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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
65/145

65<聖なる星々の国~最強装備は浪漫の響き~

エスティール聖国が国ぐるみで聖女捜索の妨害を始めた頃から

ルルムスの行動時間帯は民草が寝静まり警備の数が最も少なくなる深夜以降明け方前に集中していた

アシュランがアヴァロッティ領へと発って丁度一日経った深夜

その日もルルムスは協力者が活動している施設を極秘裏に訪れていた


「これが世界を終わりへ導くとされている『混沌』のひとつですか

見た目はどこにでもありそうな本ですよね」


「ええ

私もまさかこの国に存在していたとは思いもよりませんでした

これも全て教皇様のお力のお陰です」


今日、協力者の呼びかけにより新たに集まってきた二人の神官から尊敬の眼差しを向けられているルルムスの目の前には『本』が置かれている

一見してただの本だが、その周囲には非常に強力な結界陣が施されており

静電気のような音を立てる陣の中心に鎮座する本は

よくよく目を凝らせば小刻みに震えていた

興奮した様子の神官二人の後ろにはもう一人の神官が控えており

冷静な様子でルルムスへ問いかける


「まだ聖女は見つかっておりません

それまでどうなさいますか、教皇様」


「封印しておくしかあるまい

これに内包されている邪気は

聖女にしか(はら)う事は出来ないだろう」


「この混沌の存在を魔国側に(さと)られる前に

なんとしても聖女を見つけ出し

浄化して頂かなくてはなりませんね」


場所は雑多な街中の一角に立つこじんまりとした教会

人目を忍んで宮殿から出て来たルルムスは

ここの所連日で教会の地下へと足を運んでいた


共に場に居るのは教皇直属の部下三名

導師ルルムス属する神殿組織は

名を変え姿を変え世界各国に根を下ろしている

ここ、エスティール聖国では既に信仰上の神殿が存在していた為『教会』と名を変え、建前では孤児院を経営し細々と慈善活動をする団体として存在していた

各国の各主要都市に数名ずつという配置だが

数が少ないだけに選ばれた神官全てが秀でた才能を有している


事実、”彼ら”の動きはルルムスが驚くほどに迅速だ

入国前に居合わせたスピカという女生徒の心を読んだのを切っ掛けに混沌の神器(ケイオス・コード)の存在を察知したルルムスは

入国直後に学園までの案内として接触してきたガイドという名の人物が

完全看破により前教皇の、ひいては現教皇である己の部下であると気付き

とある女生徒の私室から”ある物”を持ち出すよう遠感導術(テレパシー)で密命を与え

一刻も経たない内に実行、達成されるに至った



『 預言顔プロフェイス 』



世界に十二もの存在が確認されている混沌の神器(ケイオス・コード)のひとつ

その正体は本型の魔物だ。

使用者の精神を侵食し悪意を助長する

古の王だけが、預言顔(プロフェイス)が持つ「未来予知」の能力を引き出し

自在に扱う事が出来るという言い伝えがある


長い間使用者であったスピカ・シェアトの魂の情報は

その半分以上が預言顔(プロフェイス)によって汚染されていた

いずれは己が聖女になるのだと信じ込んだ憐れな少女

ルルムスが介入しなければ山でセイリオス・エヴィルを見殺しにしたばかりか預言顔(プロフェイス)の誘導により実の姉すら手にかける未来を辿っていただろう


スピカ・シェアトの手に渡る前は誰が預言顔(プロフェイス)の持ち主であったのか調べるよう神官に指示を飛ばしたのは数日前

シェアトの両親が既に他界している時点で

前回の被害者が誰であるか容易に想像がついていたが

ルルムスは念には念をと調べを進めさせた


預言顔(プロフェイス)は結界で封印状態にしているからこそ本の形を保っているが、本性を現せばやはり魔物であり当然傍にいる人間に危害が及ぶ

伝承では、人皮へ変化した表紙に”(おぞ)ましい顔”が浮かび上がり

それを見た人間の顔に食らい付き顔面を喰ってしまうと記されている


その”悍ましい顔”とは

一説では顔面を食われた人の死に顔であるとも伝えられている

ロクでもない伝承だが、記されている内容は事実だとルルムスは考えた

神官たちの調べでシェアト夫妻の死に様が裏付けとなったからだ


陣の中で震えている本に手を翳し、更に結界を追加しておく

瞬く間に組みあがっていく結界陣の見事な(さま)

