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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
62/145

62<聖なる星々の国~ヒロイン、スピカの預言書~

スピカ・シェアト、十六歳


両親は早くに亡くなり、一つ上の姉と共に

ステラ(聖女)プラム(傍仕え)として生活している


ここは、俗にいうヒロインである私の為の世界

エスティールという聖なる国を舞台にした、とある聖女の恋物語


の、筈だったのだけれど。

何故か物語終盤で登場したことのない人物が複数私の前に現れた


先ず、世界を終わりに導く魔王とやらが復活を遂げた

その出来事に呼応するように

導師を名乗る男性が宮殿に国賓として招かれた

そして正体不明のタウィスの男の子が一人追加された


これだけでも十分過ぎるほど新要素目白押しなのだけれど

その要素全てが物語にはなかったものだから

どう対処すればいいものか全く分からなかった


「おかしいわね、何度思い返しても

『本』にはこんな展開描かれてなかった」


予想外の展開が起こってから慌てて寮の自室に戻り

『本』の内容を確認しようとしたけど、誰にも見つけられないように隠していた箱の中にある筈の『本』がどこにも見当たらなかった

部屋中ひっくり返して探したけど全く見つからなくて

誰かが侵入した形跡も無かったし

私にしか開けられないよう細工した箱もこじ開けられた形跡はなかった

どう考えても、『本』がひとりでに消えてしまったとしか思えない

物凄く焦ったけど、なくなったものは仕方がないと諦めた


「残念だわ、あの本があれば先の事が分かって楽だったのに」


小さいころに偶然見つけた『本』

元から本が大好きだった姉のラピスにすら見せずに

ずっと独り占めしてきたっていうのに。


変化の切っ掛けはイプシロネの差し金でカストルに殺されそうになっていた私が山でセイリオスに助けられる展開になった時

庇ってくれたセイリオスが大怪我をすることで私が聖女として覚醒し

絶体絶命の危機を逃れるという流れになる筈だったのに

導師を名乗る男の人が突然介入してきて

セイリオスが大怪我を負う事も無く私の聖女覚醒展開がなくなってしまった

他の男の子に浮気もせず

セイリオス一筋で順調に親密になっていったのにとんだ番狂わせだわ

聖女に覚醒する唯一のタイミングを逃してしまったから

この先どうやって覚醒すればいいのか分からない

セイリオスと結ばれるためにも絶対に聖女として覚醒しなきゃならないのに

そうでなきゃあの大嫌いなイプシロネだって

ステラの座から引きずりおろせない


それから暫くは様子見の為に普段通り学園生活を送っていたのだけれど

なんの事件も起こりそうにない様子で自分からアクションを起こさなければならないと思い当たり、あえて不確定要素に近づく事にした

このまま学園を卒業しても私は聖女になれない

追加されたタウィスには必ず意味がある筈

導師っていう人にも積極的に関わっていく必要があるかも知れない


それに姉のラピスもそろそろ塔に保存してる食料が尽きる筈

本来は物語の序章の段階で死んでいる所をわざわざ助けてあげたのだし

今更死なれるのも寝覚めが悪いのよね

餓死しないように差し入れを持って行ってあげなきゃ。

幼馴染のセイリオスとも姉の境遇改善を名目に

物語の展開以上に親しくなれている

好感度を上げられる要素は大事にしておかないとね


イプシロネを上手く利用する事で神殿での仕事を免除してもらってはいるけど一応私もプラムだから神殿や宮殿への出入りは自由

ヒロインの立場なんだから全員の攻略対象と関われる立ち位置なのは当然よね

お蔭で私の物語に新しく加わったであろう二人にも難なく会う事が出来るわ

新要素に関われば必ず事が動くはず。


と、楽観的に思っていたのは今日までの話だった


宮殿で偶然を装い再会する為に

