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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
71/145

71<聖なる星々の国~真っ当な貴族は出世しない~

「なぁ、どうしても魔国軍に向かうなら俺も」


「断る」


「なんでだよ」


「足手まといだからだ」


「何をもって……いや、言わなくていい」


「性格」


「言わなくていいって言っただろ?!」


フリッツが物凄く情けない顔をしたものだからつい笑ってしまう

このやり取りは二度目

前回と同じ答えを食い気味に答えてやれば

バシャンと水面を弾いたフリッツがその場で湯に沈み込んだ


場所は大浴場

見渡せば数名の領民が入浴している、思った以上に人数が少ない

こんなデカい風呂は庶民には縁遠いものだからな

他人に裸を見られる事に対する抵抗も強いのだろう

一人一人が相当距離を開けて体を温めていた

声が響くような構造ではないため

話しをしても大声でなければ聞き耳を立てられることは無いだろう

なんて浴場に入った時は思ったが、用意のいいフリッツが当たり前みたいに懐から盗聴防止の魔導具に導力を流して起動させていた

俺とフリッツを挟んだ背後の縁にはその魔導具が置かれている


暫く音をシャットアウトすべく潜っていたフリッツだったが

息が続かなくなった所で顔を出し、恨めし気に睨みつけてきた


「一人で行っても殺されるのは分かってるだろ

なんだってあんたは毎回毎回”そんな”なんだ」


「って言われてもな

いつだって生存率の高い方に賭けてるつもりだぞ」


「死に急いでるようにしか見えない」


「そりゃあ認識の相違だ」


「俺を連れて行かないって言うなら

どんな手を使ってでも引き渡しを阻止してやるからな」


「フリッツ、俺なんぞにかまけてる場合か?

脱出が成功したからと言って万々歳ってワケじゃねェんだぞ

避難民の居場所を確立するために

隣国との交渉はアレグロスティが担う事になるだろう

五千人規模の難民が一気に隣国へなだれ込むんだ

お前が親父さんを支えてやらなくてどうする」


「親父の補佐ならベスと兄貴とエメラインが居れば大丈夫だ

所管だって何人も居るし、ここへ避難してきた他領の領主と

そこで政に携わってた奴も大勢いる」


「言っておくが

真っ当に領政を布いてる連中の方が珍しいんだぞ」


「貴族と汚職、権力と賄賂がセットなのは十分理解してるよ

そういう状況に出くわす度に

俺には馴染めない世界だとつくづく思わされるけどな」


「このままだとお前の父親が矢面に立たされる可能性は高い

大変な時期の責任を押し付けていざという時に切り捨てるのは

領民を捨てて避難してきた他領主と側近たちだろう

連中は悪事を働く時は忌々しいほどに結託しやがるからな」


「今ここに集まってる他領の領主たちが

親父を裏切るっていうのか?」


「この状況で裏切らないと確信してる奴がいたなら

そいつはとんでもない狂人だな

このままだとアレグロスティ伯爵は”また”裏切られる

アヴァロッティに手を噛まれた時のようにな」


「……」


「分家のアヴァロッティは伯爵を追い落としただけで

その時はこれまでの関係性があったからこそ

あえて命までは取られなかったんじゃないのか?


だがこれから向かう先はなんの縁もない土地

そんな場所で裏切りに遭えば利用価値のない伯爵は今度こそ殺される

難民を大量に密入国させた責任を取らされて

マクシミリアンとエメライン諸共見せしめにされるかもしれない

アレグロスティ家は今度こそお家断絶だ」


「……」


「それでもお前は俺に付いてくるっていうのか?

だとしたら家族に対してあまりにも無責任だ

そんな薄情な男を(とも)にする気はない」


「俺たちを隣国に逃がす提案をしたのも

手段を持ってきたのもあんただろう

それこそ無責任じゃないのか?」


「提案に乗ったのも、手段を受け入れたのもお前たちだろう」


ピチョン、と

毛先から零れ落ちた水滴が水面で音を立てる

じっと見つめてきたフリッツは気まず気に目を伏せた


「悪い、こんな事を言うつもりじゃなかった

生き延びる手段を持って来てくれたあんたは

俺たちにとって、アレグロスティの領民にとって大恩人だ

責めるなんてするべきじゃないのは分かってる」


「お前の目的は俺に同行するかさせるか、なんだろ

いくらでも説得してくれて構わんが、俺が頷く事はないぞ

軍に出向いた後もやる事があるんでな」


「相変わらず忙しいんだな」


フリッツが諦めたような雰囲気で笑う

もう一押しすれば素直に家族と一緒に避難してくれるのではないだろうか


「それに、同行を許可できない理由は

お前の性格以外にもある」


「だから、俺の性格の事は言わなくていいって」


「俺は今冒険者アッシュとして雇われ中でな

依頼者の同意なしにお前の同行を認める訳にはいかないんだ」


「依頼者はどこに居るんだ?」


「エスティール聖国だ」


「はぁ?!

い……いやいやいや、嘘吐くなよ!

聖国までどれだけかかると思ってんだ

俺らと領境で別れてからまだ一か月も経ってないよな?

