60<聖なる星々の国~竜帝は古の王に仕えたい~
右手の回路を根こそぎ奪われた直後
アシュランは意識を失った
痛覚遮断の導術は確かに作用していたにも関わらず気絶したという事は
痛覚ではなく導力回路そのものに衝撃が行った可能性が高い
クラウスがステラの肩に集中していた回路を取り込んだ時の様子を見ていたというのに彼女の気絶は痛みによるものだと思い込んでいた、考えが足りなかった
導力遮断もしておくべきだったと内心で舌を打つ
直後、部屋に張り巡らせていた結界が
クラウスの放つ圧に耐え切れず弾けた
空気が震え、呼吸がし辛くなる
熱くもないのに体中から汗が噴き出る
アシュランから奪った力がクラウスの気性に応じた属性へと変化し始めた
今全身で受けている威圧感は竜族最上位のものという事か
常人であればとっくに意識を飛ばしている
「クラウス!力を鎮めろ!」
『古の王』の力を取り込むのだから何か起こるとは思っていたが
まさかこれ程とは。
破壊された結界を張り直し同時にアシュランの治癒を行う
それだけで手一杯だ
クラウスには自力で制御してもらわなくては。
力を暴走させてこの場で爆発などされては堪ったものではない
「クラウス!」
今にも膝を突き、崩れそうになる体を必死に支えて
長椅子の上に横たわっているアシュランの傍で苦し気に呻く背中へ呼びかける
破けた夜着の袖や裾から伸びる手足は成人男性の物だ
急激な成長の影響か髪も伸び続けている
王の力を取り込んだ事で一気に成体へと変化したクラウスの纏う気配は尋常ではない
しかし少しずつだが空気が凪いできた
クラウス自身も取り込んだ力の強大さに振り回され
抑え込む事に必死になっている
そこから更に時間をかけている間になんとか結界は張り直す事ができた
ほっと安堵できた頃にはクラウスも力を抑え込むことに成功したのか
いかり続けていた両肩が落ち着き、室内が完全に正常な状態に戻る
しかしどうにも急いでいる気配がその背中からは感じられた
ゆらりと巨体を揺らめかせ立ち上がり、私に背を向けたまま
『 暫くの間王の傍を離れる
その間は貴様がしっかりと王を護衛しておけ 』
”無言で叩きつけられた言葉”に呆れかえり
その背中を思う存分睨み付けてしまった
勿論の事だが、その言葉の前に
『 体の大きさを自在に操れるようになるために山に籠るので 』
と、いう注釈が付く
顔の向きはアシュランを見下ろしたまま酷く真剣な様相を呈している
しかし真面目な雰囲気に騙されるなかれ
奴の今の動機は真面目とは程遠い不純物に満ち満ちている
突如として容量が大幅に増えたであろう力を扱いきれていないクラウスの心は現在読み取り放題になっており、考えている事が手に取るように分かった
一番強く感じ取れた内容は
『この姿では王の御前に出られない』
という絶望に塗れた……私にとっては心底どうでもいい心の声
クラウスは子供の姿で居ることでアシュランに甘やかされることに喜び
味を占めてしまったらしい
身勝手な言い分を無言で叩きつけられれば呆れもする
自分本位な目的が第一で、それ以外の……戦争を止めるだとか竜を統率するとか王の知り合いを助けるなどといった目的が全部底辺扱いだ
そんな不純極まる動機を堂々と胸に抱くクラウスに対し呆れ果てた私が
「そうですか」
と、感情が一切籠らない一言で
全てのツッコミ要素を黙殺したのは当然の成り行きだ
フラフラと覚束ない足取りで部屋から出て行く背中を見届けて
力を抑え込んだだけで内では全く制御できていないのだと理解する
道中で爆発させるなよ、と
心の中で念を押して扉が閉ざされるまで見送り
ようやっと部屋の中が静かになった所で意識のないアシュランへと視線を転じた
「さて、」
魂の情報に変化はあるだろうか
『完全看破』の能力で一部導力を失ったアシュランの状態を確認するが
クラウスに力の一部を譲渡した情報が増えただけで
他に変化は見られない”ような気がする”
断言できないのはアシュラン自身が持つ情報が
把握しきれないほど膨大で大半が謎の言語だからだ
何事もないと思うより他ないが不安が拭えない
