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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
67/145

67<聖なる星々の国~阿鼻叫喚の中での避難誘導~

『 地竜 』


山村での人的被害をよく耳にする、ギルドでも討伐依頼が多い魔物

人間相手に戦い慣れしてる個体が多く

妙な能力を身に付けている地竜も居る

俺の傍にいる小型地竜もその内の一匹だ

完全に地面と同化して並の冒険者でも見抜けない隠密能力を持っている

力を身に付けるほど多くの戦いを生き抜いてきたのだろう

クラウスによって厳選された翼竜も急きょ呼び集められた地竜も

擬人化したら筋骨隆々な歴戦の勇者たちというワケだ

体中に傷跡のある屈強で強面な装甲分厚いアニキ軍団を想像してみる


(……)


勝てる気がしない


そもそも竜族ってのは大抵が高難度討伐対象だ

一対一では先ず倒せない、討伐を試みる方が間違ってる

そんな物騒で危険極まりない生き物をお供に

阿鼻叫喚渦巻く都市内を駆ける俺は

魔国兵から逃げている領民を見つけて走る足を速めた


「町人発見!」


生き生きしてるなぁ、とかいうツッコミはなしだ

非常事態の最中こんなにも元気でいられるのは

小型で隠密性の高い地竜が一緒に居るからというのもあるが

なにより行動だけでも勢い付いておかないと

腰が引きそうになってしまうから、という理由が大きい

だからといってビビリな訳ではない

怖いものを人並みに怖がれる平均的な感覚の持ち主なだけだ

人殺しが横行してる現場で普段通り冷静に行動できる奴の方が珍しいわ


見渡せば死体が転がってるんだぞ?

悪党のアシュランでもお目にかかった事のない地獄絵図だ

この町の行き着く光景はおそらくセインツヴァイトの町と同じ

火に巻かれ死体の山が築かれ建物は破壊しつくされ

最後には人の住めない土地になる

俺のお仕事はというと、町がそんな最期を迎えない為に

一人でも多くの魔国兵を退け領民を救出する事


……の、筈だったのだが

なにがどうしてこうなったのか、とんだ拍子抜けである

なにが拍子抜けって、都市部に侵入して随分走り回っているのに未だに魔国兵と戦闘になっていないからだ

てっきり乱戦になるかと思っていたのだが、兵士を見つける度に竜族が「俺たちに任せろ」と言わんばかりに全部引き受けてくれてしまっている

結果、竜と魔国兵の戦闘に巻き込まれぬよう

領民を誘導するだけの役割をこなしている俺……


おかしいな、俺がやろうとしてた事はもっとこう

スタントマンも真っ青の手に汗握る役どころだった筈なのだが?

俺がわざわざ誘導しなくても

領民の殆どが伯爵邸を避難所と定めて向かっているし……


誰にでもできる、なんら特別ではない、むしろ必要なのか?と

疑問を抱かざるを得ない単純作業にも関わらず

竜が味方しているという内情を知らない一般ピープルからすれば

襲い来る魔国兵をぱっくんちょしてブオンブオンと振り回す小型の地竜(だがしかし人間より大きい)という正に地獄な光景の中その荒波を華麗に乗り越え死地へと飛び込んできた俺の行動は滅茶苦茶英雄染みて見えているらしく

戦闘範囲から助け出した人の殆どが目をキラキラさせて感謝の言葉を口にしながら俺を見てくるものだから内心で平謝りしまくる羽目になった


なんちゃってヒーローで本当に申し訳ない



(俺、いらないのでは?)



ふ、とその疑問が頭に浮かぶと同時に見返り美人な心臓(※25話中盤参照)が致命的な一撃を受ける。やめてくれ、自己否定は元悪党の俺にとって甘んじて受け入れざるを得ない最大の弱点なんだ

しかし疑問から浮かんだ説得材料が容赦なく俺に畳み掛けてきた


むしろ非常事態にかこつけて人様に恩を売りさばいているのでは?


実際、確約された安全の上に胡坐をかきつつ「助けに来ました!」

みたいな恩着せがましい立ち振る舞いをしているよな?


