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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
63/145

63<聖なる星々の国~預言書の喪失とヒロインの退場~

「もっと早く伝えられれば良かったのに

こんなに遅くなってごめんね

十日ぶりかしら、今日は差し入れを持って来てくれたの?」


「……ここに移り住んでたなんて『全然知らなかった』から

塔の部屋に置いてきたんだけど」


皮肉を込めて言ってるんだけど

ぽやっとしてるこの姉は、多分気付かないでしょうね

ほんとムカつく


「ありがとう、後で取りに行くね」


ほら、やっぱり気付かない


「今はご覧の通りの生活をさせてもらえてるから

今度から差し入れはしなくても大丈夫よ

心配をかける要素がひとつでも減らせる事ができて嬉しい」


嬉しいって、そんなのあんたの努力でもなんでもないじゃない

この環境に身を置けたのもあんたの努力じゃなくて

そこにいる二人のお陰なんでしょ?

結局誰かの手を(わずら)わせて助けてもらってんだから

あんたが嬉しがれる立場じゃないじゃん

何が「差し入れはいらない」よ、厚かましい態度しちゃって


「そう……本当に快適な生活ができてるのね」


「うん!アシュラン様のお陰なの、私の命の恩人よ

今はいらっしゃらないけれど、とても優しくて格好良い人なの

スピカにも紹介したいわ!」


頬を赤らめ、いつになく興奮した様子で語り始めた姉の様子にピンときた


「そのアシュランって人、好きになっちゃった?」


「……え?」


「だってラピス、恋する乙女みたいな顔してるんだもの」


「……え、え、ええ!?」


「自覚なかったの?

そんなに嬉しそうにして顔も真っ赤にしちゃってるのに」


「こっここ こここ ここ恋!?わっわっ私がアシュラン様に!?

そ、そんな……そんな……そんなわけないわ!ないわ!」


首から上が真っ赤

私の指摘に両頬を手で押さえて無意味な動きを繰り返してる

その反応、見るからに恋してる確定じゃない

導師様やクラウスという美男子を差し置いて惚れるなんて

アシュランって人どんだけ顔がいいのよ?

そういえば山で助けてもらった時にもう一人居たわね

黒尽くめコートで顔の下半分隠れてたからよく覚えてないけど

セイリオスは確か見た目で冒険者って判断してたような


「もしかしてその人、冒険者?」


「うん、ルルムス様の護衛任務で付いてきたんですって」


うわぁ、よりにもよって冒険者に恋しちゃったの?

導師に恋するなら分かるけど、冒険者は理解し難いわ

だって、冒険者って基本的に貧困層が日銭を稼ぐ為だけに

()むに已まれずなるような底辺の職業でしょ?

そんな仕事に就いてる人に恋するとか

幸せになれる可能性ゼロじゃない


でもそれって私にとっては都合良いかも

導師と一緒に他国からやってきたんでしょ?

その冒険者と結ばれればこの国から退場してもらえるし

姉が邪魔になってる今の状況では大歓迎な展開じゃない

聖国の外の出来事は『本』に描かれていた物語の範囲外だし

何が起こっても私には関係ない事なんだから


……良かったぁ~

最悪姉が邪魔になったら殺さなきゃならないかなって思ってたから

好きな男を追いかけて出ていくなら私の良心も痛まないし

よそで勝手に幸せになってくれればいいわ


ベッド脇に隣り合って座って話をしている最中

私は更にラピスへと身を摺り寄せて肩をぴったりくっつけ声を潜ませる


「ねぇ、アシュランさまってどんな人?」


「う、うん……あのね、言葉遣いは怖いんだけど」


ほうほう、俺様系なのかな


「時々、無意識だと思うんだけど見せてくれる仕草が可愛くて

それでね、いざって時はすごく頼りになってとても強いの」


なるほど、違いすぎる印象にキュンってときめくヤツかしら


「抱き上げられた時はびっくりしちゃったけど

あの人の腕に包まれた時、すごくホっとしたの

それにひと一人抱え上げてびくともしないのよ

冒険者なんて危ないお仕事をしているし、普段から体を鍛えているのね」


抱き上げられたって、それヒロインの王道展開じゃない

もう完全にできあがってるんじゃないの?

というかもしかして……


「もうキスとかしちゃった?」


「きっ キスぅ!!!??しないわ!してないわよ!

