77<聖なる星々の国~従僕ができてしまった(白目)~
不埒な事をあえて考え伝えた俺に対してルルムスが動く前に
後ろから飛び出したフリッツが何故だかルルムスに殴り掛かった
ミモザさんは驚き口元に手をやり、俺は唖然として見送ってしまう
バシン、と響いた重い打音に空気が震える
フリッツの背筋が躍動し、続けざまに二撃三撃と腕が振り上げられ
止まる気配が無いそれにやっと我に返った俺は
慌ててフリッツの背に飛びつき羽交い絞めにした
「待てっ待て待て!何してんだお前!」
「止めるなアッシュ!この野郎だけは
一発でも殴らないと気が済まない!!」
組み付いて気が付いたが、信じられん事にフリッツの奴
身体強化までかけて殴り掛かっていやがった
通りで打撃音に振動が乗ってる筈だよ
台詞からまだ一発もまともに入れる事が出来てないらしいが
このまま続けさせるわけにはいかない
俺も身体強化をかけてなんとか二人の距離を離す
ミモザさんは壁際に下がり
巻き込まれないようにしつつ様子を窺っている
フリッツの肩越しに見えたルルムスは
平然とした顔で導術を発動させ攻撃を防いでいた
「一発殴れば気が済むのですか
いいでしょう」
ルルムスの不遜な態度を前に
フリッツのコメカミに青筋が浮かぶ
「お優しい導師様だ、あえて殴られて下さるってか」
「それほどの事を貴方に強いた自覚はありますから
さぁ、いつでもどうぞ」
防御のために展開していた導術を解いたルルムスは
目を瞑りあえて無防備になる
話の流れを読み緩めた俺の拘束からそっと抜け出したフリッツは
身体強化を解き、純粋な腕力のみで右手拳に思いっきり力を籠める
「では遠慮なく」
宣言通り遠慮などない力加減でルルムスの左頬に拳を叩きこんだ
バキッと物凄く痛そうな音が響き、その瞬間ミモザさんは目を覆う
何がなにやら分らんが
一昨日の聖約の折に二人の間で物騒なやり取りでもあったのだろう
互いに納得の上で、と言うなら止める理由はない
殴り殴られる程の何をやったのか物凄く気になる所ではあるが。
殴られた瞬間ルルムスの顔が横に逸れ、唇から跳んだ血が床を汚す
顔を背けて多少威力を逸らしたようだが多分口の中は重傷だろう
傍から見ても歯が何本か折れてもおかしくない打撃だった
直後、即座に頬に手を当て一瞬で治癒を済ませたルルムスは
物凄くいい笑顔でフリッツに向き直り、その横っ面を殴り飛ばした
「やり返すんかい」
ついツッコミを入れてしまう
大人しく殴られてたからそれで矛を収めさせるかと思いきや
とんでもねェ、元から殴り合う気満々だったよルルムスの奴
役職に見合わず好戦的だってのは俺が悪党アシュランだった時に
相当殴り合ってた過去があるから知ってたけども。
しかも今、殴られた時のフリッツの足元が不自然に浮いていた
体が飛ばないように導術で固定したのか
打撃の勢いを一切殺させないようにして
本来緩和される筈だったダメージを上乗せしたって事だ
……ルルムスの導術が鬼畜を極めている点は
見なかった事にしておこう
(流石筋金入りの加虐性愛者)
とか思ってるのがバレたらこっちにまで矛先が向きかねないからな
当然、殴り返されたフリッツの口からも血が飛ぶ
上体をヨロめかせたフリッツは、ルルムスの容赦ない導術で完全にキレたらしく今度こそ殺気を纏って殴り掛かろうとするが
それより先に二人の間に割って入った
「二人とも、殴り合いは別の機会にやれ」
「退いてくれ、アッシュ
このクソ野郎かかってこい」
「二人の間に何があったか聞く気は無ェがご婦人も居るんだ、弁えろ
この後すぐに食事があるんだろ
ルルムス、フリッツの傷を治療してやってくれ」
「ええ、私は構いませんよ」
「フザけるな、全身粉々に砕いてやるから覚悟しろ」
「お好きにどうぞ、その分色を付けてしっかりとお返し致しますから」
「ルルムス……」
殴らせといて倍返ししてたら意味無いだろ
今にも掴みかかりそうなフリッツの胸板に片腕を突っ張り抑えて
壁際にいたミモザさんに視線を向けて声をかける
「会場で会おう、話があればその時に」
「分かりました、失礼いたします」
しっかりと空気を読んでくれたミモザさんは一礼してそそくさと退室してくれた
また後で会おう、俺の目の保養
脳裏に魅惑の谷間を思い浮かべていたら後頭部に軽いチョップを喰らった
折角思い浮かべた魅惑の光景がかき消されたのは
ルルムスによる手刀の所為に違いない
開いた方の手で叩かれた頭を押さえつつ振り向けば
そこには先ほどと同じく良い笑顔のルルムスが。
「『流石筋金入りの……』、なんですって?」
「わざわざ思わなかった事にしたのに蒸し返すな
兎に角フリッツを治癒してやってくれ
明らかにお前の方がやりすぎなんだからな」
「はぁ、全く……仕方ありませんね」
おかしいだろ、なんで俺が
「散々頼み込んで渋々折れてもらった」みたいな立場になってるんだ?