おいアシュラン、満面の笑みを止めろ

ノーリスクハイリターンの企みを今すぐ止めろ


結論、俺はいらなかった。


うっかり遠い目になってしまう

現実とは、正論と同じくいつだって痛みを伴うものだ


……。


”無かった”ことにしよう、そうしよう


悲しい結論に行き着いたことにより俺にとっては十八番とも言える証拠隠滅能力がフルスロットルで稼働し始める

人を誘導するという点において目立つことは悪い事ではない

真っ黒から真っ白の外套に変えてアーミーマニアも垂涎ものの防毒マスクで隙間なく顔面を覆い、いっそのことヒーロー然としたコテッコテの立ち振る舞いを心掛けた

今ここに立っている男は『名も無きお助けマン』だ

そして誰にも正体を知られる事無くここでの役割を終えたら姿を消す

これなら助けられた人たちも存在しない架空の人物に感謝するだけなのでなんの問題も無い、俺も前線詐欺の恩恵を受けずに済む

有り合わせなのでトータルコーデは当然マイナス、とてもダサい

幼い子供がいる場ではマントの翻し方だけでも、と

身振り手振りを交えて出来る限り格好良くキメておいた


参考は古典的なヒーロー像だが、鉄板でお約束な要素に外れはあるまい

こんなにも非日常的な事態だもんな、居合わせた子供だけでも

能天気にヒーローの登場でキャッキャしてくれればいい


セインツヴァイト領の隣だし、アシュランの悪名も

ここの領民に広がってる可能性が高いからな

避難者も悪党に助けられるより

名も無きヒーローに助けられた方がいいだろう

ここでヘタにアシュランを名乗り、居場所を知られて魔導師(セラヴ:リメオン)以上の実力を持つであろうヤベェ双子に強襲されるワケにもいかない

ただでさえ竜族が統率して領民を助けているという異常行動を取っているんだから

諸々の事情を踏まえて正体を隠すのは必須だろう


うむ、我ながら完璧な作戦だ


(ここにルルムスが居たら既に一撃受けてる心臓に

ナイフのような言葉で容赦なくトドメ刺しにくるんだろうなぁ)