導師様の部屋周辺を怪しまれない程度に歩いてた時

私が通りがかろうとしていた通路の扉が開き

老齢の、地味な服装をした女性が通路に出てきて室内に向かって恭しく礼をする

お辞儀ひとつでも洗練された所作である事から

どこかいい所の家柄の女性である事が分かった


「ご心配をおかけいたしました」


「こちらこそ

突然の申し出でお気を悪くさせてしまいました

お詫びいたします、婦人」


「いいえ、アッパヤード様のお連れの方でしたら当然の事です

少しでもお力になれるよう尽力させていただいますわ」


「短い期間ですが二人の事を宜しくお願い致します」


「勿論です」


「今日の講義も非常に分かり易かったです

ありがとうございました、先生」


「また明日会いましょう、シェアトさん」


三つ目に聞こえてきた声は聞き慣れた姉のものだった、そして

アッパヤード様、と言った老齢の女性の言葉で

その人が話しかけている方角に目的の導師様がいるのだと確信する


姉の声が聞こえた事に何故と疑問には思ったけど

それよりも導師様と再会できるタイミングに居合わせることができた事に

気持ちが急いて、開かれた扉へと駆け寄る

老齢の女性とすれ違い、向こうは会釈をしてくれたがそれ所ではない私は

女性の礼を無視して閉ざされようとしていた扉へと飛びつき

隙間に手を差し込んで強引に開くというはしたない行動を取ってしまう

扉を閉めようとしていた誰かの手がドアノブから外れ

突然姿を見せた私を見下ろし目を丸くした


「あの……!」


兎に角声をかけて滑り込みセーフしたはいいものの……


キャー!


見上げた先に物凄いイケメンが!


なによこの男の人すごく格好良い!

顔をよくよく見れば、山で助けてくれた導師様じゃない!!

初めて見た時はなんかパっとしないモブみたいな見た目だったし

聖女覚醒の機会が無くなった事に焦ってたからまともに見てなかったけど

服装ひとつで人ってこんなにも格好良くなるの?!

すごい!正装の威力半端ない!神聖服がサマになり過ぎ!

輝きっぷりがその辺の王子様の比じゃないわ!


キラキラと瞬く星が幻覚で見えるほど格好良くて二の句が継げない

導師様の美麗な姿にただただ見惚れてしまう

ちょっと、これ反則過ぎない?セイリオスも格好良いけど

大人の男性の魅力っていうの?色気凄すぎ!エッチ過ぎ!

見た目は完全に草食だけど初対面の時にカストルたちを容赦なくなぎ倒して踏みつけてたもの、きっと中身は結構な肉食系に違いないわ!

強引に迫られたりとかしたらどうしよう!

見た目優男の無理矢理展開も悪くないかもー!


導師様は導師様で突然の私の登場にビックリしてしまったみたい

互いに無言で見つめ合うけど、先に平静を取り戻した導師様はすっごく優しそうな微笑みを浮かべて私を見下ろし声をかけてくれた


「何か御用ですか?プラムのお嬢さん」


キャアアアー!声まで甘やかで素敵!

今からでも導師様を陥落させる事も出来るんじゃないかしら?

いいや!ダメよスピカ!散々アヴィオールとどっちにするか迷って

セイリオス一筋って決めたじゃない!

でも導師様素敵~格好良い~!

ちょっとぐらいなら親密になっても平気なんじゃない?!

どんな感じか知りたい~!つまみ食いしたい~!


「スピカ……?」


導師様を前に舞い上がっていた私の耳にまたもや姉の声が聞こえてきた

そうだわ、さっきも姉の声が聞こえたけど

ここは本来ラピスが立ち入る予定のない宮殿区域

どうして姉の声なんか聞こえてくるのだろう

と、導師様の背後を覗き込むべく体を傾け視線を転じると

広い室内の中央に据えられたテーブルを囲む椅子の横に立つ姉の姿を見つけて「え!?」と驚きに声を上げ

姉と距離を詰めるべく室内に二歩三歩と足を踏み入れる

背後でそっと扉が締められる音が響いた


「ラピス姉さん、どうしてここに……」


「あ……うん、実はね

私、一週間ほど前からこの部屋に移って勉強を教わっているの」


「ええ?!この部屋にって……ここ、宮殿よ?

