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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
74/145

74<聖なる星々の国~導師一行と”暴”険者の対面~

「では、改めまして……


私は世界の終焉を防ぐべく遣わされた聖者がひとり

『導師』ルルムス・アッパヤードと申します

以後お見知りおきを」

「せ、聖者?導師?!

しかも魔国で指名手配されてた名前と同じ……っ」


と、それ以上言葉が出てこないらしいフリッツは

口をパクパクさせながらルルムスを指さし

忙しなく俺とルルムスを交互に見て説明を求めてくるが

とりあえず今はそれぞれの紹介が先だと宥める


「フリッツ、質問は後回しにしとけ」


ルルムスの先導で移った場所はこじんまりとした教会の二階だった

日が沈む時刻に出迎えた牧師風の男はルルムスと顔見知りだったらしく

言葉を交わさずとも静かに頭を下げ二階のひと部屋を提供し

テーブルを囲み席について今現在の自己紹介に至る

階下では微かだが何人もの子供の元気そうな声が聞こえるので

この建物は教会の見た目をしていながら

孤児院のような役割も兼ねているのだろうと推察しておく

テーブルの中心に置かれた盗聴防止の魔導具が微かに作動音を響かせた


「おれの名はクラウス、アシュの(しもべ)

我が(あるじ)が良いと言うまで黙っていろ、下等種族め」


続いて名乗ったのはクラウス

ルルムスが最初に名乗ったのが気に入らないのか

俺の隣に椅子を寄せてぴたりと寄り添いながら上座に座っているルルムスを睨みつけ、次いでフリッツの事も鋭い目つきで威嚇する

クラウスの突拍子もない自己紹介にフリッツは目を白黒させた


「しも……今、しもべって言ったのか!?

アッシュ、こんな年端も行かない少年を侍らせるなんて

どういう了見、 痛っ!」


フザけた事抜かしやがるフリッツの脛を

テーブルの下で蹴飛ばして黙らせる


「自己紹介くらい黙って聞け

それとクラウス、お前も余計な事を言うな」


フリッツを睨み付けたままクラウスに告げれば

落ち込んだ気配と共に腕にくっつかれてクイっと袖を引かれた

ごめんなさい、の意なのだろう

視線はフリッツ固定で開いた方の手でクラウスの頭をポンポンと撫でる

はいはい、怒ってねェよ


「では、次は私ですね」


ルルムスとクラウス、という

そこそこに灰汁の強い二人と数日共に過ごしていた所為か、大した動揺も見せず自己紹介を始めようとする嬢ちゃんは

盆に乗せた湯呑みを皆の手元へと置いて回る作業を中断するとフリッツへと向き直り礼儀正しくお辞儀をしてみせた


「私はラピス・シェアトと申します

アッシュ様は私の恩人です

現在はクラウス様のお世話係をさせて頂いております」

「アッシュのしもべの、お世話係?