目を輝かせた神官たちはルルムスへと称賛を送った


「素晴らしい!」

「流石は教皇様

結界の組み上げ速度が他者とは比べ物になりませんね」


混沌の神器(ケイオス・コード)のひとつを確保できたのは

君たちの慎重かつ迅速な行動あってこそだ

素晴らしい働きをしてくれたな、ガイドよ」


名を呼ばれた神官、ガイドは静かに頭を下げた

関所で学園への案内役として姿を見せた時のようなどこか頼りない雰囲気はなく、冷静沈着で隙のない立ち振る舞いをしている

ルルムスの手元を興味津々に覗き込んでいる神官が疑問に声を上げた


「ところで、そこまで封印を厳重にしておく必要があるのですか?

既に導裂陣と封邪、次元結界も重ね掛けしているというのに」

混沌の神器(ケイオス・コード)シリーズに対導力の強力な対抗力(アンチスキル)が付加されている情報は常識だろう

この封邪結界も教皇様の類稀な導力だからこそ作用しているのだ

聖典を読み直せ馬鹿者が」

「も、申し訳ありません」

「教皇様、ご報告の続きですが

お連れの方についてお伝えすべきことが」


表情ひとつ変えず預言顔(プロフェイス)を見下ろしていたルルムスは

話し辛そうな口調で切り出したガイドの言葉を受けて即座に視線を転じた

それまでどの話題になってもリアクションを見せなかったルルムスの唐突に機敏になった反応を前に、目が合ったガイドは反射的に背筋を正す

それにつられて場に居た他の神官二人も背筋を伸ばした


「魔国に潜入している神官からの情報です

お連れの方……アシュランという男は

魔王配下の者どもにお命を狙われているようで

見つけ次第王城に連行するようにと言う指令が出ており

魔国兵の間では『代えの利かぬ最上の贄』と呼ばれているそうです」


「贄、か」


「はい、首都では莫大な懸賞金もかけられておりまして

人相書きがそこら中にバラまかれているそうです」


「手配書の現物は」


「必要でしたら手配いたしますが……

国境封鎖が厳重なので王都から物を持ち出すには

相当の時間がかかるかと」


「最上の贄と呼ばれている理由は?

贄の具体的な役割は解っているのか」


「そこまでは、まだ」


「どのような理由があるにせよ

そのような大層な呼ばれ方をしているというのなら

アシュランがあちらの手に落ちても我々にとっていい事はないだろう

彼については保護を名目に私の役目に同行させる」


同行させる、という言葉に神官たちの表情が曇る

そこには心配と隠し切れない不満が浮かんでいた


「セインツヴァイトでは悪名高い男であったと聞いております

教皇様を裏切るようなことがあるのでは」


公爵領の情報を知っている神官の懸念は当然のことであったが

ルルムスは安心させるよう笑みを浮かべる


「案ずるな

裏切りの気配があれば見逃すことは無い

魔王が立ったという情報について、その後の進展は」


「それについては()()()()


言葉の意味を理解したルルムスは驚き、僅かに目を見開いた


「成す術も無かったというのか」


「はい、報告によりますと

魔国側から魔王が君臨したという表明が出されて以降

王宮を取り囲む一帯が人外の領域と化し

部外者の入城規制が徹底されている為潜入すらできぬ有様で」


「王都中心部が魔物に支配されていると?」


「いえ、魔物の姿はまだ確認されておりません

その手の知識に詳しい者の話によれば王宮を包む形で次元導術、もしくは空間導術による結界が布かれている可能性があるかもしれないと……

しかし、人為的導術であると仮定した場合

布かれている結界の規模そのものが

個人が持つ導力限界を大幅に超えており

しかも長期間に渡ってその領域を維持している様子から

例え聖者のお一人である『賢者』様のお力を用いても

実現不可能だという見解が出ております」


「私が公爵領へ出向いた時期に

城内で第一種導力機(エルダー・ローク)の建設が行われていただろう

それを用いても不可能だというのか」


「はい、設計責任者は既に保護しており話を聞いたそうですが

そもそもが結界導術に作用する設計ではないと主張しております」


「人為的ではありえない強度の結界が張られている

導力機を使ったわけでもない……という事は

『魔法』で構成されている可能性があるな」


「魔法、ですか?