プラム用の塔は?」


「あの場所は余りにも利便性が悪いので

クラウス専属の傍仕えとしてこちらに移り住んでもらっているのですよ

ステラの許可は正式に降りているので手続きにはなんの問題もありません」


狼狽する私の後ろで

柔和な微笑みを浮かべた導師様が説明してくれた


どういうこと?ここで生活?こんなに綺麗な広い部屋で?

それにクラウスって、その名前は新しく追加されたばかりのタウィスの事よね

例の、ぞっとするほどの美貌を持った美少年の……

専属?専属の傍仕え?ラピスが?なにそれ意味わかんない


姉の生活環境があまりにも変わり過ぎてて情報処理しきれない


よく見るとラピス、かなり肉付きよくなってない?

栄養失調寸前なほどガリガリだったのに肌色もいいし

ゴワついてた金髪も艶々になってて綺麗に編み込まれてる

服装だって何故かプラムのお仕着せじゃなくて

普通の……いや、かなり質の良い服を纏ってる

どこかのお金持ちのお嬢様みたいな見た目に変貌してた


「ラピス……見た感じ、随分変わったね」


「うん!」


呆然とした口調のまま尋ねれば

ラピスは弾けるような笑顔を見せて心からそれを喜んでいる様子で頷く

プラムになる前、学園に通っていた頃でも

これほど充実した笑顔は見たことが無かった


「これも全部アシュラン様のお陰なの

スピカとセイリオスはこれまでずっと私の境遇を憂いてくれていたものね

でも、もう大丈夫!毎日三食食べさせてもらえているわ


セイリオスには部屋を移った時に感謝を伝えたけれど

ずっとスピカにもお礼を言いたいと思っていたの、ここで会えて良かった

これまで沢山助けてくれてありがとう、スピカ

私もこれから頑張って貴方やセイリオスに恩返ししていくわ」


学園主席になるほど成績が良かったラピスは

入学当初からイプシロネに目を付けられていじめられ

彼女がステラになると同時に強制的にプラムにされて

神殿区域から出る事を厳しく禁じられていた……厳密に言うと

神殿の雑務を一人ではこなせないほど押し付けられ、それらを全て終えるまで神殿から出てはならないという命令をされてしまった為

昼夜問わず働き詰めで自由のない毎日を送る羽目になったのだけれど。


学校に通って基本寮生活をしている私が直接会いに行かないと姉に会えないっていうのは解っているけれど……セイリオスは

もっと以前からラピスの生活が変わった事を知っていたの?

私は今の今まで何も知らなかった、教えてもらえなかったわ

これまでずっとラピスの待遇が改善されるよう一緒に色々頑張って来てたのに、セイリオスはどうして私に何も教えてくれなかったの?


私だけ除け者にされたように感じた

ショックを受けている私の背後から姉に向かって優しい声がかけられる


()い心がけですよ、ラピス

感謝の気持ちを忘れず恩に報いようとするその(こころざし)

また人の道に(まさ)る行いです」


「はい、ルルムス様」


えっ嘘でしょラピス

導師様の事、もう名前で呼んでるの?名前呼びって

相当親密にならないと出来ない事なんだよ?

『本』ではそう書いてあったもの

私が知らない間に、なに勝手な事してんの?

私が助けないと早々に死んじゃってたクセに

なんでここででしゃばってくんの?


もしかして

姉を生き(なが)らえさせたからこの状況になってる……とか?


(うわっ、この異常事態の原因絶対それじゃん)


姉が生き延びたから導師や追加のタウィスが現れたんだわ

本来は序章で死んでる姉を

私が変に仏心出して助けちゃったもんだからこんな事になったんだ


(そんな、まさか、ヤバい……!!)


