58<聖なる星々の国~GPSのご利用は計画的に~
立ち寄った酒場はどこも景気が良さそうだった
噂好きそうな奴か自己顕示欲の強そうな奴、もしくは
流行りが好きそうな奴を一人選んで
決定的な単語はぼかした状態でそれっぽい話を話題に出すだけの簡単なお仕事
話題性も持たせるために特徴的な真実を織り交ぜる
『 どっかの宿屋で冒険者の惨殺死体が見つかったらしいぜ
酷いモンで、遺体は滅多刺しだったってよ 』
という内容を基準にそれぞれ付随する情報をバラけさせる
思惑通り、話しを聞いた連中は俺が席を立つと嬉々として他の連中に吹聴し始めた
これは有名な法則だが、酒場で見聞きされた情報は大抵裏取りされることが無い
皆が暗黙の内に「嘘半分、実半分」という前提の下話をしているからだ
ギルドの布告が出ているとはいえ酒場にはまだまだ冒険者の姿が多い
町を移動する前に地元民に広めてくれればいいのだが。
酒気帯びとなったがアシュランの肉体はアルコールに慣れている
といっても平均より少し強い程度なので慎重に行動していこう
三軒立ち寄ってジョッキ三杯飲んだが
足取りもしっかりしているし思考もまだまだクリア……とはいえ
これ以上酒は飲まない方がいいだろう
あと二軒ほど回りたかったが大事を取って酒場巡りを切り上げる事にする
次はルルムスに会いに宮殿へ忍び込むワケだが
ひと気の少なさを考えて神殿側から入り込むのが無難だな
大きく回り込んで森から侵入する
通りに面した宮殿は警備が厳重で深夜でも衛兵が鋭く目を光らせている
反して神殿側は後方の一部が森に囲まれており
ステラの意向で警備も非常に手薄になっている
タウィスに守ってもらう口実を作ってるようなモンだな
例のステラはどこまでもお姫様したいらしい
森に罠があったとしても避け切る自信はあった
酒場の灯りはまだ煌々と付いているが多くの人が寝静まる深夜
気配を消し森を通り抜けて神殿区画へと足を踏み入れる
敷地内に入ってしまえばこっちのものだ
森の中にはいくつか侵入防止の罠が仕掛けられていたが
アシュランからしたら素人でも酷い仕様の
「ここ罠あります」という看板が立てられたようなトラップだった
あえて拙い状態を発見させて侵入を思いとどまらせる為のモノかもしれない
なんて思わされるほど堂々と設置されていて逆に困惑した
フラットな道路の真ん中に反射素材で塗り固められた黄色のトラバサミが堂々と置かれてるようなモンだ
前方不注意のドライバーなら引っ掛かりそうだな
間取りを熟知した神殿を通り抜け
途中ステラの部屋に差し掛かると悩まし気な女の喘ぎ声が聞こえてきてげんなりしつつもルルムスの元へと向かう。「カストル」とかいう声が聞こえたからお相手は盗人殺人未遂犯の、例のカス野郎なのだろう
「あしゅ」
ぅほぁぁぁああああああああ!!!
吃驚した!吃驚した!!
声だけは根性で押し殺したがその反動で口から心臓飛び出るかと思った!
胸超痛い!!冗談抜きで心筋梗塞になりそうな痛みだよ!!
「ごめ、ごめんなさい」
「全くだよお前この野郎驚かせやがって時と場合を考えて声かけやがれ!」
気配を覚らせずに背後に立たれて声をかけられれば
誰だって飛び上がるほど驚くに決まってる
しゅばっと効果音がしそうなほど勢いよく身を翻し
小声と必死の早口でクラウスを責めれば
目の前に見えたのは項垂れた頭と旋毛
「ごめんなさい」
「もう謝らなくていい、次から気を付けてくれ
ヘタしたら心臓が止まる、本当に止まる
特に老人は不用意に驚かせるなよ、マジで死ぬからな
……しかし随分と気配を絶つのが上手くなったな
俺が気付けなかったなんて相当だぞ、日々成長してんなぁお前」
「あしゅ」
「うん?」
「アバろってぃ、いっぱいひとしんでる」
「……」
「いかなくていいの」
一瞬、情操教育という言葉が脳裏を過ぎったが
セインツヴァイトで例の人間塚を俺と共にガッツリ目撃してたからな
PTSDを心配したがそんな様子も無いし、竜族だからなんやかんやでうまい具合に自己消化したのだろうとは思っていたが
俺の元に居るのに結構真っ当に育っているらしい
これってアレだよな?俺の知り合いがそこに居るから
気にして進言してくれてるって解釈でいいんだよな?