アシュランが目を覚ましたら暫くはここで安静にしていてもらおう
食いちぎられた手を導術で完璧に治し、周囲に散った血痕を浄化する
一通りの後始末を終え
改めて顔を覗き込み様子を窺うがすぐには目覚めそうにない
手が空いたので事務処理をすべく机に向かい読み書きをして
一時間ほど経った頃合いでアシュランは目を覚ました
言葉を交わし軽快に体をほぐしている様子から
今の所は何事も無さそうでひとまず安心、と言った所か
*****
クラウスに関する把握もできた所で
一度目を覚ましたが時間が深夜だった事もあり
そのままソファーで朝まで就寝。
次に目を覚ましたのは朝と言うには遅い時間帯だった
足を存分に伸ばせるほど広いソファーで良かった
寝ぼけ眼で起き上がるとまだ目が開いてない状態で喋る
「ウマそうな匂いがする」
俺の意識を浮上させたのは何とも食欲をそそる香りだった
椅子を引く音が聞こえ、柔らかな絨毯を踏む音が近づいてくる
「ぐっすり眠ってましたね
疲れが溜まっていたようですが、気分はどうですか」
気遣うルルムスの声がくすぐったい
今みたいに起き抜けで直ぐに優しい言葉をかけられるなんて
ありそうでなさそうな経験だ
「あー……昨夜は襲撃の所為でずっと気ィ張ってたから
その所為だろ」
「食事にしますか」
「んー」
生返事を返しながら「食器寄こせ」という意味合いで片手を声がする方へ持ち上げる、そんな俺の不遜な行動に返ってきたのは切れ味のいい返事
「椅子に座って召し上がる気が無いのなら片付けますが」
わかったよ、そっち行けばいいんだろ
フリッツは渋々でも持って来てくれたのになぁ、と
他者の給仕を当然のように受けられる感覚はボンボン育ちな所為だからだ
廃嫡から二十年も経ってるからと言って、断じて甘えではないと言い張りたい
いや、この場合甘えだとした方がいいのか?
他者に傅かれるような立場を当たり前と思う方が嫌な奴だろ
やはりここは甘えという事に、しかしそれだと
四十手前のオッサンが格好悪……ああもうどっちでもいい
寝ぼけてるって事にしておこう、フリッツの時もそうだったに違いない
結論、俺は寝ぼけている
緩慢な動きで促された椅子に腰を下ろし
既に並べられている食事を見て徐々に目が覚めてくる
まだ暖かいスープを飲んでやっと目を開けると
丁度目の前の席に座ったルルムスが
情報紙らしき紙を片手に開いて俺と視線を合わせる
「おはようございます、アッシュ」
(……なんだかなぁ)
心が和んだ
こういう日常会話って平和に満ちてるよなぁとしみじみ思う
昨晩が久方ぶりの単独寝起きで
襲撃もあって殺伐としてただけ余計に感じ入っちまうのかな
本日の起き抜けの俺は微妙におセンチだ
「おはよ、クラウスはまだ帰ってきてないのか?」
「あの後も数度、山の方角から地響きが聞こえてきていたので
まだかかりそうですね」
俺のゴミ回路でも地響き出せるほど強くなれるモンなのか?
(んなワケねェわ)
という事は、ああそうか
これは大した強化もしてやれなかったゴミ回路持ちの俺に対する気遣いだ
ルルムスのフォローが辛い
どの程度かは分からんが大した強化になどなってないのは確実だ
俺の導力回路の資質は俺が一番よく解っている
ちょっと回路抜かれたぐらいで気絶するほど軟弱だもんな
他の奴なら俺みたいに気を失ったりはしないのだろう
クラウスが戻ったら予定通り治療院や孤児院を回らなければ
「人間の導力回路って
他種族にとっては相当おいしい強化要素なのか?」
「彼が言っていたでしょう、『その者の資質による』と
貴方の場合は偶然クラウスが強くなれるのに
適した要素を持っていただけだと思いますよ」
ルルムス……そこまで論理付けしようとしなくてもいいんだぞ
結果なんて分かり切ってるんだから
しかし俺も人間、もしたらればの可能性はどうしても考えてしまう
もしルルムスの言ってる事が本当だとしたら
「偶然クラウスが強くなれる要素……血液型みたいなモンか?」
「血液がどうかしましたか」
「百万人に一人の型だったとかそんな感じか?