最低でも片道二週間以上はかかる遠方、」


「翼竜に乗ってきたに決まってんだろ

アレなら片道一日で足りる」


「……」


大口を開けて目をひん剥き絶句するフリッツ

俺だって同じ事言われたらとんでもなく間抜け顔になる自信があるぞ

国二つ跨いだ上に険しい山脈も越えなければならない

陸路で行くとそれはもう日数がかかる

俺だって当初は聖国まで約一か月はかかる行程を組んでたからな


「しゅごぃ……」


フリッツ、語彙が死んでるぞ


今のは多分、「凄い」って言いたかったんだろう

全身が震えているだけでなく舌が回っていない上に声まで弱弱しい

まるで初めて翼竜の巣窟に足を踏み入れた時の俺みたいな様相だ

徐に勢いよく湯を顔にかけ始めた行動もなんとなく分かる

何度かその動作を繰り返して一息ついたフリッツは

先ほどの怯えきった表情を完全に洗い流す事に成功したらしく

前髪から水を滴らせ、キリッとした真面目な表情で尋ねてきた


「で、依頼人は聖国で待機中か」


「おう、クライアントが今回の俺の一時的な単独行動を許してくれたんだ」


「つまりあんたは、遠く安全な場所に居ながら

わざわざ俺たちを助ける為に

こんな危ない場所に来てくれたって事だな?」


「は?……いや、それは」


「違うって言うのか?

じゃあなんでわざわざ一日もかけて

翼竜に乗ってまで絶体絶命の俺たちを助ける手段を持って来たんだ

アレグロの町が一時的に地竜の住処になる件も

前もって予定してた風じゃなかっただろ」


「どうだっていいだろ、その件は」


「どうでもいいわけない」


今になって俺がここへ来た理由を尋ねられるとは思わなかった

え?改めて言うべきなのか?今更?

お前が心配だったから様子見がてら助けに来ましたって?


(言えるか!恥ずかしいわ!!)


一番の動機は友人の安否だったがそれ以外にも真っ当な理由はある

答えに窮する事ではないが、償いとか罪滅ぼしとか

自分からはあまり言いたくない


あからさまに「自分償ってます」みたいなポーズは

被害者側からしたら目障りでしかないからな


「当時のアレグロスティ領の反乱に関わったからな

贖罪の意味も兼ねて助けになれる事はないかと思って来てみただけだ」


「……理由はそれだけか」


「ああ」


「そうか、分かった」


俺から目を逸らし、前に向き直ったフリッツの目は

異様なまでに力が(みなぎ)っているように見えた






*****






「ゴンドラは数が足りないので

往復で翼竜に運んでもらう事で間に合わせます」


「それでは物資が運べないではないか!

我々に避難先で野宿をしろというのか貴様!」


「荷物など二の次だろう!今がどういう状況かお分かりか?!」


「何ィ!?貴様っ

誰に向かってそのような口を……っ」


「往復させずとも領民を選別すればいいではありませんか

怪我人や持病を持つ者、介護を必要としている者は

避難先でも荷物にしかならない

足手まといまで避難させては隣国での私たちの立場も弱くなってしまいます」


「確かに、五千人規模の民が一度に避難してきたと分かれば混乱は必須

ヘタすれば侵略と思われかねない」


「それは我々が上の者と交渉し結果を出さねばならない事

物資如きの為に避難者を間引くなど到底受け入れられません」


「避難先は我らの国ではないのだぞ?!

侵入者扱いでもされればあちらでも虐殺されかねない!

なんとしても物資は必要だ!」


「領民の選別はすべきだと思います

今のままでは無事避難を終えても民をまとめることはできません

彼らは訓練された兵士ではないのですから」


(ぇえ……なんだこれ)


目の前で繰り広げられる醜いやり取りに顔を顰める

日も暮れてあと数時間で本格的な避難が始まるというのに

伯爵が一向に姿を見せない事を不審に思った俺は

フリッツと共に風呂に入り、身支度を終えて例の円卓の間へと向かった

扉を開けた先で行われていたやりとりは先ほどの通り


会議室の混迷ぶりの、なんと情けない事か。


領民への説明と指導、避難の流れについては

つい先ほど準備が整ったと報告が入った

アレグロスティの次男、マクシミリアンが見事に周知徹底してのけたのだ

服装や避難移動中の姿勢、避難後の行動についても

全員にくまなく指導し終えているらしい


(スゲェな、避難後の当面の行動まで指示を出したのか)


自信たっぷりに胸を張って言ってのけた兵士の様子から

それはそれは丁寧に指導が行われたのだろう

マニュアルでも作って渡したのだろうかと思っていたら正にその通りだった

マクシミリアンは実に効率的な手法で

たった一日で空路を利用した避難の前準備を終えてしまったのだ


先ず、俺から事細かに移動中の状況と危険性を聞いた後

マクシミリアンなりに吟味し、様々な可能性を考慮しつつ

各隊の隊長、副隊長、隊長補佐を集めた場で

全員に一言一句漏らさずメモを取らせ

理解した隊長たちから各隊員にも同じように説明しつつメモを取らせる


その後は分館各階に配して避難者へ説明

文字が書ける者には同じく一言一句違わずメモを取らせた

翼竜で空路を利用する点についてはやはり動揺があったそうだが

隊長から事細かに説明を受けていた兵士による行き届いた指導のお陰で

大袈裟な混乱はなかったらしい


マクシミリアンのお陰で領民の避難準備は万端だ

俺の方でも翼竜の手配は完璧なのだが

どうやら人間のお偉いさんだけは万全でも完璧でもないらしい


「なにやってんだこいつら」


呆れからボヤきの一つだって零れるというのもだ

話し込んでいる人間は他領の領主は勿論それぞれの近衛や騎士の姿まである

隣りで同じく会議室内の様子を理解したフリッツも苦々しい表情をしていた

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