突っ張った方の腕にはまだ圧が掛かっている
フリッツは腹の虫が治まらないようで殺気立ったままだ
あーもー、しょーがねェな
「フリッツ」
「退いてくれアッシュ
ソコに立たれたらそいつを殺せないだろ」
「いやだからなんでそこまで殺意に満ち溢れてんだよ……
お前の主人として命じる、大人しくルルムスの治癒を受けて
パーティの間は俺の護衛に付いてくれ」
後半は半ば投げやりに告げるがフリッツには効果絶大だったようだ
腕に込めていた力を抜いて目を見開き、じっと俺を見降ろしてくる
ぼーっとしているように見えるが
俺の言葉の意味を理解すべく頭の中でリピートしているに違いない
仕方ないだろ
俺だって誰かを従わせる立場になんざなりたくはなかったが
コイツに限っては手綱を握っておかないと制御できねェんだよ
旅に同行するとなれば絶対にこうしておいた方がいい、と
俺のシックスセンスが叫んでいる
それに『ルルムスの旅』と『俺の信条』を秤にかけてみたら
容易に結論が出てしまったというのもある
世界の命運をかけたルルムスの旅を円滑に進める為なら
侍従を作らないという俺の信条なんざ二の次だ
今後訪れるであろうフリッツの暴走を止める為にも
『主人』という枷は大いに役立つことだろう
……
…………おかしいな?普通はもっと、こう
騎士の誓いによって生まれる主従関係って
絆重視で得難く尊いものであるべきでは?
間違ってもこんな動機で結ばざるを得ないような
人身供物みたいなやり方で成り立つ関係ではない筈だ
(……)
主従関係というものにある種の情熱を傾ける世の乙女たちの夢が
壊れたような音が聞こえたが気のせいだろう
驚いた顔をしているルルムスが僅かな距離さえも詰めて
責めるような口調で訪ねてくる
「本気ですか、アッシュ」
「フリッツを挑発したお前の所為でもあるんだからな」
ちょっとは責任取れよこんちくしょう
と、内心で伝えると
更に眉を顰め、もの言いたげに見つめられてしまった
そんなやりとりをする間に
突っ張った腕にずっと掛かり続けていた圧力が無くなった為
ようやっと落ち着いたか、とフリッツへ向き直ると
そこには案の定と言うべきか予想通りと言うべきか
俺の前に仰々しく跪き首を垂れたフリッツが居た
「帯剣していない上、騎士正装でないのが惜しいが
この場で正式に誓いを立てよう」
どうせルルムスの旅に同行する間だけなんだし
誓いなんざ適当でいいんだが
これを邪魔したらまたフリッツが暴走しそうだし
気が済むようにさせておこう
その内コイツにもちゃんとした主人候補が現れるかもしれないからな
フリッツが長々と騎士の誓いの口上を述べる中
俺の背後に立っていたルルムスが呟く
「これは……しくじりましたね、私としたことが」
存外に沈みきった、元気のない声
(……)
い……いや、そこまで責任感じなくてもいいんだからな?
最終的に判断したのは俺だし
さっきは「お前の所為でもある」なんて言ったけど
元はと言えば暴走し易い性格のフリッツに問題がある訳で
もっと大人しいヤツだったらこんな事にはならなかったんだからな
「…………~により、我が剣
我が魂は永劫、唯一絶対の君主たる
アースラム・セインツヴァイトへ忠誠を誓う
アッシュ、手を」
うん?手?
口上を述べる以外になんかするのか?