導術の所為で医療技術死んでるからなぁ」
「いつもなら心の中で呟きそうな言葉ですね
声に出されると尋ねざるを得ないのですが」
「っと、悪い
もう起きた、ちゃんと起きた」
ペチペチと頬を叩く
寝起きが悪かった覚えは多分にあるのだが今回のように
起き抜けでぼんやりするようになり始めたのはいつ頃だったか
もしかしてアシュランに田崎が混ざって俺の意識が芽生えた辺りからか?
”俺”が俺として最初に目にしたのは巨大なドラゴンの顎の下だった
あれからもうひと月以上経つのか、時間が経つのは早いなぁ
「まだ寝ぼけてらしたのですか……
ところで、食事をしながらで構わないのですが
アッシュ」
「うん?」
「クラウスが戻ったら、どうなさるおつもりですか?」
「どれぐらいの事が出来るようになってるかで予定が変わってくるからな
クラウスが戻って話を聞いてから決める」
「分かりました」
静かに呟いたルルムスの声は不安そうだ
最初はゆっくりだったフォークとナイフの運びを徐々に軽快にさせつつ
サラダを口に含みながら安心させるようニヤリと不敵な笑みを浮かべる
「心配するな
定期的に魔王軍を散らして時間を稼ぐ事に変わりはない
上手くいけば一度の介入で軍全体を長期に渡って足止めできる
とはいえ竜族の被害が出ないように立ち回る必要があるから
全部竜族任せになっちまうんだが」
結局は他力本願だ
もし今回の事で竜族が力を貸してくれたなら
出来る範囲で礼を用意しておこう
同じ竜族のクラウスなら竜が好きな物とか詳しく聞けるかもしれない
肉がいいだろうか、幸いにも魔導袋に魔物肉のストックがたんまりとある
って言ってもこれもクラウスが狩って解体してくれたものなので
礼にしてもいいモノか非常に微妙だな
食後はルルムスが読み終えた情報紙を見せてもらって
ルルムスが所用で出ている間だけ袋内の金品整理を行い、普段は後回しになりがちな作業を集中的に進めている内に時間は過ぎて行く
結局クラウスが帰ってきたのは日暮れ前だった
昨晩から着ていた夜着は既に服の役目を果たしてはおらず
何故だか髪がざんばらに切れており
怪我はしていなかったが見た目が余りにも酷かった
泥の中を転げまわった状態だったそれをひと目見たルルムスが
クラウスに一歩、部屋に踏み込まれた段階で
叩きつけるように浄化をかけて綺麗にする
「話をする前に服装を整えてきなさい、見苦しいですよ」
厳しい口調のルルムスに酷く不快そうに眉を顰めたクラウスは
自分でも思う所があるのか大人しく部屋を出て行き
暫くして上等な服に身を包んで戻って来た
使用人に身繕いをしてもらってきたらしい
黒髪の貴公子よろしく美貌を存分に引き立たせる装飾!
艶やかで高級な布地!申し分なし!
と、うっかりガッツポーズをしてしまった
やったなクラウス、お前専用の格好良い服が着実に増えつつあるぞ!
クラウス専用のクローゼットでも用意して
そこに「エスティール聖国」と区分けして仕舞っておこう
ルルムスの国賓な立場に便乗し、クラウスに誂えられる服で
世界中の礼服を制覇するのも悪くない
コレクター精神を刺激される提案が脳裏を過ぎる
「アッシュ……」
おっと、ルルムスからお咎めの眼差しを向けられてしまった
本来は全く縁のない上流階級のファッションだぞ?
収集の楽しみを見出すぐらいは許してくれてもいいじゃないか
必要ならちゃんと金銭も払う意思はある!……あるだけで先方から要求されない限りはそのまま好意としてちゃっかりもらい受けるけどな!
そもそもクラウスは今タウィスという地位に収まってるんだ
兵士や使用人から聞いてタウィスの報酬が良い事だってちゃんと把握してる
初任給はまだ支給されていないが給料明細もちゃんと交付してもらわねば
つまりこれはクラウスに対する正当な報酬でもあるんだぞ!