教皇様は神話でしか存在しない力を信じておられるのですか」


「おかしな事を言う

古の王も元を正せば神話上の存在ではないか」


「ですが、古の王……魔王に関しては

千年前の前例がありますから」


「魔物の肉には人体に害を及ぼす『魔素』が含まれている

魔素、という名称は我ら神殿組織の中でのみ使われている専門用語で

世間一般では”毒”と同じ扱いをされているが、それ自体がもしかしたら『魔法』が存在した証明になるかもしれんのだぞ」


「魔物の生態について研究している神官は多数おりますが

そういった研究成果はまだ出ておりません

しかし教皇様のお考えが証明されれば

我ら人類は新たな力を手に入れられるという事になりましょう」


「……話が脱線したな

いずれにせよ時が来ればその人外領域も突破せねばならん

引き続き研究と監視を続けるよう伝えておけ


結局、魔王の姿は誰も確認できなかったという事か」


「はい、誠に遺憾ではありますが」


「やはり、な」


「と、申されますと?」


「魔王が立ったという情報はブラフだ

魔国に古の王はいない、魔物の姿が見えないのはその証明と言える」


「果たしてそうでしょうか?第一の兆候以降

世界各国では魔物の出現が頻発しております」


「だが組織だった動きではない、まだ『獣』の段階だ」


間髪入れずに返したルルムスの言葉に神官たちは酷く狼狽した

紡ぐ声に動揺が走る


「ま、魔王が立てば、魔物は獣ではなくなるとお考えですか」

「まさか、世界中に存在する魔物全てが

統率された軍隊になると……?なんと怖ろしい

それこそ世界の終わりではありませんか」


(竜族の一部ではあるが、彼らの言ってる通りの出来事が

アヴァロッティ伯爵領で起ころうとしているからな)


ルルムスは内心で呟く

力が増したクラウスは既に竜族全体の統率ができるようになってしまった

この事実を踏まえたルルムスは「おそらくそれ以外の王の配下も」と

最悪の未来しか想像する事が出来ないでいる


古の王の配下は全部で十二人と言われている

図らずもこの世界に存在する人族以外の主だった種族は十二種

伝承に記されている終末の黙示録も十二節


これが偶然である筈がない


アシュランが古の王本人である事は

ルルムスとクラウスのみが知っている真実だ

例え同じ組織の人間相手であろうと

これほどに重要な情報を漏らす事はできない


『代えの利かぬ最上の贄』ともなればアシュランが人身供物である事は明白で、連中の手に落ちる事は確実な死を意味している

古の王なのに贄、という魂の情報は不可解だが

向こうも狙っていると分かった以上、益々手放すわけにはいかない

離れて行動している現状に言いようのない不安が込み上げてくる

ルルムスは自らの気を落ち着ける為に目を伏せ深く息を吐くと

さっさとアヴァロッティの戦闘を終わらせて無事に帰って来い、と強く念じた


「古の王は言うなれば全ての魔物の統率者だ

本当に玉座に君臨したならばその時点で

世界中で魔物による人間への蹂躙が開始されているだろう」


「想像するだけで地獄ですね」

「では、魔王は今どこに」


「このまま古の王不在で幕を下ろしてもらえれば

こちらも苦労はないのだがな」


「仰る通りです

こうして混沌の神器(ケイオス・コード)のひとつを確保できたのと同じように

魔王の事も力を付ける前に我々の方で先に見つけ出して

独自に対処できればよいのですが」

「そんなにもうまい話が実現できればどれほど楽な事か」

「終末への備えが全て杞憂に終わる事こそがなにより望ましいですからね」

「ふふ」

「はは」


「……」


魔物を統率、のくだりで不安を煽られたのだろう

神官たちは珍しくルルムスが共に居る場で軽口を叩いた

小さく笑い合いながらも憂いを隠し切れない神官の言葉に

あさっての方角に顔を背けたルルムスの目が人知れず泳ぐ


(絶対に、知られる訳にはいかないな)