深く考えず促されるまま手を差し出せば
俺の指先を軽く捉え引き寄せたフリッツはそのまま手の甲に額を押し当てた
なるほど、剣が無いから略式になるんだな
などと暢気な事を考えていたら
フリッツの額が触れている手の甲が妙な熱を持った
それ以外はなんの違和感もなく手を放し立ち上がったフリッツは
今まで見てきた中でおそらく一番であろう
物凄く幸せそうな顔で俺を見降ろしている
余りにも満ち足りた表情を前に呆気に取られつつ
違和感を持った手の甲を見てみるが特に変化は見受けられなかった
いつも通りの俺の手だ
(……気の所為か)
なんて結論を出すと同時に後ろに居たルルムスが盛大なため息を吐く
「アッシュ
元公爵家嫡子でありながら正式な騎士の誓いのなんたるかを
知らなかった、などとは言わないでしょうね」
「あー……おう、知らねェな」
生憎と心当たりが無い
こういった主従や従僕関係の儀式を学んだ覚えがないってのは
公爵家の後継者として早々に見限られていたのが原因だろう
呆れた表情を見せたルルムスは治療導術を展開し
フリッツと距離を保ったまま遠隔で治癒を施しつつ険しい声を紡ぐ
「フリードリヒ、貴方も随分と無茶な事をなさる
私が施した聖約の上に騎士の誓約を上乗せするなど前代未聞ですよ」
「上乗せじゃない、捻じ込ませた
あんたが俺の魂に無理やり刻んだ戒律の一部は
無効化させてもらったからな」
「…… ……どうやらそのようですね
まさか貴方が兄君から直々に騎士誓約の手解きを受けているとは
思いもしませんでした」
相変わらずピリピリしたやりとりだが
そろそろ俺にも事情を話してはもらえないだろうか
置いてけぼり感が凄くて二人の間に居るのに
蚊帳の外なのが非常に居心地が悪い
あとルルムス、お前遠隔でも治癒導術使う事できたのか
知らなかったぞ
「なぁ、差し支えなければ事情を説明してもらいたいんだが」
「聞いてくれよアッシュ
この野郎一昨日の聖約で俺の事洗脳しようとしやがったんだぞ」
「その説明は語弊がありますね
貴方の同意の下、絶対に破る事のできない約束を
いくつかさせて頂いただけです」
「殺人まで主導しておいて、アレの何が約束だ」
「命を賭ける覚悟があるかと尋ねたでしょう
最悪の事態を想定した当然の処置です
旅に付いてくるというのであれば尚の事ですよ」
俺を無視して始まる言い合い
……ああ、つまり説明する気は無いって事だな
なんにしてもルルムスがこの世界の為にならない事をする筈はない
それさえ確信できていれば
事情を聞かなくても信じるのが友達ってもんだよな
「フリッツ、旅に同行するお前に必要だと思ったから
こいつが聖約ってのを施したんだろ
その内容がどれだけ理不尽だろうと
同行すると言って聞かないお前の立場だったら
受け入れるべきだったんじゃないのか
少なくとも、勝手に改変していいようなものじゃない筈だ
騎士の誓約ってのでルルムスが施した聖約が一部無効化されたって言うなら
俺はお前の主として命じるぞ
導師の聖約をなによりも優先して行動するようにってな」
「なっ……なんであんたがそれを言うんだ!
こいつが俺に施した聖約の中身を知らないから
そんなバカな事が言えるんだぞ!」
「ここまで話をしても詳しい説明が無いのは
口に出せない類のものだから、だろ?
無理に聞き出そうとは思わねェから安心しろ
それに、ルルムスは『聖者』
この世界にとって良い結果を齎す存在だ」
「そうとは限らない」
「限るに決まってる
こいつはすげェ良い奴だからな」
自信満々な俺の返事を聞いた瞬間
フリッツの顔が泣き出しそうな様相に変わってしまい、戸惑い焦る
その表情は伯爵邸でベスカトーレ卿の追及を受け
奥方と長男が殺された事を「あんたの所為なのか」と
問われた時に見た表情と同じものだった
フリッツの、苦しくて悲しくて仕方がない時の顏だ
「……おいおいルルムス
こいつにどんだけ厳しい約束事させたんだよ」
「避けては通れない事です
こればかりは仕方が無いのですよ」
「理不尽だ」
「ですが、理解できているし
受け入れざるを得ないのも解っているでしょう」
「絶対に嫌だ」
「そう思うのなら、なさねばならない事態に陥らないよう抗いなさい
その為に私もここに居るのですから」
それっきり沈痛な面持ちで黙り込んでしまったフリッツは
これ以上話す気は無いとばかりに扉に向かって歩き
すぐ傍の壁に背を預けて腕を組んだ
落ち着きを取り戻したフリッツの
一連の行動を見届けてルルムスへ向き直る
「避けて通れないなら暫く同行する俺にも
聖約かけといたほうがいいんじゃないのか?」
「いいえ、貴方は…… ……ちょっと待って下さい
暫く同行する、とはどういう意味ですか?」
「言葉通りだが」
「それは……最後まで私の旅に付き合う気はない、と?」
「聖者がある程度揃ったら俺も必要なくなるだろ」
むしろ邪魔になるのでは?