自己紹介してもらってる筈なのに

分からないことだらけになってるんだが……?」


フリッツの頭上にクエスチョンマークが量産されている

導師という称号持ちに続き美少年のしもべ、その世話係ともなれば

メンツが濃すぎて混乱するのも仕方がないのかもしれない


ふと視線を感じて目を泳がせると

ルルムスがフリッツを紹介しろと目配せしてきた

気は進まないがここまで連れてきたのは俺だからな

責任は持つとするか

はぁ、とため息を吐いて改めて顔を上げる


「コイツはフリードリヒ・アレグロスティ

無理矢理俺にくっついて来やがった伯爵家の三男坊

病的な騎士狂いで頭が固くて曲がった事を嫌う正義漢だ

一方的に架空契約を施行してくるヤベー所があるから

お前らも流れに呑まれてうっかり契約しちまわないように気を付けろよ」


「容赦ないな……」


俺の辛辣な紹介を受けてテーブルの上に突っ伏すフリッツ

好意的に紹介してもらえるとでも思ったのか、残念だったな

導術に関わる契約事項ではないかと警戒したルルムスの表情が曇る


「架空契約とは?」


「導術に関わるような意味じゃないから安心してくれ

約束もしてねェ事をさも約束したかのように

自信持って言ってくる事があるだけだ

俺は二度ほど被害を受けた」


冷静に言い放つ俺を睨んだフリッツは不満げに表情を歪める


「酷い言い草だな」


「と、この通り本人が無自覚でな

コイツの勢いある出まかせには十分に気を付けろよ」


「アッシュ、さっきから失敬だぞ

言うに事欠いて出まかせとはなんだ出まかせとは」


「胸に手を当てて考えやがれ」


言えば、

甲冑の上から胸に手を当てて

真剣な表情で考え始めるフリッツの素直さは全く以て救いようが無い

ひとつ咳ばらいをしたルルムスが柔和な笑みをフリッツへと向けた


「フリードリヒ・アレグロスティ

お聞きしても宜しいでしょうか」


「あ、おう……ではなく、はい

なんでしょうか、導師様」


穏やかな口調と洗練された空気に合わせたのだろうフリッツが

さっと姿勢を正してルルムスへ向き直る

『聖者』は世界中で国賓の扱いを受けるほど位が高い。知識を持つ者の常識としてそれを知っているフリッツの態度が固くなるのも当然だ


「貴方がアッシュに同行したい理由をお聞かせ下さい」


「自分が彼に同行したのは

彼を唯一絶対の主人と定めたからです」


直後、場が一瞬で静まり返った

真っ先に正気に返り、耳鳴りがしそうなほどの静寂を破ったのは俺だ


「 初 耳 な ん だ が !?

いつ俺を主人と仰いだ!!」


「誓っただろ

あんたの騎士になるって」


「ンなコトひとっっ言も聞いてねェよ!

何月何日何時何分何秒地球が何回回った時に誓ったか

言えるモンなら言ってみろ!」


「アッシュ、落ち着いて下さい」


ルルムスの冷静な声が立ち上がろうとした俺を椅子に留める

アシュランの衝動に身を任せた所為で小学生の切り返しが口を突いた

「「ちきゅう」」と不思議そうに首を傾げつつ呟くクラウスと嬢ちゃん

隣に座っていたクラウスの、荒ぶった俺の気持ちを宥めるべく背に充てられる手の感触に意識を集中して深呼吸する


その間に目の前に差し出されたのは白湯の入った湯呑み

そそっと視界の外に引いていく手の動きを追って顔を上げれば

心配そうな面持ちのラピス嬢ちゃんが盆を抱えて俺を見つめていた

イカン、子供二人に宥められるなど情けない事この上ない


ありがとな嬢ちゃん、と告げて

有り難く白湯をもらって胃を温めると気持ちが落ち着いてきた


「アッシュが言った架空契約の意味が理解できました

アレグロスティ

騎士の誓いとは互いの同意に基づいて成立する神聖な行いの筈

御覧の通り、貴方が専属の騎士となる事をアッシュは了承しておりません

ですので、貴方の仰る誓いが成立していない事はお分かりですよね」

「正式では無いにしても自分は既に彼を主に戴くと心を決めております

いかに聖者がおひとりの導師様と言えど

自分の誓いに関しては口出し無用に願います」

「……随分と厄介な方に見初められたものですね、アッシュ」


「分かってくれるか、ルルムス」


「アレグロスティ、貴方が望まれる事は

彼の従僕として私の旅に同行する事、で間違いありませんか?」

「仰る通りです、導師様」


「 断 固 と し て 断 、 」


「構いませんよ同行して頂いても」


「ルルムス!?」


「ただし、『条件』を付けさせて頂きます

私はアッシュの雇い主ですから」


主人扱いされる俺自身が嫌がってるのにとんだ裏切りだ!と思ったが

ルルムスは取り乱す俺を他所にフリッツに向けて笑みを深めた


(……)


