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悪党の俺、覚醒します。  作者: ひつきねじ
59/145

59<聖なる星々の国~魔物愛護団体発狂案件~

「聖女探しが最優先だ、アヴァロッティ領の件は、」


「後でいい、と言うのですか」


「そうするしか、」


「クラウスが対処可能だと提案しているにも関わらず、ですか」


「……中々食い気味にくるじゃねーか」


「貴方はクラウスを過小評価し過ぎです

彼ならば(さと)られる事なく軍のひとつやふたつ

武力で制圧するなど容易い事なのですよ


相手は魔王軍、彼らの侵攻を野放しにすれば

善良な人々の命が奪われ続けるだけです

悪魔に魂を売った者たちに対する慈悲など捨て

殲滅すべきではありませんか?」


ルルムスの言いたい事もよく分かる、だが俺は

記憶が混ざる前後で動機は異なるものの俺自身がそうであったように

クラウスにも人殺しだけはしてほしくないと望んでいる

例え種族が異なっているとしても。


(人が山ほど死んでるこの状況で甘すぎる考えなのは分かってる

だが立場がそうだから仕方がないとか

どうしようもないからと諦めるのも間違ってる)


人殺しを正当化させているのは、そうしなければならないと

思い込まざるを得ない状況に陥っているからだ

真っ先に対応しなければならないのは人死にが起きている『状況』

殺し合う根本的『原因』への対処は確実に時間がかかる

その時間を作るために『状況』の打開が必要だ


考えろ


戦場を、争うどころではない状態にするにはどうすればいい?


最もありがちな展開としては圧倒的な第三勢力の介入だが

他国の武力を利用しようにもそれはそれで時間が掛る

ルルムスお墨付きのクラウスの武力でなら確かに鎮圧可能かもしれないが

それだとクラウス一人に手を汚させ責任も負わせてしまう事になる、却下だ

もっとこう、武力面だけでなく情報面でも一度に広範囲で場を混乱させ

停滞させるような効果を及ぼせる何かが必要だ


(あ~くそ!)


セットしていない髪を両手で無造作に乱しつつ頭を抱えて唸る

数万規模の戦争であろうと一人も死なせる事無く一瞬でカタがつくようなチート能力が欲しいと思ってしまう自分の安直で残念な思考が腹立つ

「俺強ェ!」っていう展開に憧れがないワケではないが

事後処理を考えるとそんな責任重大な能力なんぞほしいとは思わない

力が無いなら代わりに知恵を絞ればいい


(……)


ぇえい!こういう時ぐらい役に立ったらどうなんだアシュラン!田崎!

三人因らば文殊の知恵とか言うだろ!

知識と経験生かしてあっと驚く奇策のひとつでもひねり出せよ!

なんて悶々と唸っていたら ふ、と脳裏をかすめた光景に閃く


「そうだ……翼竜」


あった、あったぞ

種族を問わずであれば世界最大級の勢力が!


「アッシュ?」


「クラウス、翼竜だけじゃなく全ての竜を従わせる事ってできたりしないか?」


鮮明に思い出したのは地に平伏する翼竜たちの姿だった

問いかけるルルムスを横目にクラウスへと詰め寄り

目線を合わせ、その両肩に期待を込めて手を置く

統制された魔物ならば戦場にいる人々をかく乱し、戦場外まで運び出す事も出来るはずだ

それが竜種ともなれば人間如きの剣撃なんて

痒い所をかいてくれる程度にしかならないだろう


しかも相手は『魔王軍』

イメージ的に魔物も味方、みたいな括りっぽいから

その味方かもしれない魔物が魔王軍と敵対したなら

情報面でも魔王軍の動揺を誘う事が出来るかもしれない

俺の思惑を読んだらしいクラウスが考え込む仕草を見せて首を振った


「いまは、できない」


『今は』ってことは条件次第で出来るようになるって事だ

このぶっとんだ案、本当にイケるのでは?!


「どうすれば可能になる」


「もっとちからつける、そうすればできる」


「力を付ける方法は」


「ヒトの”導力回路”、とりこむ」


「人間の導力回路を?何人ぐらい必要だ」


「待って下さいアッシュ

その方法を実行するとしても魔物の回路を取り込むのと同じで

生きたままか死んだ直後でないと意味がありません

クラウスに”人間を喰らえ”と言ってるも同然っ……」


言い募るルルムスに向けて

黙ってろという意味を込め片手を上げて言葉を遮る


「ヒトの”シシツ”による、コイツだったらひとりでたりる」


コイツ、とクラウスが指さしたのはルルムスだが

そんなモンは当然、断固として却下だ


「俺だったらどうだ?俺の導力回路は両手に集中してる

大した足しにはならんかもしれんが」


「馬鹿な事を仰らないで下さい!