超庶民的なセコい事を考えて
その度にルルムスから呆れられる事にも慣れてきた
部屋には様々な効果を及ぼす結界が張ってある
今日に限っては俺も常駐してるから人払いまで徹底されており
扉の向こう側は今日一日ずっと静まり返ったままだ
使用人に誂えてもらったのだろう様になっている服装と切りそろえられた髪型で傍に歩み寄って来たクラウスは幾分か大人びた表情で俺を見上げた
服装と新しい髪型で男らしさが増したか?
これも俺の導力を取り込んだ影響だろうか、逞しくもなったようで喜ばしい事だ
と、いう俺の心を読み取ったらしくクラウスは一層嬉しそうな笑みを浮かべる
「今、戻ったぞ
あるじ」
「ん?」
「さぁ、なんでも命じてくれ
あるじのどんな望みでも叶えよう」
「……随分流暢に話せるようになったな、お前」
「あるじのお陰だ」
「俺程度で役に立てたなら良かったよ
で、なんで俺の事が『あるじ』呼びになってんだ?」
「おれのあるじだからだ」
「違うぞ」
「違わない」
「いや、絶対に違う」
「絶対に違わない」
「二人とも、否定し合うばかりでは話が進まないでしょう
中身の話をなさってはいかがです?」
「それもそうだな
いいかクラウス、俺はお前の主じゃない
何故かというと俺が主ではないからだ
主と呼ばれる理由も根拠もなにもないからだ、分かったか?」
「分からない
おれがあるじをあるじと呼ぶ理由は
あるじがあるじであるからで、根拠もあるじがあるじだからだ」
「二人とも全く説明になっていないので黙って下さい」
ルルムスの冷え切ったツッコミが入る
とりあえず立ち話もなんだからとテーブルを挟んだソファーに向かい合って座り
ルルムスは上座の一人掛けソファーへと腰を下ろす
「クラウス、アッシュは
『あるじ』と呼ばれるのが気に入らないそうですよ
本人が嫌がっている呼び方を固持し続けるおつもりですか」
「嫌がる必要なんてない」
「アッシュはどう呼ばれたいのです?」
「”あるじ”以外ならなんでもいいぞ」
足を組み、椅子の背にもたれ掛かってくつろぐ俺の態勢と異なり
クラウスは前傾姿勢で眉を顰めて俺を見つめてくる
なんだって行き成り俺を上に扱おうとしてるんだか。
保護者みたいな立ち位置ではあったが
誰かに仕えられる立場になるのはご免だ
にも関わらずクラウスは食い下がって来た
「……ご主人様」
「却下」
「我が王」
「断固拒否」
「お頭……?」
「盗賊の頭領かよ」
「大将」
「飲み屋の店主じゃねーんだから」
「総帥」
「確かにこれから竜の大軍を指揮する事になるかもしれんが、ガラじゃねェな」
「帝」
「よきにはからえ~とでも言えばいいのか」
「殿」
「戦国武将じゃあるまいし……って
なんでその特殊な呼称を知ってるんだ」
「あるじの思考から」
「俺の思考から候補を選ぶんじゃない
今まで通りでいいだろ
なんで俺に『仕える』みたいな呼び方になってんだ」
言えば、「それだ!!」と言いたげにクラウスの目が輝き始めた
「おれ、あるじに仕える
あるじに仕えたい!」
どうやらクラウスが俺を主と呼びたがる理由の
順当な単語を引き当ててしまったらしい
いつになく真剣な表情で訴えかけられたが
その必死な様子が余計に俺の目には懐疑的に映ってしまった
酷いモノを見てしまったような気分になり不快感から一気に機嫌が急降下する
同時に腹の底から湧いてきたのは怒り
ソファーに預けていた背を離し、クラウスに向かって身を乗り出す
こいつに従属なんて下らねェ知識を植え付けやがったのはどこのどいつだ
「タウィスになってから妙な知識刷り込まれやがったか」
声だって険しくもなる
俺の怒りが伝わったのだろうクラウスは
緊張したように背筋を伸ばすと狼狽え始めた
「ち、違う
あるじ、おれは」
「兎に角、お前はお前自身の意志で物事を取捨選択していけ