クラウスは竜族を操れるから最後まで同行すれば
心強い味方になってくれるとは思うが
俺はそういった力のない一般人だし
今回の事で導力回路の一部をクラウスに渡したから
なけなしの身体強化にも欠陥が出来た
後々足手まといになるのは目に見えている
「そいつの旅から外れる時は俺もあんたに付いていくからな」
「冗談だろ
言っておくが主従関係もルルムスの旅に同行してる間だけだからな
それ以降は各自自由行動だ
ルルムス親衛隊は解散だぞ、解散」
「さっき永劫忠誠を誓うって言っただろ!!
もうあんたに刻んじまったからな?!俺の印!!」
えっお前まで俺にマーキングしやがったのかよ
どいつもこいつも印つけるのが好きなんだな
「ルルムス、然るべき時に無効化できるか」
「できますよ、多少手こずるとは思いますが」
「無効化しようとするなぁ!
なんなんだよ!あんたそんなに俺が仕えるのが嫌なのか!」
「嫌とかそういうんじゃない
俺の目的に従僕は邪魔なだけだ」
「「目的?」」
二人の表情が一瞬で真面目になった
おい、コントじゃねーんだからこういう時だけ息ピッタリになるのやめろ
二人からすれば古の王が自ら語る『目的』である
重大な話題なのは明白で真面目になるのも当然だが
ルルムスによって情報操作されていた俺は
そんな内情を一切把握していなかった
「アッシュ、貴方の目的ってなんですか
聞いてないんですが」
「当然だ、言ってねェからな」
というかルルムス、俺の目的を把握してなかったのか
心まで読めるならとうに知られているとばかり思っていた
(そういえば、それ関連を考えたり処理してる時は見られることに抵抗があったから大体人払いしてたか他人の目を盗んでやってたな)
だったら知られてなくても仕方ないか
という事はクラウスも把握してないのか?
(……)
いや、クラウスは知ってるかもしれないな
四六時中一緒にいたワケだし
確認はしてないが、改めて聞くってのも気まずいなぁ
まぁどうせいつかは独り立ちするんだし、確認する必要もないだろう
ズズイ、と顔を寄せ俺の表情を窺っていたルルムスの目が鋭く光る
「奸計を目論んでいるなら封印しますよ」
「新しい脅し文句だなオイ
仕舞っちゃう系男子かおのれは」
「それで?貴方の目的とはなんですか」
「改めて言うような事じゃねェよ
俺個人の問題だ」
「猶更放っておけませんね
話したくなるようにあの手この手を尽くした方が良いのでしょうか
気は進みませんが」
全然気が進まない顔じゃないよなソレなんでそんなに嬉しそうなんだ
慈愛の笑みを顔に張り付けて更に歩み寄ってきたルルムスから距離を取るべく後退っていると、背後にまで圧を感じて振り返った先には真顔のフリッツが立ちはだかっていた
(ブルータス、お前もか!!)
正に前門の虎、後門の狼
ちょ、おいまてやめっ……
「導師様、会場へ向かうお時間です」
「……」
「……」
「……命拾いしましたね」
…… …… ……っっ助かったぁぁぁあ~~~~!!!!
扉の外から聞こえてきた使用人の声に心の底から安堵のため息を吐く
冗談だろうが、ルルムスが言うと洒落にならんから命とか言わないでほしい
これ、後から洗いざらい吐かされるヤツなのか?
