすれば地獄の説法にも等しい決意を新たにした俺だが
ルルムスはそんな俺の志をあえて見ないフリすると決めたらしく
仕切り直すように再度話し始める
抜き打ちでスルー検定してるみたいで申し訳ない
「クラウスは、猫を被るのを止めたようですね」
「我はアシュの右腕として認められたのだ
もう言動を繕う理由などない」
どうだ凄いだろう
と、言わんばかりにふんぞり返ってドヤ顔を披露するクラウス
口調が変わったクラウスを知っていたらしいルルムスに動揺はない
やはり、この二人は随分前から言葉のドッジボールをしていたようだ
ヘタしたら出会った当初からこんなやりとりだったかも知れない
「芋虫のようにアッシュに抱き着いていた幼子に
今更取り繕う言動などありはしないでしょうに」
「貴様如き矮小な人間が我が王を甘やかすなど片腹痛いわ
寝言が言いたければ今ここで永遠に眠らせてやってもよいのだぞ」
……現在進行形でドッジボールを続けてるみたいだな
お前らなんでそんなに仲悪いんだよ
いがみ合い以外の会話をした事がないとか言わないだろうな
「ない」
「覚えがありませんね」
「マジか」
声に出さない問いかけに当たり前のように答える二人
こうやって息揃えてる時はめちゃくちゃ仲良さそうなんだけどな
仲良くできる可能性もない事はなさそうな雰囲気だが、と思っていたら
ルルムスは客観的な立場から説明を始める
「馬が合わないのも当然かもしれません
聖者である私と竜族である彼は本来は敵対関係にありますから」
「……言われてみれば、そうだったな」
「人間にとって竜族は忌むべき存在であり
どの国の聖典解釈においても聖者に討伐されています
そもそも異種族で友好関係にある方が稀なのですよ」
「って事は俺は稀な部類か」
「アッシュはクラウスが生まれてすぐに目にした人間ですから
獣としての本能から刷り込みの効果もあるのではないですか」
刷り込みの可能性は考えた事がある
クラウスが『我が王』とまで言い切るほど俺を慕ってくれている事に
一番納得できる理由だ
(竜族は基本的に気位が高い
偉大にして尊大な種族が上に据えたがる相手なんて
それこそ人族の中でも最も偉い地位を持つ『王様』
ぐらいでないと自尊心が許さないだろう)
そも、人族というだけで竜族にとっては下位の生き物だからな
王様とて前提が人族というだけで高が知れている。
俺に対する呼び方に妙にこだわっていた理由も理解できた
竜族がいただく相手ともなればただの人間呼びでは役不足だ
悪党だった俺にとったら
王様という言葉自体に縁なんて無いんだけどな。
両手拳を握り、物凄く何か言いたげに唇を噛んで見上げてくるクラウスを傍らに、ひとり頷きながら納得しているとルルムスがあえて足音を立てて歩み出る
「そろそろ会場へ行きましょう
フリードリヒと共にラピス嬢も下の会場入り口で
待ってくれていますから」
「そりゃ急がねェと
あの嬢ちゃんには山盛り食わせなきゃならねェからな
入場が遅れて食いもんが無くなってたら困る
クラウスは嬢ちゃんに付いててやってくれ」
「アシュの頼みならば否やは無い」
「お前、俺の知識で語彙力を鍛えるのも大概にしとけよ?」
先ほどから妙に仰々しい言い回しをしてくるクラウスに釘を刺しておく
クラウスは泣き痕など微塵もない晴れやかな顔で
俺の一歩後ろに付き誇らしげに歩き始めた
多分、これからクラウスの定位置は俺の一歩後ろの右側になるのだろう
この行動が板につく前に主従関係の解消ができればいいのだが
最初の聖女捜索からこれほど難航しているのだから先は長そうだ
先導するように前を歩いていたルルムスが階段途中でフッと振り返り
目が合うとその視線がスイッと俺の左後ろに滑り
何もない筈のその場所をじっと見つめ、再度俺に視線を合わせた
現在、俺の右後ろには右腕を名乗るクラウスがぴったりと控えている
そして反対側の、今は誰も立っていない左後ろとくれば
「……」
「……」
おいコラ
何が言いたいか分かったぞコラ
内心でツッコミを入れるがルルムスは何も言うことなく前を向き歩き始めた
そのまま黙っておけばいいものを
やはり俺を弄る要素を放置できなかったらしい
更に階段を下りた所で再びフッと振り返ってまた俺の左後ろを見ると
今度は何か言おうと口を開いたのでそれと同時に言葉を被せてやった
「左側は」
「言われんでも分かっとる」
「それはそれは」
くっそールルムスの野郎
他人事だからって面白がりやがって……!
と、憤った瞬間
俺の思考回路に電流が走った
……待てよ?
相応しい主人を探すというのなら
ルルムスをプロデュースするって手も
(あるんじゃないのか?!)
そうすればルルムスの良さも解ってもらえて旅も円滑にできて
(一石二鳥じゃないか!)
物凄く良い案を閃いたぞ!と表情を輝かせる俺に
ルルムスとクラウスがひっそりと憐憫の眼差しを向けていた