何やら考えがあるらしいのでとりあえず静観の構えをしておこう

テーブルに両腕を置き、ゆっくりとした動作で手を組んだルルムスは

先ほどよりもやや前傾姿勢となってフリッツを見据える

組んだ指先に添えられた唇が力強い語気を紡ぎ出す


「第一に、アッシュの従僕となる事を望むのはお止めなさい

私は、彼が従者の類を付ける事を(よし)としない正当な理由を

()()()()理解しております

私の友人に無理強いをするのであればこちらにも考えがありますので

正しい判断をして頂けることを期待しております」

「正当な理由……?」


俺に向けられるフリッツからの無言の問い

下に就く者を作りたがらない理由を知っているのは

当時の俺の心の声を聞いていたであろうルルムスとクラウスだけだ

フリッツには悪いが、あまり多くの者の耳には入れたくない内容なので

答える意思はないという態度でフリッツの視線から目を逸らしておく


「第二に、」


俺に視線を外されると同時に被せられてきたルルムスの言葉

この場で問う事は許さないとばかりの遮りに

フリッツは表情にあからさまな不快感を滲ませた


俺の態度の所為かルルムスの強引な話運びが原因か

判断は付かなかったが、その瞬間から

フリッツのルルムスに対する態度が崩れる


「私は己の役目を果たす為、アッシュと長期雇用契約を交わしております

先ほど名乗らせて頂いた通り聖者のひとりである私は

非常に機密性の高い目的を持って旅をしているので同行するというのであれば導術による契約を交わして頂かなければなりません

貴方に命を賭ける覚悟がおありでしたら、の話ですが」


「構わない、契約を受け入れよう」


「契約を破れば命で贖う可能性もあるのですよ」


「それでもいい」


間髪入れず返すフリッツの挑戦的な態度に

ルルムスの眉間に皺が寄る


「……失礼ですが

少しは熟考なされた方が宜しいのでは?」


「必要ない

アッシュがあんたの言う”正当な理由”とやらを俺に話してないのは理解した

彼が言いたがらない事は俺だって無理に詮索する気は無い

だが俺は俺の意志を変えるつもりも無い

契約だろうとなんだろうと、あんたが安心したいが為ならやればいい

そうやって優位に立たなければ不安で仕方が無いほど繊細な内面をお持ちとは、これまでの旅路はさぞ心細かったのだろうな

心中お察ししますよ、導師様」


……


…………


………………ぇえ……?


何故そんなにも突然に喧嘩腰になる必要があるんだ

ルルムスを説得するとか言ってなかったか?

そんな態度でルルムスの同意が得られると思ってるのか?


(……おま、まさか)


もしかしなくてもセインツヴァイトの町で冒険者パーティと仲間割れしてたのも

今みたいに何かが切っ掛けで頭に血が上ったからとかじゃないだろうな


フリッツの豹変した態度にクラウスは呆れ果てたような目をしているが

ラピス嬢ちゃんは二人の顔色を窺っておろおろしている

ルルムスに至っては少し困ったような苦笑いを浮かべていた

心を読む事が出来る特殊能力、『看破』を持った二人の態度は変わっていないから、そう深刻な状況ではないのだろうが

何も聞こえない俺と嬢ちゃんはハラハラさせられて仕方がない


「あ、あの……お二人とも、喧嘩はしないで下さい」

「心配には及びません

では本人の同意も得られた事ですし、早速契約を行いましょう」

「あ、あの!!ルルムス様!」


そっと椅子を引いて席を立つルルムスに向かって嬢ちゃんが声を上げた

隙間の大きい袖から白い腕を覗かせ

指先まで真っ直ぐに伸ばし美しい挙手を行う

落ち着きのない嬢ちゃんの雰囲気とは正反対に

微笑んだルルムスは椅子に座り直して穏やかな口調で問いかけた


「はい、どうされましたか」

「私も!

私も、ルルムス様の旅に同行させて頂けないでしょうか!