ルルムスの不愛想な顔を思い出して肩を落とす

まだ別行動取り始めて三日と経っていないのに微妙に淋しい

空での丸一日ぼっち飛行が思いの外メンタルに堪えているようだ


避難誘導が終わったらフリッツの安否確認と

都市内に居る生存者全員の移動案をベスカトーレ卿に提案しに行こう

ここに来た目的だって元を正せばフリッツが心配だったからだ

アヴァロッティ領への同行を求められた時も

『一緒に戦ってくれ』ってお願いされたからな

大っぴらに公爵家の威光を使う事はできないが

それ以外で協力できることがあれば手伝おう


誘導した人数も数えきれなくなった頃合いで魔国兵が撤退し始めた

本陣が地竜に踏み荒らされているという情報が伝わったらしい

魔国軍側は動揺しまくっているだろうな


本来は味方になる筈の魔物たちが牙を剥いてきたのだから

ここで起こった不可解な竜族の動きはすぐにでも魔王の耳に入るだろう

魔王本人が出張ってくる前に竜族を即解散させて

領民全員を連れて逃げ出さなければならない


それから更に一時間が経ち

避難者の姿も念入りに探さなければ見つけられないほど少なくなってきた

魔国兵も軒並み都市内から退いていったようだ

翼竜と地竜には警戒の為このまま暫く町の至る所に潜んでおいてもらおう

大っぴらに魔国軍と敵対するような図式でもいいのだが変に姿を見せて遠距離攻撃系導術の的にされたら流石の地竜も傷ついてしまう


「そろそろ俺も伯爵邸に向かうか」


最後に静まり返った建物に声をかけながら都市内をひと回りして

残った避難者に邸へ向かうよう指示をし終えて人気のない路地裏に入ると身に付けている防具を全て外し魔導袋へ詰め込む

髪に入り込んだ土埃を両手でわっしわっしと払い

無造作ヘアーというよりまんまボサボサの髪型になってしまったが

領民を装うには丁度良いだろう

最後にゆるっとコーデの汚れも適当に払い落とすが

地竜が巻き上げた土埃に巻かれた所為で

払った程度では落ちないほど全身が汚れきっていた

ルルムスの浄化導術が恋しい

汚れは現時点でどうする事も出来ないので目を瞑るとして

どこからどう見ても人畜無害な丸腰のオッサンになった所で

肩に乗っていた小竜には一時的にその場から離れてもらう事にした

避難所に行くのに、ちっこいとはいえ竜は連れて行けそうにないからな


ほどなくして伯爵邸に辿り着き

見た目のお陰で俺の事を避難民と判断した門兵に促され

伯爵邸敷地内へと足を踏み入れる

都市一つ分の領民が集まっているのだから物凄い人数を想定していたが

外に居る人は思ったほどではなかった


(救出が遅すぎたか)


現着した時点で既に街中に魔国兵が入り込んでいたから

死亡者の方が多いのかもしれない

避難者を探す過程で領民の遺体がそこら中に転がっているのを見たが

それでもざっと見渡した避難者の人数が少なすぎる

被害が甚大であった事実を目の当たりにして表情を歪め

暫しその場で立ち尽くしていると門兵が歩み寄ってきた


「怪我をしているなら講堂へ向かいなさい

治癒師と治療師が待機してる」


「講堂……」


言われて思い出す

上空から見た時に伯爵邸の敷地内に大きい建物がいくつか見えていた

避難者は講堂とやらに集められているのだろう

ならこの場の人数が少ないのも頷ける


声をかけたにも関わらず、心ここに在らずな態度でぼんやりとした返事しかできない俺の事を『憔悴している』と判断したのだろう兵士が気遣うように眉を顰めて声色を穏やかなものへと変えた


「既に第四分館までは人数が満杯だから

第五分館に向かうといい、案内は必要か?」


「いえ、方角だけで」


「それならあっちだ、突き当りを左に曲がりなさい

正面に見える大きな建物が第五分館だ」


「ありがとう、助かるよ」


「君もよくここまで辿り着いたな

暫くは安全だろう、ゆっくり休むといい」


兵士自身も疲労を隠しきれていない顔だったが

それでも相手を労わるような笑顔を向けられる

命からがら逃げてきた者たちにとって

今の兵士の言葉は温かく感じられるに違いない


(心根の優しい人なんだな)


セインツヴァイトに派遣された騎士はロクでもない連中ばかりだったが

まともな兵士も残っているようだ

第五分館に向かう俺の背中に他の兵士たちの探るような視線が向けられていると気付いたのは、教えられた方角へ歩き始めてすぐの事

間者が入り込まないよう一応の警戒がされているのかもしれないな


さて、無事伯爵邸敷地内に入る事は出来たが

ここからどうやってフリッツとベスカトーレ卿に会いに行くか……


いち領民を装っている俺の立場では

そう簡単にアレグロスティの関係者に会わせてはもらえないだろう

友人が心配で、なんていう理由で通してもらえるとも思えない

素直にアシュランと名乗るのも悪手だ

他領だからといって己の悪名を過小評価してはならない

兵士の視界から隠れたらこっそり伯爵邸に向かうか?

幸いにも建物の配置やおおよその間取りは上空から確認済みだ


(よし、最もベターな方法を使ってみよう)


第五分館を正面にした通りに入るとその先は人で溢れかえっていた

なるほど、伯爵邸敷地内に建てられた分館全てを

避難所として開放しているのか

五階建てで規模も大きく相当な人数を収容できそうだ

そこで避難者の対応に追われている兵士に駆け寄り袖を引っ張る

「うわ!」と声を上げて驚いた兵士に向かって

股間を押さえながらさも差し迫っていると言わんばかりの気配を装った


「兵士さん!お手洗いはどこにありますか!」


「あ~、トイレならあっちにあるんだが長蛇の列が出来ててなぁ

その様子だと持ちそうにないか?」


「どっちも出そうなんだ!

やっと避難できて安心したらもう耐えられなくて!」


「デカい方もかよ?!だーもーしょうがない!