導力回路を奪われるという事は導技も導術も使えなくなるという事ですよ!」


「俺には元から導術の才能が無い

導技だって初級の身体強化が使える程度だ

こんなモンなくてもいくらでも生きていける」


「っ……」


ルルムスは俺の言い分に言葉を失い表情を歪める

分かってるさ、俺の資質では塵芥程度にもならない事ぐらい

だが可能性があるならそっちに賭けたい


「お前が必要としてる力の足しにもならんだろうが

発案者としての責任は取る、先ずは俺の導力回路を取り込め


その後でルルムス、お前にも協力してもらいたい

明日、朝いちで俺と一緒に町の治療院や孤児院を回ってくれないか

患者と孤児の同意を確認してから

お前の治癒導術で病気や怪我の改善と引き換えに

導力回路を譲渡してもらう交渉をしたい」


教皇にまで上り詰めたルルムスの扱う治癒導術は相当極められたものだ

それこそドラゴンの猛毒と爪撃による深手を

後遺症もなく跡形もなしに治せるほど。

治療には庶民では一生お目にかかれないほど大量の白金貨が必要になる

金の代わりに導力回路を支払ったという事にすれば

人によっては決して悪い話ではない


「……そういう方法でしたら

確かに人道に反しているとは言えませんね」


「今はこれぐらいしか思いつかない、頼む協力してくれ

礼はいくらでも」


「あしゅ」


ルルムスに向かって土下座姿勢で勢いよく頭を下げようとして

クラウスの手が結構な力でそれを阻んだ


「こら!

中高年にとって命ほど大事な髪を引っ張るな!」


ただでさえ生え際やばいって言われてるのに!

幸いにも髪が抜ける前に手を放してもらえたので

引っ張られた頭皮を優しく揉みながら顰めっ面でクラウスに顔を向ける


「あしゅ」


「なんだ、いきなりどうした」


「あしゅひとりでたりる」


「……」


「……」


「マジか」


「まじ、だからコイツにあたまさげるひつようない」


導技がちょびっとしか使えない俺一人で足りるって?

ルルムスだけでも足りると言っていたから

俺もルルムスと同程度の資質を持っているという事か……?


(んなワケねーわ)


騎士(セイン)見習いにすらなれなかったレベルだぞ

卵運びの時に多少持続力が付いたかなとは思っているが結局その程度だ

さてはクラウス、俺の回路を取り入れただけで

出来るだけの事をしようって腹積もりだな、優しい気遣いに涙が出そうだ

なんで俺の傍に居ながらこんなにいい子に育ったんだろう

自分の事ながら不思議で仕方がない


「傷ついたアッシュの手を治すのは私だと思うのですが」

「たきつけたのはオマエ、あしゅはわるくない」


兎に角自分一人だけで済むのなら良かった、と安堵している俺をよそに

クラウスに向かって一歩踏み出したルルムスと

同じくルルムスに向かって一歩踏み出したクラウスが互いに睨み合いを始める


『 安心なさい

力にモノを言わせるしか能のない貴方が食い荒らした彼の傷は

私が跡形もなく綺麗に治して差し上げますから 』


『 問題を主に押し付けるだけの能無しめ

傷を治す程度の価値を得られたことに感謝しろ 』


『 おや、私の恩恵を受けていることを自覚していらっしゃらない

あまりの愚かさに驚かされますねぇ、流石竜族らしい傲慢振りです

傷つけ痛みを与える事しかできない無能の後始末は

とっても大変なのですよ? 』


『 周りの人間にいいようにされ

聖女ひとり見つけ出すのも手間取っている貴様の方がよほど無能だ

導師の役目とやらも大したことはないのだな

アヴァロッティ領の人々を救いたいと望む

慈悲深い主の御心を下らぬ大儀とやらで邪魔する卑しい悪魔が 』


心を読む能力によって双方一歩も譲らぬ応酬を繰り広げているが

生憎と俺には二人の心の声は聞こえない、ただ

この二人が実は物凄く仲が悪いのだということは

火花が散るほど殺気をぶつけ合っている状況を

目の前で見せつけられ、確信することができた


(宮殿に滞在し始めてからは無言のやり取りを見る毎に

「もしかして、仲悪いのでは?」と思い始めてはいたが……)