誰かに依存するような立場なんぞに自分から成り下がるな」
「……」
「お前は誰の奴隷でも、ましてや駒や道具でもないんだぞ」
「……」
クラウスは困った表情をするだけで納得した様子は見せなかった
ここまで言っても聞き入れないとは、意固地め
竜人と言う特殊な立場上
近い将来魔王のブラック企業に取り込まれる可能性だってあるんだぞ
道具みたいな扱いを受ける羽目にならない為に
今の内に反骨精神を鍛えておかねばならんというのに
あろうことか社畜精神を鍛えようとするとは
クラウスがこんな突拍子もない事を言い出したのは
タウィスとして宮中に滞在している間に学んだことに原因がありそうだ
後日クラウスが嬢ちゃんと共に受けている授業内容の確認をしておこう
原因が分かったら教師の目の前で教材だろうがなんだろうが火にくべてやる
あるじと呼びたがるほど慕ってくれるのは嬉しいが
過去の悪行を思えば己の下に誰かを付けるなど俺自身が許容できない
だから、
「お前に仕えさせる気はないからな」
「それを貴方が言いますか」
やりとりを黙って聞いていたルルムスが口を挟む
非難めいた口調に聞こえたものだから感情のままに
クラウスに向けていた厳しい視線をルルムスに転じた
なんだルルムス、クラウスの肩を持つってのか
言っとくがな、これは異常な事だぞ
従者の家系でもなくそういった仕事に従事している立場でもないヤツが自ら誰かに仕えたがるなどまともな思考じゃない
「文句があるのか」
「いいえ、なにも……ただ私の目には貴方の言葉通り
彼が自分でやりたい事を取捨選択し実行しているように見えますよ」
「……ここで学んだ知識が原因じゃねェって言いたいのか」
「はい
彼はこれまでもずっと、常に他者の心の声を聞いて周囲を観察してきました
自身の行動指針を定める為の判断力を有するには
十分な期間を設けていますよ」
クラウスと同じく、人の心を読み取る事が出来る『看破』の能力を
生まれながらに持っているルルムスの、自身の経験も踏まえた上での発言
それなりの説得力がある、つまりルルムスは
クラウスの問題発言が悪い影響を受けての事ではない、と言いたいワケだ
「……」
一応、腹の虫は治まった
不愉快な気分も随分と薄れたが俺の返答は変わらない
「自分で考えて望んでるならそれはそれで構わん
だが俺にも譲れないものはある
クラウスを仕える立場には置かないし主と呼ばせる気も無い」
「だ、そうですよクラウス」
「黙れ無能」
クラウスの発言に耳を疑う
なんてこった。
言うに事欠いて万能なルルムスを無能呼ばわりするとは、これまでの無音会話でどれだけの罵詈雑言が飛び交っていたのか窺い知れる一言だな
っていうかやっぱり言い合いしてたのか
しかも相撲じゃなく相当危険なドッジボールだった
表情や雰囲気で分かってたが、会話の詳細までは知りたくなかったなぁ……冷静さを取り戻した俺は目じりを緩めてやんわりとした声音でクラウスを宥める
「お前のフォローをしてくれたルルムスに八つ当たりするなよ
ったく、もっと他の要求なら聞いてやれたってのに
なんだってお前の望みはこうも厄介なんだろうな」
初めてのおねだりが野生の翼竜指さして「あれに乗ろう」だぞ?
その次が何をトチ狂ったのか「俺に仕えたい」ときたもんだ
おねだり第三弾は一体どんな無理難題になるのやら。
どうしても俺に仕えたいらしく不満全開のクラウスだが
ここは我慢と諦めを学んでもらう良い機会だとしておこう
「俺の事は今まで通りに呼んでくれ
仕えようとするのもダメだ、分かったなクラウス」
「……」
「この話は終わりだ」
強制的に話題を切る事になるが
やはり一切の妥協なく物事を拒否するのはなんであれ後味が悪い
出来るだけクラウスの希望に沿ってやりたい気持ちもあるが
俺にもどうしたって許容できない事はある
無理矢理にでも納得してもらうより他はない