おーい!少し抜けるぞ!」


避難者が集まっている方角へ声をかけた男は人垣の向こう側に居るであろう兵士の返事を待たずに「ついて来い」と俺に言う

やや間を置いて「おう、行ってこい」という声が人垣の向こう側から返ってくる慣れたやりとりから察するに

俺のように差し迫った避難者がこれまでにも居たのだろう

こういった場合の対応も既に決められている様子だった

方角的に伯爵邸内の使用人専用であろう手洗い場へ向かい始める


(よっしゃ、目論見通り)


ひと気のない場所へ入り込み

あわよくば伯爵邸に侵入する事には成功したな


「漏れる!漏れる!!」


「あと少しだから我慢してくれよ!

はぁ、全く、本館のトイレも解放してくれりゃあいいのに」


「くぉぉおお~!」


「はいはいトイレはそっちな!そこ入ってすぐの扉だ!」


迫真の演技を続け促されるままに手洗い場と思しき扉を開いて駆け込む

個室に入った所でワザとガタガタ音を立てつつ掃除の行き届いた綺麗なトイレを見下ろすと、貴族が利用するトイレを使うのは実に二十年ぶりである事に気が付いた

懐かしいなぁ貴族階級のトイレ

相変わらず綺麗だし機能的で申し分ない

使用人用だとは思うがそれでもトイレひとつで

庶民との格差を感じるのはどの世界でも共通だな


折角だし、用を足しておくか

非常に快適なお花摘みタイムを経て更にある事に気が付く

庶民が貴族用トイレの使い方を知ってるワケがない

悪戦苦闘する音でも出して時間をかければ問題ないか

と、何度かに分けてガタゴトと音を立てる


俺が考えてる方法でここに集められている避難民全員の避難を一夜で完了させるには、早めにベスカトーレに会って話をしなければならない


(気は進まないが

ここからは一番手っ取り早い方法を使うしかないな)


いざって時はやはり腕っぷしがモノを言う

これから強硬手段を取るにあたって

ゆるい服装の下をガッチガチな装備で固め

袖にナイフを仕込み、最後に身体強化をかけた所で


よォし、準備万端


あとは巧い具合に俺の存在を知っているフリッツか

ベスカトーレを見つけられれば後はどうとでもなる

といっても文章上のやりとりしかしてないからベスカトーレの顔は知らない

ここまで入り込めてるなら後は多少ゴリ押しでもなんとかなるだろう

邸の造りから領主が居そうな大体の場所は見当が付いているので

目ぼしい所まで一直線で向かえば問題ない


完全に見切り発車だ

アシュランだったらこんなハイリスクな行動は絶対に取らない

俺も普段だったら絶対に取らない手段なのだが

如何せん悠長に面会を待てるような時間が無くてだな


……。


なんか、フリッツに関わると大体時間に追われる羽目になってないか?

道案内の為に東奔西走したり

竜の卵の所為で町と森を駆け抜けたり

翼竜の襲撃で別れの挨拶も儘ならない状況に陥ったり


……気のせいか?

気のせいって事にしておくか。


それにしても魔国兵と戦闘するより先に

味方側と戦闘する羽目になるとはなぁ


何食わぬ顔で手洗い場を出て

気の抜けきった顔を見せる事で兵士を油断させる


「遅くなって申し訳ない

普段使ってるのとあまりに勝手が違ったもんで」


「ははっ

ここを使った人たちは皆アンタと同じ事を言ってたよ」


「なんにせよ助かった

死ぬよりもひどい目に遭う所だった」


「全くだ、間にあって良かったよ

じゃあ第五分館へ戻るとするか」


兵士が俺に背を向け歩き始める

”担ぐ”には一番抵抗され難い、丁度良い態勢だ


「ついでにもう一つ頼まれてくれないか」


「トイレを詰まらせたとか言うなら使用人に伝えとくぞ」


笑いながら返す兵士に向け、纏う雰囲気をガラリと変える



「領主の所まで案内してもらおうか」



俺の言葉を受けて、それまで笑っていた兵士の表情から

友好的な気配が一瞬にして消え失せた


すまんな

案内してくれたトコ申し訳ないがちょっとの間人質になってもらうぞ

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