もう!スピカ!なんて事を言うの!?もう!もう!!」


なぁんだ、まだくっついてないのね

キスまでしてたらその人とのエンディングは確実だと思ったんだけど

そうなるとやっぱりあそこに居る二人ともまだ可能性はあるって事か


傍にあった小さいクッションを手に

ぱふぱふと私の足にぶつけてくるラピスはまんざらでもない様子

これは完全にアシュランって人に落ちてるわね

導師とクラウスも誑かしてるのかなって思ったけど

そのアシュランって人一筋なら、まぁ……許してやらない事も無い


何しろ相手は貧乏暇なしの冒険者


やっぱり同病相哀れむってヤツなのかな

愛は育めても苦労する毎日を送るのは避けられないでしょ

『本』の中ではとっくに死んでた存在なだけにここまでずっと役立たずではあったけど、一応私の姉だもの

その辺の冒険者と愛の逃避行なんて分相応の退場の仕方だと思う


私があの時に聖女覚醒さえしてれば

ラピスの恋も文句なしに応援できたんだけどなぁ

この状況でコイツが聖女なんかになったら最悪じゃん

さっさとこの国を出て行ってくれることを願うばかりだわ


「キスしたいんでしょ?」


「もう……!やだわスピカったら、なんて事を言うの」


「だって、好きって事はそういうコトだもの」


「ぅ、うん」


「ほぉらやっぱり」


「でも、でもね……きっと私は子供にしか見られてないと思うの

私じゃアシュラン様に釣り合わないわ」


「どういうこと?結構年上とか?」


「多分……ハッキリとは聞いていないけれど

ルルムス様よりも年上の方だと思うわ、だから」


うわぁ、冒険者な上オッサンとかラピスってば趣味悪ぅ!

実は暴力振るう変態クソ親父とかだったらいい気味だわ

どうぞどうぞ、勝手に幸せになっちゃって下さいな


「歳の差なんて関係ない、好きならその人だけを見つめなきゃ

私は姉さんの恋を応援するわ」


「ありがとうスピカ、いい妹を持てて私は幸せね」


そのままアシュランってオッサンを追いかけて

国を出て行ってくれるなら願ったり叶ったりよ

で、大体話が分かった所で早速甘えてみようかな~!


「姉さん、私もここに住めないかな

結構広いじゃない?もう一人増えてもなんの問題もないでしょ?」


「うん、それができるなら私も嬉しいけれど……難しいと思うわ

私がここに移れたのだって

アシュラン様がクラウス様にそうするようにと仰ったからだし」


「え?どういう意味?」


「えぇと、クラウス様は今タウィスだから

ステラ様にある程度口利きができるらしくて、それで」


「待って、導師様が介入したんじゃないの?」


「ルルムス様は

私がここに住めるようになった件になんの関係も無いわ

今日ここに来て下さったのは

クラウス様の教育方針がどうとかいう話で」


ええ~!

そういう理由じゃ導師様にお願いして

ここに住まわせてもらう事できないじゃん!

……はぁ~やっぱ使えないわこの姉


「じゃあ、ラピスがここで暮らせるようになったのは

その冒険者がタウィスにそうしろって命令して

それでイプシロネが許可を出したの?」


「命令と言うか、うん……そんな感じじゃないかな」


「たかが冒険者が?そのオッサン何者?」


「お、おっさんじゃないわ

アシュラン様よ」


「呼び方なんかどうでもいいわよ!

っていうかあの男子とオッサンってどういう関係?!」


「おっさんじゃないって言ってるのに!

それに、どうって言われても……えっと、えっと」


私の声がデカすぎるのか、薄いカーテンの向こうから

二人の男子の目がこちらへ向いているが気にしてる場合じゃない

だってただの冒険者がタウィスにステラへの口利きを頼んで

あろうことかそれを許可させちゃったのよ?!

超我が儘で傍若無人なイプシロネに言う事聞かせるとか

一体何をしたらそんな事が可能なのよ!


「クラウス様はアシュラン様の事をとても慕っているの

今日から数日遠出なさるとかで暫く会えないと言われて

尋常でないくらい落ち込むほどで……だから」


「だから?」


「親子……」


「おやこォ!?あんたあんな歳の息子がいるオッサンに

恋なんかしちゃったワケ!?」


「やだスピカ!声が大きいわ!