「それについては折を見てルルムスと話す」
「おれ、たすけれるよ」
「フリッツたちだけを助けられても意味がねェ
戦争そのものを止めねェと」
「おれ、とめる」
「物理的にできたとして、それをやったら
全世界からお前が目を付けられるだろうが!?
必然的に一緒にいるルルムスも危険に晒される
俺には魔王軍からお前やルルムスを守ってやれる自信が
こ れ っ ぽ っ ち も な い !!
魔王を打ち倒す準備が整うまで出来る限り隠密行動に徹するのが最善だ
俺やお前が単独行動で大っぴらに動き始めるのは
ルルムスが聖者全員を集めて、俺たちの同行が不要になってからの話だ
まだ戦力も集まってないのにわざわざ騒ぎを起こして敵方に見つかりに行くなんぞ愚の骨頂!ここがゲームやマンガの世界なら勇者の成長過程で魔王が出張って来ることなんぞ絶対にないがここはゲームでもマンガでもない!まだ全員揃ってない序盤で魔王が直接引導を渡しに来たらもれなく全員仲良死だからな!?RPGにおいて親玉は物語中盤までは最強なんだからな!?
お前が最終的に向こうに属したとして
今ここで反逆的な行動を取ったら不興を買って消耗品扱いされるに決まってる
若い身空でブラック企業に就職するなんぞ絶対に許さん!
立場がどうだろうとお前にだって幸せになる権利はあるんだからな!」
世の中なんでもかんでもお約束通りに事が進むと思ったら大間違いだ
既に魔王が立ったという情報も入っている
双子が直々にフリッツを殺しに来たこともあったし
魔王本人が直接動く可能性だって捨てきれない
ルルムスの大儀の為に体を張る覚悟はできているが
俺には死ぬよりやらにゃならん事があるから
極力死に直結するような行動はとりたくない
「すがた、かくす」
「駄目だ、生きて返れる保証はない」
「いきてかえる、バレないようにする」
「駄目」
「あしゅ」
「駄目ったら駄目ったら駄目!!」
上目遣いに小首を傾げてお願いしてくる美少年クラウスの攻撃を全力で跳ね返す気概で以て両目をかっ開きながら唾が飛ぶ勢いで戒めていると
傍の茂みが揺れて木の影から見知った人物が姿を現した
表情は呆れかえっている
「お二人とも、微塵も隠れる気がないようですね
そちらの方で衛兵が五人ほど集結して聞き耳立ててましたよ」
指差される方角に目をやれば仰る通り
衛兵が五名ほど将棋倒しの様相で倒れ伏している
「……ルルムス」
「ご安心を
ここを中心に広範囲で催眠導術を布きましたから
眠った方々は今晩の出来事を綺麗さっぱり忘れている筈です」
「すまん、助かった」
アヴァロッティ領の件は聞かれてしまっただろうか
話すつもりはなかったのだが……
「とりあえず私の部屋へ移動しましょう
建物内の方が防音も盗聴防止もし易いので」
そうして移動する過程で見かけた衛兵は全員その場で昏倒していた
いや、ルルムス……迎えにきてくれたのは嬉しいが
こんなにも堂々と倒しまくっていいのか?
国のお歴々に文句言われるヤツじゃない?