『 力を付ける前の魔王を見つけて独自に対処 』

ルルムスが現在進行形で行っている極秘案件であった




夜が明けきる前に教会地下での用事を済ませ

朝日が完全に顔を出し宮中の者が忙しく行動し始める時間帯

何食わぬ顔で宮殿へと戻ったルルムスを出迎えたのは

騒々しいトラブルであった


「返してよ!私の『本』を返して!!」

「止めろ、スピカ!」


ラピスの部屋の前の通路に人だかりができている

クラウスがその背に庇っているのはラピス

そこへ食って掛かるスピカを押し留めるセイリオス

周囲には数名の衛兵が対処し兼ねている様子で立っており

衛兵の中にはタウィスの一人、アヴィオール・セイフの姿もある

声高に叫ばれている内容で、ある程度の経緯を察したルルムスは

冷淡な表情を浮かべ騒動の渦中へと足を踏み入れた


「騒々しいですね

皆さんお揃いでどうされたのですか」


「ルルムス様

お騒がせして申し訳ありません」


ルルムスの介入に顔を上げたラピスが困り顔で答える

振り返ったスピカの人相はまるで別人のように荒れ果てていた

預言顔(プロフェイス)による魂の浸食が

学園の退学処分を期に表面化したのだろう


「導師様!あの卑しい姉に裁きを!

私の大切な『本』を盗み、陥れたのです!!」


スピカの言う『本』とは

神官ガイドに彼女の部屋から取って来るよう命じた混沌の神器(ケイオス・コード)のひとつ、『預言顔(プロフェイス)』の事だ

既に魂を汚染されている少女に内情を話せば

すぐにでも周囲に広まってしまうのは明らか。

預言顔(プロフェイス)の存在は公にはできない、故に彼女の手元から無くなった本に関しては極力触れないよう努めなければならなかった

かといってここで彼女を突き放せば魂の汚染は更に進行し、後に聖女が見つかり汚染を払拭できたとしても心に深刻な後遺症が残る

厄介なトラブルが舞い込むことも目に見えている


(どうしたものか)


一番穏便なのはスピカの希望に沿う事だ

ただでさえ導力喪失により学園を退学処分になって

市井(しせい)で細々と暮らす日常へと身を置く事になったのだ

学園退学の根回しをしたのはルルムスとその部下だが

これ以上彼女を追い詰めるのは得策ではない


「エヴィルさん、応接室に彼女を案内して頂けますか

なるべく気持ちが落ち着くように気遣って差し上げて下さい」


「えっ……いえ、ですが自分は」


ちら、とクラウスの背に守られているラピスに視線を送ったセイリオスはすぐに何かを探すように周囲に視線を巡らせ、アヴィオールに目を留める


「そうだ、アヴィオール

彼女の案内を君に」

「いや!セイ!傍に居て!」

「……スピカ」


それまで後ろから押さえていたセイリオスが他の者に彼女を託そうとした途端

踵を返したスピカがセイリオスへ抱き着いた

意地でも離れてなるものかという執念が感じられる


(修羅場ですね)


これまでの些細なやりとりでも察していたが

セイリオスの想い人はラピス・シェアトだ

後にアシュランから得た情報で彼らの関係性が相当ねじれこじれなのが分かり、触れないでおこうと早々に結論を出したのは記憶に新しい


「セイリオス、妹をお願い」

「ラピス……」


想い人からも促され苦悶の表情を浮かべたセイリオスは

渋々といった雰囲気でスピカを別室へと案内し始めた

場に居た衛兵全員も互いにアイコンタクトを取り

警備と監視のためであろう、セイリオスの後に付いていく

場に残ったルルムスとクラウス、ラピスは

とりあえず部屋に入って落ち着く事にした


「あの、お茶入れますね」


ソファーに向かい合って座った二人の行動を見届けながら簡易キッチンへと向かったラピスがほどなくしてトレーにマグを三つ乗せて戻り

クラウスから少し離れた隣へと腰を下ろす


「どうぞ、熱いので気を付けて下さい」


「ありがとうございますラピス

さて、一体何があってあのような騒ぎになったのですか」


「あの、それが……」


出された茶を一口飲んで落ち着いた所で本題を切り出し

ラピスが順を追って説明を始めると同時にクラウスが勢いよく立ち上がった


「ずるい!アシュはズルい!!卑怯だ!!」


普段は口数も少なくクールな立ち振る舞いをしていた隣人の突然の豹変にルルムスとラピスは目を丸くしてクラウスを見上げる

時を同じくしてアヴァロの町に潜入を果たしたアシュランが

クラウスと目と耳を繋げている小竜に向かって

約束事のネタばらしをした瞬間だった

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