聞こえたらどうするの!」


もう丸聞こえだと思うわよ

あんたの話だし別に隠してやる義理はないのよ

むしろ周知させた方が都合がいい

あそこにいる美男子二人がラピスに懸想(けそう)しないとも限らないし

ラピスはおっさん冒険者が好きだって分かっててもらわないと

二人とも~姉は冒険者のおっさんが好きなんだよ~

そういう趣味だから構ってやっても意味ないよ~ってね

ちょっと取り乱しちゃったけど親子の可能性はないわ

肌の色が違うもの、奥さんの血ってこともあり得るけど多分違うでしょ


「親子ってのはラピスの思い込みでしょ

その様子だとハッキリ聞いてないんじゃないの?」


「聞いてはないけど

クラウス様はアシュラン様の事が大好きだから」


はぁ?意味わかんない理由だわ


「大好きってのは恋愛的な意味で?

そうなるとラピスのライバルって事になっちゃうわよ」


「そっそうじゃなくて!

純粋に、親子みたいな感じだと思う……多分……」


「だいぶあやふやじゃない」


「そこまで個人的な事、聞けるような間柄じゃないもの」


「聞けばいいのに

相手だって変な誤解されたくないだろうから

答えてくれるわよ」


「うぅん、でも……」


ああもうじれったいわね

立ち上がった私は薄いカーテンを引くと中央テーブルに向かって歩を進める

後ろで制止するラピスの声が聞こえるけど無視して

教材を開いて勉強を続けていたクラウスと

その傍らに立ってた導師様に声をかけた


「ご挨拶が遅れました

私、ラピスの妹のスピカ・シェアトと言います

ぶしつけですみませんが

お二人はアシュランって人とどういう関係なんですか?」


「ちょっとスピカ!」


「姉さんは黙ってて」


「申し訳ありませんルルムス様クラウス様、あの

無理にお答えいただかなくても構いませんので……!」


私の隣まで駆け寄り慌てて頭を下げる姉に向かって

導師様が優しい微笑みを向ける


「いいえ、その程度の質問でしたらお答えしますよ

彼は私の友人です、今は護衛として同行してもらっているのです

クラウスにとっては保護責任者、といった所でしょうか」


「そうなんですか……」


ホっとした様子の姉を鼻で笑い軽く肘で突く


「ほらね、やっぱり大した関係じゃないじゃない」


「もう、強引なんだから」


そんなやりとりをした直後、背筋が冷えて全身が総毛立った

突然の事に目を白黒させながら、まるで導かれるように

自分の視線がクラウスという少年へと吸い寄せられる


「”大した関係じゃない”……だと?」


底冷えするような怒気を孕んだ声

睨み付けられる視線に明確な恐怖を感じて

反射的に悲鳴を上げそうになったのに喉が引きつって声が出なかった


(な、なに……?)


なんでこんなにも怒ってんの?意味わかんない

そもそもなによコイツ!

ヒロインを本気で睨み付けるとかありえないんだけど!

超ムカつく!こいつナシだわ!

追加の登場人物だとしてもこんなヤツこっちから願い下げよ!


今まで異性からこれほどに明確な敵意を持って睨み付けられた事なんて無かったから物凄く癪に障って怒りが込み上げてくる

ぎゅ、と両手拳を握りしめた所で隣に立っていたラピスが気を失ったらしく

その場に崩れ落ちそうになり、この状況を想定していたらしい導師様に

難なく腕の中に抱き留められ支えられていた


はぁぁああ!?ちょっと!

気絶して導師様に支えられる役目なのはヒロインの私でしょうが!

なんでアンタが支えられてんのよ!


「クラウス」


導師様が咎める様な声で私を睨みつけてくる男を呼ぶ

ホラ!導師様だってアンタの行動を咎めてるじゃない!

アンタなんかさっさと導師様に叱られちゃえばいいのよ

か弱い女の子にガン垂れる方が悪いんだから!

そう思って睨み返していたら

徐に立ち上がったそいつの手が片方私に伸ばされてきた


なによ、暴力でも振るおうっての?

導師様が止めてくれるから大丈夫よね?

そう思ってたのに、私はそいつの手で容赦なくその場に引き倒され馬乗りにされてしまった。力加減に容赦がなくて思いっきり首を絞められてる

嘘でしょ?!なんでこんな事するのよ!!