「いいんですよこの程度
日々の食事に毒だけでなく麻薬まで混ざり始めてるんですから」
「麻薬て」
俺がまだここに滞在してた内から毒が混ざり始めたのは知っていたが
毒が効かないなら麻薬はどうだ?!っていうノリなのだろうか
仕込んでいる人間の無駄な苦労が偲ばれる
(……)
やっぱりルルムスの護衛をクラウスに頼まなくても大丈夫な気がしてきた
いやでもやっぱりいざって時の腕っぷしは必要だしなぁ
俺が傍で護衛できりゃあ一番安心なんだがこの国にいる間は無理だろうし
「女性の来訪もひっきりなしなので扉や窓に結界も張ってるんですよ」
「扉は分かるが窓て」
「昨夜窓から侵入されてしまったので」
部屋に入ると窓のカーテンは全て閉め切られていた
広い室内なのにどこか息苦しさが感じられる
「ここ三階だぞ?えらくガッツのある女だな」
「向こうから赴いていただけるのは手間が省けて助かります
今の所聖女に該当する女性は見つかっておりません」
夜這いしてくる女性の中に聖女が居たら
それはそれでものすご~く嫌なのだが
「なぁルルムス、聖女が見つかったとして
この国が素直に聖女をルルムスの旅に同行させてくれると思うか?」
「いいえ、ですがそうせざるを得ない状況だというのは
この国の方々も理解していますよ」
「何か条件でも出されたのか」
「イプシロネ嬢との結婚が条件だと言われました」
「殺るか?」
待ってましたとばかりの表情で試しにナイフを身構える素振りをしてみる
それを見たルルムスが気持ちは分かりますがと言いつつ苦笑いした
「冗談でもそういう事は仰らないように
この件は私に任せ下さい、アッシュは決して関わってはいけませんよ
そちらはどうなんですか、何か進展は」
「昨日俺が追い出された件はどうでもいいんかい」
「今日の昼間にイプシロネ嬢が
貴方が亡くなられたとお話をしていたので
何かあったのだろうなとは思っておりましたが」
「刺客を放ったことを隠しもせずに自慢するとは……
それを聞いた割りに、お前ら二人とも普段通りなんだな」
別に心配してほしいとか生きててよかったとか言われたいワケじゃないけどさ
こう、もうちょっと何かあってもいいんでないの?
別に心配されたかったワケじゃねェけど、ねェけどもよ!
「貴方が生きている事は分かってましたから
心配する必要が無かっただけですよ」
「どうやって生きてるって分かったんだよ?」
「百戦錬磨の悪党が
たかが学生の罠になど嵌る筈がないという確信です」
「……ホントか?」
「ええ」
「じゃあ聞くが
なんでさっき俺とクラウスがあそこで問答してるって分かったんだ」
「あれだけ騒げば誰だって分かりますよ」
「窓も閉め切ってカーテンもしてる上
場所も宮殿じゃなく神殿区域だったにも関わらず、か?」
「丁度夜の散歩をしておりまして」
「道中で出くわした衛兵全員を昏倒させてまで?」
「ええ、今では事実上軟禁状態ですからね」
「ルルムス、言っておくが
俺は悪党だが愚か者じゃねェぞ」
「元、悪党ですよ」
「本当の事を言え
クラウス、お前もだ」
話しの腰を折ろうとするルルムスを無視する
突然話を振られたクラウスはギクリと肩を強張らせて俺を見上げると気まずそうに視線を逸らし、そんな反応をしてしまった自分の拙さに気付いたらしく更に顔を伏せて沈黙する
そのリアクションで推測を確信に変えた俺は
明確に非難する視線を二人へと向けた
「神殿に忍び込んでから
二人とも俺の居る場所まで一直線に迷うことなく来たな
本気で隠密かけてたのにまるで初めから知ってたかのようにすぐに駆けつけた
二人とも……俺が知らない間に”マーキング”しやがったな」
俗にいうGPS機能、発信機……兎に角そういった類のモンだ
以前俺に施されていた『制約紋』にも条件次第で同じ効果を付加する事ができる
俺はドラゴンボールかなにかか?七人に分裂すんぞこんにゃろう
全員集めたらもれなく汝の願いを叶えてやろうだド畜生が。
本人の許可なく勝手にそんな機能くっつけやがって
邪な思惑があるなら容赦せんぞ、どういうつもりだ二人とも
先ずはクラウス、ジロリと厳しい視線を向けて無言で問い質す
するとそろりそろりと顔を上げたクラウスはルルムスを指さして言った
「コイツがしてたから」
「ルルムスをコイツ呼ばわりかよ
そっちのが吃驚したわ」
清々しいまでの擦り付けっぷりだ、子供の特権を巧みに利用してやがる
では折角なので狡猾さを身に付けたクラウスの言に乗ってみるとするか
「で、お前は」
厳しい眼差しをルルムスへと転じると俺と目が合う前に
さっと逸らされる、それはそれは気まずそうな視線
「クラウスがしていたので」
「お前もかよ!!