同時にとんでもない可能性に気が付いてしまった

まさかだけど……聖女に覚醒する因子が私だけでなく姉にもあるとしたら?

私があの時聖女に覚醒できなかった理由が姉の生存にあるとしたら?!

もし”そう”なったら、”そう”なってしまったら私は……!


場に立ち尽くし、足元を睨みつけて考え込んでいた私の背後で

導師様は微笑みを浮かべたまま僅かに目を細める

その時、心を読まれているなど露ほども思わなかった私は

どうすればいいのかを必死に考え続けた

何もかもが導師に筒抜けであるなど知りもしないままに。


そうして俯き黙り込んでしまった所為だろう

私が落ち込んでいると勘違いしたラピスが焦った表情を浮かべ

その場で踵を返し第三者へと話しかけた


「……あの、申し訳ありませんクラウス様

厚かましいお願いなのは重々承知しておりますが

お勉強の時間をほんの少し遅らせても宜しいでしょうか

久しぶりに顔を合わせた妹と話をしたいのです」


はァア!?

新しく入ったタウィスまでこの場にいるの!?

さっきクラウス専属の~って導師様が説明してくれたけど

ラピスの部屋に二人とも入り浸ってるっていうの!?

冗談でしょ!


慌てて顔を上げて、ラピスが話しかけた先に居る人物を注視する

ラピスの影に隠れてテーブルの向こう側の席についてたから気付かなかったけど……居る!居たわ!山で見かけた褐色肌で黒髪の、絶世の美少年!

ラピス……!ヒロインである私の姉なだけにおそろしい奴!

もう二人を自分の部屋に誘い込めるまでに(たら)し込んでるなんて!


「おれはここで教本を読んで待ってる

好きなだけ話してこい」


「ありがとうございますっ」


嬉しそうにその場で小さくジャンプして

くるりと私へと振り向く姉の金髪が柔らかく弧を描く

小走りに駆け寄ってくる愛らしさが今は物凄く鬱陶しい


姉の背後で教本を読んでいる黒髪褐色の美少年に注目する

初対面でも見惚れたけど、眼福過ぎるほどの美貌だわ

口調もそっけなくて声も色っぽい、不愛想な性格なのかな

金色の瞳が蠱惑的、魔性ってああいうのを言うのかしら

あの美しさで微笑まれたら世の女性全員卒倒するわよ


私が姉に会わなかったのなんてたった一週間そこらの話よ?

この短期間でここまでの打ち解けよう……

物語では既に終盤、あとは私が聖女に覚醒して

学園の卒業パーティで大団円を迎えるだけというタイミングでの新要素


ここまで来ると導師とクラウスは

生存した姉専用の役回りのようにも思えてくる

こんなにもいい男二人侍らせてるの見せつけられたら

ヒロインの筈の私が端役になったみたいじゃない


(……なんか、腹立ってきた)


兎に角、せっかく新しく加わった二人に関われる機会なのよ

無駄にするワケにはいかない

今後の展開をある程度想定して動かなきゃ


「スピカ、こっちへ来て」


手を引かれて案内されたのは広い部屋の一角

ラピスのベッドスペース

大きな天蓋付きなので薄いカーテンでリビング側を仕切れば

中央テーブルで教本を読むクラウスの傍らで補足を入れ始めた導師の様子は薄いカーテンの向こう側に遮られて気にならなくなる

話し声もボソボソと何か呟いている程度にしか聞こえないので

私たちの方で会話をしても相手に届く事はないだろう

中央のテーブルを挟んだ向こう側には小規模ながらキッチンスペースまで設けられている、どんだけ快適なのよこの部屋


つい、私が寝起きしている寮部屋と比べてしまう

腹の立つことに学園寮の部屋は今案内されたベッドスペースよりも狭い

狭い室内に本や私物を詰め込んで窮屈な生活をしている私から見たら

今のラピスの生活はお姫様かお金持ちのお嬢様よ

ヒロインの私を差し置いてこんないい生活を手に入れるなんて


ああ、気に入らないわ

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