導師様!なんで止めてくれないの?!


「……!!」


息苦しさにもがいている中、視界の端に映る導師の目は酷く冷めきっていて

侮蔑にも似た眼差しを向けられている事に気が付いた


(なんで……なんで!?)


絶対に助けてくれると思ってたのに

この場に助けてくれる人がいない事実を知って焦る

そもそもなんでコイツはこんなに怒ってんのよ?!

混乱の最中、あり得ないほどお腹の中心が熱くなって

今まで感じた事のない痛みに視界がブレる

悲鳴を上げたいのに、首を絞められていて潰れた音しか出てこない


「本当にコイツが聖女なんぞに覚醒しては面倒だ

今の内に根こそぎ取り除いておく」


何?なんなの??

何をされているのか分からない、お腹が熱い


怖い、怖い……


誰か!助けて!!


必死になって助けを求めている間に

私は恐怖のあまり失神してしまったらしい


「いやっ誰か……!」


そう叫びながら目が覚めたのは寮部屋のベッドの上だった


「……!?……っ」


喘ぐように息を吸いながら慌てて起き上がって

首を押さえつつキョロキョロと周囲の状況を確認する

周りに広がっているのは何度となく繰り返した普段と変わらない朝の光景

呼吸が落ち着いてきて、酷い汗もそのままにやっと体の力が抜ける


(……夢?)


あれほど痛くて熱かったお腹とか絞められて苦しかった首とか

鏡で全身を確認してもなんの痕も見つからなかった


何が起こったんだろう、夢でも見てたのかな

ラピスの好きな人の話題で導師とクラウスの二人に話しかけて……

そうよ、そこから現実味のない状況に陥ったんだわ

ヒロインの私が美男子に睨まれるなんてある筈ない

きっと夢でも見てたのよ

平凡な夢が突然悪夢に切り替わる事とかよくあるじゃない?

そうに違いないわ


嫌な夢だった、気持ちを切り替えて早く学校にいかなきゃ

時計を見たらもうすぐ朝礼が始まりそうな時間だった

一人納得しながら学園の制服を着て部屋を出る


でも、なんでだろう

あの美貌の少年の事を思い出すと体が震え出す

ただ夢見が悪かっただけなのに

怖くて怖くて仕方がないのは、何故なの……?


ふるりと肩を震わせながらいつもの教室に入ると

私と同じくプラムの女の子、ミラが困惑した様子で駆け寄ってきた

この子地味な見た目のクセにタウィスのひとりアルカイド・クルックスと

こっそり付き合ってるのよね。


「スピカ、学園長との話はもう終わったの?

どういう用件だった?」


「え?何?どういう事?」


唐突に訳の分からない質問をされて

普段通り純粋さを意識しながら首を傾げて問い返す

すると通路側から歩いてきたセイリオスに声をかけられた


「おはようスピカ、学園長が待っておられるんじゃないのか

早く向かった方がいい」


「え?えっ?セイリオスまで……学園長がって、どうして?」


「どうしてって、昨日寮部屋に通達があったじゃない

イプシロネも呼ばれてたから皆で何事かって……

ちょっとした騒ぎになってるのよ、もしかして回覧板見てないの?」


「あっ……」


ミラに指摘されて、部屋を出た所に置かれていたボードの存在を思い出す

朝に必ず確認しておくのが寮生の習慣だけど

夢見の悪さに意識が向きすぎてて確認しておくのをすっかり忘れていた

私の反応から見忘れたことを察したのだろう

ミラが眉を下げてお姉さんぶった態度で退室を促す


「もう、おっちょこちょいなのね

早く行って来たら?終わったらどんな話だったのか教えてね

イプシロネも呼ばれてるなんて皆気になって当たり前だもの」


ミラに背中を押されて教室から追い出されてしまった

場に居合わせたセイリオスも「いってこい」と優しく頭を撫でて送り出されてしまう

場の雰囲気に流されて、不安な気持ちのまま学園長室へと向かう事しかできず

滅多に足を踏み入れることのない場所だけに緊張しながらノックをして

「入りなさい」という厳しい声色を受けて唾を飲み込み扉を開く


イプシロネも呼ばれていると聞いたが、彼女は既に室内に居り

応接の椅子に座った状態で呆然自失といった様子で俯き黙り込んでいた



私はその日、学園の退学を通告された

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