流石に利かんわ、いい大人が何言ってんだ」
「大切な友人なので、少し過保護になっていたようです」
さも申し訳ないと言いたげな仕草で言っているが
だから俺は愚か者じゃねェと言っとろーが。
「そんな言い分で」
「勝手に術を施したのは謝罪します
ですがアッシュの安全を思っての事なのは事実ですよ
今回のように散り散りになる場合を想定して
対策を講じただけの事です」
食い気味に言葉を遮ったルルムスの表情は真剣そのものだった
むむ……、つまり俺の身を案じてってのは事実だと?
「そういう理由なら、前もって俺に言やぁいい話だろうが」
「アッシュの弟妹が貴方に酷く執着していたので」
「はぁ?なんでここでその話が出てくるんだよ」
「目的は違えど彼らと同じような事をするのですから
不快な思いをさせたくなくて言い出せなかったのです」
「結局知られてちゃその配慮も無意味だろうが
どうせ隠すならもっと巧妙にやりやがれ」
「以後、気を付けます」
「ごめんなさい……」
二人は深々と頭を下げて謝罪してきた
真摯な態度だし気持ちも籠っているように見受けられる
悪気があってやったワケじゃないし、何より
『俺の身を心配して』の事だったと分かってしまった俺の方が気まずい
イカン、よくよく考えたらルルムスが悪い意味で俺に何かするワケがなかった
ルルムスの指摘通り、弟妹があんなだからってのも確かにあるが
田崎の知識と経験の影響の方が大きかったのだろう
「監視される」事に対する無意識の拒絶反応があった
ルルムスに気を使われて心配されるなんざむしろこっちが申し訳ない
元悪党の俺が他者に気遣われるなど分不相応だ
「次からは事前に言ってくれりゃあそれでいい
アイツらと違ってお前の場合は俺の事を心配してくれての事だし
今回みたいに他人の言葉に振り回されずに済むって利点も確かにあるからな
でもお前らにだけ分かってるんじゃ不公平だろ
俺にも同じことはできないのか?」
「アッシュに導術の才はありませんから不可能ですね」
バッサリ切り捨てられてしまった、そうかいそうかい
今後も一方的に居場所を監視されなければならないのか
別に拙い事などないから構わないのだが、なんだかなぁ
「あしゅ、どこにいてもわかる
おれもあんしんする」
「やめろ、そんなんで安心するんじゃない
危険な兆候だぞ」
ストーカーがGPSの点滅見てニヤニヤしてる図式を思い浮かべる
クラウスに関してだけはマーキングを解除させるべきかもしれん
なんて考えてたらクラウスが不満顔で一言
「やだ」
「やだじゃない、マーキングを解け」
「やだ」
「ぉおん?反抗期かこのやろう」
「戯れるのはその辺にして
アッシュ、私に何か伝えることがあるのでは?」
「おう、そうだった
今日ギルドに『アッシュ』って名前で新規登録してきたぞ」
「その格好で、ですか」
「武具の装備も必要ないし
どこからどう見ても無害で非戦闘員の冒険者だろ?
今後もギルドの依頼は事務仕事中心に請け負うつもりだ
それと、ギルドの動向についてあまりよくない情報があってだな……」
冒険者がこの国から退去し始めている事を聞いたルルムスはやはり険しい表情だった
ここに来て大幅な戦力低下だからな
魔王軍が攻めてきたら軍備すら整えていないこの国は幾日ともたないだろう
幸いなことに国を二つ挟んでいるからまだ猶予はあるが
二国の動き次第では直ぐにでも魔の手が伸びてくる
「ギルドの動向については分かりました
それで、アヴァロッティ領の件は本当に私に話さなくてもいいのですか」
それを聞くのかよ
クラウスが妙に行きたがってたからそっちから伝わったんだろうな
あえて考えないようにしていたのに、全くこれだから反抗期は。




