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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
6/145

6<悪党の才能は悪用に全振りされてた

ばっちりと視線が合う


服装は領民のそれだが纏う雰囲気が違った

もしかして俺に用事があるのだろうか、それとも……

内心でドキドキしながら見ず知らずの男と見つめ合う

緊張からか、つうっと額を流れ落ちる一筋の汗


「……」


私服警官、的な?

古着屋で騒ぎが起きたら即座に駆けつける為に

来店してたお客さんの誰かが通報しといたとか?

じっと様子を窺っていれば先に視線を外したのは相手の方だった

壁から背を離し、何事も無かったかのようにどこかへと歩いていく


「……はぁ」


絡まれずに済んだ安堵からため息が出た

念には念を入れて男の姿が見えなくなるまで見送ってから俺も歩き出す

つい先日殺されかけたのに間も置かず明るい内から背中を刺される事態は御免被りたい、昨日の今日でまたルルムスに厄介になるのも申し訳ないし。


「帰ろ」


なんかヤバそうな人いたし今日は食材だけ買い込んでさっさと塒に戻ろう

靴やアンダーも買いたかったんだけど急ぎではない……否、

下着はちょっと急ぎたいかな。

今身に付けているものを含めて所持している下着はどれも前衛的なモノばかりなので、近い内にクローゼットに封印して普段着と同じく落ち着けるモノを購入しておきたい

地味ファッションに着替えた俺が履いている今のパンツは……何を隠そう、


Tバックだ……!!


ックだ……!


だ……


心の声にエコーが掛かった気がしたが、気のせいだろう

誰得な情報を殊更に強調してしまった無益感に浸る

田崎実はTバックなんて生まれてこの方一度だって履いた事がなかった

逆にアシュランは当たり前みたいに履いてたし今だって慣れ親しんだ感覚でさらっと履きこなしてるけど、地味系ファッションで下着がTバックって……その、アレだろう。なんかこう、物凄く……いやらしいだろうが!

脱いだら凄いんですっていうのを別の意味で体現しているじゃないか!


清純派大和撫子が実は物凄くエッチな下着を付けてたっていうギャップを

とてつもなく悪い意味で四十手前のオッサンが実演しちゃってるようなものだ

それこそコートの下は素っ裸な露出狂気分だよ、とんだ羞恥プレイだ

お巡りさんにバレたら間違いなくギルティ、ちょっと署までご同行である。


少女のギャップは許されるがオッサンのギャップは許されない


この発想は何もかも田崎実の喪男(モダン)なエロ知識の所為だ

こんなにも居た堪れない気分に駆られるなら店で着替えるんじゃなかった


アシュランが持ってる下着は股間を安定させるだけのデザインばかり。

いざ履いてみると慣れてる感しかないんだけど

田崎実の感覚からしたらエッチで卑猥なので困惑し通しだ


(不毛だ……別の事を考えよう)


空を見上げて思考回路を今後の予定に切り替える

夜にウロついたら確実に厄介な連中に絡まれるから

完全に日が沈む前に夕食を確保して塒に戻るぞ。

少し路地裏に入れば悪い奴らが徘徊してたりするから治安も悪いんだよな


(足を洗うなら引っ越しもしておかないと)


帰りの道中立ち寄った店で

夕食の食材と最低限の調理器具の買い物を済ませた

普通に物を売ってもらえて良かった

販売拒否されたらどうしようかと思ったけどそうならなかったのは多分

格好の所為でアシュランだと認識されてなかったからだろう

だって買い物したお店、以前アシュランがめちゃくちゃ迷惑かけたことのあるお店だったような気がするから。悪い事のし過ぎで具体的な内容は思い出せないけど俺の心が罪悪を訴えているから何かしら悪いことをしたのは間違いない


(どんな小さなことでも俺がやらかした事なんだ

ちゃんと思い出さないとな)


今後はちゃんとしたお客さんとしてお店の売り上げに貢献しに行こう

時期を見てちゃんとアシュランと認識してもらってから謝ろう


田崎実は自炊主体だったけどアシュランは専ら外食主体だった

塒には当然調理器具など一切置いてない、だから買ってきた。

キッチンはあるが水場以外触れた記憶もない


元々がイイトコの坊ちゃんだった事もあり

拠点としている今の塒もそこそこにグレードが高い

プライベートで扱っている家具の類も高級志向でまとまっている


こういう所、アシュランは(したた)かだよなぁ


くさっても元お坊ちゃん

持ち前のネバーギブアップ精神が生活水準の低下を許さなかった

食事事情などその最もたるものだ

調理は下々の連中がすることだと絶対にやろうとはしなかったが

自分の口に入るものには関心が高く、毒に対する用心もあって行きつけの店では調理師に目の前で料理させて出来立てを食べていたくらいだ。粗悪なものは口にしたくないという理由から傷んだ食材を見分ける能力も異常に高い


本来であればその日暮らしでもおかしくない冒険者の身で、ここまで衣食住を充実させていること自体異常なのだが何十年にも渡ってあくどい金稼ぎをしてきたので蓄えも十分であり揃えているもの身に付けている物などは大体が高価なモノばかり