間違いない、めっちゃ仲悪いぞこの二人

これまでの無音会話でも一度として笑顔を向け合ってなかったからな

どちらか片方は必ず嫌そうな顔してたし

なんなら今みたいに不機嫌全開で睨み付けてた


(……)


静まり返った室内でうっすらと苦い笑みを浮かべてしまう

二人のやりとりが聞こえないというのは

俺にとっては、実は非常に都合の良い事だったのかもしれない


聞こえない分仲裁せずに済むからな

睨み合っているだけでも全身鳥肌立つほど尖った気配全開なのに

言葉の応酬まで加わったら手に負えん

こんな状況で寂しいとか思える能天気さは流石に持ち合わせていない

声は聞こえないが双方顔が五月蠅い

ルルムスがゴミムシを見下してせせら笑う悪の親玉みたいな顔になってるし

クラウスは寄らば斬ると言わんばかりに

顔面に血管浮かせて見るからにブチ切れている


止めろ二人とも、無駄に良い顔面で顔芸を披露するんじゃない

ドえらい迫力になってるだろうが。

語彙力がある分、言い争いだったらルルムスの方が優勢なんだろうな

サディストの気があるし、なんか心配になってきた


クラウス、クラウス

ルルムスがあんまり酷い事言うようだったら声に出して言い合いしろよ

そしたら俺もお前に加勢してやるからな


一分ほど待って会話でなく睨み合いになったかなといった辺りで口を挟む


「二人とも、魂のぶつかり合いはその辺にしておけよ

対策が打てるなら早い方がいい

クラウス、ちゃっちゃと取り込んでくれ」


ずい、とクラウスの目の前に両手拳を突き出し注意をこちらに向ける

俺へと向き直ったクラウスが付き出された拳を見て暫し黙った


「あしゅ、みぎて」


「あ?両手じゃねーのか」


「みぎてだけでいい」


竜の目って導力回路の状態とか見えているのだろうか

基本両利きの俺だが導技を使う際は

右手を利用する事が多かったから何か関係があるのだろう

言われた通りに右手拳を差し出……


ちょっと待て。


食らい付くって事は流血するってことだよな?

ちら、と足元を見て高そうな絨毯が目に入ったので

家具を血で汚すのも忍びないと手洗い場へ移動すべく一旦立ち上がる

俺の行動を察したルルムスが留めるように肩に手を置いてきた


「血で汚れる程度どうとでもなるので私の目の届く場所で行って下さい」


「いいのか?」


「何のための浄化導術だと思っているのですか

それに、手を食われるなど想像を絶する痛みですよ

私の導術で可能な限り抑えます」


「そんな事まで出来るのか」


「神殿では日常茶飯事でしたから」


出たよSM神殿疑惑

ため息を吐きながら言う様子は仕方ないなと言いたげだ

騙されんぞ、内心では他人の神経を(いじ)れる事にワクワクしてるだろお前


「ご要望にお応えして色々弄って差し上げましょうか?」


「痛覚遮断のみで頼む」


「素直でよろしい」


クラウスはというと傍の長椅子に移動して隣りに座れとジャスチャーで訴えてくる

促されるままクラウスの隣に腰を下ろし

改めて袖を捲り差し出した右手を両手でしっかりとつかんだクラウスが

サメのように鋭い歯を近づける

傍らに立ったルルムスは俺に向かって手を翳してきた

もしこれでルルムス無しだったら想像を絶する痛みを味わう事になっただろう

翳された掌が淡い光を帯び始めるとクラウスの目配せを受けて小さく頷く


(あ、何か口に噛んどけばよかった)


と、思いつくと同時に手の甲に激痛が走った

反射的に身を固めるがすぐに痛みは遠のいていく

どうやらルルムスの導術で痛覚遮断は上手くいったらしい

流石ルルムス、お前の導術は何度経験しても凄い……が、

最初の一瞬だけ叫びそうなほどの痛みを感じた件については追及してもいい事はなさそうなので気にしないでおこう


「賢明ですね」


「そういう事言うからだぞ」


「何がですか?」


「いやだから、賢明ですねとかそういう余計な一言を」


「何がですか?」


…………。


「なんでもねェよ」


「それが賢明です」


くそぅ、ルルムスに口喧嘩で勝てる気がしない

そんな奴と無言で言い合いをしているだろうクラウス、実は凄いのでは?