フリッツも滅茶苦茶怖い顔して俺を凝視してる
(……これは逃げられそうにない)
仕方ない、食事してる間に簡潔に説明する用意をしておくか
ここに来た時から既に準備が整っていたルルムスに伴い
立食会場へと向かう道すがら、綺麗にドレスアップした少年少女たちと合流した
ルルムスとフリッツと一緒に通路を歩いてきた俺の姿を捉えたクラウスと嬢ちゃんの表情が同時に笑顔に変わる
「アシュ」
「アッシュ様、こんにちは
パーティにご一緒できてとても嬉しいです」
「おうクラウス
その正装、中々様になってんじゃねェか
嬢ちゃんもドレス、よく似合ってんな」
「ありがとうございます
アッシュ様も正装、とても格好良いです」
「上等なものじゃねェが
そう言ってくれると嬉しいぜ」
頬を赤らめて俯く嬢ちゃんは淡い緑のドレスを纏っている
装飾は無いが、裾にあしらわれたレースが上品さを醸し出していた
服装にやや五月蠅い俺の目から見ても良い品だと分かる
どことなくミモザ婦人を連想してしまった辺り
嬢ちゃんのドレスは彼女のプロデュースなのかも知れないな
食生活の改善で艶を取り戻した肌と髪のお陰か、とても健康的に見えた
しかしどこか表情に陰りが見えるのは気のせいだろうか
何か気がかりがあるのかもしれないな
後で話す機会があれば聞いてみよう
……と、二人に向けていた視線をふとその背後へと転じると
二人の後ろにはエヴィル兄弟が立っていた
俺を見て驚愕の表情を晒している
「……生きてる?」
「イプシロネの手の者に殺されたのでは?」
そう言えば死んだ事にしてからは他の連中とは一切コンタクトしてなかったな
冒険者アッシュとしてルルムスの知り合い枠で参加したつもりだったから
すっかり忘れていた
「アシュランは死んだぞ、俺は弟の新米冒険者アッシュだ」
「このオッサン、息をするように嘘吐いたぞ」
「それは流石に聞けませんよアシュランさん」
「そういう事にしとけ
お前らが参加してるって事は他のタウィスも居るのか」
「イプシロネがステラを降ろされたから
今はもうタウィスじゃないけどな」
エヴィル弟は弾けるような笑みを浮かべている
よほどタウィスであった事が負担だったのだろう
他の連中も同じように喜んでくれていればいいのだが
アヴィオールは金銭的な意味で困っているかも知れないな
「今回の集まりは学園の卒業パーティも兼ねているんです
導師様にはゲストとして参加して頂いたんですよ
国の不祥事を少しでも緩和させる目的が大半という
しょっぱい理由があるんですがね」
王子様のような服に身を包んだエヴィル兄が更に詳しく説明してくれた
なるほど、ただの会食ではなく政治的な意味合いが絡みまくってるワケか
エヴィル兄弟の説明にルルムスが補足を入れる
「見る者が見れば
暗殺されたはずの貴方が生きている事は直ぐに分るでしょうが
私の妨害を行っている勢力をけん制するにはいい材料にもなるという事です
何しろ導師である私の大切な同行者に手を出したのですからね
これで少しは大人しくなるでしょう」
妙に物騒な雰囲気を醸し出しながらも慈愛の笑みは揺らがない
……これはルルムスの奴、裏で色々やってそうだな
知らぬが仏言わぬが花って奴か、この件には触らないでおこう
深くは聞かねェよ、という意味を込めて
にこりと微笑むルルムスにヘラっと愛想笑いを返しておく
会場の近くで屯するのも他の者たちの邪魔になるだろう
そろそろ中に入るか、とクラウスたちに声をかけようとすれば
それまで妙に静かだったクラウスが
とんでもない形相で声を震わせながら俺に縋りついてきた
「あ、あ、アシュ……!!」
「おお!?なんだ、どうしたお前!」
「アシュに、アシュに印が付いてる!!
よりによって、み、右手!右手ェ!!!
じゅ、じゅ、従者、従者の印!なんで!!
おれは駄目って言われたのに!なんで!!!
なんでェェェエエ!!!!」
クラウスの金の瞳からぼろぼろと大粒の涙が零れ始めて
瞬く間に滝のように流れ始めた
嬢ちゃんや他の連中と一緒に居る普段のクラウスは
クールで、不愛想で、どこまでも鉄仮面だった
だから余計に驚かれたのだろう、突如として声を上げて泣き始めたクラウスの姿を見たエヴィル兄弟はぎょっと目を見張る
嬢ちゃんは泣き叫ぶクラウスを心配げに見つめ
ルルムスはさもありなんといった目で俺を見ている
どうやらこうなる事を予想していたらしい
フリッツは泣き出した子供に狼狽える一般的な大人の反応だった
「うわぁぁあああん!!
アシュのばかぁぁああああ!!!!」
……アカン、これはガチ泣きというヤツだ