封印したクローゼットに入っている衣類も素材はどれも一級品に近い

金に困ったらあれらを売り払うのも手段のひとつだな

庶民相手には絶対損をしたくなかった過去のアシュランは

自分が持っているものの価値も正しく認識している

今の俺が持つには分不相応なモノも徐々に還元していかなければ。


いい加減、アシュランは自分がいち領民になったのだと自覚すべきだ

他者から不当に搾取した形での贅沢は間違っている

どんな方法であれここまで自身を豊かにできる才能があるのだから

その気概を領民に向けていれば、きっと家を勘当されることもなく

今頃は善政を布き、領全体に多大な貢献もできていただろうに。


「はぁ~、疲れたぁ」


荷物を部屋に持ち込んだ所でその場にしゃがみ込む

なんだかんだで大荷物になってしまったから袋を下げていた腕が痛い

危ない仕事をしていた関係で常日頃から不測の事態にも備えていたので

非常食や医療品の類は備蓄してあるが、今からでも節制に務めなければ。

買ってきた食材をキッチンに並べて早速調理を開始する


「……ん?」


ふたつの記憶が混ざり合った影響だろうか

初めて扱う筈の食材でも調理している手の動きに淀みがない。

買ってきたのはどこにでも売られている見切り品だったが、調理師にヘタな事をさせてたまるかというアシュランのクソ意地のお陰で食に対する知識も深かったらしく田崎実の自炊の腕前の相乗効果もあって、意図せず効率的な調理を行う事が出来た

アシュランの肥えた舌でも十分に美味しいと感じられる夕食を頬張りながら明日以降の予定を考える


(中和剤が切れてたから薬局……薬屋に行って買っておかないと。

あと住む所ももっと簡素な場所でいい、どこか安い物件を探して……)


いや、待て。

住居のランクを落とすのは時期尚早かもしれない

現在の拠点は防犯面も優れており裏家業の連中でも入り込めない

ヘタに住処を移して襲撃されたら堪ったものではない

完全に裏の仕事から足を洗って真っ当に生きられるようになってからの方が安心だろう。俺の身の回りにある贅沢品だって還元する相手は

真っ当に生きている人たちに決まって―――……


「あれ?」


ピタリと食事をする手が止まる


おい、ちょっと思い出そうぜ俺


今住んでる家、賃貸だよな?しかも相当お高い家賃の筈だよな?


「……ん~?」


おっかしいな~、お家賃、払ったことあったかなぁ?

どんなに記憶を掘り返しても大家さんの泣き顔しか思い出せないんだが


……


え? 泣き顔?


……ナンデ?


冷や汗を滝のように流しながら室内のとある一角に歩み寄り

プルプルと震える手で小さな隠し金庫を出現させると

中に保管されていた『数ある封筒の内の一枚』を取り出し

封を開けてみれば写真が数枚と書類が入っていた


写真に写っていたのは大家さんが少女の人身売買を斡旋している様子

同封されていた書類はこの居住区の権利書

アシュランが冒険者という身の丈に合わない高級な場所を堂々と塒にできている理由……それは、写真をネタに大家を強請(ゆす)って不当に居住権を獲得した経緯があったからだ


俺は今、田崎実の世界でいう所の

『高級リゾートホテルの一室』に無期限無料で住み続けている

つまり、この住み心地の良い拠点そのものが悪行そのものという意味で


しかもよくよく思い出してみるとここの大家

大貴族御用達、最大手商会の店子じゃないか

枝派にしてもかなり上位の。従業員数も結構な規模の。

そんな信頼ブ厚い商会の店子が人身売買の犯罪に手を染めているだと?

トンっっっっでもねぇスキャンダルじゃないか

それをネタに小悪党が大悪党を脅して従わせているって事だぞ


(これは、)


早急にどげんかせんといかんヤツだ。


規模もでかくて雇ってる人間も大量にいる悪い軍団相手に

単騎で脅しかけて、しかも成功してるって……

その状態が何年も維持できてるっておま、


よく今まで無事だったな俺!?


いや全っ然無事じゃないけど!これまでだって何度か色んな方面から命を狙われた事もあったけど!!アシュランよ!格上相手にここまで上手く立ち回れるなら領主目指せてもおかしくないだろうが!勿体ない方向に才能を無駄遣いし過ぎだいい加減にしろ!!ここまでできるクセになんで勘当されたんだよ馬鹿阿呆間抜け!!!


(……)


ちらり、と


金庫内に残っている複数の封筒を見る

怖い、見たくない、あれ全部絶対に強請(ゆす)りのネタだよ


嘘だよねアシュラン、お願いだから嘘って言って。


これ以上記憶を掘り返すのを全力で拒否する

とりあえず今は何も見なかった事にして金庫を壁の向こう側に隠すと途中だった食事を再開した……が、美味しかった筈のご飯はなんの味もしなかった


その日の夜、俺は当然のように悪夢に魘された

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