骨が折れる音と共に甲の皮膚と肉を食いちぎられて

血が溢れ始める僅かの間だけ中身がハッキリと見えた

うわぁグロテスク……と、いうほどでもない

俺がドラゴンに脇腹を抉られた時よりはずっとマシだ


瞬く間に手の甲で大洪水を起こして血の池が出来上がり

クラウスは溜まったそれら全てを飲み干すように大きく口を開いた

やはり竜人、最初の一口で躊躇なく俺の手の甲の肉と骨を丸呑みしたらしい

竜族は基本は肉食で人間の事も積極的に襲って食べるからなぁ


瞳が縦に割れて竜の目に変化してる

食事ではなく『捕食』の時は竜の性が出るようだ

微かに金色に光っているように見えるが室内が明るいのでよく分からない

体の中からごっそりと何かを持って行かれるような感覚がしたと思ったら

瞬きをした次の瞬間には、何故か天井を見上げていた


「あ?なんで、俺」


「アッシュ、目が覚めましたか」


「……ルルムス?」


少し離れた書斎机で読み書きをしていたらしいルルムスが

俺の声に気付き急いで立ち上がり歩み寄ってきた


長椅子の上で仰向けに寝ていたらしい、どうやら気を失っていたようだ

上体を起こし、クラウスに齧られたはずの手の甲を見るが

傷ひとつなく綺麗に元通りになっている

長椅子や床を汚した筈の血の跡も全く見当たらない

まるで夢でも見たかのような、意識がぼんやりした感覚が僅かに残っている

田崎であったの時に一度事故って

病院の手術で全身麻酔を経験したことがあるが意識の落ち方がソレとよく似ている


どんなに「意識を保っててやる」と強い意志を持っていても

PCの電源を強制的に落とすかのように否応なくストンと落ちるんだよな

導力回路を奪われると強制的に意識が飛ぶのか

なるほど、覚えておこう


「何か飲みますか」


「いや、それよりクラウスはどこだ?」


「山に向かいました」


「……は?」


「一日はかからないと思いますが」


「なんで山なんかに行ってんだ?あ、翼竜に指示を出しに行ったのか」


「いいえ、アッシュの導力回路が馴染むまで

体を動かしてくるそうです」


「人様の導力回路を取り込むと

扱えるようになるまで時間がかかるのか」


「取り込んだ直後の彼の様子を見た限りでは、そのようですね」


「俺みたいなゴミ回路でもそうなるのかよ

導力って思ったより複雑なんだな

……どれぐらい気絶してた?」


「一時間ほどです

今日はここで大事を取って安静にしていて下さい」


「町に宿を取ってるから戻るよ

やっておきたい事もあるからな」


「いいえ、ここに居て下さい

回路を抜き取られた貴方の身体に

どういう影響が出るのか様子を見ておきたいので」


「言い分は分かるが」


立ち上がり一通り体を動かして確認してみる

導力を全身に巡らせてみると

右腕以外の全身に力が行き渡る感覚を覚えた

今後、導技を使う時は右腕だけバフが掛けられていない状態になるって事か

日常生活でも普段使いして慣れておく必要があるな


「違和感も無いし問題はなさそうだけどな」


「それでも今日だけは私の目の届く範囲に居て下さい

お願いします、アッシュ」


「ん?!お、応……分かった」


ルルムスから純粋にお願いされたのは初めてのような気がする

そんなに心配なのか?俺が気絶してる一時間の間に

様子を見なければならないような問題でもあったのだろうか


「彼が貴方の導力を取り込む過程は特に問題はありませんでした

大丈夫ですよ、単に私が心配性になっているだけです

クラウスが魔物の導力回路を取り込む様子はこれまでの野営中に何度も目にしましたが、流石に人間のものは初めてでしたからね

魔物相手の時は今回のように

『体に馴染ませる』必要などなかったようですし」


「それなら俺よりクラウスの容態の方が心配だろ」


「大丈夫でしょう、彼は竜族ですから」


全く心配していない様子のルルムスに

ちょっと冷たいんじゃないの、とは思ったが

前に「クラウスを殺せるのは古の王だけだ」って断言してたな


(なら大丈夫か)


一人頷き納得していた俺の傍らでは

ルルムスがそろりと視線を逸らしていた

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