勿論アレグロスティ様と同様の契約を交わします!」


「駄目だ」


ルルムスが口を開く前に俺が声を上げる

振り向いた嬢ちゃんは悲しそうに眉を顰めて「どうしてですか」と呟くが

答えは決まり切ってる


「ルルムスが探している『聖者』ではないからだ」


「それは、アレグロスティさんも同じではありませんか?」


「フリッツや俺は己の身を守れるだけの

経験と技量を備えてる、当然クラウスもだ

だが嬢ちゃんは違う

荒事の時は必然的に誰かが守らなきゃならなくなる」


「私、お役に立てます

掃除も洗濯もできますし、皆さんの身の回りのお世話もできます

治癒導術だって使えます!」


「平常時で役に立てても非常時では足手まといだ

導師の旅では当たり前に人が死ぬ、襲われる事だってある

たった一人で命の危険に晒された時

嬢ちゃんに自分を守れるだけの力はない

それとも何か、自分が窮地に陥った時は

俺たちに助けてもらう事を前提にしているのか

子守なんぞ御免だぞ

他の奴らを危険に晒したくはないからな」


「おい」


その辺にしておけと言いたげにフリッツが声をかけてきた

項垂れた嬢ちゃんは膝の上に置いていた両手を握りしめ

スカートの生地に皺が寄る


「私は、そんな、つもりでは……」

「アッシュ、そこまでにして下さい

ラピス、私たちの役に立ちたいという気持ちはよく分かります

ですが同行を許可する事はできません」

「私が、弱いからですか」

「貴方はまだ若い、あえて危険な道を進む必要はありません」

「……余計な事を言って

お時間を取らせてしまって、すみませんでした」


ルルムスにも許可できないとハッキリ言われたのが堪えたのか

項垂れたまま呟いた嬢ちゃんは、それっきり黙り込んでしまった

落ち込んだ彼女の様子を見ていたクラウスが徐に席を立ち

嬢ちゃんの傍に歩み寄るとそっと頭を撫でる


(嬢ちゃんと仲良くなれたのか)


一緒に行動するよう指示したのは俺だが

竜族であるクラウスが親しい人間関係を構築できていた事に驚いた

人族を敵視するような傾向があったから心配していたが杞憂だったらしい

クラウスを見上げた嬢ちゃんは目に涙を溜めて悔しそうに唇を噛む

俺に背を向けているクラウスがどんな顔をしているかは窺えないでも

女の子の頭を撫でてあげられるほど

気に掛ける事のできる相手ができて良かった

同時にルルムスとフリッツの非難するような視線が俺に突き刺さり

僅かに首を傾げ片眉を軽く上げる程度の返事を返しておいた

そんな俺のリアクションに目を伏せたルルムスは小さくため息を吐き

フリッツは口のへの字に曲げて明後日に視線を投げる


二人とも分かってるんだよな、嬢ちゃんが同行する事の無謀さを。


憎まれ役にならいくらでもなってやる

フリッツみたいに無理に付いてくる事のないよう厳しく言える人間といえば

この中では俺ぐらいしかいないからな


力のない女子供をこんな危険な旅に同行なんてさせられない

山を越えたり魔物と戦ったり、竜に乗って長時間移動したり

そんな日常を嬢ちゃんが耐えられるとは思えん

しかも女の子だぞ?男所帯で色々と厄介な事もあるだろうが

年頃だったら余計に。

兎に角聖女でもない限り同行は許可できない


(この国のどこかにいるであろう聖女も

できれば戦える系聖女だと有難いんだが)


俺の手で足りない部分は規格外のクラウスに手助けを頼めばいい

フリッツが同行する流れにはなりそうだが

しっかり手綱を握っておけば余計なトラブルも防げるだろうしな


(……アイツの性格を考えると一時的にでも

主従関係になっておいた方がいいような気もするな)


俺が言っても聞きそうにない気はするのだが。

改めて席を立つルルムスの行動を見送る

フリッツを連れて退室しようとしている辺り

契約とやらは別室で行うらしい

部屋を出たルルムスに声をかける


「どれぐらいかかる」


「二時間以内には終わる予定です

アッシュも戻ったばかりで疲れているでしょう

今の内に少しでも休んでおいて下さい

ここの者に夕食を用意するよう伝えておきますので

食事が来たら先に食べていて下さいね」


「おう、わかった」


皇族みたくささやかに手を振ったルルムスに

軽く手を振り返し、扉が閉ざされるのを見送る

軋む通路を歩く足音が遠ざかり、別の部屋の扉の開閉音が聞こえると

それ以外の雑音は階下で騒がしくしている子供の声だけになった


さて、ルルムスのご指摘通り疲れも溜まっていることだし

壁際に置かれている長椅子でひと眠りしておくとするか

振り向いたクラウスと目を合わせ

「嬢ちゃんを任せて大丈夫か」と心の中で問いかけると

ひとつ頷きが返ってきたので子供の事は子供に任せておこう

席を立ち、数歩離れた長椅子に体を横たえればギシリと古びた音が響く

当たり前だが寝心地が悪い、だが贅沢は言えないか

魔導袋に枕が収納されているが嬢ちゃんの前で出すワケにもいかんからな

多少の寝心地の悪さは我慢しよう


「あ……」


嬢ちゃんの何か言いたげな声が聞こえたが

組んだ腕を枕に態勢を整え仮眠を取るべく両目を閉じていた俺は

その微かな音をあえて聞き流す事にした

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